きらきらとしたウルサスの輝き   作:Asterios3000

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 私は剣を手にしてあるところに向かっていた。

 朝なのにひどく暗く、雨は降り続けていた。泥と血が混ざった赤黒い地面を私は歩いていく。

 ふと、背後から気配を感じ振り向くと二階の窓からソニアが見えて、彼女は私に手を振る。わたしも軽く手を振り返し、元の道に戻った。声も何もない静かな別れだった。

 

  ペテルヘイム高校はレユニオンに包囲されている。この数日間で何度もそう思わされたものだ。窓からは包囲している彼らが見えて、こちらには手出しはしないが逃げれば容赦なく私たちを殺すかとらえるだろう。

 

 レユニオン──感染者組織──サルカズ。

 頭の中で反芻する。イメージしていくのは大事だ。

 

 例えばこの校舎、周囲を隙間なく包囲しているかというとそうでもない。七日、いやもしかしたらそれ以上たっているかもしれない中、彼らの包囲は解かれつつある。それは計画されたものでなく、よほどの趣味を持ってないとあんな惨劇の現場を見ようと思わないし、この天気だ。誰も外へは出たくない。きっと要所のみを抑えてあとは定期巡回のみでこの退屈の包囲を続けているのだ。

 

 だからこうして隠れてもないのに正門まで歩いていけるし、手でも柵にに触れられる。

 するとこんな天気の中、監視役を引いてしまった哀れなレユニオンの兵士が来る。

 遠目に呼びかけていて『離れろ』とかなんとか言っていたが私はあえてそれを無視する。兵士は呆れたようなしぐさをした後、マチェットを持ち、だるそうに近づいてくる。

 

 距離は詰められていき心の中でカウントする。

 

 五メートル、四、三、二──好機だ。

 

 アーツを展開し、視線をマチェットへ向ける。ビリビリとした感覚が広がっていき、そしてマチェットが振動する。きぃん、と甲高い音をたてて驚いた兵士がなんだ、声を上げようとしていた。が、いつまでたっても声は上がらない。

 それもそのはずだろう。彼の喉に手にしていたマチェットが刺さっているのだから。

 

「ごっ──」

 

 くぐもった声で何度か溺れるように呻いた後、倒れて動かなくなった。

 私は柵を手でつかみ、力を入れる。

 展開されたアーツが柵を根元から持ち上げ、浮いた。

 

 浮き上がった柵はバラバラにされていき、数本の槍となる。その一部に兵士が持っていたマチェットも加え、私はイメージする。

 

 もっと、もっと!

 

 際限なく展開されたアーツが大気を震わせ学校を取り囲んでいた柵をすべて浮かび上がらせ、槍にする。金属が曲がり、不快な音があたりに響いた。頭上、四メートルほどのところに一つの球体をイメージする。浮遊する槍は球体を中心に集まっていき、サンクタの光輪のようなものが形成されていく。切っ先を外に向けて形成するものだから拷問器具のように禍々しい。

 けれど今からすることに、その禍々しさは必要なものだった。

 

 異変に気付いたレユニオンの兵士が私のもとへ集まってくる。数は十、周囲の警備にあたったものたちがそれぞれ何か叫びながら向かってくるのを視界に収め──射出する。

 踏みしめられた地面やアスファルトが砕け、砂埃が舞う。衝撃音が彼方まで響き、空気が震えた。視界にはもう動くものはいなかった。いずれも貫かれたか、破壊されたかで血をあたりにまき散らしていた。

 

 私は正門から一歩踏み出す。もはや門も柵もすべて槍にしていたが、そこには一本の境界線が引かれているように感じ、それを超えたとき心が軽くなった。

 

 ──ソニア達も抜け出せればいいけれど。

 心から思った。鉱石病に犯された私が出来る精一杯のこと。それは命をかけた囮だった

 

 

 

 体が軽い。まず感じたのはそんな感覚だった。

 いつかの日とは違いアーツが手足のように使えた。槍も視線をむければそこに向かって射出されたし、私が敵を貫けとイメージすればその通りになった。

 そのたびに額から生えた源石の角が震えた。忌々しい鉱石病の弊害、だがその忌々しいシンボルが私に力を与えている。それが孤独な私の戦いにたしかな勇気をもたらした。

 

