ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.98「決着ふたつ」

 ソラとびぃタロ(デシエビ)にはできた。

 彼はそれを、今日、目の当たりにした。

 

 それが自分たちにもできるという絶対的な確信は無かったが、それでも。

 

 

 

「“ミサイルばり”を重ねて、“ひのこ”ッ!!」

「むきゅきゅっ、しゅきーっ!!

 

 

 

 自分とこいつ(ウェボム)ならば、きっとできる。

 そう信じられるだけの根拠は、いくらでもあった。

 

 

《ウェボムの ひのこ!》

 

 

 わざとわざとの組み合わせ、重ね合わせ。

 ほのおタイプのわざ“ひのこ”に、連続攻撃を行うむしタイプのわざ“ミサイルばり”を組み合わせる。

 

 結果として繰り出されたのは、連続して射出される針状の炎。

 文字通り矢継ぎ早に撃ち出されたそれらは、突然の雷鳴に動揺した隙を縫い、ロゼリアの下へと殺到した。

 

 

「ろ、──!? ッ、ろぜッ、りィろッ!?」

 

 

 己へ迫る攻撃に、ロゼリアが咄嗟に“マジカルリーフ”を撃とうとするも、時既に遅し。

 

 一撃目が、ロゼリアの顔面に直撃し、その体を仰け反らせる。

 二撃目が、無防備となった腹部を捉え、今度は体がくの字に曲がる。

 三撃目と四撃目は立て続けに、隙だらけの胴体を打ち据え、相手を大きく後方へと跳ね飛ばした。

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《4かい あたった!》

 

 

 元よりタイプ相性はこちらが有利。

 その上、“ミサイルばり”が組み合わされた事で、威力はそのままに連射が可能となっている。

 

 例え彼我の実力(レベル)差が大きく、決定打とする事ができずとも。

 リクが打って出たこの奇策は、相手に確かな痛打(ダメージ)と、決して少なくないノックバックを与える事ができていた。

 

 そして、何よりも。

 

 

 

「約束通り、隙は作ったぞ! 行け!」

「言われずとも──やれ! フカシオ!」

 

 

 

 本命の一撃は、また別にある。

 それを確実に叩き込む為の隙は、十全にこじ開けた。

 

 

「回復する暇は与えん。“ねんりき”、最大出力!」

「シィ──ミィ、ズゥウウウ~ッ!!

 

 

《フカシオの ねんりき!》

 

 

 元々“どく”の消耗によって限界ギリギリだった体力を、なおも振り絞る。

 これで倒れてもいい。そう思えるほどに、中央のコアからサイコパワーを引き出し、渾身の力で以て投射した。

 

 

「ろ、ろろッ……ぜェえェェッ!!

 

 

《あいての ロゼリアの ギガドレイン!》

 

 

 だが、なおも足掻くのは相手も同じ事。

 寸でのところで両腕を前に突き出したロゼリアは、腕の花弁から再び、サイコパワーの吸引を試みた。

 

 狙いは、先の攻防と同じだ。

 フカシオの放つ不可視のエネルギーを吸い取り、それを出力に変換する事で、こちらの攻撃を打ち破るつもりなのだろう。

 

 ただ痛痒(ダメージ)を受けただけのロゼリアと、“どく”に体を蝕まれているフカシオ。

 どちらが打ち勝ち、どのような結末を辿るかは、容易に想像する事ができた。

 

 そうして“ねんりき”と“ギガドレイン”が、中空でぶつかり合う、まさにその直前。

 痛みに眩む視界の中で、ロゼリアが見たものは。

 

 

 

「まだだっ! 今度は“いとをはく”を重ねて、“ミサイルばり”!」

「むしゅー!」

 

 

 

 今なお自身を指差す少年(リク)と、その指先に導かれるウェボム。

 決して先ほどの焼き直しにはするまいと、真っ直ぐに己を穿つ切っ先だった。

 

 

《ウェボムの ミサイルばり!》

 

 

 次に射出されたのは、ただの針弾幕ではない。

 その針1本1本の尾に、長くどこまでも伸びるクモの糸が紐づけられていた。

 

 糸を生成するウェボムの口元と繋がったまま、宙を飛ぶ5条の針。

 それらはフカシオの“ねんりき”を追い越し、一足先に“ギガドレイン”の力場へと突入した。

 

