【!CAUTION!】
本エピソード以降、作中描写にて、シリーズ最新作「Pokémon LEGENDS Z-A」のネタバレ要素を含む可能性があります。
「オーラを纏ったポケモン……ですか?」
アローラ地方の海上に浮かぶ、ポケモン保護を目的とした人工島エーテルパラダイス、 その一角に設けられた応接間にて。
エーテル財団の代表たる母に代わり、来客に応対していたリーリエは、相手の言葉を“オウムがえし”するようにして呟いた。
「うむ。ぬしポケモンでもないのにオーラを纏い、強い力を得た野生ポケモンがポニ
柔らかいソファがいまいち慣れないのか、どこか居心地悪そうに身動ぎしながらそう語るのは、ポニ島のしまクイーン・ハプウ。
リーリエ
「ハプウが捕まえたポケモンの体には、オーラの残滓が残っていた。……だが、おれらは長い間、メガロタワーに封じられたネクロズマと、そのエネルギーを観測し続けてきた。だからこそ分かる。あのポケモンが纏っていたオーラは、ネクロズマのものではない」
「あのグランブル……つらそうだった。ネクロズマとはちょっとちがうけど、でも、なんだかにてるかんじ」
青白い肌をした紫髪の男性と、同じく青白い肌でオレンジの三つ編みの少女。
こことは異なる世界──“ウルトラメガロポリス”からやってきた集団、“ウルトラ調査隊”のダルスとアマモだ。
曰く、アローラの風習を調査する過程でポニ島に立ち寄ったところ、オーラを纏ったグランブルに襲われたという。
そこに駆けつけたハプウによって事なきを得、彼女の手で捕獲されたグランブルの調査と保護の為、エーテル財団を訪れたとの事。
「でも……そんな事があり得るのでしょうか? 勿論、ハプウさんたちがウソをついてるとは思いませんけど」
「おれらも驚いている。前に話した事を覚えているな? かつてウルトラホールを介してアローラに降り注いだネクロズマの光……それが“Zワザ”のパワーであり、ぬしポケモンが纏うオーラの元だ。つまり本来、ポケモンのオーラとはネクロズマの力なのだ」
「それでね、オーラのたくさんふりそそいだばしょが、しれんのばしょなの。だから、しれんのばしょでオーラをたくさんあびたポケモンが、ぬしポケモンになれるみたいなんだ」
「でも、今回はそうではなかった」
リーリエの言葉に、調査隊の2人は頷きを返す。
ハプウもまた、彼らの傍で神妙な顔をし、腕を組んでいる。
「こやつらがグランブルに襲われておったのは、わらわの家からも近い……つまり“ポニの
「それに、ハプウさんがあたしたちのかわりにたたかってくれたけど……あのグランブル、とってもつよかった。まるで、ホントにぬしポケモンみたいだったんだ」
「それは……」
ごく、と唾を飲む音がする。
3年前、
そうでなくとも、アローラ存亡の危機をもたらしたネクロズマの暴走や、その強大なパワーは、今も彼女の記憶に焼き付いている。
それと同種の、しかしそれそのものではないオーラを纏った、ぬしならざる野生ポケモン。
ポケモントレーナーを志してはいるが、今なお未熟な少女にとって、それが大きな脅威である事は容易に理解できた。
「今のところは、わらわが戦ったグランブルだけじゃが、いつまた別のポケモンがオーラを纏い出すとも限らん。他のしまキング・クイーン、キャプテンたちとも相互に連絡を取り合うつもりじゃ」
「おれらとしても、ネクロズマやウルトラビーストとも異なる脅威がこのアローラに迫っているのであれば、ウルトラ調査隊として動かない訳にはいかない。おれらも手を貸すつもりだ。……だから、そろそろ聞きたいのだが」
そこでやおら、それまでリーリエを見据えていたダルスの視線が、少し下へと向けられる。
アマモとハプウもそれに倣い、3人分の視線がどこに向いているのかに気付いたリーリエもまた、苦笑しながらに、視線を自身の膝下へと落とした。
……そう。この場にはリーリエたち4人の他にも、同席者がもう1人いる。
今の今まで一言も喋っていなかった
「おまえは、いつまで寝てるつもりなんだ? おれらは一応、おまえの力も頼りにしているのだが」
「ん、みゅ……ああ、だいじょーぶ、だよ……。話は……ちゃんと聞いてるからさ」
「ひゃあ!? も、もうっ、ヨウさん! いきなり寝返りを打たないでください……!」
「ああ、ごめんねぇ」
3年前に設立されたアローラリーグの初代にして現チャンピオン。