 だからだろうか。きっと私はハイになっている。

 サルカズの屈強な戦士が立ちふさがろうとも震えることはない。ただ一言、彼らレユニオンに向かって叫んだ。

 

「ここは我が領土」

 

 手始めに目の前のいるサルカズを串刺しにして見せた。背後の兵士がわずかに恐怖で足を止める。が、それがあだとなった。わずかに力の抜けた手から剣が抜けてサルカズの顎を貫く。背後の弓兵はその光景に叫んだ。

 

「貴様、よくも!」

 

 その叫びとともに無数の矢が放たれた。雨に濡れて不気味な銀の輝きをもって私に降り注ごうとしている。だがそれらがあたることはなかった。

 

「なんだ、矢がそれていく」 

 

 自然と私を避けるように矢は飛んでいく。ぬかるんだ地面に突き刺さり、弓兵と私の目が合う。

 槍を──、そう思ったとき、背後から気配を感じた。

 カシュッ、とボウガンの射出音が聞こえ、私に飛来する。それもまた避けるように飛んでいったが次は右から、左から、と多方向からの射撃を狙撃を受ける。

 

 まるで試しているようだ。私のアーツの隙がどこにあるか一つずつ探っているようなそんな気がした。だから周囲の建物などを見渡すが姿はどこにも見えない。だが一定の間隔を置かれて射撃している以上、一人の狙撃手が行っていることは明白だった。

 

 今思えばこの時かなり危なかった。

 

 私は敵のアーツを見破ってもいなかったし、予測もついていなかった。戦闘経験の差がはっきりと出た結果だった。

 だが天が味方してくれたのだ。姿の見えない狙撃手との戦いを繰り広げているとふと違和感に気づく。

 

 穴が開いている。ぽっかりと、土砂降りの雨の中に。

 

 私は串刺しになったサルカズの死体をアーツで浮かし、振り回した。血があたりに飛び散る。そして狙撃手は姿を現した。

 

 雨の中、血で汚れた何かが動いている。そこに向かって槍を射出していく。狙撃手は懸命に躱していくが五発目あたりで傷ついたのかアーツが一瞬切れる。

 レユニオンのコートを着たフィディアの少年の姿が現れ、灰色の目が私を見つめる。

 

「みつけたぞ、狙撃手」

 

 鉄でできた矢じりをそこに向かって射出する。散弾のように放たれたそれを狙撃手は何とか躱して見せた。けれどいくつかの傷は負ったようで白いズボンを血で濡らしていた。

 

 狙撃手に向かって私は言う。

 

「お前か。レユニオンのリーダーは」

「違う」

 

 そういうと狙撃手は矢がこめられたボウガンをこちらへ向ける。彼の部下なのか、レユニオンの兵士の何人かがこちらに向かって叫んでいる。

 

「慕われているな、レユニオン」

 

 憎しみを込めていった。狙撃手はじっと私を見ていた。灰色の目の先が私が持つ剣や半身に負った火傷の跡、そして額に形成された源石の角に向けられる。

 

「お前も感染者か」

「ああ、倉庫を吹っ飛ばした誰かのせいでな」

 

 そう言って槍を放つ。とっさに狙撃手は私の顔に向けてコートを投げつける。槍がコートを貫き地面に刺さるが、それだけだった。狙撃手はすでに離脱し再びアーツで透明になっているようだった。

 

 ふとレユニオン側を見ると白髪の少年が狙撃手を治療しており、私は容赦なく何本もの槍を放つ。

 

 ぶうん、と空を裂きそれらは大挙してレユニオンへ降り注ぐ。何人かのサルカズの戦士が身の丈ほどもある大剣を振るい、槍を打ち落とす。だがそれができるのはわずかであり、何人もの兵士が貫かれ絶命する。串刺しの死体がいくつも作られた。射出のインターバルを狙い三人のサルカズが肉薄する。

 

 一人のサルカズが大剣を振るう。が、私は一歩踏み込み彼の体を剣で貫く。サルカズは血を吐き死に体であったが力を籠め続け、剣が抜けなくなった私を見て不気味に笑った。明確な隙が生まれたことを二人のサルカズは理解し、犠牲となった彼の体ごと私を斬ろうとした。

 

 とっさにアーツを込める。片方の大剣に負荷をかけわずかにスイングを遅らせる。

 