 これがただの攻撃であれば、“ギガドレイン”のエネルギーにたちまち出力を吸い尽くされ、あえなく失速・失墜するだろう。

 けれども、細い針状であるが故に、それらはエネルギーを奪われ切るよりも早く貫通し、ロゼリア側へと飛び出した。

 

 

「ぜッ……!?」

 

 

《あいての ロゼリアの すばやさが さがった!》

 

《あいての ロゼリアの すばやさが さがった!》

 

《2かい あたった!》

 

 

 突き抜けた時点でやはり出力が足りず、命中しなかったものが3つ。

 それでも2発は命中し、いばらポケモンの小さな肉体に深々と突き刺さった。

 

 それは同時に、針に取り付けられた糸がアンカーの役割を果たし、ロゼリアの動きを鈍らせる事をも意味している。

 

 重ね合わせた“いとをはく”は、命中した相手の“すばやさ”を1段階下げるわざ。

 2回当たれば、下がる“すばやさ”の値は2段階──通常値の50%減。

 

 

「むっきゅ!」

「ろ……ろ、ぜ……!?」

 

 クモポケモンの糸は強度が高く、そうやすやすと壊せない事で有名だ。

 そんな糸の末端を、ウェボムが噛んで保持している。振り払う事は容易でない。

 

 

「シ、ィィィイイイ……オッ!!

 

 

 “ミサイルばり”に食い荒らされ、使用者の動きを縫い止められた事で、“ギガドレイン”の出力もまた衰える。

 揺らぎを見せる緑色のエネルギーを、サイコパワーが蹂躙し、とうとう消し飛ばしてしまった。

 

 ここまで迎撃の試みを潰されてしまえば、最早ロゼリアに取るべき手は残されていない。

 呆然と目を見張る相手ポケモンを、見えざる奔流が打ち据え、押し流す。

 

 

ぜッ──る、るるゥ……ッ!?

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《あいての ロゼリアは たおれた!》

 

 

 相性抜群の“ねんりき”を一心に浴び、どくに満ちた肉体にサイコパワーが浸透する。

 

 全身を激しく強打したような痛みと、不可視の力場がもたらす熱エネルギー。

 それらが収まった後、焼け焦げた体から力が抜けて、ロゼリアはバッタリと崩れ落ちた。

 

 

「──い、よォっし! 遂に倒したぞ!」

「そのようだ。……だが……」

 

 

 強敵を退けた事で、思わず歓喜の叫びを上げるリク。

 そんな彼とは対照的に、名無しの少年は汗を滲ませ、己の傍を見やる。

 

「こっちも限界のようだ。……すまない、フカシオ」

「シ、シィ、オ……

「……ああ、よくやった。お前のおかげで勝てた」

 

 

《フカシオは どくの ダメージを うけた!》

 

《フカシオは たおれた!》

 

 

 “ねんりき”を繰り出した時点で、既に限界を迎えていたのだ。

 それを押して最後の一撃を叩き込んだ事で、とうとう“どく”の侵蝕に耐え切れず、フカシオがグラリと膝をつく。

 

 瞬間、その体を構成していた水が、形を保てなくなって崩壊していくのが見えた。

 ただの水へと戻ったそれらは、その場に撒き散らされて地面に染み込んでいき、後には光の消えた真っ赤なコアだけが転がっていた。

 

 

「え、ええっ!? だっ、だ、大丈夫なのか!?」

「狼狽えるな。元々、フカシオはこのコアが本体。周りの水は、コアを守る為の鎧に過ぎない。後で回復すれば、また元通りだ。……尤も」

 

 木彫りのモンスターボールを取り出し、その内部にコアだけになったフカシオを収納する。

 そうしている間も、少年の意識は、屋根の上の男へと絶えず注がれ続けていた。

 

 

「奴が、そうやすやすとおれたちを見逃してくれるのならの話……だがな」

「……ふゥん?」

 

 

 彼の仮面に空けられた穴は、目の部分のみ。

 目以外から、司祭の男がどのような感情を顔に携えているかを、読み取る術は無い。

 

 だが、それでも。

 仮面から垣間見える男の目が、乾いた血のように薄暗く淀んだ、光無きものである事は、容易く理解する事ができた。

 

 

「奴が自分で言っていた事だ。ロゼリアはただの間に合わせ。奴本来の手持ちポケモンは、1匹だって出していないし、消耗していない。おれたちは今の今まで、奴が適当に用意しただけのポケモンに苦戦していた訳だ」