アローラ地方を襲った災厄のポケモン・ネクロズマを調伏し、異界よりの侵略者“レインボーロケット団”を撃退した英雄。
そして今は、赤面するリーリエの抗議を軽く流しつつ、間延びした声を上げる
「でもなぁ……リーリエの膝の上で寝るのは、一番落ち着くんだよなぁ」
「ま、またそんなこと言ってぇ……っ!」
即ち、メレメレ
「3年経っても相変わらずじゃのう、ヨウは。“しまめぐり”の時もこの調子で、どこでも構わず寝ておったが」
「ああ、おれらもよく見かけた。眠たそうにしながら、よくぬしポケモンと渡り合えるものだと驚いた事がある」
「ケンタロスのうえにのりながらねてたときは、みんなでビックリしたよねー」
「ライドポケモンはいいよねぇ……寝てても移動できるし、寝てる内に到着するし……。移動してる間にバトルがあったら、そのたび起きなきゃなのがアレだけど……」
「普通は起きて移動するし、起きてバトルするんじゃよ。今更言ってもじゃけど」
呆れ混じりのジト目を飛ばすも、返ってくるのはポヤポヤとした寝ぼけ
これでバトルも腑抜けであれば目くじらのひとつも立てられるのだが、バトルの時のヨウは至って真剣で、彼が手を抜いた事など1度も無かった。
その結果としてアローラを救い、チャンピオンまで上り詰めたのだから、顔中に浮かべていた呆れは溜め息として吐き出すしかない。
「アローラは日差しがあったかくて気持ちいいから、どこで寝ても快適なんだよねぇ……。まぁ……一番気持ちいいのは、リーリエの傍で寝てる時なんだけどねぇ。リーリエが一緒にいて、あとは
「……!! よ、ヨウさんってばいっつもそうです……! わたしがびっくりすることばっかり……っ!」
ヨウがケロリと言ってのけた言葉を、顔を真っ赤にして受け止めるリーリエ。
3年前の“しまめぐり”に伴う多くの事件が終わってよりこちら、この2人は3年間ずっとこの調子である。
最早ツッコむ意味も無いと、ハプウは首を横に振った。
「で……なんだっけ、オーラを纏った野生ポケモン? んー……このところはウルトラビーストが新しく現れたって話も聞かないし……多分、ウルトラホール絡みじゃないと思うなぁ……」
「ウルトラホール絡みではない……つまり、おれらの世界や別の世界ではない、この世界の中で異変が起きているという事か? 確かに、ネクロズマも今はおまえの手持ちになって穏やかに過ごしている。ネクロズマ以上の存在が別の世界にいるとも考えづらいが」
「でも、ヨウさんのてもちになってからは、ネクロズマはのんびりできてるんでしょ? あばれたり、ポケモンにオーラをあたえるなんて、するとはおもえないけど……」
「それなんだけどねぇ……」
ぽや、とした表情のまま、のっそりと起き上がるヨウ。
彼が己の膝から離れた事で、リーリエがどこか残念そうな表情を見せるが、彼はそれに構わず懐からボールを取り出した。
黒と白の半球が合わさったデザインに走る、黄色い「H」のライン。
そのハイパーボールにどんなポケモンが収められているかなど、この場の全員は説明するまでもなく分かっていた。
「ここ2、3日くらいねぇ……ネクロズマが、なんだかソワソワしてそうなんだぁ……。具合が悪いとか、また暴れそうとかじゃなくて……なんだろうなぁ、何かが気になってるとか、落ち着かないとか、そんな感じ?」
「ソワソワしている……か。具体的に、何を気にしていそうかは分かるか? 現状、ネクロズマについて一番知っているのはおまえだからな」
「うーん……多分ね、敵が来るとか、そういうのじゃないと思うんだぁ。何か……というか、どこか遠い場所が気になってて、そこで何か起きてそうとか、そういう感じかも……?」
「ふむ。ネクロズマは別世界から来たポケモン、故郷や別の世界の事を感知できるかもしれぬが……さっきのヨウの話からすると、この世界で何かが起きておるのじゃな? 問題は、それがどこなのかじゃが……」
「僕も、詳しくはあんまり分かんないなぁ……。でも、なんとなくネクロズマが意識を向けてるとこは分かるかも」
そう言って、ヨウは徐に人差し指を立てる。
掲げられた手元に、誰もの意識が集まった直後、彼は──指先を、思い切りテーブルに向けた。
一瞬、首を傾げる面々。
彼は何も、ネクロズマがこの応接間のテーブルに関心を寄せているなどと言ってる訳ではないだろう。
であれば、どこに?
