”……なるほど”
先生はおれの話を聞いて、ゆっくりと目を閉じた。
なにやら考えているらしい。
「それで、なにがいけなかったのかよくわからなくて……
なにか、トラウマとかあったのかな。もしそうだったら関わらないほうがいいのかな……思い出しちゃうだろうし……
それに、謝るべき理由もわからないまま謝るわけにもいかないし……って具合でして。」
”……私も、そこまでハナコのことを知ってるわけじゃないけれど。”
”ただ、この話を聞いて私が思ったのは……。”
”誰が間違えた、とか、少なくともそういうことではないんじゃないかな。”
「間違えた……ですか?
それは……?」
”その視点で見たら、そうではないよね。”
”XXはハナコに気をつかって、ハナコはその内容になにか思うことがあった”
”そして、これは私の視点からいわせてもらうけれど、ハナコはその想いを読み取れない子ではないよ”
”それは間違いない”
「……?
えと、つまり……
どうすればいいんでしょう。」
”う~ん”
”……どうする?”
「……わからないから、先生に聞いてるんですけど!」
おれがそういうと、先生はにっこりと笑った。
まるで気楽な笑顔!
”先生は、XXのすきにすればいいと思う”
”XXは、どうしたい?”
(ええ……)
「ど、どうしたいって……」
おれは、唇をもにょもにょした。
どうしたいって、それは……
「浦和さんが嫌なおもいをしたわけですから、それはよくないかなって……
よくないことをしたら……それは、よくなかったわけですよ。
だから、変えて……
うぅ~!」
あたまがこんがらがって、わけがわからない……
すこしの静寂があって。
先生の声が聞こえた。
”XXはハナコのことを知らなくて、ハナコもまた、XXのことを知らない”
”私が話を聞いて感じたのはそれだけだし、もしそうでなかったとしても……”
”すべきことなんてものは、ないよ”
”強いていうなら、XXがしたいと思うことは、ちょっとやってみてほしいかなって思うけど……”
”それもまた、私が思っただけでしかない”
「……わっかんないですよ。
少なくともいま、わからないです!」
先生はその言葉を聞いて、笑った。
そっか、と呟いて……
”じゃあ、いまのところは、保留しておこうか”
「……ええ!?」
”ところで、ヒフミとは会っていく?”
「ええ……
ヒフミちゃんとは、いえ、一対一で話すべき用事があるってわけじゃないですから……
それより先生、保留って!」
”明日とか、その日思いついたらやればいいんじゃないかな”
「明日もわからないかもしれないです!」
”じゃあ明後日”
「……はあ!
は~ああ!!!」
これ見よがしにため息を吐いてみるけれど、やっぱり先生は笑っているだけで……
おれはぷりぷり怒ったのであった。
そしてそれを先生は、やはりただ笑って受け流していった。
それから、おれは合宿所を出て、自転車をきぃこきぃこと走らせる……ことはなく。
歩いてある場所へ向かっていた。
もちろん帰路ではない。
ちょっと気になっていたことがあったのだ。
(第一回公会議があった遺跡があるあたり……って、ここらへんか。
わりと整備されてるな……)
トリニティの敷地は広大だから、お嬢様学園の膨大なリソースのなかにあっても、わりと整備されていない場所もあったりする。
だから、苔むした古風な石レンガと、雑草と、蔦と……ってイメージがあったのだけれど、わりと清掃の手が入っていて驚いた。
(これがエデン条約関連なのか、アリウス派関連なのか、はたまた関係ないのか、おれにはわからないけど……
歴史的遺跡保護機構とか、聞いたことあるし……)
そして、第一回公会議が行われた教会の中に入る。
観光名所になりそうなくらい立派な建物だ。
石造りの巨大なアーチ状構造や、やや色褪せながらもその芸術性を保っているモザイク画などを流し見ながら、奥へと進む。
主流な教派の建築規範に従い、教会は西を開口部とし、東に至聖所を備えているらしい。
歴史的な経緯を踏まえると、この至聖所はもんのすごい多くの聖遺物を納めていたのだが……
ちらっと至聖所の中を覗き見ると、すっからかんだ。
(まあ、そりゃ当然……
で、大事なのはここから)
この教会は、歴史上においてそこそこの知名度を持っている。
当然改築などは幾度となくされている。
でもって、最初の頃は木造建築を含んでいて、まあ焼失とかいろいろあって、今は遺構だけが残っているのだが……
バシリカ構造であったことが察される聖堂の遺構は、屋外に放置されていた。
柱がろくに残っていないほどだ……
苔交じりの草に覆われた地面をみて、こりゃ期待薄かな、などと思う。
(トリニティには結構いろんな隠し通路があるし、この地区は設計図を踏まえると巨大な地下構造が確保されているはずだから、案外簡単に見つかったりしないかな~って思ってたけど……)
出入口であったであろう東側から、ざっと西側へ歩いてみた。
土混じりの場所を横目に、石部分が露出している壁にそって。
(ま、なんにもないか……)
西側は比較的崩れず残っていて、おそらくここにステンドグラスがあったんだろうな~という丸い穴もが、半分くらい残っていた。
空はまだ青いけれど、もうしばらくすれば夕方か。
おれはそこから壁に視線を伸ばす。ちょろっと崩れた梁が残っている。
装飾すごいな……
……ん?
(いま、なんか赤いものが……)
背伸びして、よくみるけれど、やはり何もない……
気のせいか?
おれは頭をちょっと目を擦ってから、またうえのあたりを見た。
すると、ちらりと……
赤くなった一本の髪が……
「え……」
(わ、若白髪てきな……!?)
引っ張ってみると、するりと抜けた。
やはり、赤色の髪だ……
でも、くっついてただけか?
(誰か、すれ違ったときに引っかかったのかな……)
おれは少し考えて、けどよくわからなくて。
ぽい、とその髪を捨てたのだった。
影響の波及
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