ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.99「電気ねずみは蜜の味」

『──ああ、クソ。やっぱ進化させちまうよなぁ……! あたしがそうするよう仕向けたとはいえ、そうなると……いや、それは後だ。今はいい。それよかソラ! あんたに寄越したポケモン図鑑に、“わざおもいだし”の機能がある事は知ってっか?』

『“わざおもいだし”……。ポケモンが忘れたわざを思い出させたり、反対に忘れさせたりする人がいるのは、地上でも聞いた事がありますけど』

『地上がどうかは知らねぇが、マハル(うちら)ではそいつを、図鑑ひとつでできるようにした。ってか、あたしがそう設計した。ピチューが覚えてたわざなんざ、たかが知れてるだろ? その機能使って、そいつのわざ構成弄っとけ! コツさえ掴めりゃワンタッチで済む!』

 

 

 ルスティカ博士の言葉通り、ロトム図鑑を呼び出せば、()()が覚えられるわざなどが可視化できるようになっており、その一覧にサッと目を通す。

 

 ほとんどのわざは地上でも知られている(そして、ソラも知っている)ものであった為、それらの名前だけを確認しつつ、知らないわざの確認も手早く、滞りなく。

 内部にロトムが入り込んでいるのもあり、容易な操作で()()のわざ構成を組み換え、UIを閉じた時には、既に。

 

 

 

「ブモォオオオオッス!! モォオアアアァアン!!」

「ドリリリリッ……! リーダッ、リーッ!!」

 

 

 

 巨大なオヤブンナミノルロスに、シェラのマハルドードリオ。

 2匹が激しい戦いを繰り広げる戦場に、ソラと()()は再び舞い戻っていた。

 

 

(っ……さっきまでとは比較にならないくらい、激しいぶつかり合い……。わたしたちが戻ってくるまでの間に、どれだけ相手に食らいついて……それで、あれだけの傷を負ったんだろう)

 

 

 しっとり艶かかな黒色だったマハルドードリオの翼は、ボサボサと荒れ切っている。

 夜の帷の中にあってなお、土埃や血が羽根に絡みつき、酷く汚れてしまっているのがよく見えた。

 

 “ウェーブタックル”によって戦線が崩壊した際、鳥車を盾として使い潰してまでソラたちを守り、それからずっと戦い続けていたのだ。

 あの巨獣をこの場に押し留め、町へ向かわせないように──たった1匹で!

 

 だが、それも永遠に続けられる事ではない。

 それは、徐々に精彩を欠きつつあるマハルドードリオの動きから察し取れた。

 

 

「ここからでも見えるくらい消耗(ダメージ)が酷い……ドードリオだけじゃもう()たない。早くわたしたちも加勢しないと。行けるわよね?」

「ラァイ……チュ」

 

 

 ソラの言葉に、傍らの()()が静かに応える。

 

 進化する前と比べて、()()の態度や雰囲気は、些かダウナー気味に変質していた。

 それでも、その中に宿る確かな熱と“ゆうかん”さは、それまでと変わらないものであると、ソラは確信している。

 

 

「ブモォッ……!! ブモ、モガァァァァアアア!!」

ドリッ!? ドリリリダッ、ドーリー!」

 

 

 やがて、目の前で戦っていたポケモン2匹もまた、ソラたちの存在に気付く。

 

 性懲りもなく敵が戻ってきたと、地面を踏み揺らし、咆哮を轟かせるナミノルロス。

 その“おたけび”を近距離から浴びながらも、少女はグッと足元を踏み締め、竦まないように息を吸う。

 

 何故戻ってきた、早く下がれ。そう言いたげに首を振るマハルドードリオの事は、少しだけ見ないフリをして。

 そうして少女は、力強く指を指し、敵の姿をその切っ先に捉えた。

 

 

「それじゃあ、行くわよ。何もかもがぶっつけ本番だけど……あなたとわたしなら、きっと上手くやれる」

「チャアァア……!」

 

 

