「ねぇセニカ。『木になっても許さない』ってなに?」
「ギクゥゥッ!?!?」
空崎ヒナが、ペロロ人形を持ち上げて尋ねる。
ペロロ人形に宿っていた者―――創世セニカは、その質問にあからさま過ぎるレベルで震え上がった。その露骨過ぎるリアクションに、ヒナはため息をつき、彼女に付き従っていた先生まで、苦笑いを浮かべた。
セニカがそこまで反応したのには、勿論理由がある。……………あるからだ。心当たりが。
だが、せめてもの抵抗として、これだけは聞きたかった。
「ど…どどどどどこでそんなことを………?」
「きのう倒した、オレンジ色で1つ目の巨人が叫んでたのよ」
「オレンジで、1つ目の巨人…!?
それって、もしかしてアトラスですか!?」
「名乗りはしてなかったけど、多分そうだと思う」
キヴォトスは様々な動物の姿をした一般人や個性あふれる生徒はいるものの、肌色がオレンジで一つ目の、家ひとつぶんもある巨人などそうそういない。
ヒナが言っている巨人、というのがセニカのしる巨人とイコールで結びついた彼女は、安心したような、観念したような、そんな感情をこめて言った。
「そうですか。
「ねぇ。ひょっとして、聞いてもいい事じゃなかったのかな?」
「……、いいえ。
これは、いずれ私に良くしてくれた方々に話さなければならない事です。話しておきましょうか」
そう言って、傍らにあった橙色の宝珠を眺めた。
それは、ヒナ達風紀委員会が激闘の末アトラスを倒した際にヤツが落としていったものだ。
「少し…御伽噺に付き合ってください」
前置きにそう言ったセニカは、話し始めた。
かつて、とある世界は創造神が作った。
それは、空と海とを分かち。
空には、星々を。海には、大地を浮かべた。
鳥や、魚、けもの、花々や、木々、ありとあらゆる 生き物を…空に海に大地に創り……最後に人間たちを創った。
だが、最後に創ったという人間には「正しき者」と「悪しき者」の二種類があり、栄えるのが悪しき者ばかりであるうえ、ほかのすべての生き物を苦しめ支配するようになった。
このことを憂えた創造神は、人間を「失敗作」だとして滅ぼそうとした。しかし、それを止めた者がいた。
創造神の娘……名をセレシアといった。セレシアは人間たちを庇い、己の身を世界樹へと変えてしまう。
世界樹の姿になったセレシアを元に戻すのは、人間の清き心のみ……。
そう告げて物言わぬ木になったセレシアをうけて、創造神は天使を創り、人間の清き心の証を集める役目を与えた。
「ですが、娘が世界樹に姿を変えた時、創造神が真っ先に思ったのは…『どうして』という感情でした。
『娘よ、どうしてそこまでして人間を庇うのだ』………この考えは、己が絶対に正しいと思っていなければ出てこない、思い上がった考えでした」
「な、なにを言って……。
でも本当に御伽噺ね…それも、トリニティの聖書に出てきそうな…」
「どうしてその創造神の考えが、セニカには分かるのかな? 何かの聖書に載ってた?」
「そこを語る為に、続きを話してもいいですか?」
「あ、ごめん。良いよ」
聞いたことも無い世界観にヒナと先生は圧倒されつつも、セニカの話に耳を傾ける。
「ある時、己の心に闇が巣食っているいることに気付いた創造神は、己の闇を封印しました。
自らの正しき心を守るため、悪しき心の自分をバラバラにし、地中の奥深くへと閉じ込めて、誰も開かないようにしたのです。
そうして、時の流れに任せていく中で、それらは忘れ去られて……キヴォトスという世界に、一つの新たな命として生まれ落ちました。
―――
「えっ………!!?」
「つ、つまり…!!」
「はい。かつての
おのれが創った人間を信じることができず、娘さえ憎んだ……おろかな神です」
全てを語り切ったセニカの目は、ペロロ人形のプラスチックの瞳であるハズなのに、まるで神に縋りひたすらに許しを請う罪人のように、ひどく濁り疲れ切っていた。
ヒナと先生は、先日戦ったアトラスの「木になっても許さない」発言の意図を理解した……彼女の想定よりも重く。
創造神の感情を理解していたかのように言っていたのも、己の死の間際に10の異形に分裂したのも、納得がいった…………だが、先生にはまだ解せないことがあった。
「じゃあ、今ペロロ様に宿っている君は?」
「えっ?」
「君の話だと、君はまるで10体の魔物から構成されているように聞こえる………けれど、10体に分裂した後、君自身は残った。そして、今ペロロ様に宿っている。
君は……グランゼニスの悪の心に残った、最後の良心だったりするのかな?」
そう。現在ペロロ様人形に残っているセニカは何なのか、ということだ。
10体の魔物だけでできているなら、跡形もなく残らず、セニカの残滓から魔物たちの情報など得られていないハズだ。
そのような問いに対して、セニカは言葉を濁した。
「それは………。分かりませんが、きっとただの気まぐれでしょう。私の悪しき心の中の、まだマシな部分だけが、奇跡的に残った、としか……」
「違うと、私は思う」
先生は断言した。
セニカにも良心が残っているハズだと。
悪しき心しかない人間が………シスターフッドのような慈善団体に入るものか。
アビドスの惨状に心を痛めるものか。アリスを助けに行くものか。SRTの生徒に寄り添えるハズがない。
だが、セニカの目は晴れない。
「ですが…私がグランゼニスの悪から生まれたのは事実。
黒から生まれた者が……白く染まるなどあり得ません」
「それも違うよ、セニカ」
「いったい何が―――」
「グランゼニスはどうして、セレシアが世界樹になった後に天使を創ったんだい?」
いったい何が違うのです?
