おれは美少女になりたい   作:ふぁっしょん

9 / 27
シナリオの導入であり、シナリオへの混入でもある。


EP1「紛れ込み」

「わーお……」

 

 おれは茂みに隠れながら、ふたりの人影がプールサイドで横に並んでいるのを、遠目に、けれどそれはもう真剣にみつめていた。

 蜜月のひととき……ってかんじ!?

 そんな想いで跳ね回るのをこらえながら。

 

 視線の先にいるのは、あのシャーレの先生と、そしてトリニティ総合学園の有名人……

 なんとか派閥の長で、生徒会的な組織の偉い人、聖園ミカさんだ。

 

 

 もともと、友達である阿慈谷ヒフミちゃんが、補習授業部とかいう不穏な名前の部活に強制入部させられたと知って、様子を伺いにきたのだが……

 なんか、とんでもない状況に遭遇しちゃったぞ……

 

 

 ちょっと遠くて、話の内容がわからないから、隠れつつ、耳を澄ませつつ、近づく……

 聖園さんが積極的に笑いかけるのに対して、先生は……

 すごい真面目そうな、カッコつけてる感じの表情!

 滅多に見ないぞ、あんなの……

 

「……わーお」

 

 聖園さんの声がわかるようになってきた。

 赤面!これは……お察しの通り、ってこと!?

 

「さらっとすごいことを言ってのけるね、先生……大人だねぇ。

 そういう話術?……って思う気持ちもあるけど……」

 

 彼女の恥ずかしそうな顔を凝視!

 

「うん、ちょっと純粋に嬉しいかも。えへへ……」

 

 間違いない……

 青春だ……!

 おれはにやつきをとうとう抑えられなくなってきた。

 急いで、けれど絶対にばれないように、遮蔽に隠れる。

 おれのたてる音が邪魔……!

 

 そして、先生がより一層まじめな表情になったのをみて、動きを止めた。

(なんだ……!?)

(あんな真面目そうな表情するの……!?)

(どんな話……!?)

 

 全神経を集中させると、言葉がわかってくる……

「……今必死に探して退学にさせようとしているその相手。

 実際のところ、もう少し複雑で大きい問題もあるんだけど……」

 ……?

 

 

「今このまま、先生がナギちゃんに振り回される姿をただただ見ている……なんていうのは、ちょっと申し訳ないなって」

 

 ……どういうことだ?

 なにをいっている?

 

「……そもそも、先生のことを補習授業部の担任として招待したのは私だからね。このことは知ってた?」

 

”ミカが……?”

 先生の目が細まっている……

 

「うん、ナギちゃんにはずっと反対されてたんだけどね。せっかくの借りをこんな風に使うのはどうとかこうとかで。

 先生とナギちゃんの間に、色々あったんだね?

 ……まあ、私の方にもいろいろあって。」

 

(ナギちゃん……ってのは、生徒会もどきに所属している有名人の、桐藤ナギサのことか?)

 おれの目もまた、細まるのを感じた。

 聖園ミカは話し続ける。

 

「トリニティでもゲヘナでもない、第三の立場が欲しかったの。

 ……ああ、裏切者のお話だったね。

 補習授業部にいるトリニティの裏切者、それは……」

 

「白洲アズサ」

 

(……誰だ?

 いや、それよりも、トリニティの裏切者だと?

 補習授業部に入れて……退学させようとしている……?)

 

 

”アズサが?”

 

「うん。知ってるかもしれないけどあの子、実はトリニティに最初からいたわけじゃないんだ。

 ずいぶん前にトリニティから分かれた、いわゆる分派……アリウス分校出身の生徒なの」

 

 おれは思考を走らせながら、息をひそめ続ける。

 頭がきんと冷たくなっていく気がする。

 

「……うーん、よく考えると生徒って呼んでいいのかわからないんだけどね。

 何かを学ぶということがない生徒の事を、生徒って呼べるのかな」

 

 少しの沈黙のあと、先生が口を開く。

 やはり、真面目な表情のままだ。

 

”このことを、私に教える理由は何?”

 

 聖園ミカの笑い声が聞こえた。

 ほんとうにかわいらしい声が。

 

「良い眼だね、本当に。期待しちゃうな。

 あれこれ誤魔化しても仕方なさそうだし……うん、端的にいおっか。

 あの子を、守ってほしいの」

 

(……これは、つまり……そういうことか?)

