♯17 調査報告書
個性社会における改正治安維持法に基づき、関係者の身柄を拘束。以下の二点により、本件は第一級危険事案と認定された。
一 脳摘出を合法とする刑法改正案の極秘作成
二 人命を犠牲にする非人道的システムの開発
拘束されたのは主に厚生省個性医政局公安課の職員、および社会分析室の研究者たちである。計画の首謀者と見られる厚生大臣は現在別件で拘留中。法務省および外務省からの関与も確認されており、事態の究明が急がれる。
本件は公安委員会所属のヒーロー・ホークスの指揮により対処済みではあるが、海上保安庁の介入による危険人物の抹殺失敗を筆頭に不可解な点が残されている。以下に計画の中心人物とである四名とホークスの処遇について詳細を記載する。
厚生大臣
旧警察庁警備局警備企画課の出身。公安警察の一員として活動した。社会における超常の拡大を受けて行われた大規模組織再編により、同組織はヒーロー公安委員会として警察庁の外局となる。これに伴い公安委員会へ転属。
超常社会黎明期、旧公安警察内部では個性を持つ国民は監視すべきと考える勢力(以下、監視派)とこれに異を唱える反監視派の二つが対立していた。
想定を遥かに上回り加速する超常社会化に、当時の国内では政治的混乱が続いており、世論においても監視派が優勢であった。次第に人類における超常保持者の割合が、現在では無個性と称される通常の人類の数を上回るようになると、諸外国を中心に『個性社会転換への宣言』が採択される。我が国もこれに追従したことで超常は個性と呼称を変え、各政府組織の大規模再編が実行された。
ヒーロー公安委員会はこのような背景を持つ組織であり、設立時の人員は主に反監視派より選出されている。同時期、人類における『個性』拡大を受け、能力を保持する全国民を監視すべきとする監視派の主張は下火となるが、社会に蔓延する犯罪の深刻化に伴い、
こうして監視派は
上記経緯により所属を厚生省へ移し、元公安委員会という異色の経歴を持つ厚生大臣となってからは、同じく排除された監視派を自らの管轄する組織へ引き抜くことに成功。厚生省に公安課を設置すると、委員会時代からの監視派と共に本件の原因となった国民監視システムの開発に着手した。
後述する個性事故により妻子を失う。亡くなった妻は
外務省外交官
総合外交政策局 国際治安・個性対策協力室に所属。外務省に入局当初は諸外国に駐在。その一つに、本件の亡命先と見られる第三国がある。当時は大使館職員として第三国に長期滞在しており、この期間にスーパーコンピューター開発会社であるX社との親交を深め、機材の提供を受けたことが確認されている。
地方出身。父親はヒーロー事務所のサイドキックだったが、出所した
以降は外務省内における監視派の一員として活動。外務省幹部らは否認を続けているが、入局と配属について厚生大臣から要請を受けた経緯があったと見て現在捜索中。本件においてはX社からの機材提供、第三国への亡命に係る交渉に関与。逃走時には第三国から軍用ヘリの提供を受けた疑いも持たれている。外交官一人で行える工作とは言い難く、外務省内の監視派が組織立って画策していた可能性が高い。
逃走に際して厚生省が開発した個性強化薬を多量摂取。身柄拘束時には既に自発呼吸が困難となっており、ホークスの協力の下、国立セントラル病院へ緊急搬送。現在も治療中であり、意識の回復が待たれる。
厚生省 個性医政局公安課 社会分析室 副室長
旧国立超常研究センター勤務。退職後、厚生省 個性医政局公安課 社会分析室に入局。
大学を飛び級で卒業すると、『超常』と呼称された人類の新たな能力の研究に着手する。後に一般女性と結婚、一児をもうけるが、外出先の娯楽施設で実子の個性が暴発。四歳の幼児が四十七名を殺傷するという未曾有の個性事故を引き起こし、事故者もまた自身の個性によって死亡した。犠牲となった死者のなかには厚生大臣の妻子も名を連ねており、事故の原因を隠蔽する代わりに本件への協力を強制したと見られる。
