ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.106「新たな仲間に誓う」

《あっ! やせいの テレネットが とびだしてきた!》

 

《ゆけっ! びぃタロ!》

 

 

「タイプ相性は不利だけど──行けるよね、びぃタロ! 進化したあなたを、あの子に見せちゃいましょ!」

「エ、ビぃービッ!!」

 

 投げ放たれたボールから、辛抱堪らず飛び出したびぃタロ。

 

 主たるソラに似て、その士気は万全かつ十全。

 気合たっぷりに拳を打ち付けながら、着地と同時に駆け出した。

 

 

(テレネットはでんき・エスパータイプのポケモン。みず・かくとうタイプのびぃタロ(クロオエビ)とは相性最悪。けど、タイプ相性だけがバトルじゃない!)速攻かけるわよ、“アクアジェット”!」

「エぃビ!」

 

 

《びぃタロの アクアジェット!》

 

 

 1歩進むごとに、体表から水が溢れ出す。

 肉体に留めておけぬほどに強まったみずエネルギーは、すぐに後方へ噴射され、ロケットめいた“かそく”をもたらした。

 

 ここまで来れば、もはや走る必要すら無い。

 地面を蹴り飛ばし、水の噴射のみを推進力として、水色の矢が地表スレスレを飛んでいく。

 

 

「れ、れれっ──てれっと、にっ!

 

 

《やせいの テレネットの でんきショック!》

 

 

 対してテレネットは、頭上の輪っかを回転させて、でんきエネルギーを発電し出す。

 必要量のエネルギーチャージはすぐに終わり、回転とともに帯電していた天使の輪(エンジェルハィロゥ)から、電気の奔流が打ち放たれた。

 

 

「やべぇぞ、このままじゃ……!」

「びぃタロさまが、電流の中に突っ込んでしまわれニャス!」

 

 “アクアジェット”は、相手よりも先んじて攻撃する事が可能な先制わざ。

 それを逆に利用し、あえて後から攻撃を繰り出す事で、今まさに放たれんとする“でんきショック”の中へ、自分から突っ込ませる魂胆なのだろう。

 

 事実、ここまでスピードが出てしまえば、停止はおろか減速さえ間に合わない。

 “こうかばつぐん”のカーテンへと、自ら正面衝突してしまうのも、時間の問題だ。

 

 だから、こうするのだ。

 

 

()()()()()()()、“グロウパンチ”!」

「エビぁアッ!」

 

 

《びぃタロの グロウパンチ!》

 

 

 背中越しの声に応え、全力で地面を殴りつける。

 タイプ一致がもたらす膂力は、問題無く直下の地面を砕き──そして、その際の反作用で以て、びぃタロの軌道が大きく横へとズレた。

 

 

「れぱ!?」

「ビぃイッ!」

 

 大胆なドリフトによって、半ば強引にテレネットの横合いへと回り込む。

 目まぐるしく変化するびぃタロの視界には、自分が正面衝突する筈だった“でんきショック”が、明後日の方向へ飛んでいくのが見えていた。

 

 だが、ソラの狙いは、ただ攻撃を回避するだけではない。

 

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

 今しがた放った“グロウパンチ”の効果が発動し、“こうげき”が上昇する。

 瞬間的にパンプアップした肉体を抱え、びぃタロは改めて、テレネットへと突貫する。

 

「“れんぞくパンチ”!」

「エぃっ──ビぃアッ!!

 

 

《びぃタロの れんぞくパンチ!》

 

 

 テレネットという種は、頭の上の天使の輪(エンジェルハィロゥ)からサイコパワーを放ち、周囲の知覚を行う。

 本来であれば、その能力によって暗闇でも360度を知覚し、敵を追い詰める事ができるのだ。

 

「エビぃッ!」

「れぴゃあ!?」

 

 しかし、今相手取っている個体は、年若く……というか、群れの中でも最も幼い個体。

 それ故に、知覚能力は他の個体に比べて未熟で、こうして懐へ潜り込まれてしまえば、即時の対応も難しい。

 

 

「エビッ! エビビビビビビッ──」

「れぷっ!? れぴっ、ぷっ、ぴゃあ──」

 

 

 一撃を重ね、二撃、三撃、四撃目。

 スピーディな戦いを得意とするびぃタロの、まさしく鉄板連撃(コンボ)がテレネットを襲う。

 

 チカリチカリと、頭上の輪が瞬くも、相手を振り払えるほどのサイコパワーを放つ余裕も無く。

 そうして、最後の五撃目が、今まさに──

 

 

 

「ビぃ──ベ、ブぅっ!?