 めちゃくちゃに手に意識を集中させると大量のアーツが剣にこめられ、びくともしなかった剣が動く。まるでプリンのように簡単に彼の肉体を横へと切り裂き、そのまま一回転する形で三人を斬って見せた。どさり、と音をたててサルカズの上半身が落ち、血が噴出する。雨と血が混じりあった何かが体に飛び散っていくつもの斑点を残した。

 

 その光景を見てかレユニオンからは悲鳴が上がる。悪魔でも見ているかのような視線を向けながらじりじりと傷ついた体を引きずり下がっていく。

 

 私は構うことなくアーツを行使する。血に染まった大剣が、破壊された柵が、あらゆるものがレユニオンに向けられ、蜂の羽音のような音をたてて空中で静止する。

 

 アーツの制御に磨きがかかっていた。ひどく頭がいたんだけれど全能になった感じがしてその感覚が気分を高揚させた。

 

「終わりだ」

 

 そう言って射出しようとした時だった。

 

 空気が、震える。

 

 雨の中この場にいるものすべてが同じ方を見ていた。

 建物から鼠が逃げ出し、レユニオンの兵士はその大いなる存在に道を開ける。

 何人もの大盾を構えた戦士があるいて私を囲むように半円上に展開する。私は気をそちらには向けずただひたすらにこのプレッシャーの大本へ向け続けた。

 

 大盾の波の中から一際大きな体が見える。

 

 赤い目がこちらを見続け、サルカズの禍々しい角は天へと伸びている。白き鎧に包まれた体は引き締まり、手に持たれた槍や盾も私以上に大きく傷だらけであった。

 

 いつか見た夢で対峙した戦士とよく似ていた。

 

 だが目の前にして感じる重圧はそれ以上のものであり、こうして戦ってきて初めて手が震えた。その恐怖が一本の槍を放った。大気を裂き飛来した槍はかの戦士のもとへ肉薄する──が、それは突如爆発した。

 

 いや違う。落とされたのだ。戦士が持つ槍で一瞬のうちに落とされ、その威力に耐え切れなかった槍が砕ける。その一部始終は驚くほど速く正確で自然だった。

 

 ──はるかに大きい体躯。

 

 ルカの声がよみがえる。

 

 ──はるかに大きい体躯、頭の両側から生えた角、眼前の敵に向けられた赤い目にどれほどのウルサスの戦士たちが憧れたことでしょう。

 

 ルカから聞いた戦場の逸話。その中で聞いたウルサス最高の戦士。

 私はかつて思い描いた夢の像といま目の前にしているサルカズの戦士を重ねてみる。

 その曖昧なシルエットはぴたりと合って心の底から湧き上がる歓喜とそれが今、私を敵とみなしていることに恐怖した。

 

 サルカズは一歩前へ踏みだし、大盾の部隊が盾を鳴らす。

 

「少年よ」

 

 サルカズの声だった。喉を悪くしているのか機械じみた無機質な声だった。

 

「お前の、アーツが見えた。ゆえに、我らはここにいる」

「サルカズの戦士よ」私はなんとか震えを抑えながら言った。「あなたがレユニオンのリーダーか?」

「違う。だが、ここを任されている」

 

 それを聞いて怒りがこみ上げた。怒りがこみ上げてそれがアーツにも表れる。二度の爆発で生じた炭や塵、金属片が舞い上がり私の頭上に集まっていく。

 

「少年、聞きたいことがある」ああ、と返すとサルカズは槍先をむけた。「これを、やったのは、お前か」

 

 槍先は校外に放置された無数の死体を指していた。眠っている間に死んだ守衛や多くの生徒、爆発で焼け焦げた死体に、自ら命を絶った者、死体の海を槍先は指す。

「そうだ」

 私は力なく答える。

「そうか」

 

 サルカズは静かに言った。槍を地に打ち付け砂埃が舞い上がる。大盾の部隊はそれを見て一歩下がり背後の部隊のために盾を構えた。

 

「ならば、報いを」

 私はとっさにアーツを展開する、がそれは遅かった。すでにサルカズはたった一度の踏み込みで私の間合いまで踏み込んでいて槍はすでに眼前にまで迫っていた。

 

 思わず手に持った剣で横から槍を打ち払った。

 槍の軌道がずれて目の横をかすめる。それだけで肉がえぐれたのか鋭い痛みがはしった。

 悲鳴を上げたかった。だがすでにサルカズは次のモーションに入っていて、苦し紛れに槍を射出する。

 

