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2012年 6月4日――
――宮城県 IH予選最終日"決勝戦"
才華女子高等学校VS新山女子高校
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「……はぁ……はぁ――」
苦しい
「っ……」
呼吸が乱れる
「うぅ……っ……ぐぅ!!」
必死に手を伸ばす。
大丈夫、届く!
「――ぁっ……!」
あと数ミリ
それくらいの距離だった。
指先がボールを掠めた。右手中指の先にほんの一瞬、ボールを掠めたのに。
「……はぁ…はぁ……はぁっ……」
目の前で転がるボール。
同時に対面側のコートから湧き上がる歓声。
その瞬間、まるで世界がスローモーションのように映像が動いていく。はっきりと聞こえていた歓声は消え、耳鳴りのような音が鼓膜を走る。
そして脳裏に響く言葉――
"コートにボールを落とした方が負け"
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――数日後 午後15時過ぎ
市内 図書館――
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市内の大きな図書館。
放課後となると学生が多く集まりそれぞれが読書を楽しんだり、中庭に併設されているカフェで談笑する学生たちも目に入る。
音羽はエレベーターへ乗り込むと3階へ。
外の景色がよく見える壁一面ガラス張りの空間。木製の長机が何台か置かれ椅子が何脚も等間隔に並べられていた。
ちょっとした学習室のようなものだった。
それぞれが近すぎず離れすぎずの距離感で読書をしたり参考書を広げ自習に勤しんだり。ヘッドホンをつけ自分の世界に入る学生の姿も見受けられた。
まだ席は十分に空いていた。
音羽はなんとなく席を吟味し始める。
等間隔に空いた席。
せっかくなら外の景色が見える場所――
「――あ」
そんな時、視界に見慣れた背中が目に入った。
「……徹?」
「…ん?……音ちゃん?」
青葉城西の制服に眼鏡姿の"及川徹"。
久しぶりに眼鏡をかけているのを見たが……やはりこの男なんでも似合う。ちょっとムカつくけど女子が"ワーキャー"言う気持ちは分からんでもない。
隣に青葉城西の女の子や取り巻きたちがいるのでは?なんて辺りを見回すが誰もいない。岩泉も松川も花巻の姿もない。
"ひとりなのは珍しい……というより
ひとりになりたかったのだろう"
音羽は胸中で呟いたのだった。
そしてそれは自分も同じだったのだから。
「へえ、珍しいね?ひとりで図書館なんて。しかも月曜日のオフに。」
「音ちゃんこそ。いつもなら学校の自習室で勉強してるんでしょ?」
「読みたい本を借りに来たついでだよ。…隣、いい?」
「うん。勿論。」
"どうぞ"と隣の椅子を引く及川。そして何も言わずとも手と腰を支えるように手を伸ばしてくれる。
"ありがと"と笑みを向け音羽は及川に介助されながら腰を下ろし、席に座ると勉強道具を並べていく。
「……」
「……」
暫くふたりの間に流れる沈黙。
その空気は形容し難いものだった。
"IH決勝戦で敗れたふたり"
及川は白鳥沢に
音羽は新山女子に
敗れた瞬間。
ボールがコートに落ちた瞬間。
ふたりは呆然と動けなかった。
「……」
「……」
同じ最終日にコートに立ったふたり。
表彰式で準優勝と告げられた青葉城西と才華。
同じ1番の背番号を背負ったふたり。
表彰状を受け取り同じ表情を浮かべていた。
お互い言葉を交わすことなく体育館を立ち去った。
お互い準決勝で勝ち進んだ時は背中を叩きあった。
烏野が、飛雄が……青葉城西に敗れたのは正直悔しかった。
だが親友の及川が烏野を敗り準決勝を勝ち進んだ時のあの笑顔が嬉しかった自分もいた。
だがふたりは負けた。
決勝で敗れた。
敗者なのだ。
「……ね?音ちゃん。この数式の解き方教えて欲しいんだけど?」
「ん?……えーっとね……」
こつん、とぶつかる互いの肩。
参考書の数式をなぞる音羽の指、ノートに数式を書き記していく及川の手の動き。
たくさんのボールを仲間に繋いできた手。
きっと誰よりもボールに触れたセッターというボジションの2人の手指。数式のやり取りをしていても無意識に音羽の綺麗な指に視線が動く。すると及川はそんな彼女の指の怪我に気づいたのだった。
「……ここ、怪我したの?」
音羽の左手の薬指に巻かれた絆創膏。
及川はトントンと自分の指で優しく弾く。
「うん。調理実習の時に包丁で切っちゃって。」
「血滲んでるよ?替えの絆創膏は?」
「いつもなら持ってるんだけど入れてたポーチ家に置いてきちゃって。」
