ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.104「優しい強さ」

「……すみません。今、入っても大丈夫ですか?」

「ええ、構いませんよ。さっきも見た通り、電気の制御はまだできていない状態ですので、あまり刺激しないようにしてくださいね」

「あ、はい……分かりました、ありがとうございます」

 

 

 ひとしきり泣き終えて、ルスティカ博士から「朝飯どころか昨日の晩飯すら食ってねーだろ。腹減ってる時に考えたってロクなこた()ぇよ、いいから食え」とパンを無理やり口に突っ込まれてから、暫くして。

 

 ちゆりんを博士の下に預けるにあたっての詳しい話を聞いた後、ソラは1人、再び仮設テントへと戻ってきていた。

 その手に抱え込まれた籠には、リクの家で見繕ったいくつかのきのみが入っている。

 

 

「これ、ちゆりんの朝ごはんにって。博士から色々聞いて、食べても大丈夫そうなのを選んできました」

「どれどれ……“フィラのみ”と“ロメのみ”、それに“ズアのみ”ですか。はい、これなら大丈夫だと思います。ただ、あまりたくさんは食べられないと思いますので、そこだけ注意してください」

 

 医務担当の神官に確認してもらい、頷きが返ってきたのを見て、今度こそテントの中へ。

 中にいた他の神官たちにも頭を下げつつ、半ば転がり込むようにして押しかけた先ほどとは違い、今度は確かな足取りで診察台の前に立つ。

 

 

「もっかい来たよ。……さっきは、いきなり飛び出してごめんね」

「……チュ、ワァ……」

 

 

 マハルライチュウとしての性質が故か、今の今まで眠っていたのだろう。

 台の上で寝転び微睡んでいたちゆりんが、ぼんやりと目を開く。

 

 呼びかけられ、ウトウトとしながらに起き上がるも、手足を駆け回る“せいでんき”に顔を(しか)め、微かに身悶えする。

 頬の電気袋からは未だ電気が溢れ出していて、“まとわりつく”それらを鬱陶しそうに、痒そうに身をよじらせていた。

 

 

「ごはん、食べられる? 今のちゆりんでも食べられそうなのを、いくつか見繕ってきたんだけど……」

「ラァ、フワァ……っ! チュ……

 

 

 籠に乗ったきのみを見て、眠たそうだった目を僅かに開き、物欲しそうにするちゆりん。

 しかし彼女は、籠に、ひいてはソラに手を伸ばそうとして──何かに気付き、おずおずと手を引っ込めた。

 

 ソラは、その理由をすぐに悟った。

 最初にテントを訪れた時、ちゆりんに触れようと手を伸ばしたソラが、荒れる“せいでんき”に弾かれたのを、ちゆりんは覚えていたのだ。

 

 また、己の主を同じ目に合わせてしまうかもしれない。

 そんな恐れを、彼女の所作から感じ取り……少女は、そっとその場に腰を落とした。

 

 籠を足元に置き、その中から“フィラのみ”をひとつ、手に取って。

 

 

「ラァ……!?」

「っ……。だ、いじょうぶ」

 

 

 少女はそのまま、手に持ったきのみを、ちゆりんに手渡しした。

 

 彼女が取り落とさないよう、その手を取り、しっかりと握らせてやる。

 そうすれば当然、彼女の体に絡みついている電気が、手と手を介してソラにも伝搬する。

 

 手首から肘、肘から肩へと走り、熱と痛みを与えてくる電気。

 その瞬時の刺激に、少女は顔を歪めるも、しかし手を引っ込めたり、振り払う事は無い。

 

 そうしてきのみを渡し切った事を確認して、ようやく手を離す。

 痺れは未だに腕を焼くが、その事で少女が痛みに喘ぐ事は決して無かった。

 

 

「“からい”味のきのみ、好きでしょ? あんまり食べられないかもしれないけど、ちょっとでいいからお腹に入れよ?」

「……チュ……チュ、ワ」

 

 

 汗をかきながらも、笑みを崩さない少女。

 ちゆりんは、そんな主の姿と、渡されたきのみの間で、何度か視線を行き来させる。

 

 それから、ゆっくりと“フィラのみ”を一口齧り、好みの味に小さく目を細めた。

 咀嚼する動きは散漫で、やはり体調ゆえに食欲も芳しくないようだが、それでも確かに食べ進めていく。

 

 その様子を、ソラはじっと見つめていた。

 やがてきのみの半分ほどが齧られたところで、徐ろに口を開く。

 

