おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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「これが、儀式で使う槍です。
 ひとまず振るってみてください。」

”えい!”

「……
 もう一度振るってください。」

”えい!”

「……ふむ。
 ふむ……」

”ねえ、一つ聞かせて”
”Emってどんなひと?”

「尊敬すべきOB。究極的な観察者であり、探求者であり、研究者です。
 崇高に至ったことが観測されている、数少ない大人でもあります。
 ……しかしそれらを潰して余りある難点がある子供です。」

”大人なのに、子供なの?。”

「彼女は、本来完成されている自らという存在を再構築することで、未完成で変化可能なものへと再誕しました。成長の余地がある子供であり、その状態で完成された大人でもあると。
 ……ところで、そのようなことが我々と同様のスケールで行えると思いますか?
 現在、彼女の本体の物理的な大きさですら、キヴォトスの数倍ははるかに超えている……しかし我々と同じようなスケールでキヴォトスへ干渉していることも、事実です。
 難点というのはまさにそこ。
 そういう不合理な面倒を、なんとなく好きだからやるお方なのです。
 しかもその行動方針は、関心を持った対象に変化をもたらすという一点を見据えている……」

”……とりあえず、彼女がそのまま来たらキヴォトスが即滅びることは間違いなさそうだ。”

「ええ。しかしそれは当然彼女もわかっているはず。
 であれば、なぜこのようなことをしでかしたのか。
 ……おおよそ察しはついていますが、それは……」

”それは?”

「当然そうなるということは、つまりそうではない場合に破綻する。
 であるならばこそ、予測不可能な変数があるべきだ、と。
 そして先日会ったとき、彼女は、楽しみにしていて、と。
 そういっていました。」

”……なにか、ありそうだね。”

「ところで、先生。
 さきほどから肉体の強度を調整していたのですが……
 心臓が霊的強度を持つ関係上、あなたのさきほどの突きでは勢いが足りません。
 一度手本をみせますから、真似してみてください。
 こう構えて、こう捻るのです。」

”こ、こう?”

「……
 なんということでしょう……
 先生、あなたは……
 なぜそこまで弱いのですか?」

”ええ……”

「……すみません、キヴォトス人に慣れていたので、つい。
 神秘性がここまで欠けていると、こんな……
 しかし、そうなると、まずいですね……」


EP15「ハイカード≒ノーペア」

(ええ、なにあれ……)

 

 おれは困惑しながら、下を見下ろしていた。

 儀式が行われる予定地、バシリカの至聖所。

 そこでは、おそらくビーチェであろう真っ赤な女の人と、先生が、喋りながら槍を振るっている。

 

 そしてそれをぼんやりと眺める、白い服を着た赤い肌の女の人……こっちがビーチェじゃないほうだろうな。

 彼女は十字架っぽいソファに腰をかけて、ただ待っているらしい。

 

 アリウススクワッドなる生徒たちは、ソファで熟睡していた女の子を起こした後、至聖所から出ていった。

 それはまあ、嬉しいことだけど……

 

 

 なにを話してるのか、よく聞こえないけれど……

 これ、襲ってしまっていいのかな?

 

 

 狭間の世界をちらりとみると、まだセイアはミカを宥めている最中みたいだ。

 もしここで呪文を唱えれば、戦闘の音を聞きつけたスクワッドがもどってくるかもしれない。

 そうなったらまずい。まずいが……

 

(そもそも、おれの目的は儀式とかいうのが進行不可になること。

 つまりあのソファか槍を壊すことだ。

 意識が逸れている今なら、「なるほど、確かに私でもありますね。」!?)

 

 

 後ろから、ビーチェっぽい声がした!

 飛びのこうとして、けれどおれの身体はいつの間にか抱き留められていて……

 みると、白い服……

 ビーチェっぽいひと?

 

 さっきいたはずのソファをみると、変わらず座っている……!

 幻覚か……!?

(幻覚ではありませんよ)

 こ、こっちも直接脳内に!?

 

 とりあえず、小声で……

「な、なにかよう……?」

「おおよその察しはついています。Emのテコ入れは、そのメモですね。」

 

 そういって、彼女はメモを取り上げた。

 慌てて取り返そうとするけど、身長差!手が長い!