「っ、そうか……! ロゼリア1匹にこれだけ苦戦して、消耗してるところに、本命のポケモンを繰り出されたら……!」

 

 

 リクの手持ちはウェボムとマハルニャースの2匹。

 ウェボムはまだ戦えると言わんばかりに奮い立っているが、その身に受けた負担と疲労は馬鹿にならない。

 つまり実質、ここから先はマハルニャース1匹で行わなければならない。

 

 名無しの少年もまた、ガプリコとフカシオは今しがたのバトルで戦闘不能。

 手持ちではないものの、彼に従っているフルスリは、ロゼリア以上の相手に出すとなると実力(レベル)の低さが否めない。

 そして最後の1匹は、どういう訳か少年が露骨に出したがらない様子。

 

 果たして、幹部の男が持っているであろう強力なポケモンを相手に、これ以上の継戦が可能なのだろうか──

 

 

「そうです、ねェ」

 

 

 ゆらり、と。

 蹲踞(そんきょ)の体勢から、力無く、だらけきった態度のまま立ち上がる男。

 

 それはまるで風にたなびく柳の葉か、ゴーストタイプのポケモンのよう。

 どちらの例えにしても、相手の態度が虚ろで、薄っぺらい事には変わりなかった。

 

 

「こうも羽虫がブンブンと、ワタシの耳元を飛び回っているようでは、おちおちデータ収集もできませェん。その為のロゼリアさんだったのですがァ……まァ、所詮は補欠。あなた方程度も倒せないとは、期待外れもいいところですねェ」

 

 不可思議な機械を右手に持ったまま、左手に新たなボールを取り出す。

 ヴォイド団の助祭(したっぱ)が持っているのと同じ、木彫りのモンスターボール──否、黒地に黄色いラインの入ったそれは、木彫りのハイパーボールだった。

 

 

「ですが、ワタシの手持ち(スタメン)は、ロゼリアさんほど甘っちょろくはありませェん。ワタシの指示が無くとも、あなた方を蹴散らす程度、容易に……?」

 

 

 少年2人が身構える中、ハイパーボールが場に投じられようとして……ふと、手が止まる。

 男の持っていた謎めいた機械が、これまた奇妙な音(ソラがこの場にいれば、それが()()()であると気付いただろう)を発し始めたのだ。

 

 その音に、今まさにボールを投じようとしていた手を下げて、機械を操作する男。

 やがてそこに表示された文面に目を通した後、彼は……

 

 

 

「……あァー……はァァァァァあああああ~~~~~……

 

 

 

 深く、深く。

 そして、心底面倒くさそうに溜め息をついた。

 

 何が起きたのか理解しかねている2人を他所に、男は機械とボールをさっさと懐にしまい、手を完全に祭服(キャソック)の袖の奥へと隠す。

 それから、これまでずっと注視していた筈の向こうの戦場から目を外すと、濁り切った両目でリクたちを見下ろし、口を開いた。

 

 

()()()()

「……はぁ?」

「たった今、ここにいる意味が無くなりましたので、ワタシは撤収しますねェ」

「お前……ふざけているのか?」

「あなた方をおちょくるほど暇じゃありませェん。ですが、これ以上ここにいても、本命の計画が達成できない事が分かりましてェ。であれば、ここに居座っていても時間の無駄ですからねェ」

 

 

 首だけを傾け、遠くの景色を見やる。

 男が見る先には、ウツシタウンを挟んで向こう側の21番エリア、そして“死出の森”が広がっていた。

 

 ナミノルロスのデータ収集は、あくまで()()()

 本命は、“死出の森”でのスタンピードの誘発による、ウツシタウンの壊滅と殺戮だった、のだが。

 

 

本命(あちら)が失敗した以上、じきにプルガージムの大神官がこちらへ向かってくるでしょォ。そうなれば、ナミノルロスに勝ち目は薄いでしょォねェ」

「! シェラさんがこっちに来るのか!?」

「さァてねェ。その前にワタシは帰るので、もうここがどうなろうと、誰がどうなろうとも、どうでもいいんですがァ……あァ、そうだ」

 

 

 何かを思い出したように、ごそりごそりと袖の中で何かをまさぐる。

 そうして袖から落としたのは、中身が空のモンスターボールがひとつ。

 

 ぱっかり口を開いた木彫りのボールを、暫し爪先で弄んだ後、男は足を振り上げる。

 彼が何をしようとしているのか、その意味に気付いたリクたちが介入するよりも早く、振り下ろされた足が、そのボールを粉々に踏み砕いてしまった。

 