 

「……さっきね、ルスティカ博士から言われたの。治療の為に、ちゆりんをこの町に置いていってほしいって」

「チュゥ……」

「それで、治療が終わった後も……この町に残って、博士たちの護衛をしてほしいんだって」

「……チャア?」

 

 

 不思議そうに首を傾げる。

 進化してもなお残る、その可愛らしい所作に、ソラは小さな笑みを零し、ゆっくりと語り始めた。

 

 居着いているポケモンのほとんどが野生であるこの町において、「トレーナーの言う事を聞く強いポケモン」は貴重である事。

 この町で暮らす野生ポケモンの筆頭たるジャラランガが、ナミノルロスを倒したちゆりんに、帰順の姿勢を見せている事。

 

 いつまたヴォイド団の襲撃が来ないとも限らない中で、博士や博士のポケモンたち、そしてこの町を守る戦力が必要である事。

 ……そして、その為の戦力として、ルスティカ博士はちゆりんを求めている事。

 

 そのすべてを、ソラは穏やかな口調で語り切る。

 声を荒げず、捲し立てず、不安を煽らないように。

 

 

「……博士はね、ちゆりんが凄い力を持ってるって言ってたわ。それまでの攻撃で体力(HP)が削れていたとはいえ、遥かに格上のナミノルロスを沈めるほどのパワー……それが育ち切った時、どんな風に化けるかが楽しみだって」

「……チュ、ゥワ……?」

「ふふ、あまりピンと来てないのかな。それで、博士はちゆりんを自分に預けてほしいって言ってたんだけど……ちょっとの間、保留にしておいてもらったの。わたしだけで決めるんじゃなくて、ちゆりんがどうしたいかも……確認したい、し……」

 

 

 穏やかに。落ち着いて。決して、不安にさせないように。

 そう務めて、穏やかに話していたソラの口調が、徐々に歯切れ悪くなっていく。

 

「……チュ?」

「……分かってる。博士の提案に賛成するべきだって。ちゆりんの体を治すには、それが一番いいし……また、博士たちが襲われるかもしれないって考えると、皆を守れる力は多い方がいい」

 

 膝を抱え、視線を微かに下へ落とす。

 重く、じっとりとした声色になりつつある事を、少女はしかと自覚していた。

 

 

「わたしたちはこれから、ずっと西に進み続ける。その時、またこの町が襲われたら……今回みたいに、すぐに戻ってこれるとは限らない。シェラさんたちだって、この町にずっとかかりきりになる訳にはいかない。だから、博士の傍で直接守れる誰か(ポケモン)が必要なんだ」

 

 

 ちゆりんの体を治し、博士やこの町の安全も確保し、ソラたちも憂う事無く旅を続けられる。

 その為の選択肢として、これは確かに最善(ベスト)なのだろう。

 

 今のちゆりんを、そのまま手持ちに入れて旅を続ける事が、色んなリスクを招く事も分かっている。

 無為なワガママを言ったところで、どうにかなる事でも、どうにかできる事でもない。

 

 分かっている。全部分かっている。

 分かっているからこそ、少女は「でも」と言葉を零した。

 

 

 

「……本当は、このままずっと、ちゆりんとも旅を続けたかったよ」

 

 

 

 顔を上げ、目の前のねむりねずみと視線を交わす。

 彼女の目には、今の自分がどんな風に映っているだろう?

 

 

「あの状況でナミノルロスに勝つには、ああするしか無かった。皆を助ける為の選択肢だった。そういう言い訳はいくらでもできる。けど……だからこそ、あなたが()()なった事の責任は、わたしが背負わなくちゃいけない」

「……チュウ、ワ」

「だから……だから、わたしがわたしのワガママで、ちゆりんを旅に連れ出す訳にはいかないの。分かってる。分かってる、のに……ごめん、ごめんね。やっぱり辛いよ、わたし」

 

 

 理性たる「冷静なソラ」は、どうするべきかを分かっている。

 けれども、感情たる「傷だらけのソラ」の内には、どうしても躊躇いが残っていた。

 

 ウツシタウンを旅立った初日、1番エリアで、まだピチューだった頃のちゆりんを捕獲してより、早8日。

 ほんの1週間程度の付き合いでしかない筈なのに、どうしてこんなにも離別が辛いのだろう。

 

 その辛さが、じくりと滲むような心の痛みが、感情からの納得を阻んでいた。

 

 

 