 高く掲げられたそれを取り返すには、おれは小さすぎた……!

 

「名前を言ってはいけない二つの誓約……対象は……

 なるほど。悪くはない一手です。許容できるギリギリと言い換えてもよろしい。

 いいでしょう。

 XX、私はあなたの味方になります。」

 

「え? 

 ……どういうこと?」

 

 

「先生と、もう一人の私に、一泡吹かせたいのでしょう。

 それのお手伝いをして差し上げます。

 これからあの二人を攻撃しますから、その隙に誓約に同意してください。

 くれぐれも、注意が逸れている間に行ってくださいね。その誓約は、いささか……

 ……ふと気になったのですが、誓約はきちんと読みましたか?」

 

「あ、あんまり……」

 おれは視線を逸らした。

 

「最後まで読みなさい。こういう契約書はきちんと条項を理解してから同意するものです。

 特に、知らない相手と結ぶならば……

 今回はEmが用意したものですし、ざっと確認したところ損を被る要素は少ないですが、それでも大きなリスクを含んでいます。」

 

「……教えてよ。」

 

 

 ビーチェっぽいひとは、それを聞いて、おれをまじまじと見つめた。

 おれは、なんだかいたたまれない気持ちになってきた……

 呟く。

 

「だって、今から読むとさ、長すぎるって。

 流し読みはしたんだよお。それで、よくわかんなかったの。」

 

「はあ……」

 

 ビーチェっぽいひとはため息をついた。

 そして、あのメモを見て……

 また、ため息をついた。

 

 

「はあ……

 要は、これは……名前を呼んではいけないのでしたね。

 簡単にいうならば、あなたの個人情報に対して誓約相手がやってはいけないことを示す誓約Aと、相手とあなたが互いにやってはいけないことを示す誓約Bです。

 これらに同意すると、Emはあなたに、同意したうえでなら与えてもいいと考えたものを提供するはずです。」

 

「……ゲームを始めるときに同意するアレ?」

 

「おそらくそうです。こういった同意を必要とするゲームについて私はよく知りませんが、Emの趣味とも合致していますから。

 彼女風にみると……どうせあなたが同意することでそうとみなして、同一キャンペーンから引継ぎをさせるつもりなのでしょうね。前に地下生活者がいじめられていたときのように……

 なるほど、となれば、まあ……

 多分、あなたは安全ですよ。」

 

「たぶん?」

 

「ええ、おそらく。

 もうはじめていいですか?なんだか気が抜けてしまって……」

 

「う、うん……」

 

 そう返すと、ビーチェっぽいひとはおれから離れて、ほどけた。

 下をみると、彼女は座っていたソファから立ち上がり……

 ソファを叩き割った!?

 なにやら叫び声をあげる大人ふたり……

 

 

「と、とりあえず!

 I agrees to mutual covenant with THEM!」

 

 刹那、呪文の記された文字列から、極彩色の火花が弾けた。

 火花は落ちた軌跡を、なにものにも例えられないほど赤く染めて……

 それをなぞるようにして、虚空がとろけて歪む。

 そして、それをかきわけるようにして……

 

 

「お、おれ?」

 

 赤色のインナーカラーをいれたおれが出てきた……

 なんか、洒落た格好してる……

 大人っぽいスリットが入ったロングスカートに、ジャケット……

 おれは恐れおののいた。なんかすごい経験値ないと着れない服着てる!

 

「……トリニティの制服着てるってことは、この世界のおれだな。

 その吞気そうなツラをみるかぎりだと、まだ間に合ってるってことでもあるらしい。

 よし!」

 

 ぐっとガッツポーズをして、そいつは飛び降りた!

 慌ててまた下を見下ろすと、なにやらもみくちゃになっていた大人たちの横……

 真っ二つになった槍を踏んで、スーパーヒーロー着地をしていた。

 

(す、スカートなのに!

 ロングスカートなのに!)

 

 おれは再び、恐れおののいた……




魔法の呪文なんてものは、ビビデバビデブーで十分。
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