おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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EP4「みたもの」

 真っ赤な肌に、真っ白な服を着た女と。

 真っ白な服を着た先生と。

 そして先生に抱かれた、ひとりの少女がいた。

 

 少女の胸にはぽっかりと大きな穴が開いていて、その断面からは鮮血が血脂とともに、だくだくと溢れている。

 先生は彼女を腕で抱いて、すごい形相だ。

 そして地面に伝う血は、女の肌よりもずっと暗い赤だった。

 

 流れとともにその赤は、女の足先に触れた。

 そしてそれに溶けるかのように、女の身体が、細い糸へとほどけてゆく。

 

 女の頭は、まるで花のように弾けていた。

 断面から無数の瞳と、血脂に濡れた肉ばかりが覗いている。

 けれど、その奥底から、間違いなく女の声がする。

 女は言った。

 

「私が狙ったのは、Religious Syncretismです。

 キヴォトスという巨大なカンバスに描かれた、この神話大系を……

 あなたの、先生と生徒という関係性を。

 救世主にもって救われるというひとつのTEXTをもって、統一されたContextとすれば、それはすなわち……作品として完成している。」

 

 

 先生の唇からことばが漏れるけれど、それは雑音に阻まれて聞こえなかった。

 そして、そのときすでに、女は胸元までほどけていた。

 散らばって虚空へ伸びるその真っ赤な糸たちは、そらに向かって立ち上ってゆく。

 まるで煙のように。

 そしてそのひとつひとつのかけらから……

 声が伸びてゆく。

 

「崇高とは、神秘であり、恐怖であり」

「子供であり、大人であり」

「神であり、人間である」

「答えはひとつです」

「そう、これこそが、私の崇高という問いに対する解答」

「どちらともとれるものとは、すなわち、どちらにもなりうる」

「であるならば、私が崇高に至るならば……」

「どちらであるともわからないものである」

「しかし、どちらでもあると知る」

 

”!”

 

「ありがとうございます、先生。

 あなたのおかげで、私たちは救われます。

 ふふ。」

 

”……”

 

 

 先生は、その腕に少女を抱えたまま……

 胸元から、一枚の真っ黒なカードを取り出した。

 少女の胸からだくだくと溢れる血が、その垂れ落ちる流れが止まった。

 

「それを、待っていましたよ」

 

 刹那。

 地面に広がっていたその赤は極彩色の色彩となって拡散した。

 血のような赤は、もはやなにものにも例えられないほど赤く。

 飛沫が地面に落ち、大地は溶けて、空へと零れ落ちる。

 そして崩れた世界と視界の接点が、弾けた。

 ……明滅が、走る。

 

 

 

 ふと、目の端がひどく熱くて、目が覚めた。

 指先で拭ってみると、ぬるりと肌に伸びた。

 

(涙?)

 

 変な夢を見ていたことを、覚えていた。

 だくだくと溢れる涙はひどく熱くて、それが頬を伝うから、おれはほとんど号泣していたらしかった。

 

 指先でさぐってみると、枕がびしょびしょになっている……

 目端を擦る。追加はないらしい。

 おれはからだを起こした。

 まだ夜らしい、窓の外は真っ暗だ。

 とりあえず、枕カバーを洗おう、と思った。

 それくらいびしょびしょになっている……

 

 カバーを片手に引っ提げて、洗濯機の前にいく。

 ふと、鏡に妙な色が見えた。

 赤……

 

 鏡の前にたって明かりをつけると、おれの髪に、一筋の赤色……

 メッシュ?

 擦ってみるけれど、ほかと同じような髪……

 引っ張ってみた。

「いたっ」

 

 ……?

 声?

 

 その赤い髪の毛を再び引っ張ると、それは束になってするりと抜け落ちた。

 そして、その赤の裂け目が、蠢いた!

 

「うわあ!

 えっ!?」

 

 驚いて飛びのいて叩きつけた。

 すると「いたあ」という声が、赤の束からあがる。

 おれの声……?

 

「……おや、目が覚めたのですね、私。」

 

 赤い束は地面に一瞬開いて、ぐん、とうえに飛びあがった。

 まるで植物観察のタイムラプスみたいに、伸びて……

 花、っぽいものになった。

 

「……その表情。

 あまり覚えていないようですね。」

 

 花はぴょんぴょんと跳ねて、こちらに寄ってきた。

 

「崇高になったのですよ、わたしたちは」

 

「崇高って何……えぇ?」

 

 おれは困惑と混乱のまま、座り込む。

 赤色の花は、そのまま、なにやら考えるようにもにょもにょと蠢いて……

 

「ふむ……

 ひとまず、私のことはビーチェとでも呼びなさい。」

「はい……?」

「そして、私とあなたは同一存在です」

「ど、どういうことなの……」

「……もうひとりの私、みたいな……」

「……そっかあ。」

 

 よ、よくわからんが……

 おれに、害はないのかな?

 

「髪に戻すのです」

 

 そういって、びいちぇとやらは、おれに近づいてきた……

 恐る恐る、掴んで頭に寄せる。

 すると、音もなく、手からすり抜けていった。

 

 なんにも感覚がしないから、鏡をみた。

 やはり、赤色のメッシュがある……

 摘まもうと手を伸ばしたら、「やめなさい」と声が聞こえた。

 ゆっくり手を遠ざける。

 

(お、おれ……

 なんか、大変なことになっちゃったぞ……!?)

 

 なんだ……コレは。

 幻覚なのか……!?

 いや幻覚か?

 幻覚じゃないのか?

 

(幻覚じゃないですよ)

 

 こいつ直接脳内に……!

 

(冷蔵庫にあったはずのスモークチキンでも食べましょう、もう時刻的に、朝食を食べるべきです。さあキッチンへ。)

 

「それは、そうか……」

 

 おれは食事することにした。

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