 能力値(ステータス)は確認した。わざも設定し直した。敵の性能(スペック)も、さっきの戦いで見て取れた。

 

 であれば、後はソラの、トレーナーの実力次第。

 少女の知識と判断こそが、勝敗を分ける。

 

 そんな重責を肩に感じながら、己のポケモンを前に出す。

 主の指示を受け取り、するりと滑るようにして飛び出した、ずんぐり姿のシルエットこそ。

 

 

 

「ちゆりん──あなたに決めた!」

「ライッチュ。ラァイ……フ、ワァアアッチュ……!」

 

 

 

《ゆけっ! ちゆりん(ライチュウ)!》

 

 

 ……鮮やかな黄色に染まっていた原種に比べると、体毛は薄暗いレンガ色で、胴体もやや小さく丸い。

 同じく、原種や“アローラのすがた”がピンと耳を立てていたのに対して、こちらは耳が萎びたように伏せっていて、両目に被さっていた。

 

 四足歩行の体勢のまま、ふわふわと低空を浮かんでいるのは、恐らく体から発せられる微弱な“せいでんき”が故。

 その顔は非常に眠たそうで、見るからに微睡み、生態由来の“でんじふゆう”に身を任せていた。

 

 前脚で抱き抱えている尻尾の先端は、イナズマめいていた原種や、サーフボード然としていた“アローラのすがた”と異なり、丸っこい肉風船のようになっている。

 その内部には、何らかの液体が入っているらしく、ふんわりと甘い匂いが漂っていた。

 

 これこそ、“かみなりのいし”によってちゆりんが進化した姿。

 “マハルの地”固有のリージョンフォーム──“マハルのすがた”のライチュウである。

 

 

「あなたのとくせいは確認済み。まずは1発、ぶっ放しちゃって!」

「ラァイ……フワァァ、アラァァッチュ……!」

 

 

 前に飛び出すや否や、両手で抱えていた尻尾の先端を強く押し込み、圧迫し始めるちゆりん。

 すると、中にギッチリと詰め込まれていた液体が、辛抱堪らずに先端から吹き出し、甘い匂いを辺りに振り撒いた。

 

 

「ブモッ!? ブモォオオオ……オ……ブ、モォアァア……?

 

 

《ちゆりんの ミツから あまいかおりが ただよっている!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの かいひりつが さがった!》

 

 

 吹き出すと同時、あっという間に気化した液体は、“あまいかおり”を周囲に充満させる。

 異変に気付いたナミノルロスが、自身を取り囲むメープル色の霧を振り払おうとするも、その心地よい甘さに鼻をくすぐられ、自然と動きが止まってしまう。

 

 ちゆりんが尻尾から打ち出したのは、当然ただの液体ではない。

 これが地上であれば、匂いを嗅ぎつけたミツハニーやらヘラクロスやらが群がってくるだろうシロップの原液、即ち“あまいミツ”だ。

 

 

「ライチュウに進化したちゆりんのとくせいは、“かんろなミツ”! 場に出た時、相手全員の“かいひりつ”を下げる、珍しいとくせいよ。どんなに麻薬で理性を失ってても、この甘い匂いは無視できないでしょう?」

 

 

 図鑑説明によれば、マハルのライチュウは、体に電気を溜め込む事で、好物の“あまいミツ”を自身の体から生成できるようになったとか。

 つまり逆に言えば、ライチュウの尻尾から吹き出すミツが、より甘くより美味しいものであればあるほど──

 

 

(甘い匂いが強いって事は、それだけ電気がバリバリ溜まってるって事! 見た目からはちょっと分かり辛くなったけど、やっぱり気合は十分みたいね)相手の守りを崩すわよ、“アシッドボム”!」

「チュワァ……ッチュ!」

 

 

《ちゆりんは アシッドボムを つかった!》

 

 

 頬の電気袋から“せいでんき”が迸り、尻尾の先のミツ袋が帯電する。

 袋を通して見える中のミツの色が変化し、もう1度ちゆりんが尻尾の先を圧迫すれば、先端から紫色のミツが射出された。

 

 でんきエネルギーを浴びた事で、味や成分が変質したミツは、先ほどのような甘い匂いを帯びていない。

 弧を描くようにして己へ迫る粘液の砲弾を、ナミノルロスは自身の尻尾を手で掴み、即席の武器に見立てて撃ち落とそうとするが……

 

 

「ブモォオオオ──オォオアッ!?

