星型に寄せる狂詩曲(ラプソディー)~メモリーズ―秋― 作:飛鳥 螢
意気揚々と朋也達が旧校舎から出てくると、ラグビー部の連中が渡り廊下で待ち構えていた。
「悪いな相澤、旧校舎のヒトデは全部もらったぞ」
春原が持つヒトデの詰まった大袋を顎で示して朋也がそう言うと、ラグビー部の元キャプテンは鼻を鳴らして応えた。
「ああ、それくらいおまえ等にくれてやる。こっちも大漁だからな」
と、二年のラグビー部員の一人が持つスポーツバッグを示す。
それに応え、江崎がスポーツバッグの中を見せると、そこには確かに大量の木製ヒトデがひしめいていた。
「何処でそれをっ!?」
「新校舎に体育館だ」
得意げに相澤は驚く朋也達に教えてやった。
「おまえ等が旧校舎に籠っている内にな」
「っ!」
ここで大きく引き離しておきたかったのに……
運動部なんて単純な奴が多いから、てっきり旧校舎の中に入ろうと躍起になって校舎の周りをうろうろしているだけだと思っていたのに、まさか大量にヒトデがあると思われる旧校舎に入るのを早々に諦め、それ以外を探していたとは。
それを指示したのはおそらく相澤だろう。時間を無駄にせず、先を見通しての思い切りの良さは、流石ラグビー部のキャプテンをやっていただけの事はある。
「——となると、残るは校庭、と言うことか」
「ああ、岡崎勝負だ。おまえには絶対に負けんぞ」
表情を硬くして確認を取る朋也をビシッと指差し、相澤は言い放った。
これはラグビー部と春原の勝負の筈だが、既に相澤達は春原など眼中になく、機転を利かせて自分達を出し抜いてきた朋也に、並々ならぬ敵愾心を燃やしていた。
「………」
——元々俺には関係ない事なんだが……
名指しで勝負を挑まれても困る。と思った朋也に、春原はぐっと握った拳の親指を立てて片目を
「岡崎、頑張れよ。僕が付いてるからな」
「………」
——頑張るのは俺じゃねぇ、おまえの方だろうが。
「そうです。朋也くん、頑張りましょう」
むすっと
それに智代達も大きく頷く。
——なんでこうなるんだ……
勝負がラグビー部対チーム岡崎にすり替わってしまっているのに、誰も疑問を抱きもしない。
朋也は恨めしそうに相澤を見やり、そして諦めたように溜息をついた。
いっそ負けてやろうかとも思ったが、自分が名指しされた勝負に負けるというのは面白くない。
「よし、泣いても笑ってもこれが最後だ。三時まで探しまくるぞ」
「はいっ」
「ああっ」
朋也の声に皆応え、一同はラグビー部の連中と暫し睨み合う。
そして、同時にバッと身を翻すと、渡り廊下から一斉に校庭へと散らばった。
校庭と一口に言っても、この学校は土地が有り余っているのかやたらと広い。
野球部、サッカー部、陸上部、テニス部、ラグビー部などの各部が、同時にそれぞれ練習できるだけの広いグラウンドを持ち、その他に弓道の練習場まである。
他に生徒達の憩いの場として、校門から校舎までの間にちょっとした公園ほどの広さの前庭があり、東西に長い旧校舎と新校舎の間には緑たっぷりの中庭まであった。
そして、体育館の裏には、手付かずの雑木林が果てしなく広がっている。
小ぶりの木彫りのヒトデを隠そうと思えば幾らでも隠せるし、それをたった七人で闇雲に探していては、幾ら時間があっても足りなかった。
「ったく、この無駄に広い校庭探すの、結構ホネよねぇ……」
がさごそと校舎近くの前庭の繁みの一角を漁って、ヒトデが無いのを確認すると、杏は身を起こして腰に手を当て、溜息混じりにぼやいた。
分かってはいたが、つい愚痴と溜息が出てしまうのは無理のないことだった。
「条件は皆一緒だ。とにかく三時まで諦めずに探すんだ」
ヒトデの数の差があまりない以上、ここで手を休めたら負けは確実だ。
疲労の色が濃くなってやる気が失せて来た杏にハッパを掛け、朋也は次の繁みを大きく掻き分けた。
「ぷひっ」
途端に、中から背中に縦縞の模様を付けた焦げ茶色の小動物が飛び出して来る。
「ボタンっ!?」
それは一般的にウリ坊と言われる猪の仔だった。ひょんな事から杏がそれを拾い、そのままペットになってしまったのだ。
「おまえ、また来てたのか」
「ぷひっ」
ボタンは気持ちよさそうに、朋也のスネ辺りにすりすりと体を擦り付けて、嬉しそうに返事すると、朋也の驚いた声に集まって来た一同の中に杏の姿を見つけ、喜び勇んで走り寄る。
「ボタン、丁度いい処に来たわ。陽平ちょっとそれ貸して」
何か思いついたのか、杏は春原が持っていた大袋の中から木製のヒトデを一つ取り出し、ボタンにそれを見せる。
「何をするんだ?」
「ボタンに協力してもらうのよ」
怪訝そうにそれを見る朋也にそう応え、杏がよく言い聞かせるようにボタンに言う。
「いい、ボタン。これと同じものを持ってくるのよ」
「ぷひっ!」
ふんふんと木彫りのヒトデの匂いを嗅ぎ、ボタンは真剣な表情で返事した。
鼻を地面に近づけ、その匂いを探してヒクヒクと鼻を
——と、いきなり走り出した。
朋也達がその後を追う。
ボタンは真っ直ぐ校舎脇にある繁みを目指して
まさに猪突猛進である。
そして何やらガサガサと繁みを揺らすと、何かを
それはまさしく星型をした木彫りの彫刻だった。