そのように思考を巡らせた矢先……ハプウは不意に気付く。
「……
「わかんない」
流石はじめんタイプの
そんな一言を言外に示しつつ、その上でヨウは、彼女の求めているだろう答えを返した。
「多分、めっちゃ下。ずっと、ずっと、ずっと……めちゃくちゃ地下。地面の下のどこかで……何か、変なコトが起きてるのかも」
「──ええ、はい。暴走メガシンカを起こしたエンブオーは無事に鎮圧、捕獲しました。その際に発生したエンブオナイトも回収してあります」
下には一面の青い海、上にはどこまでも続く快晴の空。
そして南東方向に遠く見えるは、ミアレシティのシンボル・プリズムタワー。
今は工事中
そんな遠景を視界に収めながら、青年は己のパートナーたるカイリューを駆り、青一色の世界を飛んでいた。
「メガストーンはクエーサー社に、捕獲したエンブオーはモミジさんのところに預ければいいんですよね?」
『それでいいよー。その調子でジャンジャン調査を続けちゃってよ!』
片手で弄んでいたメガストーンをバッグに突っ込みながら、傍らを飛ぶスマホロトムに声をかける。
5年前はホロキャスターを愛用していたものだが、
『すまないね。こんな事ばかりキミに頼んでしまって。ボクもカロスに帰れればいいんだけど……』
「気にしないでください。ブラブラするのは性に合ってるんで。それにそっちは今、大事な発掘作業中なんでしょう? 博士はそちらに集中してください。あと、トロバにもよろしくと」
『しっかり伝えておくとも。それと……』
「分かってますよ。俺はミアレに入らない方がいいんでしょ?」
電話の向こうの声を遮るようにして、青年はそう告げる。
眼下のアズール湾をチラリと見下ろせば、いつも通りの美しい青海がどこまでも広がっていた。
……つい先ほどまで、湾内の孤島で強大な野生のメガシンカポケモンが暴れていた事など、おくびにも出さないかのように。
「俺や四天王、ジムリーダーたちが出張れば、それだけで『何かがある』と騒がれる可能性が高い。今のデリケートな状態のミアレで、憶測が飛び交う事による混乱は避けた方がいい。クエーサー社の人にも、そう言われました」
『些か悠長な判断とは思うけどね。……キミの方はどうだい?』
「これまでに報告した通りですよ。その上で、纏めて話すならば……」
ジャラ、と。
手を突っ込んだままのバッグの中から、何かと何かがぶつかる音がする。
小石同士をぶつけた時のような、軽やかな音。
無論、それがただの小石などではなく──ポケモンをメガシンカさせるメガストーンである事は、公然の秘密となっている。
「メガジジーロン、メガズルズキン……そして今回のメガエンブオー。ミアレシティの外で俺が発見し、鎮圧した暴走メガシンカポケモンは、これで3匹目になります」
『……やっぱり、ミアレの外でも暴走メガシンカが起きているのか。前にも聞いたけど、本当に1人で大丈夫なのかい?』
「俺のマフォクシーは最強ですから。全員、相棒が吹っ飛ばしてくれました。さっさと終わらせたので、目撃者もいません。……現状すべてのケースにおいて、人里離れた場所でのバトルになっているのは不幸中の幸いですかね」
鼻から息を吐き、少しだけ脱力する。
プリズムタワーの内部に隠された装置“アンジュ”の暴走による、過剰なメガエネルギーの氾濫と、それに伴う野生ポケモンのメガシンカ。
現在、ミアレシティの再開発を請け負っているクエーサー社は、その事実をなんとか隠し、水面下での解決を目指しているというが……それも、いつまで続くかは分からない。
その証拠として、ミアレシティ以外の地域でも、ほんの少数ながら暴走メガシンカが発生しつつあった。
それを青年や各地のジムリーダーが、人知れず鎮圧・解決し、回収したメガストーンをクエーサー社に委託しているのだが……。
「これは根拠の無い勘なんですけど……もしかしたら今回の案件、“アンジュ”以外の
『ふむ……プリズムタワー以外にも、ポケモンたちにメガエネルギーをもたらしている存在がいると?』
「そこまでは、まだ。ただ最悪の場合、クエーサー社が“アンジュ”を鎮めても、それで解決しない可能性まで考えた方がいいかもしれません」
青年の言葉に、電話の向こうの人物は『ううむ』と唸る。
彼としても、状況が許すのであれば、今すぐにでもカロス地方へ飛んで帰りたいのだろう。
だが、他ならぬ彼の立場が、その足を遠い地方の大地に縫い付けてしまっている。
その苦悩を知っているからこそ、青年は「安心してください」と声をかけた。
