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「マジでバカだろ、あんのバカ兎っ!」
焦る人々が込み入る歩道を急いで駆け抜けながら、一人の青年が腐れ縁の天災兎へと罵倒を叫ぶ。
インフィニット・ストラトス。篠ノ之束が創り出した、彼女の夢。その具現化。しかし、世界から見向きもされなかったモノ。
その性能を世界を見せ付ける為に、篠ノ之束はあろう事か軍事基地をハッキング、ミサイルを日本に向けて発射させてその全てをISで撃ち落とそうという暴挙に出た。
計算通りなのかもしれない。全てを撃ち落とせるつもりなのかもしれない。だが、これはダメだ。これではダメなのだ。
ただの兵器だ。それを達成して得られる評価とは、即ち単なる戦略兵器としての名誉だけだ。彼女が夢見た、彼女が目指したソレとは全く異なる評価だけが残る事になる。
『お前はさ…私の夢、どう思う?』
『良いに決まってるだろ。夢なんて無いとか言ってたお前が、自分の全力尽くして叶えたい夢なんだろ? 誰でも簡単に宇宙に行ける、皆が地球や星を観る事が出来る機体―――最高じゃん。応援するぜ、篠ノ之』
『…そっか。へへ…そうだよね。お前はいつも、そうやって―――私の事を、見てくれるもんね』
青年は、それを許容しない。
「お前の夢はそうじゃないだろ、お前が欲しかったのはそんな兵器じゃないだろうがッ! 天才のくせに感情的になりやがって、そんなんだからガキなんだよテメェは!」
怒鳴り散らしながら、青年は自分の家を目指して全力で疾走し続ける。
青年は転生者だ。かつて自分に何度も敗北を叩き付けた二つの機体が合体した機体を授けられて、この世界に新しく生を受けた存在である。
そんな彼が搭乗する機体は、あろう事か自宅の地下に格納されている。この世界における自分の家、その真下にだ。
どういう経緯そうなったのかは一切不明であり、初めてその存在を知った時に巫山戯るなと本気で声を荒げたのは、つい最近の事である。
「オーブにミサイルが撃ち込まれる時に乗るってのはこういう事か…! くそっ、マジでその通りじゃねぇか!」
鍵を開き、乱雑に靴を脱ぎ捨ててリビングへ。
自宅のリビング、その台所の床にある妙な凹み。そこを指で押してみれば、床は何かに引っ張り上げられる様に開き、其処には階段が続いている。
せっせと階段を降りいていく。時間は限られている、IS単騎でミサイルが全て撃ち落とされる前に出撃しなければ、ISに注目が行き、そして兵器としての印象が確定してしまう。
青年は、彼女の夢を笑いはしなかった。
寧ろ感心し、褒め称えた。たった一人でそこまでの事を成し遂げようとする決意、夢を叶える為の惜しまぬ努力。それを誰が嘲笑おうと言うのか。
青年とて、決して良い心地ではなかった。彼女の夢が呆気なく否定されてしまった事は、実に胸糞悪く、苛立ちを抑えられたかと言えば嘘になるくらいには怒っていた。
だが、それでも彼女の選択が誤りであると断言出来る。こんなやり方では、こんなやけくそ気味の作戦では、得られるものよりも失うものの方が大きい。
何より、これでは彼女が自らで夢を溝に捨てるのと何ら変わらないのだから。
あの日、彼女が自分に向けたあの笑みが―――ボロボロに崩れているなんて、耐えられる訳がない。
あの笑顔が嘘であったなど―――言わせなるものか。
「くそっ、ぶっつけ本番とか巫山戯やがって…! ガンダムタイプの操縦は初めてだっつーのに!」
軍の格納庫の如く広がる地下空間。青年が訪れたその瞬間に、パッと照明が中央に立ち尽くす機体を照らす。
色が抜け落ちたグレーは、電力が入っていない証拠だ。まだ、この機体は眠りから目を覚ましていないという証に他ならない。
ZGMF-X20A-PF―――ガンダムパーフェクトストライクフリーダム。キラ・ヤマトの専用機体であるストライクフリーダムガンダムをベースとし、かつての愛機であるストライクの要素を組み込んだフリーダムだ。
スーパーコーディネイターであるキラ・ヤマトの専用機に、さらに改造を加えた結果として得たパワーはまさしく跳ね馬の如き。キラ・ヤマトか彼に並ぶパイロットでなければ、決して扱い切れない代物である。
だが、青年はコレに乗らなければならない。扱い切れない跳ね馬を即興で調教し、使えるものにしなければならないのだ。
「OSの書き換えとかやった事ねぇし、つかそもそも出来ねぇし! このまま扱うしかねぇのが腹立つ…! あぁ、くそっ。いいぜ、やってやろうじゃねぇか! 伊達に人生の半分も戦争に費やしてなかった男の腕、とくも見せてやるよ、覚悟しろ篠ノ之!」