 

「あ~、ごめんね。ちょっと単刀直入すぎたかな?ナギちゃんの悪い癖が移っちゃったのかも。

 戸惑っている先生のために、もう少し最初の方から説明してみようかな?

 ……私はナギちゃんやセイアちゃんみたいに、あんまり頭がいいわけじゃないんだけど。

 ちゃんと伝わるように、頑張ってみるね!」

 

”うん、お願い”

 

「まず、このトリニティ総合学園について。ナギちゃんがこの前言ってた通り、その一番の特徴はたくさんの分派が集まってできた学校だってコト。

 パテル、フィリウス、サンクトゥス……この三つの分派がトリニティの中心になったっていうのは前も話した通り。

 でも正確には他にも、今の救護騎士団の前身にあたる派閥とか、シスターフッドとかも含めた大小さまざまな派閥がいくつかあるの」

 

 歴史のはなしを……

 自らの派閥の視点で聖園ミカは話を展開していく。

 

 

「……もともとそういうたくさんの派閥が、まるで今のトリニティとゲヘナみたいな形で、お互いにお互いを敵視してて。

 毎日毎日、紛争ばっかりの時代があったんだって。」

 

「そこで、もうこれ以上戦いを続けるんじゃなくて、仲よくしようっていう約束をすることになったの。

 私たちはもう戦わなくていい、一つの学園になろう。そんな話をしたのが、いわゆる第一回公会議」

 

”うん、どこかで聞いたことがある”

 

「そうだよね、それで……

 その会議を経て生まれたのが、今の私たちがいるトリニティ総合学園。」

 

 聖園ミカは、そこで話を一区切りする。

 

「今でも分派だったころの余波がないと言えばウソだけど……時代の流れってところかな。今ではもう、そんなの全然気にしてないっていう声の方が多いはず。

 でもその会議は、円満に話し合いが終わったわけじゃなくて……

 その時、最後まで反対してた学園があったの」

 

「それが、アリウス。

 もともとは私たちとあんまり変わらなかったはずの、一つの分派。

 経典に関するちょっとした解釈の違いがあったくらいで、結構いろんなところが似てたんだって。」

 

 

 おれはそこに、少し引っかかった。

(……ちょっとした違い、だと?

 アリウス派の解釈がか?)

 

「ちゃんとチャペルの授業もあったし、見た目もほとんど一緒で……

 それでいて、ゲヘナの事を心底嫌ってた。

 でも、そのアリウスは連合を作ることに猛烈に反対して……

 最終的には、争いに繋がっちゃったの。

 連合になって強大な力を持つようになったトリニティ総合学園は、その大きな力でアリウスを徹底的に弾圧し始めた。

 あまりにも大きな力を持ちすぎると、その強さを確認したがる……なんていうのはよくあるお話で。

 つまるところ、アリウスは悲しいことにちょうどいいターゲットだったっていえるのかもしれない」

 

 アリウス派の教義解釈は、理解こそ難しいが……

 しかし、その根底の理論は、そもそものトリニティにおける教義解釈の前提である、神は不変であることを否定しているも同然だ……これは明確な違いとして、歴史のうえでもよく扱われている。

 そのことを、派閥の長である聖園ミカが理解していない、できない、なんてことがあるのか?

 

「……そうして、アリウスは潰された。

 トリニティの自治区から追放されて、今は……詳細は分からないけど、キヴォトスのどこかに隠れてるみたい。

 相当激しい戦いだったんだろうね。その後、全然見つからないような場所に隠れたみたいで、多分、連邦生徒会すらいまだにその自治区がどこにあるのか、わかってないくらいなの。

 大半の生徒たちにとっては、そんな学園あったっけ?って感じだと思う。ほとんどはきっと、そんな争いがあったことすら知らない。」

 

(聖園ミカ、こいつ……

 誘導しているな。

 だがどこに、どういう意図で?)

 

 

「そうして表舞台には姿を現さなくなって、今となってはその影すらも薄くなってしまった存在……

 それが、アリウス分校だよ」

 

”アズサがその、アリウス分校の出身……”

 

「うん。

 それで……ナギちゃんが推進しているエデン条約、あれはさっき話していた、第一回公会議の再現なの。

 エデン条約……大きな二つの学園が、これからは仲良くしようねって約束。

 なんだか、いいお話に聞こえるよね?でもほんとうのところはどうだろ。

 だってそれは、ゲヘナとトリニティの武力を合わせたエデン条約機構、通称ETOと呼ばれる全く新しい武力集団をつくることなのに」

 

(話がみえてきたぞ……)

 

「そう、エデン条約っていうのは、行ってみればある種の武力同盟。

 トリニティとゲヘナの戦力を合わせた、一つの大きな武力集団の誕生が目的……

 ……そんな、圧倒的な力を持つ集団が誕生するの。連邦生徒会長が行方不明っていう、こんな混迷の時期に。

 その大きな力を使って、ナギちゃんは果たして何をしようとしているのかな。」

 

(聖園ミカ、こいつは……)

 

「会長が不在の連邦生徒会を襲撃して、自分が連邦生徒会長にでもなるとか?

