“神殿合議”。
それは各地の
かつては
しかし、ポケモンの力を借りて現地まで移動しようにも、やはり全員が集まるまでに時間がかかり、それだけ情報や案件のリアルタイム性も落ちる。
そこで近年、
必要な機材を各
「皆、ひっさしぶりー☆ こうして“神殿合議”で集まるのは、半年ぶりになるのかな♪」
プルガージムの地下に設置された、ホロ通信用の会議室にて。
この
装いはいつものエプロン風ドレスで、青いボブの上にはトゲキッスのカチューシャ。
そんな彼女が見据える先に立つ2つのホロは、どちらも男性であり──その胸にはシェラ同様、錨と鎖を組み合わせたデザインの
『──む、シェラか。確か此度の合議は、
1人目は、
錆色の道着をぴしっと着込み、腰に巻かれた“くろおび”に緩みが無い事からも、彼の生真面目さが汲み取れる。
両手には、よく使い込まれた
『ヘイヘイヘーーーッイ! そんなカタい顔しないでちょーよっ! まだ会議が始まる前なんだから、しみったれた顔なんかせずに、ワシと楽しくお喋りしちゃわな~い?』
その隣に立つ2人目は、豊かな顎髭を蓄えた老爺だ。
真っ赤な甚平を着流して、灰色の髪はうなじで小さく結い、目には金の縁のサングラス。
古びた木の杖を片手に持つ姿は、どこか仙人を思わせるが、そんな印象を一瞬で払拭してしまえるほどに、態度がチャラい事この上無い。
「
『師匠はよせ。拙僧は其処許に、何も教えてなどおらん。其処許がそれほどまでに強くなったのは、其処許自身の才覚と鍛錬が故。無才の我が身が恨めしいものよ』
「まったまたー☆ シェラちゃんのトレーニングメニューやごはんの献立は、ぜーんぶお師匠様に教えてもらったものだよ♪」
『ほーいっ? ちょっとー? ワシの事なんか忘れてなーい? ヘイヘーイ、シェラちゃーん?』
和やかに言葉を交わす2人の裏で、ヤブサキが杖を振りつつ己の存在を主張する。
2m近い巨体を持つノウジュと比べるのは些か無理があるが、それを抜きにしても、彼の身長は、一般的な成人男性よりやや低い。
「ごめんごめん☆ ヤブ
『いやいやなんの! シェラちゃんのお願いなら、なーんでも聞いちゃうんだから! それにしても……ふぅむ』
顎に手を当て、ホロ越しにまじまじとシェラを見つめる。
彼女の頭の先から足元までを、舐めるように観察し……やがて「うむっ」と頷いた。
『
「うーんっ、ごめんねヤブ爺。今シェラちゃんね、どうしたらヤブ爺を事故に見せかけて風車の上から落とせないか、アイデアを練ってるとこだから☆」
目だけが笑っていなかった。
やると決めたらマジで
『……シェラもヤブサキ殿も、戯れはほどほどにな。他の
「大丈夫大丈夫、シェラちゃんはちゃーんと分かってるよ☆ 今回の会議の発起人として、お行儀の悪い真似はしないからさ♪」
『ほっほー、ワシもちょいとふざけ過ぎたかの。シェラちゃん以外のおにゃのこにセクハラでもしようものなら、今頃もっと酷い目に……』
『誰が酷い目合わすて?』
年若い少女の声に、3人の視線がそちらへ向く。
見れば、今まさにホロが形成され、投影された1人の少女が、こちらへ手を振っているところだった。
『まいど! なんやけったいな事が起きとるみたいやな。ウチの力でよかったら、いくらでも貸したるで!』
腰まで伸びた藍色の髪には、至るところに貝殻の髪飾りが飾られている。
水玉模様のチューブトップに、ジーンズ生地のホットパンツと、大胆かつ露出の多い格好は、さながら水着姿だ。
ニッカリ歯を剥いて笑う褐色肌の少女は、人を食ったような糸目がよく印象に残った。
