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はい、どうも。ちょっと前に気絶してしまったナチュラルです。
自分でもびっくりするくらいに速く動けたし、何ならこれまでに無いくらいに思考が澄み切ってたアレの正体は、結局未だ掴めず仕舞い。
というか後遺症が凄く酷かった。丸1週間は酷い頭痛に襲われた。お陰で授業なんざ殆どやってる場合ではなかったね。
クラスメイト曰く、常に顔面蒼白だったらしい。そんな状態でも学校に来た俺凄くね? と顔面蒼白ながらに笑っていた所で、織斑にヘッドロックを食らって連行されました。
ついでに篠ノ之からもガチギレされてしまった。あそこまで篠ノ之が感情乱すなんて初めてだよ。俺も織斑みたく信頼され始めたって事だな、良い事だ。
正直な話、初邂逅時からの事を思い返すと篠ノ之は成長していると思う。主に精神的な面で。肉体的には言わずもがなだろ、彼奴元々が可愛いんだし。
まぁ、それはおいといて。
彼奴は人を人として認識する様にはなったし、適当ではあるけど相槌もする様になった。過去の篠ノ之を知る俺と織斑からすれば、それは凄まじい成長だ。
「本当にでっかくなったよな、お前」
放課後の帰り道、俺がそう零すと、篠ノ之が明らかに顔を顰めた。
あれ、言葉選び不味ったか?
「何、遂にセクハラするの? 気持ち悪いね、最低」
「待て待て、なんでそうなる。俺がお前に手を出す訳ねぇだろ」
「は?」
「なんでそこでキレるんだよ、おかしいだろ。織斑、コイツどうなってんだ?」
「まぁ、理不尽なのはそうかもしれんが…お前の言葉選びも悪いぞ。女性は繊細なんだ」
「はえー、女性って難しいな。あのな、篠ノ之。俺が言ってんのは、お前が精神的に成長したよなーって話」
「相変わらず言葉選び終わってるよね、お前。どういう脳味噌してたら、精神的に成長してるって言葉がそれに変換されるの?」
「追い打ち掛けてくんなし。悪かったよ、ごめんなさい。お前が女性として成長してるなと少しでも思ってすいませんでした!」
ヤケクソ気味で言うと、篠ノ之が歩くのを止まってしまった。
どうした? 靴紐でも解けたか?
「なんでっ、いきなりそういう事言ってくるんだよコイツっ……!!!!」
「お前……」
「え、何。俺なんか変な事言った? つか篠ノ之はなんで織斑の背中に隠れてんの?」
「うるさいっ! お前もう喋るな!」
「理不尽過ぎん? 俺思ってた事まんま謝罪しただけよ?」
「っっっ………!!!! 変態だ、お前は!」
「何でだよ巫山戯んな。引っ叩くぞ」
「おい、束だけか? 私もかなり成長したと思うのだが」
「ちーちゃん!?」
めっちゃ堂々と尋ねてくるじゃん織斑。どうしたよ二人共。
織斑、織斑か。うーん……
「織斑はなぁ……ぶっちゃけ印象変わった気がしねぇんだよな」
「ふんっ!」
「痛って!? いててて!!!!!! おまっ、本気でアイアンクローすんなよ! 何だよ、何が不満だっての!? 相変わらずクールですよ貴方は!」
「最初にそれを言え、馬鹿者が」
「いってぇ、マジで…。お前、手加減とか知らねぇの?」
「おや、これでもかなり手加減した方だが?」
「どうなってんだよ、お前の膂力。剣道で鍛えてるからー、じゃ説明出来ねぇぞ」
剣道は竹刀を握って素振りとか云々するから握力鍛えられそうではあるが、だとしてもこの膂力は異常だろ。一般女性が出せる火力じゃねぇぞ。
つか幼稚園の頃から身体能力は馬鹿みたいに高かったからな、織斑。これがフィジカルギフテッドってやつなのかね?