 それともミレニアムっていう新しい芽を摘んでおくとか?」

 

(少なくとも、間違いなく、先生を自身の視点に引きずり込もうとしている。

 アリウスは弱者で、庇護するべきだと……主観的に感じるように。

 そしてそれは……)

 

「もちろん細かい目的は知らないけど……でも、これだけははっきり言えるよ。

 そんなに大きな力を手に入れたら、きっと自分が気に入らないものを排除する。

 昔、トリニティがアリウスにしたみたいにね。

 あるいはもしかしたら、セイアちゃんみたいに……」

 

(エデン条約を邪魔するためか。

 ……うん?

 セイア……現生徒会長的な役職のひと、だったか?)

 

 

「……ううん、ごめんね。今のは失言だったかな。」

 

”セイアは、何があったの?”

 

「……前にお話しした通りだよ。セイアちゃんは、入院中なの。」

 

”……今どこにいるのか、聞いてもいい?”

 

「う~ん……

 ……先生は、本当に知りたい?

 ……この話をしたら、もう私は戻れない。

 もしこの先の事実を知った先生が、私の事を裏切ったら……私はきっと終わり。

 それでも、知りたい?」

 

 先生はすぐさま、”裏切るだなんて”と言葉を放とうとした。

 けれどそれを遮るように、聖園ミカは話し続ける。

 

「……ううん、でも大丈夫だね。だってさっき、先生は私の味方って言ってくれたもん。

 もしこれで裏切られたって、なんていうのかな……うん。

 それはそれで悪くないと思う。えへへ。」

 

「……セイアちゃんは入院中なんかじゃない。

 ヘイローを、壊されたの。」

 

 先生の驚愕と、なにか強い感情がみえた。

(ヘイローを壊されたって、それは、つまり……)

 死……

 

「冗談じゃないよ、本当のこと。

 去年、セイアちゃんは何者かの手によって唐突に襲撃された。

 対外的には入院中ってことになってるけど、そっちの方が真実。

 私たちティーパーティーを除けば、このことはまだトリニティの誰も知らない」

 

「もしかしたら、シスターフッドには知られてるかもだけど……あそこの情報網は半端じゃないからね。

 とにかく、それくらい秘匿事項なの。」

 

”……犯人は、まだ?”

 

「……うん、わかってない。捜査中っていうか、何もわかってないっていうか……

 もともとセイアちゃんは、秘密の多い子だったこともあってね

 ……うん、まあそういうことなんだ。」

 

 しばしの沈黙があった。

 先生は、口をつぐんでいた。

 それはなにかを抑えるようだった。

 

「とはいっても、目星がついてないわけではないんだけど……今の段階でただの推測を口にするのもね。

 ……それで、話しは戻るんだけど。

 白洲アズサ……あの子をこの学園に転校させたのは、私なの」

 

”ミカが?”

 

「うん、ナギちゃんには内緒でね。生徒名簿とかそういう書類を全部捏造して、あの子を入学させた。

 ……どうして?って、思うよね。」

 

 聖園ミカの表情が、すこし鋭くなった。

 

「アリウス分校は今もまだ、私たちのことを憎んでる。

 私たちはこうして豊かな環境を謳歌しているのに、彼女たちは劣悪な環境で、学ぶということが何なのかもわからないままでいる……

 私たちから差し伸べた手も、連邦生徒会の助けも拒絶し続けているの。過去の憎しみのせいで。」

 

 そして、彼女は目を閉じた。

 なにかを思い返すように。

 

「……私は、アリウス分校と和解がしたかった。

 でもその憎しみは、簡単にはぬぐえないほど大きくて……

 これまでの間に積みあがった誤解と疑念もあまりにも多い。

 私の手には、負えないくらいに。」

 

 ……強い違和感が、だんだんと膨れ上がってきた。

 なぜこいつは、アリウスに接触できたんだ?