パイロットスーツを着もせずに、青年は駆け足でフリーダムのコックピットへと乗り込む。
シートに腰を降ろし、ベルトを装着してコンピューターへと触れて入力を開始する。
G ENERATION
U NSUBDUED
N UCLER
D RIVE
A SSAULT
M ODULE
「イオン濃度正常。メタ運動パラメーター確認。原子炉臨界。パワーフロー正常。コリオリ偏差確認。全システムオールグリーン。パーフェクトストライクフリーダム、システム起動」
灰色の体に光が灯る。
白を基調とし、青が広がる。左腕の肩には緑が、右腕の肩には淡い空色が、背部のドラグーンには赤色が。
コードが外れ、ケーブルが引き千切れる。天井が開き、空が目に映る。
『全天周囲モニター』―――グリプス戦役期からモビルスーツに本格採用されたコックピット・モニター方式。
コックピットの内壁全てをモニターとして、パイロットの死角を無くす構造である。
「主人じゃなくて申し訳ないが、ちょっとだけ力貸してくれよ、フリーダム…!」
膝を曲げて腰を僅かに下げ、バックパックのスラスターを機動して遥か上へと上昇する。
澄み渡る空に、翼が広がる。
果てしなく広がる世界を見下ろして、完璧と自由の名を持つそのモビルスーツは全速力でミサイルが降る場所へと駆け上がった。
「ISは……彼処か!」
モニターを拡大し、目標を確認する。
湾岸部に一機佇む白銀の機体―――IS。篠ノ之束が創り上げた夢の形。
今から―――兵器としてその名を上げる機械。
「絶対に止めるぞ、篠ノ之。例えお前の
翼がはためく。
蒼炎が滾り、赤い粒子と共に一機の鳥が瞬速で天を駆け抜ける。
彼女の夢を潰してなるものか。
彼女の夢を終わらせてなるものか。
青年は、ただ一人の少女の為に翼を広げ、羽撃く。
❖
「束…お前は、本当にこれで良いのか?」
『今更どうしたの、ちーちゃん』
湾岸部に一機佇むIS…『白騎士』と呼ばれるISを身に纏う、一人の少女―――織斑千冬は、俯きながらにそう零した。
「この選択は、お前の夢を潰すものなんじゃないのか?」
『…そんな事ないよ。こうでもしないと、あの馬鹿共はISの凄さを理解出来ないんだよ。ISの有用性を示すなら、これくらいしないと』
「……彼奴がどんな顔をするのか、どんな気持ちになるのか、考えないのか」
千冬が思い浮かべるは、たった一人の青年だ。
幼稚園の頃からの付き合いで、自分以外でただ一人―――篠ノ之束という存在を肯定した男。
その異常なまでの天才性を頭が良いだけと言い切り、特別扱いなどせず、ただ一人の少女として真正面から見詰め続ける例外。
篠ノ之束の夢に涙を流し、心の底から喜んだ彼がこれを知ったのなら―――どう思うだろう。
『っ…考えないよ。そんなこと、出来る訳ないじゃんっ』
通信越しから聞こえる声は、震えていた。
考えない訳がない。
篠ノ之束にとって、彼は特別なものだ。彼女自身も、それを理解しつつあった。
単なる友人なんかではない。身内と認めたという枠にも当てはまらない。もっと別の―――大切な何かだ。
だが―――いや、だからこそ、冷静に彼の事を考えるなんて彼女には出来なかった。
そんな事をすれば、揺らいでしまうから。
自分の夢を肯定してくれた彼の事を想えば想う程に、自分の選択が間違っているのだと気付いてしまいそうだから。
けれど、もう止められない。もうどうしようも出来ない所まで来てしまったのだ。
「…顔も合わせらんないよ、もう。何言われるか、何されるか考えるだけで…私、怖くなっちゃうよ」
ラボに一人、束は己が震える体を抱き締めた。
自分でも不思議に思うくらい、あの男は自分にとって特別なのだ。
千冬と同じか、或いはそれ以上に―――想っている。
弱くなった。弱くされてしまった。何度も何度も、しつこく関わってきて、会話していく内に……全てが。
「束…」
『……ちーちゃん、そろそろだよ。準備して』
「……あぁ、分かっ―――!?」
『高速飛翔体…? なに、これ。ミサイルよりも速い…近付いてくる!』
白騎士のレーダーが、
秒単位で確実に距離を詰めてくる何か。ミサイルよりも速い速度で、白騎士の下へと―――鳥が飛んでいる。
『――――――篠ノ之ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「なっ…!?」
『は―――』
オープンチャンネルの回線から流れる声。
それまで一度だって聞いた事がない、義憤に満ち溢れた怒号。
だが、それは間違いなく―――知っている声だった。
『お前の夢を
白騎士の下に―――剣が舞い降りる。