「その為に俺がいます。いざとなったら、協定なんてうっちゃり投げて、俺が直接ミアレに殴り込みに行きますよ。なに、その為の立場ってモンです。俺にこの座を譲ってくれたカルネさんも、喜んでGOサインを出してくれるでしょ」
『……すまないね、本当に。このところ、プライベートの時間もあまり無いんじゃないのかい?』
「だから、気にしないでくださいって。サナとは毎日電話してますし、むしろあいつの方から『カロスの一大事をほっぽり出すなんて絶対ダメ!』ってケツを叩いてきましたよ。あいつがカロスに帰ってきた時に、胸張って迎えに行けるようにしなきゃですから」
鼻を擦り、カラッと笑い飛ばす。
思えば、この青年は5年前からずっとこんな調子だった。
彼の陽気で、物怖じしない……そして、自由気ままな在り方に、このカロス地方は救われたのだ。
『ボクたちの代わりに、ミアレを……カロスを頼めるかい』
「誰にモノ言ってんですか──
そうして、青年は顔を上げる。
青いジャケットに赤い帽子、サングラスを頭に引っ掛け、腕にはメガリング。
5年前から変わらない──否、かつてよりもずっと貫禄のできた顔つきを歪め、青年は不敵に笑う。
「俺はカロスのチャンピオン、カルムですよ。カロスの危機にこの俺が動かずして、一体誰が動くってんですか。この程度の困難、5年前の旅と何も変わりやしません」
青年──カルムがそう言い切った事で、ようやく安心したらしい。
電話の主たるプラターヌ博士は、絞り出すように『……ありがとう』と呟いた。
「俺は引き続き、ミアレ周辺の地域を調べます。暴走メガシンカしてるポケモンを見つけたら、その都度鎮めていく感じで」
『よろしく頼むよ、カルム。……ああ、それと。確かそっちは今、アズール湾だったね。ついででいいから、ヒヨクシティのヒルトップエリアに寄ってくれないかい?』
博士の言葉に、カルムは意図を読みかねて瞬きする。
ヒヨクシティ、それもヒルトップエリアとなれば、ヒヨクジムのお膝元。
わざわざチャンピオンが出張らずとも、何かがあれば現地のジムリーダーが対処するだろうと考えていた。
『ヒルトップ郊外の屋敷に、ボクの友人が住んでいてね。ここ数年ほど会えてなかったから、代わりに様子を見てきてほしいんだ』
「数年っていうと……ああ、フレア団やら何やらの後始末で、ずっと忙しかったですからね」
『そういう事。……と言っても、今もあの子がボクの事を友と思ってくれているなら、だけどね。色々あって嫌われちゃってるから、ボク』
「ふーん? プラターヌ博士ともあろうお人が、珍しいですね。分かりました、ミアレに寄るついでに行ってみますよ」
『ああ、お願いね。それで──』
博士との通話はそのままに、カルムは自分を背に乗せたカイリューに指示を飛ばす。
そうして、その翼が大きく旋回するタイミングで、スマホロトムから声が聞こえてくる。
『そこで、
カオス理論、と呼ばれる分野がある。
カロス地方でバタフリーが羽ばたいて起こした風が、巡り巡って、遠く離れたカントー地方で大きなハリケーンを起こすように。
世界という複雑なシステムにおいては、始まりがどんなに些細なものだったとしても、それがどんな結末をもたらすかは、誰にも予想する事ができないのだ。
かつて、抜け落ちたものは無数。
その内、汚染されたものは数多。
そして──
幾多の中にあって、鎮められ、虚へと還った汚濁の赤は、未だ2つ。
されどそれは、これより連なる数多くの異変の序章となるには、必要十分な数でもあった。
噛み合い、巡り出した流れの歯車が、行き着く最果ての地で、如何に“大きなもの”を動かす事になるのかは──
「マハ」
「……ああ。動き出した“流れ”は、もはや止める事はできない、という訳さ」
今はまだ、神の使いのみぞ知る。
【ヨウ】
のんきなせいかく/いねむりがおおい
いつも眠たそうにしている。そこにベッドがあれば、それが誰のものでも構わず寝る。ベッドが無くても寝る。
バトルの才能はピカイチ。その代わり、脳が疲れて眠くなるとは本人の談。
相棒のアシレーヌの歌を聞きながら寝るのが好き。リーリエに膝枕されながら寝るのはもっと好き。
【カルム】
ようきなせいかく/こうきしんがつよい
旅好き。主にサイホーンレーサーとして各地を転々としていた母の影響で、初めての土地でも物怖じしない。
本業が忙しくなったカルネに代わり、チャンピオンの座を正式に継承し、ようやく一箇所に腰を下ろすようになった……と思ったらこれ(Z-A)だよ。
クエーサー社からのお小遣いとして、マフォクシナイトはちゃっかりゲット済み。
私は当時からカルサナ派です。
2025年の投稿は以上となります。
来年はちゃんとコンスタントに更新したいッスね。
それではよいお年を。