 

 

 

《わけも わからず じぶんを こうげきした!》

 

 

 ぐりん、と軌道を変えて。

 最後の拳は、びぃタロ自身の顔面へと突き刺さった。

 

 

「はぁっ!? あいつ、自分を攻撃して……!?」

「……やられた、“こんらん”! さっき光ってたのは、“あやしいひかり”ね!?」

「れ、れぱっし!」

 

 

《やせいの テレネットの あやしいひかり!》

 

《びぃタロは こんらんした!》

 

 

 確かに、びぃタロ怒涛の連撃を振り払えるほどの、強力なサイコパワーを、即座に打ち放つ事はできない。

 けれども、その精神を晦ませ、動きを“こんらん”させる程度の光であれば、一瞬の内に差し込む事ができるのだ。

 

 

(不味……! 今のびぃタロは、さっきの“グロウパンチ”で“こうげき”が上がってる! “こんらん”で自傷を引いたら、それだけ自分に返ってくる痛打(ダメージ)も大きくなる!)

「れぇ──ぱっ、しゅにーっ!!

 

 

《やせいの テレネットの ねんりき!》

 

 

 視界ぐるぐる、頭の上でポッポ(イキリンコという説もある)が踊り、足元がおぼつかなくなったびぃタロ。

 隙だらけにふらつく彼へと、テレネットは今度こそ自身の大技、特大のサイコパワーをぶつけんとした。

 

 タイプ一致に“こうかばつぐん”、当たれば大打撃は必至。

 至近距離かつ“こんらん”状態では、回避する事は不可能に近いこの状況で。

 

 それでも攻撃を回避する方法があるとすれば──それは、トレーナーたるソラ自身の行動に他ならない。

 

 

 

「戻って! そして──次は、あなたよ!」

 

 

 

《びぃタロ こうたい! もどれ!》

 

《ゆけっ! はるりん!》

 

 

「れぴぃっ!?」

「ほほっ、けるーりっ!」

 

 

 ボールへの収納により、びぃタロの存在そのものがその場から消失する。

 結果、テレネットの放った“ねんりき”は空振り、何も無い虚空を掻き回すだけに終わった。

 

 そうして間髪入れず、ソラは2つ目のモンスターボールを投擲。

 空中で開かれたその内部から、選手交代と言わんばかりに、はるりん(ハルドリ)が羽ばたいた。

 

 

「まずは“ないしょばなし”! 相手の力を削ぐのよ!」

「けけりっ、ほぉ──けっきょぉ~~~っ!!

 

 

《はるりんの ないしょばなし!》

 

《やせいの テレネットの とくこうが さがった!》

 

 

「れ、れぴぃ……!?

 

 テレネットは視覚や聴覚の衰えた種だが、こうした音系のわざの影響を十分に受ける事は、オヤブンとの戦いで確認済み。

 囀る声色を受けて、ちっちゃな体が僅かにたじろいだのを、ソラは決して見逃さない。

 

 

「畳み掛けるわよ、今度は“エコーボ──っ、いや、やっぱり“かぜおこし”!」

「ほけっ? け、るーりるっ!!」

 

 

 指示しかけていたわざを咄嗟に取りやめ、別のわざを叫ぶ。

 その意図を測りかねて戸惑うはるりんだったが、すぐに対応し、声を張り上げようとした勢いのまま、翼を前方へ振り抜いた。

 

 

《はるりんの かぜおこし!》

 

《やせいの テレネットの でんきショック!》

 

 

「れっぴゃ……!?」

 

 

 吹き荒れる風の行く先。

 それはテレネットが高圧電流を解き放つ、まさにその瞬間だった。

 

 “ないしょばなし”によって威力が衰えてなお、脅威的な電流が宙を駆ける。

 しかしそれは、はるりんに命中するよりも先に、彼女が放った気流とぶつかり、中空を激しく撹拌した。

 

 でんきタイプはひこうタイプに強い。

 それ故、“でんきショック”と“かぜおこし”がぶつかれば、前者が打ち勝つのは当然だ。

 

 だが、風の流れという流動的なものを食い破ろうとした結果、でんきエネルギーは散りゆく気流に巻き込まれる。

 風が止んだその時、“でんきショック”は力を失い、諸共に四散してしまっていた。

 

 

「おっしゃ、相手の攻撃を上手くやり過ごせた! 今だぜ、ソラ!」

「うん! ──はるりん、新技行ってみよ!」

「ほっけりぃっ♪」

 

 

