真っ白な空間に、ある生徒がいる……
彼女は、なにやら虚空に語りだした。
「……先生、私の声が届いているかい?」
「もし届いているのなら、どうか、耳を傾けてくれ。」
「私は今、夢でも現実でもない狭間の世界に閉じ込められている……
いや、それよりも、聞いてくれ。
夢の中で、ゲマトリア……彼らの会議を識ったんだ。」
「アリウス自治区を支配しているベアトリーチェは、バシリカという場所の、その奥にある祭壇と呼ばれる場所で、なにか儀式を行おうとしている。」
「もしその儀式が完了してしまえば、キヴォトスは終焉を迎えるだろう。」
「彼女が儀式で何をしようとしているのかは、依然としてわからないが……
だが、キヴォトスにいない何かを、呼び寄せようとしているんだ……!」
「私は明晰夢の中でベアトリーチェに捉えられ、その際に、儀式の向こう側にいる存在と……
……まてよ、まさか。」
「違う……あれはあの儀式とはまったく無関係だ!」
「そうか、これは……なんてことだ……
私たちは、前提から間違えていた……!
ベアトリーチェが狙っているのは、儀式の成功ではなかった!
むしろその逆……」
「先生、急いでアリウス自治区を離れてくれ!」
「彼女の狙いは「なるほど、実に、興味深い。」……!?」
ずるりと、まるで垂れ幕をかきわけるかのように。
虚空から赤い肌の女性が現れた。
「百合園セイア……あなたを侮っていました。
前回において、あなたは気づかなかった……
いいえ、これはいいわけですね。
あなたは今回、気づくことができた。
なぜ?
Emの微調整の賜物なのか、はたまた、偶然か……
いいえ。今となっては、どちらでもよろしい。」
彼女が手を振ると、虚空が引き裂かれ……
先生が現れた。
「先生。あなたに単刀直入にいいましょう。
もしスクワッドを、秤アツコの命を救いたいのであれば、そのまま進むことです。」
”……なにが狙いだ。”
「それを教えるわけには……
……?
……ふむ。
先生、ひとつだけ聞かせてください。
あなたは聖園ミカが今夜カタコンベにいたことを知っていますか?」
”どういうこと?”
その言葉を聞いた時、赤肌の女の様子が変わった。
彼女はなにやら焦った様子で、虚空を手で探りながら、呟く。
「なんということ……
Emの狙いはそこでしたか。
とすれば、状況が変わります。
まずいですね……」
先生は、なにやら様子のおかしい彼女に怪訝そうに聞いた。
”なにをいっているの?”
「本来、あなたは聖園ミカがスクアッドを、よりいえば錠前サオリを追い詰めるため、アリウス自治区を襲撃しようとしている最中に、彼女に出会うはずだったのです。
百合園セイアが聖園ミカと会話した時刻は、前回と同じ……つまり過程において変化があった。
その結果、先生は生徒と会うことがなく……つまりこの情報は今ここで明かされた。
私が明かさなければ、儀式は破綻し……そして明かせば、習合が……ああ。
なるほど、すでにReligious Syncretismではないのですね。」
”……わかるようにいって。”
「先生は急いで聖園ミカを捜し、百合園セイアの命に別条はないことを伝えてください。
そうすれば物語的な構造が破綻しますから……いえ、それもまたEmの狙いですか!
Mythではないジャンルに変えてしまおうというのですね……!」
”つまり、どうすればいいの!?”
「……私は、あなたたちと敵対しているベアトリーチェではありません。
儀式が成功した場合にベアトリーチェが進化する予定の存在です。
そして、私はXXという生徒とほぼ一体化しています。」
”XXと!?”
「彼女はいま、この世界においてトリニティ総合学園に所属する子供であり、同時にベアトリーチェという大人であり、そしてどちらともつかない私でもある。
もし儀式が失敗し、私たちが彼女ではなくなれば、それは概念的破綻です。
しかし儀式を成功させるわけにはいかない……!」
”ああもう!”
”はやく結論!”
「……もはや、このほかにない。
私は色彩を招来し、キヴォトスに比較的対処可能な破滅を呼びます。
先生はそれを防いでください。」
”!?!?!?”
そこまで聞いて、百合園セイアは声を出した。
神妙な表情だった。
「……それが、次善策ということかい?」
「ええ、もしこのままEmの本体がキヴォトスに呼び寄せられれば、それはもうどうしようもありません。
であれば、先生ならばあるいは可能と思われる、色彩を選ぶほか……」
「それは、承諾しかねます。
……初めまして、先生。」
ずるりと、また垂れ幕をかきわけるかのように。
赤肌の女とそっくりの、けれど真っ白な服を着た女性が現れた。
”は、初めまして……”
”……ベアトリーチェがふたり!?”