「ねぇ、ちゆりん。あなたは──」

「──ビぃっ!」

 

 

 

 不意に、この場にいなかった筈の声が、後ろから聞こえてくる。

 ば、と背後を見やれば、そこにはやはり、想像した通りのポケモンが2匹。

 

 

「……びぃタロ、はるりん! あなたたちは、もう大丈夫なのね」

「ビ!」

「ほーりぃ!」

 

 

 テントの入口から顔を覗かせながら、びぃタロとはるりんが元気よく声を返してくる。

 

 どちらも、ヴォイド団との戦いやナミノルロス戦で消耗し、ちゆりん共々神官に預けられ、治療を受けていたのだ。

 どうやら2匹の方は無事に完治したようで、その体に包帯はおろか、絆創膏すら見当たらない。

 

 

「あなたたちも、ちゆりんが心配な──……って、え?」

「るっび」

「れぇお!」

「しゅぼぉ」

「……らる」

 

 

 心配なのね、と言い切るよりも前に、ゾロゾロとテントの中へ入ってくる数匹のポケモンたち。

 

 ホルビーのほるっちに、シシコのれおピ、そしてスボミーにラルトス。

 皆、ソラが旅の道中で捕獲して、博士の下へと送り──そして、一時なれども道をともにしたポケモンたちだ。

 

 彼ら彼女らは、いきなりの登場にソラが戸惑っている間に、彼女の脇を“すりぬけ”て診察台へと向かう。

 台の上のちゆりんを取り囲み、思い思いの声を上げ始めるポケモンたちに、少女は暫し、目をパチクリと瞬かせた。

 

 

「れおぉに! れお、れぇおぉん!」

「しゅー、しゅっぼ。しゅぼっ、み~!」

「ら……らぁ、る」

「……チュゥ、ウ」

 

 彼らの鳴き声に、ちゆりんは耳を傾ける。

 彼女の瞳はやがて、眠たいが故でなく、考え込むように閉じられた。

 

 そのやり取りを眺めて、ソラもまた理解に至る。

 ポケモンたちが、ちゆりんに何を主張し、呼びかけているのかを。

 

 

「……うん、そうだよね。やっぱり……怖かったよね、皆」

 

 

 ソラが捕獲し、博士に預けたポケモンたちの多くは、最初に研究所が襲撃された際、ヴォイド団に奪われていた。

 彼らは捕らえたポケモンたちに、自分たちの手持ち同様、麻薬の投与による凶暴化の処置を行おうとしていたのだ。

 

 ソラたちが駆けつけるのが少しでも遅ければ、それは現実となっていただろう。

 隠れ家へ乗り込んだリクによって救出されるまでの間、ポケモンたちが抱いた恐怖は、少女の想像の外にある。

 

 また、あんな目に合いたくない。

 そんな恐怖を抱くが故に──彼らは、巨大な脅威(ナミノルロス)を退けたちゆりんに、大きな希望を見ていた。

 

 そして、同時に。

 

 

「……ね、ちゆりん。この町に、残りたい?」

「……チュワ、チュゥ」

「うん、そうだよね。……この子たちが、心配だもんね。あなたにとっては、れおピたちも、大切な仲間だから」

 

 

 例え、短い間しか一緒に旅をしておらずとも、彼らもまた、同じ人間(ソラ)(トレーナー)とする仲間たち。

 

 そんな彼らが敵に攫われ、命に関わる事態になりかけていた。

 その事実に怒り、奮起したからこそ、彼女は強大な敵を相手に、命を賭けて立ち向かったのだ。

 

 だって、彼女は。

 

 

「あなたは、とっても“ゆうかん”で……仲間思いだから」

 

 

 ポケモンは嘘をつかない。

 それが父の教えであり、ソラの価値観の骨子となるもの。

 

 だから、こうして向き合い、目を見れば分かる。

 ちゆりんが真に、どうしたいと思っているかを。

 

 そしてそんな目を見てしまえば、ソラはもう、何も言う事ができなかった。

 どれだけ傷だらけの心を抱えていようとも──目の前の相手が人形などではない事を、少女はよくよく分かっていた。

 

 

「大丈夫。びぃタロもはるりんも、今回の戦いで経験を得て、また強くなったわ。……わたしも、自分が何をするべきかがよく分かった。だから、わたしたちの心配はしないで」

「ビーイぃっ!」

「ほっけ、るりーる!」

 

 

