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『聞こえてんだろ、篠ノ之。止めに来てやったぞ』
オープンチャンネルの回線なら、何の問題もない。篠ノ之だって無視する事は出来ねぇだろ。
俺は篠ノ之の回線なんざ知らないし、仮に回線が繋がっていたとしても篠ノ之が喋ってくれるかなんて分からん。
独り言でも、馬鹿みたいに喋ってやる。ちゃんと聞けよ、篠ノ之。本当に俺が怒ってるの理解してくれよ、馬鹿野郎。
そうしてISと対峙すると、
「お前…それは、いったい……」
聞こえてきたのは、篠ノ之の声ではなかった。
『は? お前、織斑かっ!? 篠ノ之じゃなくて!?』
なんで織斑なんだよ!? 織斑がISを操ってんのか!?
じゃあ、篠ノ之は…そうかっ、彼奴はオペレーターか! 巫山戯んな……巫山戯んなよ、おい!
『おまっ…巫山戯んな、巫山戯んなよ、篠ノ之テメェ! なんで織斑が乗ってんだよ、なんで織斑が巻き込まれてんだよッ! コイツはお前の親友じゃなかったのか!?』
「違う! 私は自分から名乗り出たんだ!」
『自分からだと…!? いや、大して変わんねぇよ、この馬鹿野郎が! お前がすべき事はそうじゃねぇだろうがッ!』
―――怒号が響き渡り、大気を揺らす。
頭の中で、何かに罅が入る。
右手を背後へと伸ばし、ソレを抜刀する。
レーザー対艦刀「シュベルトゲベール」。
実体刃だけでなく、ビーム刃の展開も可能な大型の格闘兵器。
オリジナルであるストライクが装備していたものに比べればコンパクトであり、ストライクよりも強力なパワーを持つ本機だからこそ扱える片手用の形状だ。
大剣を構え、フリーダムが空を走る。
「くっ…!」
『止めろよ、止めてやれよ! なんで止めなかったんだ!? こんな選択が、篠ノ之の夢の為になる訳ねぇだろうがッ!』
剣を振るう。鍔迫り合う。
大気が揺れ、波がさざめく。
彼は、フリーダムを完全には扱えていない。こうしてシュベルトゲベールを抜き、構えて白騎士と鍔迫り合いを起こす事が出来たという現状事態が、奇跡とすら言えるだろう。
ストライクの搭乗者であったキラの友人であるサイが、彼がOSを書き換えたストライクに乗って碌に操る事が出来なかった様に。
彼は長い間MSを動かして来たからこそサイよりも動かせるが、それでもフリーダムのスペックを完璧には出し切れない。
にも関わらず、ここまで出来るのは―――ひとえに、彼が覚醒しつつあるからだ。
「っ、分かっている! だが、そうする暇などなかった! 言い訳でしかないが、全てが遅かった!」
『それでも出来る事はあっただろうが! お前は誰よりも篠ノ之を見てきた、俺よりずっと長い間、お前は篠ノ之の隣に立ってたんだぞ!? そんなお前がやらなきゃ止められねぇだろうが!』
パキッ―――と、また頭の中で何かに罅が入る音がする。だが、気に留める暇はない。
大剣が空振り、白騎士の刃がフリーダムの腕部を斬り付ける。
火花が散る。だが、些細な傷だ。彼女の剣は、決してフリーダムの装甲を破る事はない。
表面の位相転移現象によって、MSサイズの実体剣やレールガンなどの物理攻撃を無効化出来る特殊装備―――フェイズシフト装甲の改良型である、ヴァリアブルフェイズシフト装甲だ。
現代の技術力では到底開発する事は出来ないであろう装甲が、そう簡単に破れる訳もない。
「ぐぁっ!」
『織斑ッ! クソッ、この暴れ馬が! オーバーパワーにも程があるだろ、俺は織斑までぶっ壊したい訳じゃねぇってんだよ!』
ガァンッッッ!!!! と、鈍い音が轟く。
鋼鉄の脚が容赦なく白騎士へと蹴りを叩き込み、海面ギリギリまで吹き飛ばす。
明らかなオーバースペック。ナチュラルが完璧に扱いこなすなど不可能と言っても過言ではないだろう。
「くっ…! お前に、何が分かると!」
『何も分かんねぇよ、何も言わねぇし頼らねぇからなッ! お前も篠ノ之も、揃いも揃って頼るのが下手くそだからな! 直接言葉で俺や誰かを頼らなきゃ、分かるもんも分かんねぇだろうが! こっちはコーディネイターでもアコードでもねぇんだぞ! 言葉無しじゃ、考える事なんて分かんねぇんだよ!』
「っ…! うっ、ぅぅぅぅ……!!!!!」
義憤が止まる事はない。怒号が収まる事はない。
そして、千冬の無線越しからそれを聞き続ける束もまた―――涙が止まらなかった。
『そんなに頼り無いかよ、俺は! 確かに俺は馬鹿だよ、大馬鹿だ! お前等に平気で失礼な事を言う事だって何度もあったさ! それでも…一緒に居てくれたのは、少しでも俺を信じてくれたからじゃないのか!? それともなんだ、いつかの奴が言った様に俺はお前等の腰巾着か!?』
「違うッ! 私も束も、お前をそんな風に思った事はない! お前は―――大切な友人だ!」
『だったら! なんで俺に何も言わなかったんだよッ! 篠ノ之、テメェに聞いてんだぞ! ISを発表し終えた時、テメェ言ったよな!? 分からないなら分かる様に見返すって! それがこれか!?』
「っ…」
『なぁ、もっと方法はあっただろ!? 大勢の無関係な人間を巻き込む必要なんてなかっただろ! 感情に流されて、こんな事を仕出かして…自分で自分の夢を壊してどうすんだよ…!』
「そ…それ、は…」
束が言い淀む。
