おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

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EP3.5「そのサイズ感はさておき」

「努力は必ず実を結ぶが、その大小に保証はない。」

 そんなことばを聞いて、ずっと昔にノートに書いたことがある。

 そしてそのあとにこんなことばも書いた。

「けど実るってことは、一応変わるってことだから。」

 たんなる励ましだ、もちろんおれ自身への。

 

 

 ひとに見せるノートと、見せないノートがある。

 言い換えると、共有するノートと、個人的なノートがある。

 個人的なやつのほうがたくさん書くけれど、見返すことはほとんどない。

 まあ、これは結構日記兼メモというか……

 ほとんど失敗したときの反省みたいなものだから。

 あんまりみてていい気分にはならないし……

 捨ててしまえば楽なのかもしれない、とも思う。

 

 

 机と椅子とノートとペンと、ひっくり返って背中だけ見せている、充電器の刺さったスマホ。

 そんないつもの組み合わせに、いつもと違うものが混じっている。

 窓から滑り込む、早朝の明るさだ。

 

 昨日はいいことがあって、だから早く寝て、ぐっすり寝て、それで今日は少し早く起きた。

 もともと早起き気味なわけもあって、今の時刻は夜明けからそう経っていない。

 ご飯作って食べたり、歯磨きしたりとか、そういうのはもう済んだ。

 それで、ちょっと風でも浴びようかな~、なんてことも思ったけれど……

 そうすると、なんだか忘れそうだったから。

 

(いいことがあっても、わるいことは消えないわけで……)

 

 ちょっとネガティブな考え方かもしれない、とは思うけど。

 でも、そうだと思う、から。

 おれは今日も個人的なノートを書くことにした。

 

 

 ……書いていて、ちょっと困ることがあった。

 いつも反省するときは、こうすればいいかな~とか、そういうことをふんわり書く。

 けれど、昨日のおれの失敗は……

 

 

「ひとづきあい、かあ」

 

 

 同じトリニティの子と話していて、みんなはわかっているけれど、おれはわかってない……そんな話題があるってことはつまり、そういう話題をみんなはしていて、おれとはしていないってことだろうなあ……

 ペンをくるりくるりと指で回して、それをみた。

 ペン回しにもいろいろある。バタフライナイフ的なやつだって、おれはできる……

 ……そこまで考えて、おれはちょっと嫌になって、窓の方へ視線をずらした。

 

「紅茶にミルク……分量?」

 

 そこに、そんなこだわりはないよ……強いて言うなら、いい匂いがわかりやすいからストレートでよく飲むし、ミルク入れない派が近いのかなあ。

 唇をもにょもにょしながら、窓越しに空をみた。

 もうだいぶ、澄んでいる。

 

 ……少しだけ考えてから、ノートを閉じた。

 あんまり、思いつかないや……

 

 

 ちょっと伸びをして、「ふう、ん」と喉から声が漏れるのを聞いて、立ち上がる。

 どうせ暇だし、さっさと制服を着て、外へ出よう。

 

 寝巻をさっさと脱いで、畳んで、真新しい布地に袖を通していく。

 軽く恰好とか、見える部分を整えて……

 鏡でチェック、うん、ぱっと見た感じ美少女だ。

 

 

 手荷物をかばんに入れて、ささっと外へ向かった。

 玄関を出ると、空気がやはり涼しい。

 早朝ってかんじだ……

 スカートとソックスの間がすこし冷たい、かもしれない。

 しょうがないさ、スカートだもの。

 

 

 自転車のハンドルと胴を引っ掴んで、持ち上げて、道にもっていく。

 パワーがあればなんとでもなる!

 鳥がぴちぴち鳴いているくらいしか音がないから、自転車のホイールが空回る音がよく響いた。

 かばんをかごに、それから、サドルにスカートを敷くようにまたがって、ペダルをぐんと足で押す。

 すると勢いよく自転車が前に走り出す。

 風が後ろへ流れてゆく。

 

 

 しばらく無心で自転車を走らせた。

 なんにも思うことはなかった。

 強いていうなら、いつもとちょっと違う景色が流れていくのをみていた。

 街路樹の葉が互いに影を落としあっていたり。

 その下の草が光を浴びて青々としていたり。

 地面をわずかに覆う、苔なのか草なのかわからない緑だったり。

 そういうのを流し見ながら、ずっと。

 

 

 そうしているうちに、街並みはだんだんと整備されていって、そろそろ学校が近いと教えてきた。

 やはり、時刻がはやいから全然ひとがいない。

 全然ひとがいない校門を抜けて、遠目にも全然自転車がない自転車置き場に向かう。

 きゅっとブレーキ音が鳴り、それから自転車の鍵音が鳴る。

 おれはちらりと周りをみた。

 ほんと、誰もいないな……

 

 ここ、トリニティ総合学園はお嬢様学校的なかんじだから、車で通学するひととか、すぐ近くや敷地内にある寮に住んで徒歩で通学するひとが多い。

 自転車はかなりの少数派だから、もとよりこの自転車置き場はあんまり埋まっているわけではないけれど……

 それにしたってがらがらだ。

 ちょっと時間が早いだけで、景色って変わるんだな~、とか、ふんわり思った。

 

 

 校舎に入ってもやることがないから、ぶらりぶらりと歩く。

 いつもは歩かない場所を歩いて、普段見ない建物をみた。

 

(そういえば、図書館ってあんまり行ったことないな……)

 

 随分立派な外観をした、中央図書館という建物をみる。

 それはもう大きくて、結構有名な図書館だが……

 なんだかんだレクリエーションで回ったくらいだ。

 

 ふと脳裏をよぎるのは、今朝開いた個人的なほうのノート。

 ひとづきあい、とは書いたけれど……

 紅茶に入れるミルクの分量がうんぬんとかは、よくよく考えると個人の趣味趣向なわけで、どういうのがおいしいからこれが答え!とかはなかったりするのかな……?

 どうだろ……

 調べてみよっかなあ、どうしよっかなあ。

 

(……放課後にいこ!)

 

 

 おれはスマホを取り出して、メモだけ書いた。

 予定はないし、余裕はあるし、とりあえず暇だろうから、放課後にしよう。

 

 そしてまた、歩き出した。

 珍しい朝、そんな具合に過ぎていった朝だった……




朝になって書いて投げた。
(二重になっていることばがあったので修正)
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