 連邦生徒会にもわからない場所に隠れて、延々と引きこもってたやつらに、どうやって、どんな風に接触したんだ?

 

 目を開いた聖園ミカは、また口を開いた。

 

「けどナギちゃんもセイアちゃんも私の意見には反対だった。

 ……政治的な理由でね。

 でも、それもわからないわけじゃない。私たちは、ティーパーティーだから。」

 

 そして彼女の顔に微笑みが浮かぶ。

 それは、本心からのものにみえた。

 

「私は不器用だから、そういう政治とかはちょっと得意じゃないんだけど……

 でも、また今から仲良くするのって、そんなに難しいのかな」

 

 だからこそ、強い違和感がする。

 こいつ、なんでこんなやり方で、こんなことを話しているんだ?

 

「前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことはできないのかな?

 ……私はあの子、白洲アズサという存在に、和解の象徴になってほしかったの。」

 

 

 

 ……

(は?)

 

「あの子についてはそれほど詳しいわけでもないんだけど、アリウスでもかなり優秀な生徒だったみたいだし、その可能性に賭けたかった。

 ナギちゃんを説得してちゃんと正式に進めるっていう手段もあったかもしれないけど…… 

 そこについては、ちょっと疑っちゃったっていうか……

 ナギちゃんはそういうの、聞いてくれないだろうなって思って。」

 

(ど、どういうことなんだ……?) 

 

「もしエデン条約が締結されたら……その時はもう今度こそ本当に、アリウスとの和解は不可能なものになっちゃう。だから、どうにかその前に実現させたかった。

 アリウスの生徒がトリニティでもちゃんと暮らしていけて、幸せになれるんだって……みんなに証明して見せたかった。」

 

(な、なんなんだ?こいつは、視点がバラバラだ……!

 エデン条約はダメで、アリウスを吸収すると、それでいい理由ってなんだ?

 というかそもそもなんでアリウスが飛び出してきたんだ!?

 それに、よく知らない奴を信じたいけれど、知ってるやつは信じられないから、無理やり事後承諾させようって!?

 どういうことなんだよ……!さっぱりわからないよ……!)

 

「でも、そんな中でナギちゃんがトリニティに裏切者がいるって言い始めて……」

 

(お、おいおい……)

 

「……ナギちゃんがどうしてそんなことを考え始めたのかは分からない。

 私がそうやって動いてるときに、何かやらかしちゃったのかもしれない。

 それでナギちゃんは条約の邪魔をさせまいとして、補習授業部を作ったの」

 

(お前がほとんど、味方じゃあないからじゃないか!?)

 

 

 聖園ミカが微笑みながら話すのを、おれは信じられない気持ちで見つめていた。

 

「最初は補習授業部って何のことかと思ったけど……

 あ、そういえば先生、なんであの子たちなのかって、聞いたことある?

 あそこにいるのは、ナギちゃんが疑った子。」

 

 彼女は話し続ける。

 まるで気楽そうに。

 

「ハナコちゃんはすごい変わったところがあるけど、本当に、本当に優秀な生徒。もちろん成績って意味でも。

 なんなら生徒会長、つまりティーパーティーの候補として挙がってたこともあったくらいなの。

 シスターフッドも、あの子を引き入れようと頑張ってたって聞いたな。うまくはいかなかったみたいだけど。

 ……礼拝堂の授業で、あの敬虔な空気の中ひとり水着を着て現れた時なんかすごかったね。私たまたまそこにいたんだけど、シスターに追い出されて、みんなの表情もすごいことになっててさ。あはっ」

 

 う、ハナコさんって……浦和ハナコ、あのひとだよな?

 あのひと、そんなことやってたんだ……

 え、どうしちゃったんだ……?

 

「……でも、あんなに優秀で将来を見込まれてたのに、あの子は急に変わっちゃったの。落第直前の状態になるくらいに。

 ……どうしてだろうね?」

 

 ……もしかして。

 ふと記憶がよみがえる。

 いや、まさか、そんな……

 

「たしかに、それで探りを入れたくなる気持ちはよくわかる。あの子は既にトリニティの上層部とかいろんなところと交流があって、結構な数の秘密を知っちゃってたこともあって。

 ナギちゃんにとっては、気にせざるを得ないだろうね。」

 

 そこで言葉が途切れたから、おれは思考を断ち切った。

 

「コハルちゃんは……

 あのことはドロドロした政治とか、そんなこととは何の関係もない、純粋でいい子なんだけど。」

 

(誰だろ……

 名前だけじゃわからないな)

 

「なんであの子がって話をすると……ああ、そういう意味ではあの子は、疑われたからじゃないかな。その直接的な原因は本人じゃなくて、ハスミちゃんたちだね。」

 

”ハスミたち……?”

