おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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ブルーアーカイブのトリニティ総合学園では、紅茶にミルクを入れるか否か、そしてどの程度入れるかで凄まじい争いが起こっている……
というはなしを聞いた覚えがあったので、それを引っ張ってきました。
どこで聞いたんだっけ……


EP3「ため息は吐息」

「はあ……」

 

 おれはベンチに座り込んで、目の前の景色をみた。

 背もたれに肘を載せて、体重を預ける。

 毎日よくみる、きれいな広場。

 特殊なレンガを敷き詰めて作られた結果、キッチンカーが複数入って営業してもなんの問題もない。おかげで放課後は大抵盛況なのだが……

 

 広場へと橙色に縁どられた影が長く伸びている。

 街灯の影だ、曲がったりすることもなくまっすぐ伸びている。

 

 何が言いたいかというと、夕焼けが染める対象に、キッチンカーはない。

 というか、広場にはおれとベンチくらいしか見えない。だだっぴろい空きスペースが赤焼けた色合いに染まっているだけだ。

 そしてその、赤く色づいたレンガだが……

 普段からみているからこそわかる。

 普段よりずっときれいだ。……より掃除されてるって意味で。

 

 当然だよ。

 だってさっきまでおれ、他の生徒といっしょに掃除してたもん。

 

 

 キッチンカーに並ぶ列の途中で、喧嘩が始まったから、仲裁しようと思って、それで話していると、だんだんと周り含めてみんながヒートアップして……

 はっとする前にはもう、気が付くと派手な喧嘩になっていて、おかげで公共物の洒落た机とか椅子は壊れ……

 そうなれば当然、正義実現委員会という治安維持組織が顔をだすわけで……

 

 

「はあ……」

 

 視線をすこしだけ降ろすと目につくものがいくつかある。

 ちょっと破けたスカートと、ほつれたソックスと、目に見えて傷がついたローファー。

 そして制服のお腹のあたりが派手に破れているのも……

 

 まさか、紅茶にミルクをどれくらい入れるか、なんて話題でここまで大きな騒動になるなんて……

 軽い認識だったな……

 

 

 そんな具合に失敗の象徴たちを眺めているとき。

 ふと、足音が聞こえることに気が付いた。

 こちらに歩いてくる……

 ……音の方をみると、先生だ。

 なんでかな、とか……少し考えて、やめた。

 憂鬱だから、そういう細かいことを考えたくなかった。

 

”どうしたの?”

 

「……黄昏てます……だめだなあって」

 

 おれは手を、背もたれから膝のうえにやった。

 先生がおれの横に座ったのを感じて、言葉をこぼす。

「喧嘩の仲裁をしようとして、逆に騒動を大きくして……」

 先生のほうをわずかに向くと、夕焼けがまぶしい。

 少し目を細める。

 

「もっとうまく、話とかができればなあ……」

 

 それから、前のほうに視線を戻した。

 そしたら、先生がまじめそうな声色で、

”……XXは、いいことをしたと思うよ”

 なんていう。

 おれは苦笑した。

 

 

「もしやろうとしたこと自体はよかったとしても、やれたことはてんでだめでしたよ」

 

 おれは思い返して、またすこし笑った。

 振り返ってみると、下手な話し方だったり、宥め方だったり……

 そもそも喧嘩している子たちがなんで怒っているか、よくわかっていなかったりして……

 仲裁できたかといえば、ぜんぜんだめだったな……

 

”キッチンカーはちゃんと守ったんでしょ?”

 

「……そりゃ、壊れそうだったので……」

 キッチンカーのあったあたりを見て、少し思い返す。

 放置していたら、騒動のあとに移動すらできなかっただろう……かなりの規模に発展したからな……

 そこまで思ってから、改めて自分の恰好をみた。

 やっぱりひどいもんだ。

 

「あとになって考えると、もっといいやりかたがあった……はずです。少なくとも制服とか、こんな具合にならないかんじの……」

 おれは、ちょっと破けた裾をひっぱっておどけてみたりした。

 

 けれど先生は真面目な顔のままだ。

 視線がまっすぐこちらに伸びているから、おれは目を細めながら見返した。やっぱりちょっとまぶしい。

 

 

”XXは、譲れないものがしっかりとみえていた”

”それは間違いなく、いいことだと思う”

 

「……それ、結局失敗したこと自体には、なんにもいってないじゃないですか」

 

 

 先生はちらりと広場をみる。

 おれもちらりとみた。

 やはり、きれいに掃除された広場だ。

 

 

”たとえば、いっしょに騒動を起こした子は、いっしょに掃除もしてくれたんだよね”

”少なくとも、邪険にするほど悪くは思っていなかったってことだよ”

 

「それは……」おれは唇をもにょもにょする。

「たしかに、掃除中に謝ってくれました……」

 

”XXが頑張ろうとした、その想いは通じた”

”やろうとしたなかに、できたことはあった”

 

 

 おれは黙った。

 それから息を吸って、大きな吐息をだす。

 そして先生から視線を逸らした。

 相変わらず、広場にはなんにもない。

 

「でも、よくない部分って、それは、よくないんじゃないかな……」

 

 ふと、そんな言葉が漏れて。

 

”……いいことっていうのも、そういうものだよ”

 

 そんな言葉が返ってきた。

 

 

 しばらく、沈黙が続いた。

 夕焼けはだんだんと、けれど間違いなく沈んでいて、もう空はかなり黄昏色だ。

 その色の境界線の区別は、おれにはつかない。

 ただ、青とか、橙とか、白とか……

 そういう色があるとだけ、思う。

 

(そういうものか)

 

 

「じゃあ、先生……個人的にだけど、いいことをやろうとして、やったこともまあ、ちょっとはよかった……」

 そこまでいって、おれは先生をみる。

 変わらない表情だ。

「そう、思っていいのかな」

 

 先生はそれを聞いて、微笑んだ。

”XXのなかではそうかもね”

「ええっ!?」

 

 思わず、勢いよく、からだごと先生の方へ向き直した。

「なんですか、それ……そこは、そうだよ~っていうところじゃないですか!」

 けれど先生は素知らぬ顔で……

”先生的には、そうじゃなかったりもする”

 それから笑みをこぼした。それをみたおれは怒ろうとして、けれどつい、いっしょになって笑ってしまった。

 

「ふふっ……じゃあ、おれ的にもそういうこと……」

 

”……おれ?”

 

「……忘れてください」

 

 おれはまっすぐと、なんにもない広場のほうを見据えた。

 とてもしっかりとした声を張り出す。

 

「わたし的にも、そういうことにしておきます」

 

”でも、いまXX……”

 

「そういうことで!」

 

 おれは両手でベンチをばんと叩いて、勢いよく立ち上がった。

 そして広場から出るため駆け出して……

 先生のほうをふり向いて、叫んだ。

 

「そういうことですからね!」

 

 そしてまた前に向き直って、走り出した。

 目指すは自転車置き場だ。

 さっさと帰って寝よう!

 今日はきっと、よく眠れる。

 なんとなく、そんな気がした。

 だから、つい笑ってしまうのは……

 

 おれは少し、頬を撫でる風を感じてから。

(……ま、理由なんてないってことで!)

 そういうことにしておくことにした。




自信はないが、理屈でみるとこれでいいと思ったので、投げる。
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