おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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諸説あるということは、答えはひとつではない。
それを示すだけ。


EP10「輪のような運命を」

「なんか、蚊帳の外ってかんじ。」

 

 おれは呟いた。暇だからだ。

 真昼間、だ~れもいない街の片隅の公園で、ベンチに寝っ転がって、空をみる。

 真っ青な空……真っ白な雲……

 風も……吹いているが、確かに吹いているが……

 おれの心はぜんぜんそいつらと結びつく要素がない。

 暇というか、よりいえば、進捗がないからだ。

 なんの進捗かといえば……いろいろだ。

 

「それのなにがいけないのですか。」

 

 ビーチェが無関心ってかんじの声でいった。

 おさげボディはくたりと垂れたままだ。

 おれはいった。

 

「おれも、非日常的な出来事に、ひとなみに興味はあるんだよ。

 しかもヒフミちゃんがそのさなかにいたっぽくて、浦和さんもそうで、先生まで……

 関われなかったにしても、ここから顔突っ込みたいよ!」

 

「不謹慎ですよ。

 パテル派の長である聖園ミカが、アリウス派を使って起こしたクーデター。

 こう並べてみるだけで危うさを感じるべきです。」

 

「でも、ぜんぶうまくいった……っぽいよね?

 そっか、裏でなにか起きてたりしたのかも……

 そっか……」

 

「……おそらく、万事うまくいったと思いますよ。

 でなければ、雰囲気はもっと暗いはずです。」

 

「そうかな?

 そっか……

 じゃあ、そうかも。」

 

 

 なんか補習授業部に関わる陰謀が云々で、アリウス派と聖園ミカが云々で、騒動が起きて、一夜にして静まり……

 そんなこんなを経て、補習授業部はなんかすごく仲良くなっていた。

 どれくらいかというと、ここに顔突っ込んで浦和さんと仲良くなろうとするのは、ちょっと……

 いや、かなり気が引ける。それくらい、仲がよさそう。

 

 でもって、その騒動に関するなにかがあったのか……

 はたまた、わりと日付が迫ってきている、エデン条約調印式に関することがあるのか。

 せっかく仲良くなれたマリーちゃんは忙しそうで……

 

 

「うん、やっぱり気になる。もうほかのことには手を付けられないよ。

 こういう、ちょびっとだけ知って、そのあとなんにもわかんないまま~って……

 そう、いけ殺し!」

 

「なま、殺しです。」

 

「生殺し!

 に、されてると、もう気になって仕方なくて当然じゃない!?」

 

「そうですね。」

 

 なんか、ビーチェは呆れてる雰囲気だ……

 そういうの、ため息とかなくても伝わるんだぞ。

 

 

「先生も、エデン条約云々で忙しいっていうしさ……

 そういえば、今日だっけ?」

 

「……そうですね。

 エデン条約調印式は11時半ごろからの予定です。

 もう、始まっているでしょうね。」

 

「中継とかあるかな?」

 

「……ふむ。

 ひとつ、聞きたいことがあります。」

 

「なに?」

 

「なにもしなければ、なにごともうまくいく。

 そういう場合、あなたは……

 どうしたいですか?」

 

「ええ?

 そりゃ、ケースバイケースで。」

 

「ふむ……」

 

 

 ビーチェは、その細長く赤いおさげボディをうえに伸ばした。

 なにやら真剣な雰囲気だ。

 

「では……なにかすれば、うまくいかないかもしれない。

 けれど、なにごともしなければ、うまくいくならば?」

 

「うまくいかないって?」

 

「そうですね……

 たとえば、あなたがノートをあらかじめみせれば、ヒフミさんが試験対策を簡単にできるとします。

 しかし、いまのヒフミさんは補習授業部の経験を得て、勉強のセオリーを知りました。

 きっと、自分で試験対策をこなせるはず……

 ノートをみせる必要はありませんし、もしノートに頼ろうとして、勉強時間を切り詰めれば……

 試験は、うまくいかないかもしれません。」

 

「それなら、なんにもしない、かな。」

「タイム!……マジ!?」「むしろこれ以外あります?」「そっ、かあ……!」「はい、続けますよ。」

 

 おれは、呟いた。

 

 

「それはなぜ?」

 

「だって……ヒフミちゃんは、自分で勉強できるようになったわけだろ?

