おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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EP1「悩める少女」

 それを見つけた時、つい、「うっ」と声が漏れた。

 連邦捜査部シャーレのオフィスとかいう、結構立派な建物の中で、おれは噂の大人である先生と会うため、手続きをしようとしていたのだが……

 そういうのは当然、書類が必要なわけで……

 

(問診票みたいだ……)

 

 いやな記憶を奥底へ押し込めながら、おれはペンと書類を机において、座った。

 名前とか、所属とか……いろいろと書かないといけないらしい。

 少なくとも、こういうのはテストより好きじゃない。

 

 

 しばらく、無言で書いた。

 書き終わって見返してみると、後半に連れて筆致が美少女っぽくなくなっていて、思わずため息が漏れた。

 けれどもう一度書き直すのも嫌だし……

 

 眉をひそめながら、ペンをくるくる回す。

 ちょっと悩みどころだと思ったのだ。

 

(こういう手書き書類って、結構筆跡から印象を受けやすいからなあ……)

 

 空いた手が頭に触れる、その感覚ではっとした。

 よくないかんじだ。

 だから、おれはもうすっぱり諦めることにした。

 

 

 ため息を噛み殺しながら、書類を入れるべき場所につっこもうと立ち上がる。

 そのとき、ふと視線を感じた。

 そちらを向くと、ひとりの大人がこちらを見ている。

 見覚えがある顔だけど、どこだっけ……ええと、そうだ!

 この人が先生だ。

 

「あ……」

 

 おれは口を開いて、止まった。

 どうしよう?

 

 

 

 気が付くと、先生はこちらに来ていて、おれは硬直していた。

 はっとして「ええと」と舌を動かす。

 ど、どうしよう……

 

 すると先生は柔く微笑んで、言葉を発した。

 

”こんにちは、何か困ったことがあるのかな?”

 

 その優し気な声色に、おれは思わず頷いて、書類をゆっくり差し出した。

 強く握ったせいで、書類の隅のほうはくしゃりとつぶれている。

 

”ここで話もなんだし、少し移動しようか”

”ミルクって苦手だったりする?”

 

 おれは「いえ、ミルクは、好きです」と答えて、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 食堂らしいところで、おれと先生は向かい合って座った。

 差し出されたマグカップを覗き込むと、湯気とホットミルクのあの匂いが顔を覆う。

 飲むと、温かい甘みがして、なんだか頬が緩んだかんじがした。

 

 

 すこし間が空いて、おれはマグカップから口を離した。

「えと」と声が漏れて、はっとして舌を回した。

 

「悩んでいることが、あるんです……」

 

 そこからことばが出ない。

 ここまで来たのに、いざとなるとどういえばいいのか、さっぱりわからなかった。

 けれど黙っているのはいやだから、とにかく喋ることにした。

 

「お、わたし……」

(そうだ!)

 

 はっとして、先生の顔を見据えた。

 そうだ、これを話すんだった。

 

「美少女になりたいんです!」

 

”……え?”

 

「わたし、美少女っぽく振舞えなくて、だから、美少女っぽく振舞えるように、なりたいんです!」

 

 

 そこまで言い切ると、先生はしばらく黙って、なにやら考えている様子だった。

 情報が足りないかもしれない……そう思い至ったから、おれは続けて声を発した。

 

 

「わたし、怒りっぽかったり、いざというときとか、いえ普段も、ふとしたときに……だめになっちゃって。だから、そういうときにどう振舞えばいいのかとか、教えてほしくて。

 それでシャーレの先生が頼れるって聞いて、ここに来たんです」

 

 おれはいうべきことをいえて、ほっとした。

 ちょっと手持ち無沙汰だから、ホットミルクをもう一口飲む。

 おいしい。

 

 

 先生は少し考えている様子だった。

 けれどすぐに、こちらに顔の向きを正す。

 

”XXは、このあと時間ある?”

 

「はい!」

 

 そう答えると、先生はにこりと微笑んで、‘‘ちょっとお菓子を食べようか‘‘といった。

 立ち上がり、冷蔵庫のほうへいって、なにやらケーキらしきものを持ってくる。

 どうやらブルーベリータルトらしい。綺麗な見た目だ……

 

”これ、かなりお気に入りなんだ”

 

 そういって差し出された皿とフォークを、おれは恐る恐る受け取った。

 先生とそれとで視線が往復する。

 これは、とりあえず、食べるか。

 おれはフォークを手に取った。

 

 

 タルトを切り取って口に運ぶと、その絶妙な美味に、思わずおれの目は見開かれた。

 みずみずしく、甘く、香りよく……

 好きだ……

 

 

 つい切り取った四口目を頬張ったとき、はっとした。

 ちょっと、さっきのサイズ感は美少女っぽくなかったか?

 おしとやかではないよな……

 

 先生を横目にみると、なにやらにこにことしている。

 とりあえず、セーフだろうか。

 おれはちょっとびくついているのを自覚し、平静な美少女フェイスを形成する。

 

”XXって、かわいいね”

 

「どひぇ!?」

 

 太い声が飛び出たから咳払いを挟む。

 先生の笑みが深くなったのがみえた。

 

「せ、先生……からかってもらっちゃあ、困る、ますよ」

 

”からかってなんていないよ”

 

 真面目な顔になって先生は向き直った。

 

”XX、君にとっての美少女と、私にとっての美少女は違う”

”そのうえで、君は私にとって美少女だ”

 

 おれは絶句した。

 タルトが消えたことに、皿にフォークが刺さって気づくほど絶句した。

 こいつは……ええ……?

 どう反応すればいいんだろう……

 

 

”XXの悩みだけど、美少女にもいろいろあるから、まずはたくさんの、美少女と思われる瞬間を知るべきだと思うんだ”

”私が手伝うのだとしたら、まずそこだと思う”

 

「は、はい……」

 

 そ、そういう……ことか。

 一理あるな。

 

”もしよければ、空いてる日を教えてほしい”

”それにあわせて、計画をたてるよ”

 

「はい……」

 

 

 おれは、さながら川に落ちた葉っぱよろしく、流されるまま、予定を組んだのであった。

 先生との初対面はこんな具合に終わった。




眠れないから書ききった。続きは形成中。
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