「ドリッダァーッ!!」

 

 

 それを隙と見たマハルドードリオの蹴撃が、ナミノルロスのうなじを打つ。

 背後からの“ふいうち”に思わず体勢を崩し、尻尾を掴む力も緩んだ事で、“アシッドボム”はまんまと迎撃の手をすり抜けた。

 

 うなじを打たれてつんのめったナミノルロスの顔面に、紫色のミツ砲弾が直撃する。

 ミツのツンとした匂い、そしてビリビリ肌を焼くような()に、オヤブンはたまらず絶叫を上げた。

 

 

「ブッ──モォォォオオオオオオオオッス!?!?」

 

 

《オヤブンの ナミノルロスは とくぼうが がくっと さがった!》

 

 

 “アシッドボム”は、命中した相手ポケモンの“とくぼう”を、問答無用で2段階下げるわざ。

 拭い去ろうと藻掻くほど、ミツはベトベトと体に付着し、毒素を以て体力を奪い取っていく。

 

 先にも説明した通り、マハルのライチュウは尻尾の先端のミツ袋に電気を流す事で、中に溜め込まれたミツの味や成分を変え、毒に変換する事もできる。

 “あまいミツ”が大好きな“マハルのすがた”のライチュウは──でんき・どくタイプ。

 

 

(レイドポケモンは、能力変化の打ち消しができる。だからそれより前に、できるだけ弱体化(デバフ)とダメージを重ねる……!)まだよ! もう1回、“アシッドボム”!」

「チャアァッチュ……!」

「ブモ、モォガァアアアアアン!!」

 

 

 第2射を放つべく、尻尾の先端を握り締めるちゆりん。

 だが、このまま馬鹿正直に攻撃を受け続けるほど、オヤブンポケモンは甘くはない。

 

 ナミノルロスが怒りのままに振り上げた拳に、ぶくぶくと膨れ上がった泡を纏う。

 溢れる泡は、腕をべっとり汚していた“アシッドボム”のミツを洗い流し、今度こそ迎撃を為さんと投げ放たれた。

 

 

《ちゆりんは アシッドボムを つかった!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの バブルシュート!》

 

 

 毒々しいミツの砲弾と、ぱちぱち弾ける泡の砲弾。

 中空で正面衝突した2種の砲撃は、拮抗の末、“バブルシュート”側の勝利で終わった。

 

 四散するミツを洗い飛ばし、泡の群れたちがソラたちへと迫る。

 けれど、“アシッドボム”とぶつかり合っての拮抗が、その勢いや威力を削いでいる事を、少女は決して見逃してなどいない。

 

 小さく「ちゆりん」とだけ呟けば、進化を果たした“ゆうかん”な彼女は、再びそれに応える。

 頬の電気袋を激しく唸らせ、迸るでんきエネルギーを、今度は尻尾ではなく全身に纏い──そして。

 

 

 

「──“10まんボルト”!!」

「ラァァァイ──チュゥウウウ~……!!

 

 

 

《ちゆりんの 10まんボルト!》

 

 

 でんきタイプの中でも、トップクラスの知名度を誇るわざ。

 ピカチュウやライチュウの代名詞と言ってもいい、高火力のとくしゅ攻撃、“10まんボルト”の眩い奔流が解き放たれる。

 

 イナズマ模様を描きながら、夜闇の薄暗さを吹き飛ばし、虚空を駆ける稲光。

 その担い手へと迫る泡の一撃を貫き、蒸発させながら突き進み、なおも威力を衰えさせないままに、雷の一閃が巨獣を撃ち抜いた。

 

 