 サルカズはとっさに動きを変え、槍の一振りで飛来した二本の槍を落とし、残りは盾で受ける。構えたまま走りこんできてそれを私はもろに喰らった。

 声も出なかった。おなかの中の空気が一気に出て、胃液が逆流する。そんな中何度も地面に打ち付けられコロコロと転がった。

 

 起き上がろうとしたが血がこみ上げて思わず吐いた。情けなくげえげえと吐いた。膝まづいて泥まみれで、目の前のサルカズがひどく大きく見えた。濃厚な死の気配を感じた。

 

「グ────ガッ──」

 

 呻くことしかできなかった。右腕が折れたのかだらん、と力なく垂れて立ち上がるのでやっとだった。ショックで視界が明滅し、集中が切れたせいか宙に浮いた槍は地に落ち、もはや鉄くずとなっていた。

 

 剣は──

 

 そう思い見渡すと先ほど吹っ飛ばされた場所にあり、そこにはサルカズがいた。

 手を伸ばしてとれる距離でもない。それにあのサルカズが許してくれないだろう。

 そんなことを考えていると私の首にひんやりとした感触を感じた。

 

「終わりだ。少年よ。言い残すことは、ないか」

 

 無機質な赤い目が私を見下ろしていた。目の目にサルカズは立ち、その体の大きさや威圧感を感じ取る。

 

──すごいな、やっぱり。

 

 そんなことを思った。ルカの話以上の戦士で、手も足も出なかった。その現実が私に突き付けられている。

 

 ふと彼女たちのことを想った。ソニア達のことだった。

 

 彼女たちは無事に脱出できただろうか。壊れ切ったこんな街の中、本当に大変だと思うけれど、どうにか逃げてほしい。そして生き延びてほしかった。

 それを想うと不安になった。もっと私が時間を稼がなければレユニオンが彼女たちに追いついてしまうんじゃないか、殺されてしまうんじゃないか。そんな考えがぐるぐると回り、心臓の脈が異常に早くなってまた吐いた。そうやってうつむいたときだった。

 

 すさまじい爆発音とともに雷が落ちた。そう遠くないところにある木に落ちたようで、真っ二つに裂けた断面が赤く燃え上がる。バリバリという音とともにそれらは二つに分かれ倒れていき、そして異様な光景が目に入り、思わず私は目を見開いた。

 

「あ──なんで」

 

 裂け目の向こう。わずかな暗がりにいつか夢でみた隻腕の戦士を見た。そして一歩、また一歩と歩み寄り、ルカは裂け目を超えてきた。

 ルカは以前のように微笑んだ。そして泥で汚れることも気にせず私と目線を合わせ、口を開く。

 

「大変でしたな」

 

 顔に着いた血をぬぐいながらルカは言った。思わず涙がこみ上げた。

 

「ああ、やってみせたよ」

 

 涙が流れ、えぐれた頬が痛んだ。

 

「だけどそれ以上に殺したよ。何人かを守ろうとして、それ以上に殺したんだ。頼りにしようと貴族を頼っても理由をつけて奪うばかりで、あんなのただの、蛮族だよ、ルカ」

 

 泣きながら私は言った。ルカはただ聞き続けた。

 

「暴力の代わりに権力で奪っているだけだよ、あんなの。けれどそんな中理性を保っている人もいたんだ。ソニアは俺を助けてくれたし共に戦ってくれた。アンナはみんな頼りにしてそれに応えた。ラーダの料理はおいしくて励まされた。ロザリアは一緒に手を汚してくれて、ナターリアは立場に苦しみながらも手を打ってくれた。みんな、みんな、よくやったんだよ。だから、ルカ──」

 

 ルカは優し気な目をしながら肩に手を置いた。じんわりとした温かさを感じて、それがあまりにも優しく思えて──泣いた。雨が体についた血を洗い流し、地面に溶け込んでいく。

 

「死んではなりません」

 ルカのそんな声が聞こえた。

「死んだら、すべてが無駄になります。見てください」

 ルカは私の背後を指さした。ゆっくりと振り向いていく。ペテルヘイム高校。そこにはみんながいた。

 

 ヴィカがいた。ピョートルがいた。殺した貴族たちもいた。そして、ヴァレリアもいた。

 死んだみんなが私を見ていた。ヴァレリアが心配そうに見ていて、相変わらずだななんて思った。

 