 風と電気とが相殺し合った刹那を縫い、空高く舞う薄緑色の翼。

 完全に相手の上を取ったはるりんは、己の周囲にいくつかの光を生み出した。

 

 光は見る見る内に形を帯びて、やがて星めいた形状へと変化する。

 夕暮れのオレンジ色が失せ、藍色の夜へと移り変わりゆく空に、光り輝く星の軌跡が描かれ──そして。

 

 

 

「“スピードスター”!!」

「ほっけきょっ、りりーっ!!」

 

 

 

《はるりんの スピードスター!》

 

 

 星が、落ちてくる。

 或いはそれは、天が閉ざされた地に住むマハルの人々が、唯一その目で知り得る“星空”でもあった。

 

 

「れっ、れぱっし……──!?」

 

 

 避け切れないと悟ったテレネットが、素早くサイコパワーを放ち、迎撃しようと試みる。

 ところが、降り注ぐ星々は“ねんりき”の壁に衝突する寸前、その1つ1つがあり得ざる軌道を描いて迂回し、迎撃をすり抜けていった。

 

 

「“スピードスター”は必ず命中する。そう簡単に撃ち落とされたりはしないわ!」

「れぱっ、れ──ぱっしゅ~~~っ!?

 

 

《きゅうしょに あたった!》

 

 

 雪崩めいて降りしきる星の光弾が、ものの見事に全弾命中。

 1発受けるごとに炸裂が起き、それがすべての光弾に連鎖する事で、暫しの間、爆風のもたらす砂埃が視界を阻害する。

 

 やがて爆風が収まり、砂埃も消え失せた時。

 

 

「れ、れ、ぱぁ……」

 

 

 穴ぼこだらけの地面の上で、立つのもやっとの状態でふらつくテレネットの姿が、誰の目にも飛び込んできた。

 そのバイザーに映る単眼光(モノアイ)は、ぐるぐる渦巻き模様を描いていて、すっかり弱っている事は明らかだ。

 

 すかさずソラは、新品のモンスターボールをバッグから抜き放つ。

 その投球フォームに、かつてのヘロヘロっぷりはもはや存在していない。

 

 

「これでっ──おしまいよ!」

 

 

《ソラは モンスターボールを つかった!》

 

 

 サイコパワーによる妨害も、電撃による迎撃もなく。

 額に命中するや否や、パカリと展開された開口部より、テレネットの体が吸い込まれていった。

 

 閉じたボールが地面へ落ちて、数秒かつ数回を震動に費やして。

 こつ(1回)こつ(2回)こつ(3回)、パチンと音が鳴った後、それっきりボールの揺れは静止する。

 

 それを確認して、ゆっくりと近付くソラ。

 彼女は地面を転がるモンスターボールを拾い上げ、透けて見える内部へ笑みを零した。

 

 

 

「テレネット、ゲットよ。……これから、よろしくね」

 

 

 

《やったー! テレネットを つかまえたぞ!》

 

 

 

 

 

 

「──はい、これでもう大丈夫。傷は全部治ったわ」

「れっぴ!」

 

 

 バトルの後、すぐにボールから出されたテレネットは、その場で簡単な手当てを受けた。

 と言っても、傷口に“キズぐすり”を塗布する程度だったのだが、それだけでもダメージはあっという間に回復し、すっかり元気いっぱいだ。

 

 元々彼女たちは、“いやしのはどう”が使えるなど、治癒能力にはそれなりに適性のある種である。

 今回のバトルで受けた程度の傷であれば、軽い治療だけですぐに完治するらしい。

 

 

「お疲れ様でニャした、ひいさま。旅を初めてよりの数日で、めきめきと実力を上げておられニャスね」

「そーだな。テレネットもいいガッツしてたし、手持ちも増えて、これで百人力ってワケだ」

「ありがと。わたしも疑ってはなかったけど、この子が凄い素質(ポテンシャル)を持ってる事が改めて分かって、とても心強いわ」

 

 労いの言葉を受けつつも立ち上がり、オヤブンテレネットへと向き直る。

 ここまでのバトルをじっと見守っていたボス個体は、今も静かに、ソラたちを見下ろしてきていた。

 

 

「見届けてくださって、ありがとうございました。この子はわたしが、責任を持って育てます」

「れぱっしゅ!」

「……レピ、テレニィ、ト」

 

 

 ソラが頭を下げ、捕獲された幼子もまた声を上げる中、オヤブンはコクリと頷いた。

 

 あの一件以降、群れや巣がどうなっているのかを、ソラは知らない。

 けれども、この幼い子が自分を探して、毎日洞穴の中を歩き回っていた姿に、何も思うところが無かったとは思い辛い。

 