「ゴ、ガァアアアォオォオオッ!?」

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

 

 己を貫く高電圧流の凄まじさに、オヤブンポケモンは苦悶を吠えるオヤブンポケモン。

 その肌には、激しい電流に焼かれ、僅かに焦げたような痕ができていた。

 

 “こうかばつぐん”のタイプ相性に加えて、今のナミノルロスは“アシッドボム”によって“とくぼう”が半減している。

 如何にオヤブン、如何にレイドポケモンとはいえ、その身に刻まれるダメージは大きい筈……だが。

 

 

(やっぱり、“こうかばつぐん”でもそうダメージは大きくないか……。図鑑で確認した通り、“マハルのすがた”のライチュウは、“こうげき”も“とくこう”も、地上のライチュウより高くなかった。この程度じゃ、まだ決定打にはならない)

 

 

 更に言えば、ライチュウ本来の長所である筈の“すばやさ”も、実際は原種の半分ほど。

 低めの火力に鈍足気味と、凡そライチュウとは思い難い能力値(ステータス)をしているが、だからこそマハルライチュウには、ある長所が与えられている。

 

 

「──ブッ、ブモォッ……! ブ、モォオオォォオオオオ……!!

「足元に水が……!? またあの大技……“ウェーブタックル”が来る!」

 

 

 怒り狂ったナミノルロスが地面を踏み締めれば、またも水が溢れ出し、この場一帯を一時的な水場へと塗り替えた。

 徐々に形成されゆく波の上で、オヤブンは己の尻尾をサーフボード代わりに、全身の勢いを“かそく”させる。

 

 先のレイドバトルで、ソラや神官たちのポケモンを全滅させた大技、“ウェーブタックル”。

 本来は強力なぶつり攻撃の代償に、己の生命力(HP)を削る反動わざだが、ナミノルロスは“いしあたま”というとくせいによって、わざの反動だけを帳消しにしている。

 

 おまけに、みずタイプの威力を半減する“にほんばれ”も、今は展開されていない。

 波は既にソラの膝から下までを満たしていて、逃げ場はどこにも無かった。

 

 少しでも攻撃をやり過ごす為、宙に浮かぶちゆりんに捕まろうとした刹那、目の前に黒色の翼が割り込んでくる。

 

 

「ドドドッ、リーダリーッ!!」

 

 

《ドードリオの リフレクター!》

 

《みかたは リフレクターで ぶつりに つよくなった!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの ウェーブタックル!》

 

 

 ソラたちの前に立ったマハルドードリオが、サイコパワーを固めて巨大な壁を形成し、こちら側へと迫る波の一切を堰き止めんとした。

 

 その狙い通り、押し寄せる津波は“リフレクター”の障壁に阻まれる。

 行き場を求めた水たちは、「コ」の字を描くようにして壁を迂回し、ソラたちの後ろへ流れていった。

 

 しかし、何も攻撃のすべてを防ぎ切れる訳ではない。

 水という圧倒的質量を堰き止める内、ピシリピシリと、サイコパワーの障壁にヒビが入っていく。

 

 

「ドッ……! ドリ、ドリリダァッ……!!」

「モォオッ、ガァァァァオォォォオオオオオオン!!」

 

 

 

 意地でも通さないと、“リフレクター”の強度を更に高めようとするマハルドードリオ。

 そこへ、波に乗って速度を得たナミノルロスが、真正面からの突貫を敢行する。

 

 どれだけ波を止めようとも、本命の“たいあたり”ばかりは防げない。

 そして“リフレクター”を砕かれるという事は、以降の衝撃すべてが後ろのソラたちへも波及するという事。

 

 ここで止めない手は無い。防がない選択肢は無い。

 だからこそ。

 

 

 

「ナミノルロスの顔面に──“アシッドボム”を重ねて“エレキボール”ッ!」

「ライッ……チャァア!」

 

 

 

 彼女たちとて、黙って見ているだけではない。

 

 

《ちゆりんの エレキボール!》

 

 