 

()()はもう要りませェん。あなた方程度に負けてしまうポケモンなぞ、いても邪魔なだけですからねェ。ロゼリアさんは、あなた方が煮るなり焼くなり、お好きにどうぞォ」

「あんた……自分のポケモンを捨てるのか!? 1度負けただけで!?」

「役立たずを持ち歩くにもリソースを使いますからねェ。とりあえずこの場は、必要最低限のデータと……」

 

 男が仮面越しに見下ろす先。

 赤く濁った淀みに射抜かれている事を自覚して、名無しの少年は「フン」と鼻を鳴らす。

 

 

 

()()()の今の実力が分かっただけ、及第点としましょうかねェ。()もさぞかし喜ばれるでしょォ。あなたの闘志と怒りが、今なお燃え続けている事を」

「……ならば、()に伝えておけ。“リンネの儀”の末、この世界の果てで、おれは貴様の首を取ると」

 

 

 

 男と同じように赤く、それでいて確かな意志の光を宿す、少年の瞳。

 眼光だけで相手を射殺さんと、彼は己と同じ色の目を持つ男を睨み返した。

 

 それを受けて、男は粘ついた所作で目を細め、それから2人に背を向ける。

 とん、と彼が屋根の(へり)を蹴った時には、彼の身に纏う闇色の祭服(キャソック)が、夜の深淵に同化しつつあった。

 

 

「どうぞ、より良質な命を“ヨミの神”に捧げられるよう、己とポケモンたちを鍛えておく事ですねェ」

 

 

 屋根を飛び降り、反対側の軒先へ消える司祭の男。

 その後を追う意味は皆無に等しいと、リクも名無しの少年も、示し合わせずとも分かっていた。

 

 

「行ったか……。……はぁ、めちゃくちゃ強かったなぁ、あのロゼリア。森で戦った助祭(したっぱ)たちなんか、あいつとは比べ物になんないだろうな」

「当然だ。三司祭の実力は別格。奴らに勝てる相手となると、それこそヴォイド団を束ねるリーダー……“酋長”くらいのものだろう」

「ヴォイド団の酋長(リーダー)……か。あんた、そいつの事を知ってんのか?」

「さぁな。……だが、それよりも優先するべき事が、今はある筈だ」

 

 

 どこか話を逸らすように、名無しの少年が別の方向へ視線を動かす。

 そこを追及したい気持ちはあるものの、それだけにかかずらっている場合ではないと、リクもまた、彼が見ている方向を目で追った。

 

 その先に何があるかなど、分かり切っている。

 暗い夜を何度も引き裂く光に照らされて、筋骨隆々の青い巨体が、この距離からでもよく見えていた。

 

 

「ナミノルロス……! まだ暴れてるみたいだけど、ソラたちは無事なのか……?」

「分からん。だが少なくとも、ナミノルロスがまだあの場にいるという事は、誰かが食い止めようとしている訳だ。それに……見ろ」

 

 

 少年が指すのは、ナミノルロスそのものではなく、その巨体を照らす光だ。

 

 マハルドードリオによる“にほんばれ”ではない。

 わざによる“はれ”状態であれば、あんなに瞬間的な発光ではなく、なおかつこの場一帯をも照らすほどの強い光である筈。

 

 そして、先ほどバトル中に起きた雷鳴と雷光。

 目の前の相手に集中していたリクは気付いていなかったが、あれはただの自然現象ではなかった。

 

 あの瞬間、名無しの少年は確かに見たのだ。

 空より降る雷を受けて、光の中で聳立(しょうりつ)するシルエットを。

 

 

「あれは、でんきタイプのわざによる稲光。恐らくは……()()()()()によるものだ」

「ライチュウ……って、事は!?」

「あの場にライチュウが現れるとすれば、可能性はただひとつ。ソラ(あいつ)のピチューがピカチュウに進化し、そこから更にライチュウに進化したんだろう」

 

 

 ならば、と少年は己の腰に手を当てる。

 体を覆い隠す厚手のジャケットの下、色々なものを詰め込んだベルトポーチの中にある()()に、意識を這わせながら。

 

 

 

「逆転の手はある。後はおれたちが、()()をあいつに届けられるかどうかだ」

 

 

 

 

 

 

──何が起きた?