 

(正義実現委員会所属なんだ、コハルって子は……

 顔あわせたことあるかも……)

 

「巨大な武力を持った存在、それも特にハスミちゃんみたいにゲヘナに対して強い憎しみを持っている存在が、自分の統制下にないっていう不安感……

 何かが起こるんじゃないかって疑念……

 ナギちゃんはそこに対して、何かしらの備えが欲しかったんだと思う。」

 

 え、純粋な被害者じゃん。

 そう思って、けれど聖園ミカはぜんぜん気にしてなさそうだ。

 自覚ないのか、原因は自分だって……

 自覚ないっぽいな……

 

「正義実現委員会だったら多分、誰でも良かったんじゃないかな。ただとりあえず成績が悪かったから、あの子が選ばれた。

 つまりあの子は人質。退学の件については多分、ハスミちゃんも知ってたはずだよ。」

 

”……”

 先生はなにやら考えこむ表情になる。

 おれもまた、少し思い返した。

(ハスミ……副委員長って、あのすごいデカいひとか)

 

「それはハスミちゃんがそんなことするはずない、っていう顔かな?

 う~ん、先生がハスミちゃんとどれくらい仲が良いのかは知らないけど……

 ハスミちゃんはトリニティの武力集団である正義実現委員会の副委員長だし、ゲヘナのことをものすごく憎んでる。

 エデン条約に全力で反対するだろうっていうのは、火を見るよりも明らかじゃない?あのゲヘナとの同盟なんて~、って。」

 

(そうなんだ、知らなかった……

 トリニティのひとって、そんなに今もゲヘナ嫌ってたのか)

 

「あとは、ヒフミちゃんか」

 

(!)

 

 おれは神経が尖るのを感じた。

 聖園ミカの声が、より大きく聞こえる気がした。

 

「ヒフミちゃん、優しくてかわいくて、いい子だよね。ナギちゃんもすっごく気に入ってる。

 ……でも、それでもナギちゃんの疑いの目が向いちゃったの。」

 

 そうだ、ヒフミ……

 彼女はなぜ?

 

「どうやらこっそり学園の外へ出て、怪しいところへ行ってたみたい。トリニティの生徒は出入り禁止になってるブラックマーケットとか、あちこちにね。」

 

 あっ。

 察した。

 そういうところ、あるよね……ヒフミちゃん。

 

「それに、どこかの犯罪集団と関りがあるって情報も流れてきた。

 あんなに善良そうで、純粋な子にみえるのに……」

 

 おれは悶々とする。

 そう、善良で純粋なんだけど、でもタガが外れてるからなあ……

 犯罪集団かあ。グッズ収集のためにそこまで……

 うん、ないとは言い切れない……

 

 先生もまた、そんなかんじに思っているらしい。

 ものすごく微妙な顔で黙っている。

 

「ナギちゃんだってヒフミちゃんのことを気に入ってるのに、それでも疑いの目は向けられた。

 まあ、それもナギちゃんらしいといえば、ナギちゃんらしいんだけど。

 ……それで、ナギちゃんの中にあった、トリニティの中に裏切者がいるかもしれないという疑いは、いろいろ情報が集められて進められていく中で……」

 

 聖園ミカが、先生を見つめた。

 

「あのなかの誰がトリニティの裏切者なのか?っていう疑問に変わったんじゃないかな。

 もういるのかどうかなんて話はしてない。裏切者はすでにナギちゃんにとっては、確定路線の現実問題になってる。

 ……それが、今の状況。ちょっと長かったけど、これで今私が知ってることは全部話せたかな?」

 

”裏切者……”

 

(裏切者って、そりゃ……実際、ほとんど……あんた……

 この状況がすでにさ……)

 

 おれは唇をもにょもにょした。

 もしかして、おれの認識とかが間違っているのか?