分かっていた。分かっていた筈だ。こんな方法では、何の意味も無いのだと。
ISの有能性は、確かに知れ渡るだろう。世界にまで深く知れ渡るのだろう。だが、それは彼女が望んだ形でのものには決してならない。
ISは兵器としてその名を世界に知らしめ、宇宙の開拓ではなく戦争の兵器として用いられるだろう。
それでも―――感情に流されて、こんな手段を取ってしまった。
自らの手で、夢を壊す選択を取ってしまった。
『答えろよ、篠ノ之ッ! お前の夢は兵器を創る事か!? 力が欲しかったのか!?』
「……違う」
『平気で戦争を起こせる兵器も幾つも創り上げる事か!? 世界を滅ぼす事なのか!?』
「違うッ…!」
『あの時、お前が俺に語ってくれた言葉も、見せてくれた笑顔も―――全部嘘だったのかッ!?』
《―――違うッ!》
インカムを通し、否定を叫ぶ。
そんな夢ではない。そんな事が夢だった事はない。
あの言葉も笑顔も―――全て、本心からお前に伝えたかった事だから。
《違うけど、違うけどっ…! もうどうにも出来ないんだよっ! 私は間違えたよ、認めるよ! けどっ…》
『あぁ、そうだな! お前は間違えたよ、盛大に間違えたさ! 言い訳のしようもねぇ馬鹿をやらかしたんだッ! だから、なんだ!? 何が言いたいんだ!?』
《っ、わた、しは――――――夢をっ、捨てたくない…!!!》
「束…」
《自分勝手だよ、都合が良いよ! けど、捨てたくない…自分の子供が兵器として扱われるなんて、嫌だよぉ…!》
『そうだろ。それがお前の心だろ』
だが、まだ欲しい言葉は出ていない。
だから言ってくれ、篠ノ之。
たった一言、俺にそれをくれ。これまで一度だって言ったことがないその言葉があれば―――俺は、どんな事でもやってやる。
《でも…もう、止められないっ…! 白騎士でしか、止められないんだよ…! 嫌だけど、私じゃどうにも出来ない…!》
『……』
《ごめんっ…ごめんなさいっ…! お前が応援してくれたのに、泣いてくれたのにっ…台無しにしてごめんなさいっ…!!!》
『…ダメだ。あの時みたいに、お前に一発デコピン入れるまで許してやんねぇ。……嫌なんだろ? なら、どうするんだよ』
《おねがい……たすけてっ…!》
『…良いぜ。任せろ』
その言葉が切っ掛けに―――絶頂寸前まで高まっていた感情が限界を越えた。
パキィンッ!
頭の中で、種が砕けた。
思考が透き通っていく。ぐちゃぐちゃになっていた脳裏が整えられ、自分のやりたい事の全てが簡単に思い浮かぶ。
視界が拡張を止めない。自分を含めた周囲の動きの全てが、手に取る様に理解出来る。
風切る無数のミサイルの音。逃げ惑う人達の声と鼓動。近くを飛ぶ千冬の呼吸と心臓の音。軋むISの関節、ISとフリーダムの鳴り続けるエンジン音―――それら全てを精密に、正確に、把握出来ている。
『SEED』―――そう呼ばれる概念があった。
正式名称を、Superior Evolutionary Element Destined-factor―――優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子。
ナチュラルとコーディネイターの壁など存在せず発現するとされるものであり、発現した人間は人類が一つ上のステージに進むための可能性が高まるとされる概念。
C.Eの世界で、たった一度だけ議論を呼んだ概念のそれを発現した者は数少ないが、彼らは揃って『主役』だった。
スーパーコーディネイター、キラ・ヤマト。
最強と呼び声高いスーパーパイロット、アスラン・ザラ。
かつてキラを墜とした男、シン・アスカ。
国を背負う獅子の娘、カガリ・ユラ・アスハ。
人類を統治する存在として創られたアコード、ラクス・クライン。
その中でカガリだけがナチュラルであり、そしてナチュラルの中でSEEDを発現させたのは後にも先にも彼女一人だけだった。
だが、今この瞬間――――――彼もまた、SEEDへと
既に距離を詰め、日本に近付きつつある2341発以上のミサイル。
それら全てを、撃ち落とす。
『スーパードラグーン展開。シュベルトゲベールとアグニのモジュールを連結、接続を完了。超高出力インパルス砲スーパーアグニ、出力最大。臨界点突破。クスィフィアス3レール砲展開、標準補正確認。コンポウェポンポッドガトリング砲、マイクロミサイルランチャー全砲門解放。後部カリドゥス複相ビーム砲、出力最大。インドラのワイヤーレンジを最大射程に、高電圧上昇。パンツァーアイゼン、推力最大』
拡張を終えた視点を、己が力でさらに先へ。
俯瞰視点―――かつて彼が自ら語った特技のそれは、文字通り脳内の視点認識を一人称から三人称へと変更するもの。
自分と周囲を俯瞰する様な視点を取る事で、一人称よりも広く相手を認識し、対処する事が可能になる彼唯一の特技だ。
準備完了。振り翳された剣が、ようやく振り下ろされる。
マルチロックオン完了。爆風による連鎖破壊の計算も終了した。
自分の持てる全てを以て―――彼女の夢の為に、撃鉄を起こす。
『――――――当たれェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
SEEDによって高まった全能力を駆使し、降り掛かる鉄の雨を悉く撃ち落とす…!
フルバーストは良いなぁ…