おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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愛によってなされたことは、つねに善悪の彼岸にある


EP11「善悪の此岸にて」

 四方が赤紫色の壁に囲まれた部屋に、異形の男女が立っている。

 

「……」

「……」

 

「要請に基づき、私は貴下の儀式に力を貸していたわけだが……

 結局のところ、あれはいったいなんだったのか、私には理解……

 否、定義ができずにいる。」

 

 そうマネキン頭の男が語りだした。

 すると、赤肌の女がことばを返す。

 

 

「ふむ……

 ひとまず、お礼申し上げます、マエストロ。

 おかげさまで、私は予定通り、儀式を完了することができました。」

 

「マダム、貴下が儀式と称しているもの。そして先日行われたその過程。

 私には、あれは……」

 

「失敗というものは、解釈の結果ですよ。

 特にmythにおいて、物事が結論を示すには……

 えてしてその劇的構造が重要となるものです。

 むしろ、マエストロ。

 これはあなたお得意の表現方法に含まれると思っていましたが。」

 

「む……!」

 

 どうやらマエストロというらしい、そのマネキンが、なにやらむっとした雰囲気になった。

 すると慌てた様子で、トレンチコート姿の首なし男が声をかけた。

 

「まあまあ!ふたりとも落ち着いてください。

 お互い興味深い儀式を執り行えて、高揚しているのはわかりますが、しかし……

 より興味深いのは、ここからなのでしょう?」

 

 そのとき、首なし男の抱えていた絵画が叫びをあげた。

 

「そういうこった!」

 

 ……少しの沈黙の後、また首なし男は話し出す。

 

「……失礼しました。私もいささか、高揚しているようです。

 私たちは皆、この世界を解釈する方法が違いますが……崇高を求めるという志は同じ。

 久しぶりの到達者が現れる、という事実はあまりにも……」

 

「クックックッ……その通り。

 かくいう私もそうですよ、ゴルコンダ。」

 

「黒服もですか?」

 

 

 黒いスーツ姿の異形、黒服はその言葉に返事をした。

 

「もちろんのことです。

 ……ここにEmが顔を出していない、という事実は、非常に恐ろしくもありますが。」

 

「……」

 

「……」

 

「……あのOBは、やはり?」

 

「……ええ。彼女はちょっかいを、かけている真っ最中です。

 アクシデントはあってこそという主張らしいですが、私にはさっぱり……」

 

「彼女の考える芸術性は、独特ですからね。」

 

「芸術……やはり、理解が難しい概念です。

 ゲマトリアの一員となってから、私も試みてはいるのですが……」

 

「ククッ、お気になさらず。

 むしろ、その言葉が出てきたということが、理解し始めている証左ですよ。

 ところで、アリウス自治区ですが……」

 

「……!!」

 

 数泊のあと、黒服は意を決したように語りだした。

 その様子をみて、赤肌の女は顔を彼に向ける。

 

「本当によろしいのですか?

 すべての生徒と学園を自らの支配下に置く……私もやってみようとしましたが、なかなか難しいものだと感じました。

 しかも、それをただ明け渡すとは……」

 

「シャーレの、先生。

 この究極的な敵対者足りえるものには、それだけの価値があるのです。」

 

「……本当に、対敵してよろしかったのですか?

 私はいまでも、仲間に引き入れるべきではないかと感じています。」

 

 

 その黒服の言葉に、男たちは追従した。

 

「私としても同意見だ。

 あの者は私たちを理解することができ、そして理解せずとも、そこからなにかを見出すことができる……」

 

「私はまだ判断を保留していますが……もしベアトリーチェのように私たちの一員になってくれるなら。

 そう感じているのは、確かです。」

 

 しかし赤肌の女、ベアトリーチェは平然とした口調で返した。

 

 

「シャーレの先生は、私の敵対者です。そこは既に変わりようのない事実ですよ。

 ですから、そのあとにお願いします。」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「どうやら、説明が必要なようですね。

 ふむ……

 せっかくのですので、ひとつひとつ順を追っていきましょうか。

 まず、聖園ミカがアリウス自治区を訪れて以降、彼女には多くのことを手伝っていただきました。」

 

「……ミカ?」

 

 ベアトリーチェはゆっくりと語ってゆく。

 聞きやすく、わかりやすいように。

 

「彼女はmuseとして、多くの働きをみせています。

 エデン条約を利用し太古の威厳を確保することも、予知夢の大天使である百合園セイアを排除した進行を実現することも、彼女なくしては間違いなく困難でした。

 そしてなによりも、シャーレの先生に対して……

 彼女がいなければ、先生に認識と考察を与えることは、難しかった。

 彼女がいなければ、先生をトリニティに招くことすら、難しかった。」

 

 すこし、思い返すような仕草があった。

 

「私がアリウス自治区をターゲットとしたのは、純粋にそこが秘匿された場所であるからで、それ以上の意味はありませんでした。

 トリニティやゲヘナ、怒りや憎悪などといった要素は、どうあっても、どうであってもいい要素でしかない。

 ですが……先生が介入した途端、私が持っているすべての意味が変わる。変わってしまう。

 それは危険ですが、それでいて能動的にそれを起こせるまたとない機会でもあるのです。

 ……あの活躍を、みたでしょう?」

 

「……」

 

「だからこそ、私は先生を消そうと試みる計画をたてました。」

 

「なるほど……

 まさにantagonistだったのですね……!」

 

「ふむ……」

 

「まあ、それを踏まえて……

 私を妨害するかどうかは、好きにしてください。

 私たちは各々の目的を追求するためにここにいるのですから、私があなた方を妨害する権利はありません。」

 

「……ええ、そのような権利は、お互い、ありません。我々は思うがままにしましょう。

 ですから、あなたも思うがままになさってください、ベアトリーチェ。」

 

 

 そこまで黒服はいって、けれどなにかを抑えきれなかったようだった。

 言葉を続ける。

 

「しかし、あなたの儀式の詳細について、結局私たちに詳細に教えてくれることはありませんでしたね。

 ……マダムにひとつだけお聞きしたいのですが、あなたはアリウス自治区で何をしたのですか?」

 

「祭壇を用意しました。」

 

「祭壇……?」

 

「あなたがアビドスでしようとしていた契約と、本質的にさほど変わらない、ある儀式をするためのものです。」

 

「ほう……

 契約と儀式は、本来同一のものと捉えることもできますが……

 それを実行する上で、先生は必ず邪魔になる……

 いいえ、邪魔をしなければならないのですね?」

 

「ええ、そうです……

 既に、先生にはスクワッドを送りました。」

 

「!!!」

 

「……」

 

「……なるほど、スクワッドですか。」

 

「儀式の詳細をとともに、先生を殺せば機会を与えると伝えました。彼女たちにとっては、断ることができない提案です。」

 

「い、いけない……!先生が……危険……!

 うっ!?」

 

 赤肌の女は、虚空を掴む動作をした。

 するとうめきとともに空間が歪んだ。

 少女の悲鳴が、突如部屋に現れる。

 

「ネズミが姿を出しましたか。

 少々話過ぎたようですから、そろそろ出るとしましょう。」

 

「……」

 

 

「それでは、お疲れ様でした。」

 

「ええ、お疲れ様でした、マダム。」

 

「そういうこった!」

 

「……」




「善悪で測れる会話」
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