 おれがそこに手を出して、自分で勉強しなくなったら、そりゃ……

 だめじゃないかな。」

 

「ふむ……」

 

「ビーチェはどう思う?」

 

 ビーチェは、ゆるゆると下に垂れた。

 そして、いつものようにおさげとして垂れた。

 

「それもまた、間違いではない、と。」

「正しくはない?」

「いいえ。

 この問いは、絶対的な解が存在するわけではありません。

 少なくとも、私は……

 あなたの解答を尊重したい。」

「……よくわかんない。」

「では、少し語りましょう。」

 

 ビーチェは垂れたまま、話し出した。

 

「私は、過去の経験から、ひとは楽になりたがるものだと考えています。

 そしてそれは堕落などといったネガティブな要素だけではなく……

 進歩や、成長もまた、生み出すはずです。」

 

「楽になろうとして、それがつまり成長することにつながる……?

 う~ん、じゃあさっきおれがいったこと、ちょっと違ってない?」

 

「生み出さない場合もありますし、生み出す場合もある。

 そしてそれは、あるとき振り返ってみると、良い結果に繋がっていることもあれば……

 悪い結果に繋がっていることもあるのです。」

 

「……そりゃ、なんか、極論ってかんじだ。」

 

「しかし、事実でもあるのです。

 ものごとの構造を単純化すれば、よりわかりやすく分類することもできます。

 しかしこの世界というものは、すべてを単純化してみると、むしろすべてが複雑に絡まってゆく……

 だからこそ、妥協し、ひとまずの結論を生み出すことが、有効な手段として成り立っている。」

 

「……なんかさ。

 いってること不穏なんだけど。」

 

 おれは呟いた。

 すると、ビーチェはいった。

 

「エデン条約調印式において、アリウス派はある儀式を起こす予定です。

 それは、このままいけば失敗します。

 そして、その結果、なにごともうまくいく、はずです。」

 

「……

 先生にいっちゃだめなの?」

 

「それが、ノートをみせる行為なのです。

 先生と生徒は、すでに自ら解答することができる、はず。」

 

「はず……

 強調するね。」

 

「この世界において絶対と間違いなくいえること……

 それは絶対というものが存在しないことです。

 そもそも絶対とは、どのようなものか、わかりますか?」

 

「よくわかんないや。」

 

「他のものとの比較や対立を越えていればこそ、絶対と定義されます。

 どのように干渉したところで無意味であるからこそ、絶対です。」

 

「……

 なんか、やっぱり、よくわかんない。」

 

「たとえ奇跡が間違いなく起こるのだとしても……

 それは奇跡です。奇跡だからこそ起こるのです。

 もし、その奇跡が発生しないというIFが一切なかったとしても、やはり、奇跡は奇跡であり……

 奇跡でしかない。」

 

 しばらく、黙った。

 互いに、黙っていた。

 風の音も、あんまりしない。

 車の音は、ちょっとする。

 

「……とりあえず、わかんないってことは、わかったよ。」

 

「……そうですか。」

 

「だから、ビーチェのことを信じる。

 たぶん、雰囲気的に、これが間違いないことってわけじゃないけどね。」

 

「……そう、ですか。

 そうですか……」

 

 おれは、スマホを取り出した。

 トップニュースには、エデン条約調印式の会場である古聖堂に、ミサイルが直撃したとあった。

 そして、おれはスマホを消して、目を閉じた。

 

「はあ……」




「漂うものはどこへいくのか「流れゆくものはなにか「沈みしものはどこからきたのか」
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