「俺持ってるよ。付け替えてあげる。」
足元に置かれたカバンに手を伸ばすとシンプルな黒いポーチから絆創膏を取り出す。中には爪切りやハンドクリームなど、及川らしく整頓された物が入っていた。
"女子がワーキャー言う気持ち……以下同文"
及川は昔からそうだった。音羽のどんなに小さな異変にも気づく天才だった。
「ん。これで大丈夫。」
「ありがとう徹。」
「どういたしまして。」
音羽の手を包むように手を添える及川の大きな手。音羽は手を離そうとするが及川がそれを止めた。
優しく掴まれた手。
及川は音羽の手に視線を落としたまま再び口を開く。
「……音ちゃんの手。がんばったね。」
「…うん。」
「いっぱいこの手で繋いだんだ。」
「…………うん。」
慈しむような優しい声色だった。
正直何を考えてそんなことを口にしているのかは音羽にも理解はできなかった。
ちらりと一瞬だけ音羽は及川に視線を向けた後、自分も及川の手を包むようにもう片方の右手を上から乗せる。
「徹も頑張ったよ。すごかったよ。」
「…うん。」
「コート外からのトスも圧巻だった。かっこよかったよ。」
「…………うん。」
ふたりは同時に視線を向け合う。
互いの瞳がぶつかると音羽はニッと無邪気に笑い、及川は口元を僅かに緩ませクールに笑った。
「飛雄。どうだった?」
「強くなったよ。でもまだまだだね。」
「ふふっ。」
「あと、ますます似てきたと思った。さすが
「例えば?」
「負けず嫌いなところ。ツーでやり返してくるところとか。……むしろあれは音ちゃんが仕込んだでしょ?」
「仕込んでなんかないよ?ただ徹相手なら少し挑発くらいしてやんなって言ったけど。」
「ははっ!やっぱり!本当にクソ性格悪いね?影山姉弟は……」
及川はパッと音羽から手を離す。そして体ごと音羽の方へと向けると肩肘を背もたれの柄の部分に乗せ、顔を覗き込むように体勢を変えた。
「新山との試合の最後。音ちゃんがレシーブ返せなかった時。」
「うん。」
「義足の調子悪かったでしょ?」
「……それは関係ないよ。」
音羽は僅かに視線を逸らした。
「いつもなら返せてた。」
「…………」
「さすがにあの長時間。全ゲームフルセットで過去最長の試合時間だったでしょ?」
「別に大したことないよ。」
「あの状況下、義足での試合。音ちゃんはスタメンで交代は2回だけだった。才華のコーチもなかなか鬼だよね〜?」
呑気に薄ら笑いを浮かべる感じ。及川が何かしらの重い感情を持っている時か何かを探っている時の様子だ。顔を覗き込んでくる感じも昔から変わらない。
「"俺は音ちゃんが心配だよ"」
本気の声。按ずる声。
「"音羽"」
及川の手が音羽の頬に伸びる。
白くて柔くて、女神のような彼女の頬を――
「"ゴンッ"」
「いったああああああぁぁぁぁ!」
「図書館内ではお静かに。」
「っっっっっ!こんっの!悪魔!」
「しーーっ!!徹静かにして!」
音羽が手にした分厚い数学の参考書が及川の頭部にクリティカルヒット。
半ば涙目になりながら頭を押さえる及川に対し、音羽は口元に人差し指を添え小悪魔的に笑っていた。
そして悶える及川を他所に再び机へと向き直る。
参考書へ視線を落とし、落ち着いた口調と表情で音羽は静かに呟いた。
「"春高。絶対負けないから。"」
「…………」
「今に見ててね?新山女子を次こそ"へし折る"。……飛雄も……次は徹の事へし折っちゃうかもよ?」
こちらに体を向けたまの及川へと再び視線を向け、こんどはいつものような挑戦的な笑みを浮かべた。
「はい。ということで勉強もしっかりやらないとね?次のページからの応用問題。1問でもミスしたら下のカフェでジュース奢ってね?」
「はっ!なんで俺だけ?なら音ちゃんも…………この英文ぜーーんぶミスなく訳してね?ミスしたら奢りね!」
「あーこれ?簡単だから直ぐに終わらせるよ。」
「むっっっかつく!秀才!!」
「褒め言葉ありがとう。」
「ぐぬぬぬぬぬぬっ…」
いつもの空気に戻る2人。
そんな空間が心地良い。
そしてふたりは直接やり取りせずとも
"必ず春高に行く"と誓い合ったのだった。
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――図書館からの帰り道
空が橙色に染まり始めた17時頃――
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及川と別れ、バスに乗り込んだ音羽。
最寄りまでの慣れ親しんだ田舎道の景色を車窓から静かに眺めていた。
何も考えず、ただただ眺めていたその時。
「……!」
もうひとりの"親友"の姿が目に入る。
珍しくひとりで歩いていた。その背中は弱々しく、いつもの勇ましい背中ではなかった。
