おれと先生は並んで、授業補修部の合宿所へ歩き出した。
おれは、ちょっと考えて、決めた。
「……先生。
あらかじめ言わせてもらいますね。
わたし、さっきの話をよくわかってません。」
”うん”
「そのうえで、思うんですけど……
ヒフミちゃんは、いい子です。先生も知ってると思います。
……もちろん、悪いところというか、アウトロー気質なところがあることも、知ってます……けっこう話してるので。
だけど、いや、そういうことじゃなくて……
うう!」
おれは考えが詰まってしまって、だけど、大声で無理やり押し出した。
先生の顔をまっすぐ見た。
「とにかく、わたし、もしヒフミちゃんがひどい目に会う、なんてことは絶対許せませんから!
そうなれば、先生であっても……容赦はしませんよ!」
”もちろん、そうさせる気はない。
そして、そのときはもちろん、XXの好きにしていいよ”
「……はあ」
おれは気持ち大き目にため息を吐いた。
(ほんとに、この状況、先生はわかってるのか!?)
あらためてみると、とんでもない状況だ。
陰謀があって、よくわからない情報がばあ~って出されて、それを部外者の一般生徒であるおれが聞いてしまって、先生と聖園ミカは口封じできてないわけで……
情報量からくる混乱がまだまだ残っているから、おれは先生に解説してほしくてたまらない。
けれど、聞いたところでだよなあ……
(おれにできることは、ぜんぶ晒してぜんぶ壊してしまうか、あるいはただ待つ……
ってことくらい、なのかな。)
そんなことを思って、悶々としながら黙って歩いていた。
そしたら、合宿所の玄関に人影がみえた。
シスターの服装をした子と、そして見覚えのある、長い桃色の髪……
浦和ハナコさんが、そこに立っている。
おれはちょっと思うことがあるから、少しだけ、歩幅を縮めた。
先生は、察したの察してないのかわからないけれど、前に出てくれた。
”どうしたの?”
声に反応して、玄関の彼女たちがこちらを向いた。
シスターの子から目を離した浦和さんは、こちらに目線を投げかけて……
その表情が、すこし硬くなったように見えた。
(ああ……やっぱり、あのとき……)
なんとなく理由がわかって、けれどなんでそうなのかわからなくて。
おれはちょっと気落ちした。
……それはそうと。
なんで玄関で立ってたんだろう?
「先生、お久しぶりです。
今日も平和と安寧が、あなたと共にありますように……」
”うん、久しぶり、マリー”
どうやらシスターの子と先生は顔見知りらしい。
顔が目に見えてほころんだのがみえる。
……ちょっと気まずかったのかな。
”マリーはどうしてここに?”
先生が問いかけると、彼女はしゅっとまじめな顔になって、話しだした。
「こちらに補習授業部の白洲アズサさんがいらっしゃると聞きまして、ある生徒さんからの感謝の言葉を伝えるために、こちらに参りました。」
”アズサはどういう反応だった?”
「特別感謝されるようなことではないと……
彼女は、つよいひとですね。
ちょっと表情はわかりにくいですけれど、そこには温かい芯があって。」
おれはふと、浦和さんの表情がかすかに曇っている気がした。
ほとんど変わらない笑顔のようだけど、なんだか……
すこしだけ、かたい。
そして先生も、それを感じ取ったようだった。
”そっか……
それは、よかった”
「それでは、そろそろ行きますね。
みなさん、それでは、また。」
”うん、気を付けてね”
シスターの子が去っていく。
浦和さんは、それをいっしょに見送って、こちらを見た。
穏やかな笑顔にみえる……
「先生、お帰りなさい。
……XXさんは、どうしてこちらに?」
”ヒフミに用事があるらしくてね”
「そうですか……
それでは、先に戻っていますね。」
彼女はそういって、建物に戻っていった。
少しだけ、足早に。
それを感じて、少し迷う。
「……先生、ええと、お……
わたし、ヒフミちゃんに……
いえ、その……
うう……!」
”ひとまず、XX”
”……状況を整理しない?”