「久しぶり、カデリアちゃん♪ ホロ越しだから正確には分かんないけど、前に会った時より貫禄ついたたんじゃない? なんだか
『ホンマか!? いやーっ、シェラさんにそう
「その辺はまだ未確定かな☆ 相手の目的とかはざっくり聞いたけど、まだ確証は得られてないし、次にどこで何をするかも不明だしね。その辺含めて、皆の情報を擦り合わせるのが今回の目的でさ」
『せやけ、博士さんとこも襲われたんやろ? これはウチらへの挑戦に決まっとるやないか! モタモタしとらんでも、ウチの神官連中やったらぎょうさん応援に寄越したるで』
「だからね? まずは、これからどうするべきかの話し合いを今回の会議で──」
シェラにしては珍しく、相手への対応に困っているような歯切れの悪さ。
そんな彼女の帯びる困惑を知ってか知らいでか、糸目の少女はニンマリ笑い、『安心し』と言葉を重ねた。
『この世界にちょっかいかける
「うんっ、カデリアちゃん1回ちょっと落ち着こっか☆」
ほのおタイプの
そんな2人のやり取りに、ノウジュは首を横に振り、ヤブサキは『相変わらず、おっかないのー』と肩を竦めた。
『まま、そのくらいにしちゃってよん。会議の前からそんなに張り切ってたら、始まる頃には疲れちゃってるぜーい? ただでさえカデリアちゃんはイライラしやすいんだから、若い頃からそんなに怒ってたら、20年後にはシワだらけ──』
『じーさんなんやて?』
『ハイ、ナンデモゴザイマセン』
『……各々方、落ち着かれよ。“
ノウジュが、その太い指で示す先。
彼以外の誰にも気付かれない内に、しれっと新しいホロが投影されていた。
意識の外からいきなり現れたように思えて、まだ経験の浅いカデリアなどは、ついギョッとしてしまう。
そして、誰も彼もの注目を集めながら──彼は、ゆるりとこちらを見やった。
『ら、ラギリのおっちゃん……いつの間に、そこおったんや?』
『……』
線の細い男だった。
ノウジュとタメを張れるほどの長身に、レザージャケットの上からでも分かるほどに細い肉体は、萎びた木と相対しているかのよう。
テンガロンハットの下は、くすんだ橙色の髪がこれでもかと伸びていて、目元を完全に隠してしまっている。
腰から下げられたボールホルダーには、数個のハイパーボールに紛れて、明らかな対人武器──リボルバー銃が2丁も収納されていた。
「ラギリさん、来てくれたんだ♪ 砂漠の方の監視はだいじょーぶ?」
『……』
『相っ変わらず愛想の無い奴じゃのー。折角の美髪が、砂まみれで汚れちまっとる。たまにはウチの温泉に、湯治のひとつでもしに来ればよかろーに。ついでにカネも落としてけー?』
『……』
『……ホンマ喋らんな、おっちゃん。これから会議やっちゅーのに、挨拶のひとつも……』
あまりの寡黙さに、半ば苛立ちを隠せないカデリアが、食ってかかろうとした──その直後。
『……不調か』
ぼそり、と。
意識していなければ、思わず聞き逃してしまうほどに小さく掠れた声で、ラギリが呟いた。
『……なんや? 不調? ウチはこの通り元気やけど』
「うーん……ラギリさんが何を言いたいのかは、いつも通りよく分かんないんだけど──」
『安心めされよ。我が街で預かりし其処許のご令嬢は、変わらず壮健でおられる。毎日、あちこちを歩き回り、擦り傷こそ絶えぬが、病気のひとつもしておられぬよ』
淀み無くそう答えたノウジュに、カデリアは信じられないと目を向ける。
彼の言葉を受けて、ラギリは小さく……それこそ、風で揺れているだけかと見紛うほどに小さく頷いた。
『不愉快か』