旧国立超常研究センターを退職後、大臣の手引きで厚生省個性医政局公安課社会分析室に入局。同組織の副室長に就任すると、後述する社会分析室長と共に国民監視システムの開発に加担した。自身の脳を摘出および提供することに同意した誓約書も発見されており、大臣からの圧力に加え、計画に対して肯定的な思想を持っていたことが疑われる。一方で彼が他の監視派との交流を必要最低限に留めていたとの証言もあり、個性事故隠蔽を目的とする自死を選択したとの見方が有力である。
身柄拘束時、亡命失敗のためか錯乱状態が続く。鎮静を図るがこれを拒否、抵抗を続けたため、やむを得ず首都警察病院 個性療養棟へ極秘に搬送。精神科医を中心に治療にあたるが、現在まで意思の疎通は困難。
厚生省 個性医政局公安課 社会分析室 室長
本名 ■■■■■
当時、施設は既に厚生大臣の手で運営されており、幼児・児童の養育を隠れ蓑に、計画の実行に際して有用な人員の囲い込みと育成が行われており、本人物は中でもシステムの根幹を担う人員として重用された。事件の影響で自失状態にあったが院内で療養し回復。以降は計画の構成員育成プログラムに組み込まれたと見られ、この期間に経歴の抹消、偽造戸籍の発行が確認されている。プログラムの一部は公安委員会がホークス育成時に使用したものと酷似しており、大臣が委員会所属時に持ち出した内容を流用した疑いがある。
プログラム終了後は大臣の手引きで厚生省個性医政局公安課社会分析室の研究員として入局。システムの開発に参画し、当該部局の室長職に就く。副室長同様に脳の摘出および提供に同意する誓約書が発見されている。
身柄拘束後は抵抗もなく、恭順の意思を示している。公安委員会および警察庁は本人物より計画の詳細を問い質すべく尋問中。現在は特定危険思想犯として対"個性"最高警備特殊拘置所『タルタロス』に秘匿収監されている。
ヒーロー公安委員会 ホークス
本名 鷹見啓悟
現会長の推薦で次世代ヒーロー育成プログラムに五歳で参加。父親は九州地区強盗殺人事件の犯人であり、母親は逃亡を幇助していたため、公安委員会により経歴の抹消と偽造戸籍の発行を受ける。プログラム修了後はヒーローとして活動する傍ら、公安委員会の命ずる職務を遂行。
委員会の意向に反して活動拠点を福岡に置き、ビルドボードチャート上位に名を連ねるなど、当初より指令を逆手に自らの要求を通す節が見られる。結果的に社会の治安維持へ多大に貢献していたこと、公安の任ずるおよび危険人物の抹殺任務では要求通りの成果を挙げていたことから、一連の行動は不問となった。
本件においては、システム開発の主導を担った厚生省個性医政局公安課社会分析室長の監視に従事。計画の詳細が明らかになった後は追跡部隊として現場を指揮、関係者の身柄を拘束する。
公安委員会から危険人物の抹殺命令が出ていたにもかかわらず捕縛を試み、これに失敗。軍用ヘリで逃亡を図った外務省外交官、社会分析室長、副室長の三名は機体墜落時に付近を警備していた海上保安庁の巡視船に救助されている。三名共に命に別条はなく、警察庁も本格的に捜査へ乗り出した現在、任務の続行は不可能である。
本人物は海上保安庁と遭遇したために任務を中断したと供述している。しかし当該海域の警備は通常行われておらず、また警備に至った経緯も明らかになっていないため、委員会は何者かによる情報漏洩があったと見て捜査を継続中。追跡時の状況に関する追加証言を求め、容疑者の一人である当該人物を公安委員会本部へ召喚する。
■章タイトル 引用元
フョードル・ドストエフスキー「罪と罰」