おれはその言葉をきいて、すこし考えて……
「……はい、ただ。
聞いていいのか、いまいちわからないんですけど。」
”う~ん……
XXは、なにが起きているのか、なにをしたいのか、まだよくわかっていないと思うけれど。
でも、これからXXがやりたいと思うことに、さっきのミカとの話は深くかかわってくるはず。
だったら、聞いちゃいけない理由なんてないと思うよ。”
先生が真面目そうな顔でいった。
おれは頷いて、一緒に玄関に入った。
……補習授業部の合宿所、ある部屋にて。
おれと先生は椅子に座って、向かい合った。
「ひとまず、聞きたいことを歩きながら考えてたんですけど……
ひとまず、ですよ。
ヒフミちゃんは、どうすれば退学に……
いや、どうなってしまったら、退学になるんですか?」
”あと二回、補習授業部のみんなは試験を受けることになってるんだ。
もし、その二回とも不合格だったら……”
おれはそれを聞いて……
疑問で頭がいっぱいになった。
「それは、ええ……?
退学って、トリニティ総合学園を、ですよね。
ここの校則とか、それと、それに関する手続きって、そんな簡単にいくものじゃないはずでは……
というか、そんな簡単に防げるものなんですか?
なんだかすごい陰謀ってかんじでしたよ。」
”……
もし一人でも不合格だったら、全員が、ってことになってる。”
「???
ええ?
いや、それにしても……
わ、わけがわからない……」
おれはもう頭の中がこんがらがってきた……
と、とりあえず、わかることは……
「ひとまず、ですけど。
補修の成績がよくなって、試験に合格すればいいわけで……
でもって、先生とみなさんは、そのために勉強してる。
ここまではわかります。
けど、だとしたら、聖園さんが言ってた裏切者が見つからないまま、みんな合格しちゃったら……
というか、そもそも裏切者が退学されなかったら、聖園さんがいってたナギちゃん……桐藤ナギサさん?……の、目的は果たせませんよね。」
”うん、そうだね。”
「ど、どうするんですか!?」
”試験に合格する”
「そ、そういうことでは……!」
”私たちがやるべきはそういうことなんだ。”
先生は平然とした表情で、けれど真剣に、言葉を返してきている。
そういうことなのかな……
「そういうこと、なんですか……?」
”退学にはさせない。だから、試験にはみんな合格してもらう。
そしてそのために、私は全力を尽くすよ。”
おれは唖然として、そして呆然と、言葉を返した。
「なるほど……?」
疑問はいくつも残っているけれど、ひとまず……
そう、ひとまず、やるべきことがわかってきた。
「それじゃあ、とりあえず、これ……」
おれはそういって、持ってきたノートの束を先生に渡した。
”これは?”
「ヒフミちゃんは、結構試験対策とかできてなくて、よく頼ってくるんです。
なので、とりあえず使えそうなものを持ってきたんですが……」
先生は中身を確認して、少し驚いたようだった。
せ、先生的にもいいかんじなのかな……!
”ありがとう、助かるよ”
「……それと!
ひとまず、わたしは先生を信じて、動かないことにしておきます。
ただ、アリウス派のことなんですけど……」
おれは聖園さんがいっていたことを振り返った。
彼女がいっていた内容は、実に奇妙だ……
「アリウス派が隠れていたとして、聖園さんが接触するなら。
それは聖園さんが行動可能な範囲で接触する必要があると思うんですけど……」
スマホの地図アプリを開いて、先生にみせた。
「ティーパーティーというか、おっきなグループの子たちがいるエリアって、かなり限られているんです。少なくとも、トリニティ学区内の市街では、あんまり見ないし……
一般の生徒すら、トリニティの学区からはほとんど出ることがないことを踏まえると、トリニティの外で接触した、していると考えるよりも、トリニティ学区の……
よりいうなら、トリニティ総合学園のなかで接触したほうが、自然なんじゃないかなって。それで……」
トリニティ総合学園の敷地内地図を拡大していく。
「この学校の敷地ってけっこう広いですけど、あったこと自体を秘密にできるほど人の目が届かない場所って、せいぜいこの……
昔の建物がたくさんあるエリアくらいなんです。
もし、アリウス派がトリニティの敷地に入って、偉い立場にある聖園さんと秘密裏に接触したとするなら、この範囲くらいだと思います。」
”なるほど、ありがとう。
それと……”
「はい?」
先生は少し迷った顔で、少しだけ考えてから、口を開いた。
”ハナコと、なにかあったの?”
「う~ん、あった、んでしょうね……
わたし、よくわからなくて……」
おれは回想した……
回想を開示します。連投。