 びぃタロがドンと自分の胸を叩き、はるりんが空中で踊るように翼を広げる。

 自分たちは大丈夫。自分たちの心配はするな。主の言葉に同意するように、力強くそう主張する。

 

 それを見たちゆりんは、一瞬だけ目を瞑ったのち、コクリと頷いた。

 

 果たして、それが何よりの答えだった。

 故にソラは、「だから」と言葉を続ける。

 

 

「……いつか、いつかね。ほるっちやれおピたちが、守らなくてもよくなるくらい強くなって……ちゆりんの症状も治って、また……戦えるように、なったら……」

「……チュ。チュゥ、チュ、ワ」

「なったら、ね……そうしたら、また……わた、わたし、と……」

 

 

 泣くな。堪えろ。涙を零すな。ちゃんと言い切れ。

 そう己に言い聞かせながらも、己の涙腺を制御する事だけが、どうしても叶わない。

 

 潤む目で必死に前を向けば、ちゆりんと目が合った。

 こちらを見やる彼女もまた──その目を潤ませ、口を結んでいた。

 

 それ故に、もう耐えられない。

 

 

 

「わたしたちと、また……一緒に、旅、しようね……っ! 絶対、迎えに行くからっ……!」

「チュッ……チュワ、チュ、フワァアア……ッ!

 

 

 

 ボロボロと、大粒の涙を零し合う。

 さっき、あれだけ泣きに泣いた筈なのに、また新しく涙が溢れ出し、留める事ができない。

 

 これからも、一緒に旅をしたかった。

 でも、それはできない。できないようになってしまった。

 

 だから、いつかの約束をする。

 いつかまた、一緒に旅をしよう。その為に、お互い頑張ろう。

 

 ワンワンと声を合わせて泣きながら、少女は誓う。

 

 

 

(強くなる……絶対に。もう、取り零さないように……。いつの日か、必ず……胸を張って、ちゆりんを迎えに来る為に!)

 

 

 

 

 

 

「……説教、するんじゃなかったのか? 無謀にも無茶こいた事へのお叱りってヤツをよ」

「する予定、だったんだけどねぇ~。ま、今回はいいかなって思うんだ♪」

 

 

 少女とポケモンたちの泣き声が響くテント、その外にて。

 入口に背を向けて、タバコを()むルスティカ博士と、しゃがみながらに頬杖をつくシェラの姿があった。

 

 実のところ、ソラのポケモンたちがテントの中に入れたのも、彼女たちがこっそり便宜した為。

 ついでに神官たちも、全員テントから出しており、テントの中にいるのはソラと、彼女のポケモンたちだけ。

 

 そうして博士たちは、入口の外から、中のやり取りを静かに聞いていた。

 

 

「ソラちゃんは罰を受けた。力の無い人間の働く無茶が、ポケモンちゃんにどんな代償を払わせる事になるのかを、その身を以て学んだ。なら、これ以上のお説教は、あの子を余計に追い詰めるだけで、学びにはならないかなって☆」

「罰、ねぇ……」

 

 タバコの煙を口の中で転がし、ふぅ、と吐き出す。

 午前の空へ、ツンと刺激の強い煙が踊り、ぼんやりと散っていった。

 

 

「だが、あいつが出張らなきゃ、ナミノルロスはこの町にまで攻めてきてたろーな。あたしらも死んでたかもだ」

「そこはまぁ、用事に手間取ってたシェラちゃんも悪いんだけど……でも、功績は失点を打ち消したりはしないんだよ? ルスティカちゃん」

「そうだな。それと同じように、失点が功績を無かった事にしたりもしねぇ。やらかしと手柄は分けて考えるものであって、互いに打ち消し合ったり、加算減算し合う事も()ぇ。だろ?」

 

 

 数秒、ともに視線を交わす。

 それから2人は、静かに頷き合った。

 

「……あいつ、大丈夫かね。今回の事がトラウマになって、またぞろ無茶をしねーといいが。今度は『なんとしてでも強くならなきゃ』とか言い出してよ」

「そこはソラちゃん次第でしょ。……でも、シェラちゃんは大丈夫だと思うなー」

 

 ゆるり、と立ち上がる。

 腕を伸ばし、「んー」と声を漏らすシェラを横目に、ルスティカ博士はタバコを咥えた。

 

 

「ソラちゃんはこの町を救う為に、己の実力に見合わない挑戦をした。その結果として代償を払う事にはなったけど、それでもその根底には、誰かを助けたいって気持ちが……優しさがあった。だからあの子は、この町を、皆を救えた」