『いや。細やかな不平不満こそ漏らせど、大層
『ああ』
『お気持ちは有り難いが、
『そうか』
『毎度ながら、こ奴らの会話を聞いてると、“ワンダールーム”に顔突っ込んでるみたいな気分になるのー』
「ラギリさんの圧縮言語を正確に解読できるのは、お師匠様以外だと、まだ来てない
髪で顔が隠れているのもあって、ラギリの感情は態度から一切読み取れない。
それでよく「和やかに会話できたな」みたいな雰囲気を出せるものだと、シェラは
『しっかし、“
『──ククッ。子ガプリコどもの囁きが聞こえる。我が忌み名を恐れ、その到来に
思わずといった風に、カデリアが『うわでた』と声を上げる。
心底面倒くさそうに振り向けば、彼女よりも少し年上に見える少年が、この場に投影されつつあった。
『
『素直に「妹が店番してるんでそう長くは参加できません」って言えへんのか???』
奇妙な風体の少年だった。
夜の闇ほどに漆黒のケープマントから垣間見える両腕、そして左目は、痛々しいほどに大量の包帯で覆われている。
だが、その下に負傷や欠損など、ただのひとつも存在しない事を、この場の誰もが知っている。
飴色の短髪を艷やかに撫でつつ、顔面の左半分を右手で覆う、奇妙なポーズを取る。
意味ありげに『フッ……』と笑うが、実際のところは何の意味も無かった。
「ハナミくんも、いつも通り元気みたいでよかった♪
『時は不変の
「兄妹揃って元気いっぱい、お店も繁盛してて、今日も朝ごはんのシチューが美味しかった──と。うんうん、それは何よりだね☆」
『なんでシェラさんは、こないスラスラと受け答えできるん……?』
『ほっほほ、カデリアちゃんも経験が足りないようじゃの。
『いや、じーさんにも無理なんかい!』
カデリアのツッコミもどこ吹く風で、ヤブサキは『カッカッカ』と白髭をしごく。
……だが、不意にその動きが止まり、サングラスの奥でにわかに目を細めた。
『……? どしたん、じーさん』
『ヤ~なクソババアの気配がしよる。風呂上がりに“ゆきなだれ”ぶち込まれたみたいな気分じゃ』
『それは、私の事ですか?』
露骨な舌打ちに出迎えられて、現出する7人目のホロ。
『お山の成金大将が、随分なご挨拶ですね? そのままお宅の火口に浸かって、痩せっぽちの薪になってしまえばよろしいのに』
その老婆の視線は、恐ろしく冷え切っていて、見る者を震えさせる寒気があった。
顔をすっぽり覆う
手足も身長相応に短いものの、ヤブサキのように腰が曲がっている事は無く、ふかふかのコートに身を包んでいた。
『カーッ! まーだくたばっとらんのかクソババア! 長いこと雪山に住んでると、背筋も凍ってそれ以上伸びんのかのー?』
『無駄に熱いだけの湯に年中浸かって、腰のふやけたジジイに言われたくありませんね。火山の腐った匂いを毎日嗅いでると、必要最低限の品性も養えないほどバカになるんでしょうか?』
「ま、まぁまぁバン
宥めるように声をかけたシェラへと、その冷めた視線が突き刺さる。
彼女だけではない。ノウジュやカデリアへも、同様の目つきが向けられていた。
『怪力年増に生臭坊主にイキがり娘と、ジジイのお友達は揃いも揃って軟弱揃い。死の危険もさして無い“
『我ら
『知らん』
『人望無いやんけこの選民ばーさん!』
“
『あはは……。バントーさんがいつもご迷惑をおかけしてすみません。彼女も、
『ご迷惑とはなんですか、
『そうやで、カミイせんせ。せんせが
なんか、いつの間にかおるな。
そう思って、くるりと後ろを振り向いた──その瞬間。
『そうかなぁ……。これでも教師だから、