 ミツ袋から放出したミツ玉を、尻尾の先で転がしながら電気を流し込む。

 そうしてちゆりんは、帯電した砲丸を投げ飛ばし、“リフレクター”の向こうに見えるナミノルロスの顔面へと叩きつけた。

 

 

「ブ──モゴォオオッ!?」

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《オヤブンの ナミノルロスの とくぼうが がくっと さがった!》

 

 

 “エレキボール”は、自身の“すばやさ”が相手よりも高いほど威力が増す。

 マハルライチュウの鈍足ゆえに大した威力は出せないが、今はそれで十分だ。

 

 “10まんボルト”よりもサッと繰り出せて、かつみずタイプに対して“こうかばつぐん”。

 そこへ“アシッドボム”を重ね合わせる(これまたぶっつけ本番だったが、今のちゆりんならばできるという確信が、ソラにはあった)事で、相手の“とくぼう”を更に減らしながらの一撃へ昇華する。

 

 結果、わざ(ウェーブタックル)わざ(リフレクター)とが衝突するコンマ数秒単位での直前に、顔面への一撃を被ったナミノルロスは、そのバランスを大きく崩す。

 その状態で障壁にぶつかった事で、制御を失った膨大なみずエネルギーが荒れ狂い、全方位へと弾けるようにして四散した。

 

 

「きゃああっ!?」

「チュワァッ……!」

「ド──リィッ!

 

 

《みかたの リフレクターが なくなった!》

 

 

 流石の“リフレクター”も、わざの暴発による衝撃を耐え切る事はできず。

 砕け散った壁の向こうから、防ぎ切れなかった余波がソラたちに襲いかかった。

 

 マハルドードリオは、寸でのところで踏ん張る事に成功したが、ソラとちゆりんはそうではない。

 彼女たちの軽い体は、行き場を失った水の勢いと風圧に持ち上げられ、大きく後方へと吹っ飛ばされる。

 

 

みっ!? ぎ、いっ……いっ、たぁ……っ!」

 

 

 それでも彼女とて、これまでダラダラと旅をしてきた訳ではない。

 カロンタウンでリクたちから教わった回避行動(ローリング)が功を奏し、咄嗟の受け身モドキによって、顔面を地面で強打する()()で済んだ。

 

 全身を脈打つ痛みに涙目になりながらも、なんとか起き上がる少女。

 鼻から垂れる赤い血は、鼻を摘んで無理やり潰す。

 

 

「“リフレクター”があってこれかぁ……。シェラさんのドードリオがいなかったら、もっと酷い事になってた。わたしもまだまだ見立てが甘いわね。……ちゆりんは、大丈夫?」

「……チュ、フワァア……」

 

 

 軽い“あくび”の聞こえる方に目をやれば、眠たそうでぼんやりとした顔つきではあるものの、いたって健在のちゆりんがそこにいた。

 その体は確かにびしょ濡れで、ダメージを受けた様子こそあるが、致命的な損傷があるようには見えない。

 

 ……そう。“マハルのすがた”のライチュウは、耐久力に優れている。

 “ぼうぎょ”、“とくぼう”、そして体力(HP)。ライチュウらしからぬ鈍足と引き換えに、ちゆりんはライチュウらしからぬタフネスを獲得していた。

 

 

「流石、大丈夫みたいね。それじゃあ反撃よ──“ハニーヘドロ”!」

 

 

 体に痛みを負いながら、なおも指示を飛ばすソラ。

 そんな主に応えるように、ちゆりんはミツ袋に再び電気を流し込む。

 

 ミツ袋の中のミツが、どくタイプを暗示する紫色から、更に色濃い赤紫へと変質する。

 ぶくり、と尻尾の先端から溢れ出すのは、技名に違わず、ヘドロめいてドロドロとした粘性のミツ。

 

 

「ラァァイチュ──ワァッ!