頭を抱えていると、平然とした様に篠ノ之が出てきた。
「ちーちゃんだからね。それで納得しなよ」
「何事も無かったかの様に出てくるじゃん。はぁ…今日も相変わらず俺はイジられ役ですか、そうですか。ったく、俺をイジる暇あるなら、そろそろ夢でも見付けたらどうだ? もう高校生だぜ、俺等」
中学から成長して、もう高校生だ。
小学生の頃に、夢について語った時がめちゃくちゃに懐かしく感じる。まだ若い筈なんだけどなぁ…めっちゃおじいちゃんみたいになっちまうんだよな。
まぁ、言うて俺も将来の夢とか定まってる訳じゃないんだけどな。
「…そういうお前は、決まってるの?」
「いや、言っといてなんだけど特にこれといってやりたい事もないんだな。まぁ……高3になっても決まらなかったら、航空自衛隊にでも入るかね。夢でよく見るくらいには空飛ぶの好きだし。篠ノ之は?」
「……決めてる」
「そっか。まぁ、まだ高1だしそこまで悩まずとも…………………ん? え、今なんつった?」
「夢は、決めてる」
「――――――マジ?」
俺は呆気に取られ、歩くのを止めてしまった。
あの篠ノ之が、夢を決めた。自分がしたい事、やってみたい事を―――決めたと言った。
夢なんて無いと言った彼女が、そんなものと言っていた彼女が、夢を決めたのだと。
「ちょ…マジか。お、お前が? あの夢なんて無いとかお前には関係無いとか素っ気ない態度しか取らなかった篠ノ之束ちゃんが、夢を持ったのか?」
「本気で殴るよ?」
「すんません。いや、でも…はは、そっか。お前にも夢が出来たんだな。そっか…そっか……」
声が震えた。
目元が熱くなる。
いかんな、本気で泣く。自分が想像していたよりも、嬉しいものなんだな。
あぁ、ほら。篠ノ之も織斑も驚いちまってるよ。ごめんって。でも、止まらないんだよ。どうやっても。
こんなにも嬉しい事は、この世界に生まれて初めてだ。
「ちょ…な、何泣いてんのさ。なんでお前が泣くんだよ」
「いや…ごめん。お前が夢を持ったのが、想像以上に嬉しくてさ」
「…はぁ。本当、何なのお前。お前は私の親か何か?」
「……あぁ、全くだ」
視界はぼやけている。けれど、二人が呆れた様にしながらも、笑っている姿だけは見えた。篠ノ之が、笑っている姿が。
あぁ、存分に笑えよ。友達に夢があるって知っただけで涙を流す俺を。
本当…脆くなったな、俺。或いは、俺って元々こんなんだったのかな。
それから数分は、泣き続けしまった。
河川敷なに座って、二人と並んで。
「落ち着いた?」
「…はぁ。あぁ、落ち着いた。サンキュ、二人共」
「本当だよ。束さんが夢を決めたってだけで泣き出して…お前、束さんの事好き過ぎじゃない? 気持ち悪いくらい」
「気持ち悪いって言うなよ…。友達だぞ、夢を持ったら嬉しくなるだろ」
「それでも泣くまではいかないだろ。私も、まさか泣かれるとは思っていなかったぞ」
「うるせぇ。…それで、どんな夢なんだ?」
聞かずにはいられないぞ、これは。是非とも聞きたい。
あの篠ノ之が夢と定めた目標を。
「…そんなに、聞きたいの?」
「当たり前だろ。お前の夢なんだぞ? 世界の誰よりも興味がある、断言しても良い。織斑にだって負けない自信がある」
「ふふ…そうだな。私でも泣きはしなかった」
「本人からのお墨付きだ。聞かせてくれよ、お前の夢」
「しょうがないな…じゃ、聞かせてあげる」
それから、篠ノ之は俺に自分の夢を語ってくれた。
誰も解明出来ない宇宙。それを解明したい。人類の誰もが、宇宙を旅立つ事の出来る機械を創り出す事。
「お前はさ…私の夢、どう思う?」
「良いに決まってるだろ。夢なんて無いとか言ってたお前が、自分の全力尽くして叶えたい夢なんだろ? 誰でも簡単に宇宙に行ける、皆が地球や星を観る事が出来る機体―――最高じゃん。是非とも応援するぜ、篠ノ之」
篠ノ之の手を取って、断言する。
最高だよ。お前の夢は最高だ。お前なら絶対に出来る。
軍なんかに入らなくても、
それが最高でなくて何だ。宇宙に興味を持ったお前が、その夢を掲げるのなら―――俺は全力でそれを応援するぜ。
「…そっか。へへ…そうだよね。お前はいつも、そうやって―――私の事を、正面から見てくれるもんね」
はにかむ様に、篠ノ之が笑った。
それは、篠ノ之が俺に見せる初めての表情だった。