その言葉を遮った先生の問いに、一瞬、数秒、躊躇った。
真っ白になったのだ。なぜ天使を創った?………考えた事もなかった。
「そ、それ、は……む、娘を。セレシアを元に戻す為です!」
「違う」
「え…?」
「人間が悪しき者だらけの失敗作だったのなら、そんなことをしても意味はない。
清き心がないのなら、セレシアはもう元の姿には戻れないんでしょ?
ならセレシアが物言わぬ木になったのをいいことに、人間を滅ぼせばいいだけだから」
「た、確かに…グランゼニスは、元々人間を滅ぼそうとしていた…のよね?」
ヒナの言葉で気付いた。
今まで…2度目の生を受けて、この土壇場になってようやく、気付いたのだ。
本当は…本当は。グランゼニスは、信じたかったのではないだろうか。
「グランゼニスは、内心では人間を信じたかったんじゃないかな。」
人間の、善なる心を。
「人間を…信じたかった………」
「どうだろう? あながち間違ってないんじゃないかなって思う。
もし、君の心に今もまだ悪い心しかないのなら……こうして話せること自体あり得ない」
「………そうね。私の知っているセニカは、絶対に悪い子じゃありえない」
セニカは、先生の、ヒナの、その言葉に目を見開いた。
ここまで自分を肯定する人間は初めてだった。
かつて、セニカは全てを創った。そして、己の過ちに気付き、苦悩した。
彼女が赦すことはあっても……彼女が赦されることはなかった。赦される日は来ないだろうと思っていた。
「せん…せい……ひな、ちゃん…」
だが、この日だけは。
この日はきっと、忘れる事は無い。
悠久の時を過ごした神でさえも、忘れることなど出来ない。
「わ、わたし……みんなを…」
もし、実体があれば、滂沱の涙を流していただろう。
そう思えるくらいの涙声を、しゃっくり混じりに、ゆっくりと吐き出していく。
「
「「勿論」」
大きな手と小さな手が、セニカの魂を撫でた。
創世セニカ
とうとう己の正体を先生に語る。自分のことをあまり良く思っていないので、先生の好意的な解釈に地味に救われた。身体を取り戻したら、改めて自分の正体を親しい人達に教えるつもりのようだ。なお、大まかな正体はこの騒動で大体知れ渡ってしまっている模様。
空崎ヒナ
何気ない質問からトンでもない秘密を聞いてしまった生徒。でも「いずれ話すことだから」と本人が言ったことと、先生がいたことであまりショックはない。代償にほぼ空気になってしまった感がある。反省。
先生
センセイ(ry。創造神であろうが何だろうが、生徒は必ず助ける。
アトラス
実は『ドラクエⅡ』から登場しているドラクエシリーズの超古株。とはいえサイクロプスとギガンテスだけ出てコイツは出てこないナンバリングもあるので初心者はあまり知らない。どのナンバリングでも共通して、その巨体を生かしたパワフルな戦い方をしてくる。特に痛恨の一撃は、生半可なPTメンバーはHP満タンからワンパンする威力を誇る。ドラクエⅨでも例に漏れない。
『Ⅸ』では宝の地図のボスとして登場し、こいつも創造神グランゼニスの一部として登場する。拙作では、セニカの脚から生まれた設定。つまりセニカは胸がアレで、ふとももがアレなのだ。
ブルアカとドラゴンクエスト、どこまで知ってる!
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勿論両方知ってる
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ブルアカのみ知ってる
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ドラゴンクエストのみ知ってる
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どっちも知らん