真っ赤な肌に、真っ白な服を着た女と。
真っ白な服を着た先生と。
そして先生に抱かれた、ひとりの少女がいた。
少女の胸にはぽっかりと大きな穴が開いていて、その断面からは鮮血が血脂とともに、だくだくと溢れている。
先生は彼女を腕で抱いて、すごい形相だ。
そして地面に伝う血は、女の肌よりもずっと暗い赤だった。
流れとともにその赤は、女の足先に触れた。
そしてそれに溶けるかのように、女の身体が、細い糸へとほどけてゆく。
女の頭は、まるで花のように弾けていた。
断面から無数の瞳と、血脂に濡れた肉ばかりが覗いている。
けれど、その奥底から、間違いなく女の声がする。
女は言った。
「私が狙ったのは、Religious Syncretismです。
キヴォトスという巨大なカンバスに描かれた、この神話大系を……
あなたの、先生と生徒という関係性を。
救世主にもって救われるというひとつのTEXTをもって、統一されたContextとすれば、それはすなわち……作品として完成している。」
先生の唇からことばが漏れるけれど、それは雑音に阻まれて聞こえなかった。
そして、そのときすでに、女は胸元までほどけていた。
散らばって虚空へ伸びるその真っ赤な糸たちは、そらに向かって立ち上ってゆく。
まるで煙のように。
そしてそのひとつひとつのかけらから……
声が伸びてゆく。
「崇高とは、神秘であり、恐怖であり」
「子供であり、大人であり」
「神であり、人間である」
「答えはひとつです」
「そう、これこそが、私の崇高という問いに対する解答」
「どちらともとれるものとは、すなわち、どちらにもなりうる」
「であるならば、私が崇高に至るならば……」
「どちらであるともわからないものである」
「しかし、どちらでもあると知る」
”!”
「ありがとうございます、先生。
あなたのおかげで、私たちは救われます。
ふふ。」
”……”
先生は、その腕に少女を抱えたまま……
胸元から、一枚の真っ黒なカードを取り出した。
少女の胸からだくだくと溢れる血が、その垂れ落ちる流れが止まった。
「それを、待っていましたよ」
刹那。
地面に広がっていたその赤は極彩色の色彩となって拡散した。
血のような赤は、もはやなにものにも例えられないほど赤く。
飛沫が地面に落ち、大地は溶けて、空へと零れ落ちる。
そして崩れた世界と視界の接点が、弾けた。
……明滅が、走る。
ふと、目の端がひどく熱くて、目が覚めた。
指先で拭ってみると、ぬるりと肌に伸びた。
(涙?)
変な夢を見ていたことを、覚えていた。
だくだくと溢れる涙はひどく熱くて、それが頬を伝うから、おれはほとんど号泣していたらしかった。
指先でさぐってみると、枕がびしょびしょになっている……
目端を擦る。追加はないらしい。
おれはからだを起こした。
まだ夜らしい、窓の外は真っ暗だ。
とりあえず、枕カバーを洗おう、と思った。
それくらいびしょびしょになっている……
カバーを片手に引っ提げて、洗濯機の前にいく。
ふと、鏡に妙な色が見えた。
赤……
鏡の前にたって明かりをつけると、おれの髪に、一筋の赤色……
メッシュ?
擦ってみるけれど、ほかと同じような髪……
引っ張ってみた。
「いたっ」
……?
声?
その赤い髪の毛を再び引っ張ると、それは束になってするりと抜け落ちた。
そして、その赤の裂け目が、蠢いた!
「うわあ!
えっ!?」
驚いて飛びのいて叩きつけた。
すると「いたあ」という声が、赤の束からあがる。
おれの声……?
「……おや、目が覚めたのですね、私。」
赤い束は地面に一瞬開いて、ぐん、とうえに飛びあがった。
まるで植物観察のタイムラプスみたいに、伸びて……
花、っぽいものになった。
「……その表情。
あまり覚えていないようですね。」
花はぴょんぴょんと跳ねて、こちらに寄ってきた。
「崇高になったのですよ、わたしたちは」
「崇高って何……えぇ?」
おれは困惑と混乱のまま、座り込む。
赤色の花は、そのまま、なにやら考えるようにもにょもにょと蠢いて……
「ふむ……
ひとまず、私のことはビーチェとでも呼びなさい。」
「はい……?」
「そして、私とあなたは同一存在です」
「ど、どういうことなの……」
「……もうひとりの私、みたいな……」
「……そっかあ。」
よ、よくわからんが……
おれに、害はないのかな?
「髪に戻すのです」
そういって、びいちぇとやらは、おれに近づいてきた……
恐る恐る、掴んで頭に寄せる。
すると、音もなく、手からすり抜けていった。
なんにも感覚がしないから、鏡をみた。
やはり、赤色のメッシュがある……
摘まもうと手を伸ばしたら、「やめなさい」と声が聞こえた。
ゆっくり手を遠ざける。
(お、おれ……
なんか、大変なことになっちゃったぞ……!?)
なんだ……コレは。
幻覚なのか……!?
いや幻覚か?
幻覚じゃないのか?
(幻覚じゃないですよ)
こいつ直接脳内に……!
(冷蔵庫にあったはずのスモークチキンでも食べましょう、もう時刻的に、朝食を食べるべきです。さあキッチンへ。)
「それは、そうか……」
おれは食事することにした。