『うぉわっはぁ!?』
よく着こなされたスーツはぴしっとしていて、メタリックなネクタイがアクセント。
緋色の三つ編みを右肩に流す彼の態度は、いたって温和な好青年そのものだ。
……ただし、その顔面すべてを覆うほどの仮面が無ければ、の話だが。
本人曰く、オスのカエンジシを模したというその仮面は、顔面どころか首元まで覆うほどにデカく……そして、これでもかと言うほどに恐ろしげなデザインで描かれていた。
「あ、カミイ先生だ☆ 今日は遅かったね、何かあったの?」
『いやぁ……お恥ずかしながら、野生のポケモンに襲われてしまって。なんとか撃退したんですが……。僕を見るなり、怯えながら襲ってくるなんて……何があったんでしょう?』
『そりゃお前さん、その仮面が怖かった以外にあるもんかいの』
ヤブサキの指摘にも『そうかなぁ』と首を傾げる辺り、相当“すじがねいり”だ。
少なくともカデリアやハナミ、そしてシェラでさえ、彼の素顔を見た事は1度も無いくらいには、あの仮面を四六時中付けているらしい。
『どうやら、僕で最後のようでしたね。遅れてしまって申し訳ありません』
「いいよいいよ、気にしないで♪ それに、まだ全員は揃ってないからね☆」
『
間もなく、会議が始まる時間となる。
何かトラブルでもあったのだろうかと、周囲を見回そうとして──
『あァ~ラぁ、ごめんなさァい♡ ちょーっと時間に遅れちゃったワ♡』
『なっ、あんさんは……!?』
『……どういう事か。此度の会議、其処許の参加は聞いておらぬが』
『そりゃま、そうでしょう? 本来の担当ちゃんに代わって、
全員の注目を一身に集めながらに、生成される9人目のホロ。
そのがっしりとした体格が、シルエットとして明瞭に映し出される。
……そう、
その意味を理解した途端、息を呑む声がいくつか漏れた。
『──今回の“神殿合議”、
彼は、全裸であった。
ムキムキの肉体を隠しもせず、隠さなきゃいけないところさえモロ出しにして。
そんな裸体の上から、ネックレスや指輪、ブレスレットなど、色とりどりの宝石を散りばめたアクセサリーを、これでもかと身に纏う美丈夫。
豪奢な椅子に足を組んで座る彼の膝の上では、2匹のポケモンがのんびりと寛いでいる。
こうらポケモンのカブトに、ようくんポケモンのチゴラス。いずれも、地上では化石ポケモンとして知られている種だ。
そうして誰もの注目を集めた金髪のハンサムは、艶やかなウインクを振り撒いた。
ルージュの塗られた口元が、ニヤリと弧を描く。
『さ、会議を始めましょ。司会進行はこのアタシ、
マハル図鑑 No.201
【カブト】
ぶんるい:こうらポケモン
タイプ:いわ・みず
とくせい:すいすい/カブトアーマー(くだけるよろい)
ビヨンド版
硬い 殻は 3日に 1度 脱皮する。100年 生きた カブトの 殻は 絶対 砕けない。
ダイブ版
水底に 潜んで 獲物を 待つが 稀に 浅瀬まで 上がってきて 地上の 獲物を 襲うぞ。
マハル図鑑 No.216
【チゴラス】
ぶんるい:ようくんポケモン
タイプ:いわ・ドラゴン
とくせい:がんじょうあご(がんじょう)
ビヨンド版
わがままな 性格で すぐに かんしゃくを 起こす。1度 懐いた 相手には 甘えがち。
ダイブ版
大顎は 頑丈だが 虫歯に なりやすく 親や トレーナーが ケアを する 必要が ある。
《進化》
チゴラス
→ ガチゴラス(朝・昼にLv.39以上で進化)
→ ???(???で進化)
今回の書き溜めは以上。
またある程度のストックが完成したら更新します。