「あの死を無駄にしてはなりません。失ったのならば、それに見合うなにかを手に入れねば」 

 

 私はルカに向き直る。早鐘を打つ心臓の鼓動がうるさかった。

 

「あなたは下の者のために立ち上がれる人です。信頼できる人のためなら頑張れる人です。国や権力のためでなくほかならぬ自分の信念のために強くなった。ならば今、あなたは誰のために、戦っているのですか」

 

 その疑問で思い浮かぶことは一つだけ。あの中で生き残った彼女たちのためにできることは決まっている。

 

 

 

「サルカズの戦士」

「なんだ」

 

 私は顔を上げる。赤い目に向かって私は話し続ける。

 

「言い残すことがある。聞いてもらえるか」

 

 サルカズは槍先を首筋につけたままうなずいた。覚悟を決め、息をのむ。

 

「閉じ込めたうえ食糧を絶ち、多くの命をもてあそんだレユニオンに、死を」

 

「どういう──」

 

 私はサルカズの言葉を待つことなく渾身のアーツを展開する。地に落ちた剣を引き寄せ、背後から強襲する。

 サルカズは見事に反応し、背後の一撃を槍の一振りで落として見せた。が、サルカズの動きが鈍くなる。

 サルカズが持つ槍と盾が黒く染まっていく。アーツによって制御された炭や金属片が槍を侵食していく。そうして生まれたわずかな時間に私はアーツを展開する。

 展開範囲を大幅に広くし、この高校にある金属や炭を頭上に集める。細かく砕かれた黒い粒子が頭上に集まり、再び槍を形成し、射出する。

 

 サルカズは侵食された武器を捨て懸命に避けて見せた。だが、飽和攻撃に耐え切れなくなりそのうちの何発かをそのまま受けた。巻き上がる粉塵で姿が見えなくなる。が、位置は容易に分かった。サルカズの鎧についた粒子が位置を教えてくれて、正確な射撃を続行できた。

 私は攻撃をやめなかった。何度も形成し射出、砕けたものをもう一度、と攻撃を繰り返していく。

 

 アーツを使いすぎたせいか頭痛がひどくなり、不気味な音をたてながら額の角が伸びていった。

 そのたびにアーツをより自由に使えるようになっていき、まるでみんなが力を貸してくれているかのようだった。死が私に力を与えているのだ。

 死んだみんなの怒りをぶつけるように、巨大な槍を形成する。集めるのはみんなの血や燃えた後の灰を剣にまとわせ、強力な槍に変えていき、放った。

 

 強力な一撃を放ち大地が揺れる。今までにない以上に粉塵が舞い上がり痛みがはしって、力が抜けた。膝まづいたままうつむき、両手をつく。

 耳鳴りが止まず視界もあいまいになり、緩慢とした眠気がこみ上げてくる。

 

「ソニ、ア」

 

 集中が切れ、槍は塵へと変わり雨に溶ける。体がひどく冷たく感じたがもうどうでもよかった。

 やったのだ。この状況を生み出したやつを倒し、敵は取った。時間も稼いでみせた。もうできることはない。

 

「ゔっ」

 

 血がこみ上げてまた吐いた。鼻からは血が絶えることなくぽたぽたと垂れていて、それがひどく不快だった。けれど体を妙な充実感が支配する。それが唯一の救いだと思ったその時だった。

 目の前で舞い上がる粉塵の中から黒い影が見えた。

 

「ルカ」

 

 また来てくれた。

 

 やって見せたぞ。敵を討って、時間も稼いだんだ。よくやったとまた肩を叩いてくれ。また家に戻って稽古をつけてほしい。また一緒に暮らしてほしい。もう一人でこんなこと嫌なんだ。

 心からの願いだった。もうどうしようもなくて、叫びたくて、ようやく日の下に出れた気がした。もしできることなら生きている彼女たちを一目見たかった。生きてここから抜け出して安全な場所で生きていく姿を見るためなら何でもする。けれど──

 

「もう、ひもじいのは嫌だよ、ルカ」

 

 力なくそう言った。

 全身から力が抜け意識が失われていく。前の方へ倒れていって思わず目を閉じる。けれどいつまでたっても衝撃を感じることはなく、硬い鎧をまとった腕に抱き留められて心の底から安心した後、意識を投げ出した。

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