音羽は思わずバスの降車ボタンを押すと最寄りの停留所よりまだ離れたその場所で降りることを決めたのだった。
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「はっ、はっ、はっ、――」
バスを降り、音羽は通った道を戻るように駆け抜ける。暫く走り続けていると見慣れた学ラン姿の親友を見つけたのだった。
「……っ……!大地!!」
「……ん、……え?音羽!?」
反対側の歩道を歩く澤村だった。
音羽は"そっちに行くからちょっと待ってて!"と再び声をかけると横断歩道を使って澤村の元へ。
「……はぁ。よかった。会えた。」
「音羽……なんで」
「さっきまで市内にいたんだ。それでバスに乗ってて大地が歩いてるの見えたから……」
"それに、何だか落ち込んでるように見えてたから"
――なんて言えるはずは無い。
彼もまた、先日のIH予選で青葉城西に敗れたのだ。
そしてもうひとつ、音羽は分かっていた。
"今回のIHでバレーを辞める選択をするのではないのか"
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「ん。」
「え?いいの?」
手渡されたのは紙パック飲料の"ぐんぐんヨーグルト"。立ち寄った公園の自動販売機で買ってくれたものだ。
「構わない。むしろここまで歩かせて疲れただろ?」
「別に疲れてないよ?ていうか私が自分の意思でバスを降りたんだから。」
「ていうかよく気づいたな?俺が歩いてるの。」
「そりゃあ気づくよ。何年友達やってると思ってるの?」
「……ははっ。確かにそうだな?」
公園のベンチに座るふたり。
視線の先には色とりどりの遊具。日が長くなったからかまだ子どもの姿は多く見受けられた。
「インハイ、お疲れ様。」
「音羽も。お疲れ様。」
視線は合わない。
「試合見てたよ。みんな凄かったね。」
「ありがとう。俺もお前の決勝見た。画面越しだったけどな?」
「……うん。ありがとう。」
「なんて言うか……語彙力がなくて悪いが"綺麗だった"。」
「へ?綺麗?とは?」
音羽の視線が澤村へと向けられる。
しかし澤村は誤魔化すように口元に手を添え遊具で遊ぶ子供たちに視線を向けたままだった。
「……立ち姿とか。フォームとか。血気迫る瞬間でもボールに食らいつく瞬間でも……"綺麗"だった。」
「…………」
「スガも旭も清水も……同じこと言ってたよ。」
やっと視線が噛み合う。
いつもの優しい澤村の笑顔だった。
頼もしいような、凛とした顔だった。
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試合終了の笛の音。
喜びを分かち合い歓声を上げる新山女子。
その対面側では声を失う才華。
スマホの画面越しにそれを見ていた烏野の3年生達。
昼休みで賑わう教室の片隅でその光景を見守っていたのだった。
「……"綺麗"」
清水は消え入りそうな小さな声で呟いた。
何となく理解し難いその言葉に対し、何故か澤村達も同じような反応を見せていた。
「必死に食らいつく音羽ちゃんの動きとか」
菅原の言葉
「なんていうか……怪我の前と"いつもと変わらない"」
東峰の言葉
試合中も、負けたあとの悔しそうな姿も。
言い難いが"みんなそう思った"。
恐ろしい程に"綺麗"なのだ。
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「――私はなんて返せば……」
「いや!まあとにかく!相変わらず凄かった!って事が言いたかったんだ!」
長い付き合いのある澤村と言えど彼は異性。真っ直ぐと"綺麗"だと言われて戸惑う音羽。しかしその言葉を贈られた意味も何となく理解した。
「……で、音羽はどうするんだ?」
「何が?」
「インハイが終わって次は春高の予選。宮城の1次予選は8月。……進路もあるだろうし、お前はまだ残るのか?」
「うん。勿論。」
澤村の問いかけに即答する音羽。あまりにもスピーディーな返答に澤村は喉を詰まらせる。
そしてその様子に音羽は敏感に気づくと"大地の悩みの種はそれか"と一瞬で理解した。
「春高予選。才華の3年は全員出るって。残るって決めたんだ。」
「…………」
「うちは進学校だから"有り得ない"って周りからは言われてるけど関係ない。それに勉強も疎かにするつもりは無い。全員第1志望の進学先に受かるように努力する。」
音羽は澤村から受けとった飲料の紙パックにストローを通し口に含む。
「がむしゃらにするのは良くない。この選択が正しい事だとも間違いだと言うことも分からないし。……私がボールと向き合ってる間に他の同級生は人生に関わる事に重きを置いて向き合ってる。……差は生まれる可能性は十分にあることも理解してるよ。」
