おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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EP5「主体性」

「で、結局……ビーチェ?は、なんなんだ?」

「もうひとりのあなたです。」

「わかんないよ、そんなこといわれてもさ……」

 

 もぐもぐとサンドイッチと化したスモークチキンを頬張りながら、おれは前髪に問いかけた。

 前髪から声が伝わってくるのは、なんかちょっと気持ち悪い。

 

「……いいでしょう。軽く説明します。

 私はもしかしたらあなたであったかもしれない存在です。

 もしかしたら、あなたではなかったかもしれませんが、既に私はあなたではない存在という主体的な概念を失ったので、間違いなく……

 あなた自身であり、そして同時に、私という個我もまた、間違いなく存在している。」

 

「前提知識がなさすぎて、なにをいってるのかの意味すら分からない……」

 

「……創作上でよく使われる概念に……

 もしこのような場合があったらこのようである、というIFの世界が、無数に存在しているかもしれない、という妄想があります。

 それは実際のところ、妄想ですが、だからこそほとんど正しいのです。

 私はそれを利用した儀式を完遂し、それによって……

 あなたであるかもしれない存在となり、そしてあなたの一部となった。」

 

 な、なにいってるんだ、こいつ……

 とりあえず、もともとおれではないけど、今はおれの一部ってこと?

 

(なんかこわ……)

 

「食事をイメージしてください。私はもともと生きた動物だったかもしれませんが、すでにあなたに吸収されて、からだの一部となりました。

 綺麗に生えた爪や髪のようなものです。

 そう重大に考えたところで、意味はありませんよ。」

 

「そ、そういわれると、なんかそれはそれで怖いというか……」

 

「ふむ……

 では、こう定義しましょう。」

 

 赤い前髪が、すぅっと視界から消えた。

 そして、肩に違和感……

 

「お、おさげか?」

 

 ちょっと長めの三つ編みになったその赤は、声をまた発した。

 頭上から離れたおかげか、わりと聞きやすくなった。

 

「わたしはあなたのイマジナリーフレンドです。

 相談にのってくれる、都合のいいあなた自身……

 どうです、悪くないでしょう。」

 

「ええ……?」

 

「ちょうど、つい昨日気になっていることがあったでしょう。

 それを言ってみてください。」

 

「……浦和さんに悪いことしちゃったっぽいから、どうしよっかな~って。」

 

「定義が緩すぎます。だから答えなんてものは出ません。」

 

「ええ……」

 

 赤いおさげはぴしゃりといった。

 

 

「そもそも、あのとき浦和ハナコが苦しんだのは、あなたの過失によるものではなく、勝手に感情を自身へと叩きつけた結果です。

 であるならば、わたしたちが見るべきことはひとつ。

 浦和ハナコという人物と今後距離を保って接するか否か。」

 

「それは……うん、でも……」

 

「でも?

 浦和ハナコが苦しんでいるのは、たしかに私の行動からなにかを見出したからでしょう。

 しかし、それは彼女が勝手に思ったことです。

 そして、私がそれをみてああだこうだと悩んでいるのも、私が勝手にああだこうだと思っているだけです。

 道徳的善悪も社会的善悪もなにもない、事実がそれなのです。

 そのどうとでもとれる、どうでもいい事実は、本当に悩んでいることですか?

 いいえ、私はそこに引っかかっているわけではない……」

 

 ビーチェの強い口調と論調は、なんだかすっきりと入ってくるような、けれど違うと言いたくなるような……

 

「XXという個人が最も気になっているのは……

 つらそうに思える要因を抱えている彼女を、どうすればそうでない状態へ誘導できるか。

 これではないですか?」

 

「……そう、かも。」

 

 おれは呟いた。

 

「おれ、浦和さんが心配、なのかな。」

 

「それもまたどうでもいいことです。

 あなたが悩んでいるのは、浦和ハナコがつらそうに振舞っていることを嫌に感じたので、その感覚を解消するために、どのように行動すべきか。

 ……では、行動の指針を示しましょう。」

 

 ビーチェはその細長いおさげボディを持ち上げ、おれの目の前に移動して、まっすぐと声を投げかけてきた。

 

「まず、浦和ハナコがどうしてそのように感じたのかを知るのです。

 やりかたはいくつもありますが、例えば彼女がどういう環境にあったのかを知ることができれば、推測ができます。

 そして並行して、彼女がどう思われているか。この情報を知ることができれば、それを補強できるはずです。

 それから、彼女のパーソナリティを推測し、悩みの根を切り取ってしまえばいい。」

 

「……なんか、プライバシーとか……」

 

「気にしていたら、始まりませんよ。

 先生は時間を置くことで環境が変化すると考えているようですが……

 しかし、私自身がアプローチすることで、環境を自ら変えることも、やりかたのひとつなのです。」

 

 おれは、悩んだ。

 たしかに、ビーチェのいうことは一理も二理もある、気がするが……

 ちょっと乱暴じゃないか?

 でも……

 

「やらないと、変わらない、か……」

 

 おれは呟いた。

 そして決めた。

 

「うん。

 浦和さんと、仲良くなりたいな」

 

「そうですか。

 お役に立てたようでなによりです。

 ふう……」

 

 ビーチェが揺らめいて、おさげとして自然なポジションに戻った。

 相変わらず、赤いな……

 

「私は少々疲れたので、黙ります。用があれば、頭の中で考えてください。

 そうすれば……」

 

(このように、返事を返しますので)

 

「う、うん……」

 

 

 そして、静寂が戻ってきた。

 そしたら、わりと鳥のぴちぴちという鳴き声が聞こえるようになって……

 時計をみた。

 そろそろ、登校するにはいい具合の時刻だ。

 

「いくか……」

 

 おれは制服を着るため、立ち上がった。




どんどんと。
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