 

 

《ちゆりんの ハニーヘドロ!》

 

 

 粘り気の強いヘドロミツが投射され、体勢を立て直しつつあったナミノルロスへと着弾する。

 ベッタリと相手の体を汚染するミツは、しかしオヤブンに痛痒(ダメージ)を与える事は無い。

 

 けれどもそれは、ただの不発を意味しない。

 

 

「ブゥッ……!? モ、ォオオオッ……!?」

 

 

《オヤブンの ナミノルロスの ぼうぎょが さがった!》

 

 

 ヘドロの毒素が体表を溶かし、失われゆく耐久力。

 マハルライチュウの専用技たる“ハニーヘドロ”は、相手の“ぼうぎょ”を下げるへんかわざであると同時に。

 

 

「……チュッ。ラァァ~イ、チュゥ~……♪」

 

 

《ちゆりんの たいりょくが かいふくした!》

 

 

 相手の“ぼうぎょ”が溶け込んだミツを吸い、ちゆりんの傷が癒えていく。

 それ即ち、“ちからをすいとる”の“ぼうぎょ”版とでも言うべき──()()()()()()()()()()()()()()()H()P()()()()()()()()でもあるのだ。

 

 

(問題は、これでもなお相手が強力って事。わざの強さよりも何よりも、そのタフネス! “ひこうのジュエル”付きの“アクロバット”をまともに受けてなお、ああしてピンピンしてるのは、ハッキリ言って異常だわ)

 

 

 鼻血だか汗だか“ウェーブタックル”の水だかが混ざった妙な水分を顔から払い、小さく呼吸する。

 

 無論、そのタフネスがヴォイド団の秘薬や、“きょすうのはね”による異常強化の賜物だという事は分かっている。

 分かっているからこそ、決着を急がなくてはならないのだ。

 

 

(ちゆりんの進化は、逆転の切り札じゃない。土俵に立つ為の前提なんだ。ここから勝つには、わたしの指示が重要になってくる)

 

 

 一手でも誤れば、判断が遅れれば、それは死に直結するだろう。

 拭った筈の冷や汗が、再び頬を流れ、ソラは一瞬だけ目を瞑る。

 

 再び目を開いた時、視界の先で、こちらを睨みつけてくるナミノルロスと目が合った。

 “ハニーヘドロ”で溶かされた筈の体表が、持ち前の回復力で既に癒えつつあるのが見える。

 

 逆転の目はある。ただ、手が足りない。

 勝つ見込みはある。ただ、ジリ貧と紙一重。

 

 故に、ソラは。

 

 

 

「ごめん。わたしたちだけじゃ、ちょっとしんどいかも。手を貸してくれる?」

「──おう! 任せとけ、ソラ!」

 

 

 

 後ろから駆けつけてくる気配たちに、救いを得たと小さく笑った。




マハル図鑑 No.020
【ライチュウ(マハルのすがた)】
ぶんるい:ねむりねずみポケモン
 タイプ:でんき・どく
とくせい:かんろなミツ(なまけ)
ビヨンド版
 好物の ミツを 体から 出せる ように なった。常に 満腹な せいで 居眠りが 多い。
ダイブ版
 体に 電気が 溜まるほど 出せる ミツも 甘くなる。ミツを 生成すると 眠たくなる。

《進化》
ピチュー
→ ピカチュウ(とてもなかよしな状態でレベルアップで進化)
  → マハルライチュウ(『かみなりのいし』で進化)



《ハニーヘドロ》
 ぶんるい:へんか
  タイプ:どく
 いりょく:-
めいちゅう:100
 あいての ぼうぎょと おなじだけ じぶんの HPを かいふくする。そして あいての ぼうぎょを さげる。*1



《手持ち更新:ソラ》

NEW!
【ピチュー → ピカチュウ → マハルライチュウ(♀)】(NN:ちゆりん)
とくせい:かんろなミツ
せいかく:ゆうかん/こうきしんがつよい
わざ:
 10まんボルト/エレキボール/アシッドボム/ハニーヘドロ

*1
相手のぼうぎょを1段階下げ、下げる前のぼうぎょのステータスと同じ値だけ自分のHPを回復する。

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