その言葉には聞き覚えがあった。
澤村も顧問の武田に近しい言葉を投げかけられたばかりだった。
「むしろ私は事故で足を無くした。そんな私がバレーに打ち込み続けるなんて"有り得ない"って。担任にはすごく止められたんだよね。」
「…………」
「でも、私にとってバレーは人生だから。」
音羽の真っ直ぐな視線が澤村の瞳を掴む。
「それに。私は勉強もバレーも両立させる自信がある。だからちゃんと考えて取捨選択して残りの時間を過ごすって決めたの。」
バレーのためなら苦ではない。
脚を失っても尚、バレーをするためにどんな苦難も乗り越えてきた。
そんな音羽だからこその気合と覚悟だった。
「ちなみに他の3年生達は?」
「……スガも旭も残るって。清水もマネージャー継続。」
「うん。」
「俺も残りたい気持ちはあるんだ。……でも……」
澤村の声のトーンが落ちていく。
「音羽の弟……影山を含めて凄い後輩が沢山いる。」
「…………」
「俺は抜けて、早く明け渡した方がいいんじゃないかって。」
沈む表情。
烏野の主将とは思えないほどに弱りきった姿。
いつもは正々堂々と振舞っているのに、少し気を抜けば自分の前では"こうなって"しまう親友の姿はいつも見てきた事だ。
大したことない。
「ねえ大地。口開けて。」
「……へ?」
刹那、音羽は自分が飲んでいたぐんぐんヨーグルトの飲み口であるストローを澤村の口に挿入した。
「ん!?んん、?」
「はい。飲んで飲んで。」
「???????」
訳の分からない状況。
無数の?マークが澤村の頭に浮かび上がる。そして反射的にごくごくとそれを飲むと口のなかに甘くて優しい味が広がっていく。
「どう?甘くて美味しいでしょ?ぐんぐんヨーグルト。」
「いや、アノ……急に何でしょうか……」
「美味しい?」
「え、あ……まあ。美味い……」
澤村の脳内は大混乱だった。
しかし同時に今まで悩んでいた事がパッと抜けたようにリセットされた。不思議だった。
無意識に表情も柔らかくなっていく。
「"考えすぎ"。本当に昔から変わらないよね。そうあうところ。」
「ん、んん?」
「ていうかさー……大地。」
迫り来る音羽。
この光景に既視感がある。
多分あれだ……
"影山が日向に容赦なく詰め寄る時のあの感じ"
「孝支君も旭君も潔子ちゃんも残るのに主将のあなたがいなくてどうするの?」
「かっ……カンガエスギ」
「守備も攻撃もオールマイティに活躍出来る大地が抜けて大丈夫なの?チームをまとめられる人は?」
「え……っと」
音羽の責めは止まらない。
まるで自分が日向になったようだった。
「私の自慢の可愛い弟に入部拒否を突きつけることが出来るような人が他にいる??そんな強者いる??少なくとも旭君はそんなこと絶対に出来ないよね??」
「……あー……まあそれは、……うん。」
「どうなの?本当に大丈夫?大地が抜けても大丈夫?」
「…………」
「もしかして勉強が不安なの?それならわかった、週一でもいいからうちで勉強会しようよ?」
「別にそれは……」
「直近の成績は?大地は公務員試験受けるんだよね?なら進学の対策より公務員試験……過去問ならツテがあるから一緒に――」
「わっ、分かった分かった!ストップ!近い!!」
グイグイと詰め寄る音羽の言動に耐えられなくなった澤村。そして常日頃飛雄から"日向ボケェ!!"と詰められている日向の気持ちが分かった気がした。
ストンと隣に座り直す音羽。手元には残ったぐんぐんヨーグルトがあり最後の最後まで飲みきる。
そして一呼吸置いて落ち着くと音羽は再び口を開いた。
「残って欲しいって1番思ってるのはいずれ残される側の子達だと思う。」
「……残される……側」
澤村の脳裏に後輩たちの姿が映った。
そんな彼らの中心に、先頭にいつも自分が立っていた。みんな着いてきてくれた。頼ってくれていた。
そして彼らを"1番理解している"。
それは自分だ。
「青葉城西、白鳥沢……強豪は沢山いるよ?」
「……ああ。」
「大地の力は必要不可欠。」
「っ……」
射るような強い眼差し。
澤村はゴクリと息を飲んだ。
「挑戦すれば必ず勝ち負けを経験する。その時に得る大きな経験値……それは机上のだけで得られないものもある。逆も然りだけどね?」
音羽は澤村に向けて右手を伸ばした。
「負けたからこそ、敗者である"私たち"だからこそ、今この悩んでる時間こそ莫大な経験値を得られる瞬間にいるんじゃない?」
「っ!!」
澤村は自分の右手を見つめ、次に音羽の差し出された手に視線を移した。
「さあ、どうする?」
生き生きとした瞳が夕陽に反射して美しく輝いた。
それは異名通りの姿そのものだった。
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