 その上でなお、この子が人間とともに旅をしたいと願っている事を、許してくれた。

 それが意味するところを、汲み取れないトレーナーなど、決していやしないだろう。

 

 

(……この子は、わたしが強くする。でも、絶対に無茶はさせない。また、わたしのせいで、ちゆりんと同じ目に合わせたりはしない。わたしは、この子とも一緒に、旅の果てへと到達する)

 

 

 そんな決意と誓いを、今一度噛み締めて。

 それから少女は、新たに加わった仲間を優しく見下ろした。

 

 自身へ向けられた視線に気付き、テレネットもまた、こちらを見上げてくる。

 そのくりくり可愛らしい眼光を真っ直ぐ見据え、告げるべき事をひとつ。

 

 

 

「改めて、これからよろしくね──“てれーな”」

「……!! れ、れっぱ!?」

「あなたのNN(ニックネーム)よ。最果てへ向かう為に、あなたの……てれーなの力を、わたしに貸して」

 

 

 

 ポケモンの“おや”としての、最初の贈り物。

 果たして、その新しい名前を贈られたテレネット──てれーなは。

 

 

「れぱ、にぃーとっ♪」

 

 

 とびきり嬉しそうに、単眼光(モノアイ)を光らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

 

大神官さま(ジムリーダー)、ホロ回線の準備が整いました」

「うんっ、ありがとね☆」

 

 

 プルガーシティの神殿(ジム)、その地下にて。

 1人分の椅子だけが置かれた広い空間に、シェラと1人の神官が立っていた。

 

 神官は部屋の隅で、何やら大掛かりな装置を操作しながら、場の中心に立つシェラへと呼びかけている。

 彼の足元では、ひこうタイプの神殿(ジム)には少々ミスマッチなポケモン──かみなりポケモンのサンダースが、装置から伸びるケーブルを噛んだり踏んづけたりしているのが見えた。

 

 

「しかし、少々不便ですよね。パソコン間での電子データのやり取りならともかく、こうして複数人での大規模なリアルタイム通信をするとなると、毎回ポケモンの力を借りて回線や電波の強化をする必要があるんですから」

「ワガママ言わないの☆ これでも、昔よりラクになったんだよ? なんせ、会議の度に遠出して、みーんなで直接集まらなきゃいけなかったんだから♪」

「うわぁ……行き来や滞在にかかる日数やら費用やらを考えただけでも、気が遠くなりますね……。そう考えたら、こうしてオンラインでの会議ができるようになっただけでも、確かに有り難いか」

「そーだねぇ。ま、今はアラビカちゃんが、より大規模な基地局や電波塔の設置を計画してるみたいだし、そっちが上手く行けばもっとラクになると思うよ♪ ──というワケでサンダースくん、それまではお仕事よろしくね☆」

「サァダッ!」

 

 

 指示を受けたサンダースが、自身が触れているケーブルに電気を流し込む。

 重厚な起動音とともに、神官の操作する装置が、ディスプレイから光を発し、そしてその光はこの部屋全体に伝搬しゆく。

 

 直後、床を満たす光が浮き上がり、シェラの周囲に、幾人かのぼんやりとしたシルエットを形成し始めた。

 それらは、最初こそ視認し難いほどのノイズに(まみ)れていたが、次第に鮮明となり、やがてハッキリと姿を認識できるほどにクリアとなる。

 

 彼らは本来、この場にいる筈の無い人物たち。

 遠く離れた別々の街で、それぞれの神殿(ジム)を収める者──即ち、シェラと同じ大神官(ジムリーダー)であった。

 

 空間内に投影されたたそれらのシルエット、或いは“ホロ”を前に、シェラはいつものように元気いっぱいのピースサインを贈る。

 

 

 

「皆、ひっさしぶりー☆ こうして“神殿合議”で集まるのは、半年ぶりになるのかな♪」

 

 

 




マハル図鑑 No.108
【サンダース】
ぶんるい:かみなりポケモン
 タイプ:でんき
とくせい:ちくでん(はやあし)
ビヨンド版
 空気中の マイナスイオンを 電気に 変えるので 天気に 左右されず いつも 全力だ。
ダイブ版
 体毛が 逆立っているのは 感情が 高ぶっている 証。この状態で 放つ 電撃は 強力。



《手持ち更新:ソラ》

NEW!
【テレネット(♀)】(NN:てれーな)
とくせい:テレパシー
せいかく:おだやか/おっちょこちょい
わざ:
 でんきショック/ねんりき/いやしのはどう/あやしいひかり
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