「だが、気持ちだけで戦えりゃ苦労はしねー。知識もあるだろうが、肝心の実力がそれについていけてない」

「だからだよ。気持ちだけじゃ勝てない。知識だけでも追いつけない。ソラちゃんは今回の一件で、力の大事さを知った。強くなる必要を得た。でも、あの子には優しさがある。これからもあの子は、その優しさから誰かを助けようとする」

 

 

 そうして大神官(ジムリーダー)は、振り返り、ニッカリと笑う。

 その瞳には、タバコ好きの盟友と──テントの中で膝を抱えて泣いている、可能性の卵が映されていた。

 

 

 

「──ソラちゃんは必ず強くなる。強くなろうと足掻いて、努力して……それでも、優しさだけは見失わない。これは凄いコトだよ、ルスティカちゃん。ソラちゃんはきっと、()()()()()()()()()()。あの子には、その才能があるんだ」

 

 

 

 それだけを言って、シェラは歩き出す。

 向こうにいる神官たちに手を振りながら、彼らの下へ。

 

 

「じゃ、シェラちゃんはそろそろ帰るねっ☆ 捕まえた人たちを神殿(ジム)に連れてかなきゃだし。何人か神官の子たちを残してくから、この町の復興もだいじょーぶっ♪」

「……ま、後は壊れた建物やらの処理くれーだしな。そのくらいなら、ポケモンの手を借りつつウチらでもやれる」

「そゆことっ♪ それじゃ──()()()()()、またプルガーシティでね☆」

 

 最後にウインクだけを残して、走り去っていく小さなエプロン姿。

 その背中を眺めながら、博士は口の中の煙を吐き出して……自分の足元で座り込んでいる()を見下ろした。

 

 

「……との事だが。あんたはいつまでショゲ散らかしてんだ? 愚弟」

「……うっせ」

 

 

 博士が見下ろす先にいるのは、やはりリクだ。

 如何にも意気消沈と言った様子の彼に、大きな溜め息が降ってくる。

 

 

「どーせ、バカなあんたの事だ。今回の一件の原因が、自分にあるとでも思い上がってんだろ? あんたが“ひみつきち”なんてモンをほったらかしにしてたせいで、それをヴォイド団の連中に利用されたんだー……ってな」

「……実際、そうじゃんか。おいらがちゃんと“ひみつきち”を片付けて、無くしておけば……あいつらが、それを隠れ家に使う事も無かったし、アネキも──っ、でぇっ!?

 

 爪先だった。

 情け容赦の無い爪先による一撃が、少年の額に突き刺さった。

 

 

「な、なにすんだよアネキ!?」

「ケッ、バカを蹴飛ばして何が(わり)ぃんだよ。……仮にあんたの言う通りだとしても、人の“ひみつきち”に勝手に居座って、あまつさえそれを“わるだくみ”の拠点に使うような連中が10割悪いに決まってんだろ。余計な責任を無から生み出してんじゃねぇ、目障りだ」

「でっ、でも……」

「でももギモーも()ぇよ。それに、そこで座り込んでメソメソしてたって、あんたの勝手な罪悪感はいつまで経っても無くなったりしねーだろ。あ?」

 

 

 そう言って、弟の髪を強引に撫で回す。

 ソラにそうした時よりも、ずっと乱暴に……遠慮なく。

 

 いくつになっても仕方のない弟だと、ルスティカ博士は思う。

 それでも、その一方で──自分を助けに来てくれた事への感謝もあったが、それはそっと胸の内に仕舞い込んで。

 

 

「もし今回の事で、あたしに申し訳ねぇって思ってんなら……あんたも、ソラと一緒に強くなれ。今回の無茶が、無茶じゃなくなるくれー強くなって……そんで、ヴォイド団をぶちのめしてこい。あたしの分まで、完膚無きまでにな」

「……おう」

 

 

 立ち上がり、己の両頬を勢いよくぶつリク。

 その痛みで“なみだめ”になりつつも、目が覚めたと言わんばかりに、それまでの悲壮感は消えていた。

 

 

 

(ケケ。案外、ソラ(あいつ)からいい影響受けてんじゃねーか)

 

 

 

 その言葉もやっぱり、胸の内にそっと隠しながら。

 口から漏れるタバコの煙だけが、彼女が小さく微笑んでいる事を示唆していた。




この後【21:00】より3回目の追加投稿を行います。
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