 

 

 朦朧とする意識の中、オヤブンバンギラスの脳裏に過った思考を、人間の言葉に直すならば、恐らくはそうなるだろう。

 

 地に伏した体は痺れに痺れ、もはや指の1本も動かせはしない。

 そうでなくとも、全身にこれでもかと刻み込まれた痛みが、バンギラスの起き上がる気力を、その傷口から流れ出させていた。

 

 

「グ、グル……ギィ、ラァ……」

「……RU、GI、GA……」

 

 

 霞む視界の隅に、オヤブンギルガルドもまた、傷だらけで地面に転がっているのが映った。

 “ブレードフォルム”のまま倒れ伏しているあちらは、肉体たる刀身も、手放された盾も、ズタボロのなまくら同然に成り果てている。

 

 “すなあらし”はとっくの昔に収まっていて、遥か頭上から降り注ぐルナトーンたちの淡い輝きが、2匹の敗者を嘲るように照らし出す。

 周囲に転がっていた他のポケモンたちは、バンギラスたちが戦っている間に起き出し、既に森の中へと逃げ帰っていた。

 

 今この場に残っているのは、もう戦う力の残されていないバンギラスとギルガルド、ついでに開戦当初からノビていた、ヴォイド団の助祭(したっぱ)たち。

 そして……この場で唯一、今なお立っている人間が1人に、ポケモンが1匹。

 

 

 

「──なーるほどねい♪ 貯蔵エネルギー量から考えて、()()を使えるのは1回のバトル中に、ポケモンちゃん1匹にだけ。そしてポケモンちゃんが受ける体の負担的にも、やっぱりバトル中1回が丁度いいカンジかな☆」

「チュ~プ、ワァ~」

 

 

 

 先ほどまで使っていた()()を左の手首から取り外し、懐へ仕舞い込むシェラ。

 彼女の傍らに浮かぶトゲキッスは、()()()()()()()()()()()が今まさに崩れ、淡い緑色の光となって溶け消えていくところだった。

 

 

「とりあえずお疲れ様、トゲキッスちゃん♪ 体の調子はどーお?」

「チュワワッ、プワ~ン♪」

「おっけおっけ☆ でも、後でちゃーんとバイタルチェック受けよーね♪」

 

 

 よしよしと相棒の頭を撫で、朗らかに笑う。

 そんな1人と1匹の姿を見上げながらも、バンギラスは何もする事ができなかった。

 

 “でんじは”による、“まひ”状態の付与。

 絶え間ない“エアスラッシュ”による、“ひるみ”の連打。

 

 これが通常のポケモンであれば、何もする事ができずにすり潰されるだろう必殺のコンボ、人呼んで“まひるみ”。

 だが、仮にもオヤブン個体であり、タイプ相性的にも有利なバンギラスやギルガルドであれば、そんなチャチな小細工(コンボ)なぞ容易く跳ね返せる……筈だった。

 

 

──であれば、()()はなんだ?

 

 

 野生のポケモンであるバンギラスは、タイプ相性という概念を、厳密には理解していない。

 しかし自分が使えるわざが、どういう相手には有効に働き、どういう相手には効き辛いかを、長年の経験から学んでいた。

 

 だからこそ、理解できなかった。

 

 自身の放つ“ストーンエッジ”も、ギルガルドの“アイアンヘッド”も、その他の多様で強力なわざも。

 本来ならば、そのすべてが、トゲキッスに対しての致命打になる筈だった。

 

 けれど実際は、こちらの放つあらゆるわざが意味を為さず、トゲキッスに大きな痛打(ダメージ)を与える事は無かった。

 そればかりか、反対に相手の放つ“エアスラッシュ”など、こちらが耐性を持つ筈のわざが、尽く手痛い傷をこの身に刻んできたのだ。

 

 

「ギ……ギラ、ラァ、ァ……」

 

 

 一体、何が起きたのか。

 間もなく気絶しつつあったバンギラスには、それを理解する術は無い。

 

 ただ、チラリと頭の隅に過ったもの。

 それは、自身の住む森の奥深くに住まう、()()()の持つ権能。

 

 あれも確か、目の前の奴と同じように、淡い緑色の光を──

 

 

 

「さって、ソラちゃんたちは大丈夫かな? 町の方からは、なんだか()()()()()()が吹いてきてるけど……うーんっ、この場の“おかたづけ”が終わったら、早く町に戻らないとね☆」

 

 

 

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