 

「裏切者って言葉が何を指すのか、それを多少はっきりさせたうえでなら、ちゃんと解答は出せるの。

 まずナギちゃんは今きっと、自分たちを、トリニティを騙そうとしている者がいるって思ってる。誰かがスパイなんじゃないかって。

 そういう意味で、今ナギちゃんが言ってる裏切者は、経歴を偽って入り込んでいるあの子、白洲アズサ。

 あの子はさっき話した通り、本当はトリニティが敵対しているアリウス出身の子だからね。

 あの子は私の所為で何も知らないまま、こんな複雑で政治的な争いのど真ん中に立つことになっちゃって……」

 

 なんだか責任を感じてそうな顔を彼女は浮かべ、そして強い意志を瞳にみせた。

 

「でも、こんな形であのこを退学なんてことにさせちゃいけない。

 だから、守ってほしいの、それは今、先生にしかできないことだから。」

 

(ええと……これは……

 どういう理解をすべきなんだ?)

 

 そのとき。

 聖園ミカがまた、笑った。

 

「それから、ある意味では……ナギちゃんにとっての裏切者は、私でもある。私は、ナギちゃんが進めてるエデン条約に賛成の立場じゃないから。」

 

(え、わ、わかってたの!?)

 おれは驚愕のあまり目を見開いてしまった……

 

「ホストじゃない私にはなんの力もない以上、邪魔もなにもできないんだけど。」

 

(いや、思いっきりできてるじゃん……というかやってるじゃん、今!

 というか、もしかしてそういう視点?

 自らの手にかかれば、今の状況は邪魔ですらない、ちょっとしたじゃれ合い的な!?)

 

 ひとつ、間があいて。

 また聖園ミカは、言葉が発した。

 

 

「それと、別の観点からは同時に、こういうことも言えるよね?

 トリニティの裏切者……

 それは、ナギちゃんだっていうこともできる。そう思わない?

 これまで調和を保っていたトリニティを、巨大な怪物に変えようとしている存在……そういう見方があっても、そんなにおかしくない。」

 

 

 そこまで言って。

「……まあ、でもこれも含めて全部全部、私からの一方的なお話でしかないよ。」

 そう彼女は言い切った。

 

「だから、もちろん最終的には先生が決めて。

 白洲アズサを守るのか、裏切者を見つけるのか……

 ナギちゃんを信じるのか。

 それとも、私を信じるのか。」

 

 また、彼女の表情に笑みが浮かぶ。

 そのとき、先生が口を開いた。

 

 

”ミカは、それだけで大丈夫?”

 

 心配そうな、先生の表情。

 聖園ミカはそれをみて、やや困惑したような笑顔になった。

 

「あの子のことについては私に責任があって……でも、私にはただお願いすることしかできないから。

 ……ん?

 あれ、そうじゃなくて、今のって……」

 

”君を心配してる”

 

 彼女はそれを聞いて、少し硬直した。

「……あはっ」

 奇妙な笑みだった。

 

「本当に優しいね、先生は。

 う~ん、なんだかつい勘違いしちゃいそう!」

 

 すこしだけ色づいた頬。

 けれど、なんだかその表情は……

 

「私の心配は大丈夫。こうみえても私、結構強いんだから……

 じゃあ、今日はこんなところかな。先生とまたこうしてお話できて、楽しかったよ。」

 

 そして、それは掻き消えて、さきほどまでのような笑顔が戻ってきた。

 

「それに、あんまりふたりでずっといると、変な噂が立っちゃいそうだもんね……

 ふふっ。

 じゃ、またね、先生。」

 

 聖園ミカは、そして歩き出した。

 先生は見送り切って……

 それからしばらくして、動かず、そのまま声を出した。

 

”もう、出てきていいと思うよ”

 

 おれは思わず、びくりとした。

 ばれてた……

 

 

 ゆっくりと、先生のほうに身体を出す。

 けれど先生はこちらを見ないまま、なにやら視線を彷徨わせている。

 

「先生、ここです……!」

 

 手を振ると、先生はぎょっとした顔で飛び跳ねた。

 

 ”そ、そんなところにいたんだ……”

 

「ええ、じゃあどうやって気づいたんですか……」

 

 張り付いていた壁から、おれは這い上がった。ちょっとポーズしてみる。

 地獄からの使者……!

 

”ところで、どんな用事があってきたの?”

 

「……その話題からですか?わたしは、いいですけど……

 えと、ヒフミちゃんが友達なんです。それで……」

 

 先生は柔らかく笑いかけてくる。

 

”なるほど、じゃあいっしょに行こうか”

 

「……いいんですか?」

 

 そう聞いて、けれど先生はそのまま、笑った。

 

”XXのことは、ちょっとは知っているつもりだよ”

 

 おれは、なんだかよくわからなくて、唇をもにょもにょした……




一気に並べた、必要な提示たち。
そして色を交えた視界から見る、それ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。