赤肌の女たちは顔を見合わせて、なにやら話し出す。
「……なるほど、たしかにあなたはまだ、私ではない……
ということは、XXがどうなっても問題ではない。」
「その通りです。
先生。あなたに提案します。
XXと、そこにいる私が犠牲になれば、この儀式はなんの問題もなく破綻します。
Em……そこの百合園セイアが接触した存在が現れることも……
色彩……彼女が儀式の先にみた存在が現れることもありません。」
「……私も理解しているはずです。
先生は生徒を切り捨てる選択をしない、できないと。」
「XXも、私も、先生の庇護すべき生徒ではありません。
既に幼年期は終わりを迎えたのです。であれば……」
先生は叫んだ。
”ちょ、ちょっと待って!”
”話に追いつけない……!”
「……私には、なんとなく理解できたよ。」
”セイア……?”
「もし、そのXXという生徒が犠牲になれば、だれも危険に脅かされることはない……
あの未来が、キヴォトスの滅びがやってくることは、ない。
だが、それは……」
そこまでセイアがいったとき、先生は赤肌の女をみて……
頷いた。
”なるほど、そういうこと。”
”じゃあ、答えはひとつだ。”
「……ふむ。
とのことですが……
どうしますか、私。」
「……ふむ。
先生が決めたということは、これは、もうどうしようもないですね。
Mythはもはや、ジャンルごと解体されたようですし……
大人らしく、妥協しましょうか……
では、先生。」
”なに?”
「私はバシリカの奥にある、至聖所にいます。
秤アツコもいるのですが……彼女が引っかかって寝ている十字架……
そこに私たちを磔刑にし、傍に置いてある槍で心臓を穿つのです。」
「!?
そ、それは……!」
”……大丈夫なの?”
「大丈夫ではありません。この世界におけるベアトリーチェという存在、つまり私たちは、XXを除いて、死にます。
しかし、本来の儀式における進行などを踏まえると……
おそらく、復活できるでしょう。」
「ええ、おそらく、そのはずです。」
”……わかった。”
今度は百合園セイアが叫んだ。
焦った声と表情だった。
「ちょ、ちょっと待つんだ!
先生、聞いてくれ!私はこの雰囲気を感じたことがあるからわかる……!
これは、都合の悪いことを無視している雰囲気だ!
XXという生徒を話題から省こうとしているあたりが特に怪しい。彼女に不都合なことがある……!」
”……どうなの?”
「……命に別条はないでしょう。
ですよね?」
「ええ、私たちが考えうる限りにおいては、おそらく安全です。」
「ほら、大丈夫だと断言してないじゃないか!」
”……”
先生が再び黙ったのをみて……
赤肌の女のうち、白くない方が前に出た。
「……先生。
あなたは、このようなときにどういった人物が責任をとるべきだと思いますか?
私は別の世界のあなたと会話したことがありますが、そのとき、あなたは……
いえ、ここは私の言葉でいいましょうか。」
”?”
「どのような過程があり、どのような結果があったとしても……
そこに責任が根差すことはありません。
そもそも責任は発生するものではないからです。
責任とは、そこにないにもかかわらず感じとられるものなのです。」
”……”
「であるならば、責任に対する絶対的な解答はなく。
それを見出した者こそが、それを背負う義務と権利を見出すことができる。
……私は、そう解釈しました。」
”そっか。”
「そういうわけですから、私が責任を負います。」
”……わかった。”
「先生……!?
わ、私には、わからない……!
この世界のベアトリーチェ!あなたは正確には彼女じゃないんだろう!?
なんとかいってくれ!」
矛先を向けられた、白い服のほうの赤肌の女だが……
彼女は吞気そうな様子だった。
「正直に言うと、私もわかっているわけではありませんが……
もとは自分だったわけですから、なんとなくわかる気がします。
そういうわけで、気にしません。
そもそも、百合園セイアが気にする必要もないと思いますが。」
「そ、それは……!
そう、だけど……」
話がまとまったと感じたのか、大人たちはどこかへと歩き出す。
「私からはなにか、ありますか?」
「いずれわかればよろしい、とだけ。
では行きましょうか。」
”……行こうか。”
「ま、待ってくれ……!
……
行ってしまった……」
しばらく、沈黙が続いて……
「そういえば、ここ、私はいつ出られるんだ?」
セイアはぽつりとつぶやいた。
出られたのは、結構あとになってのことだったとだけ、言っておく。
「ご感想は「どう思いますか「XXさん」
「認められるわけがないだろ。」
どれくらいわかった気がする?
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よくわかんない。
-
わからなくてもいいかなって。
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理解の最中。
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考察してる。
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チョットワカル。
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私はゲマトリア。