「じゃ、まずはシェラちゃんだね☆ ウツシタウンについては、ヴォイド団に関する報告資料で書いた通り。近隣のカロンタウン、そしてシェラちゃんの担当するプルガーシティにも、今のトコは何も、異常らしいモノは見当たらないかな♪」
まず始めにシェラが立ち上がり、明るい声色で以て、場の雰囲気を押し流さんとする。
こういう時、彼女のように“ようき”なムードメーカーが率先して発言してくれるのは、誰にとってもありがたく、そして彼女は
「さっきも言ったケド、ウツシタウン襲撃犯の内、ポケモンたちはアラビカちゃんのボックスに転送済み。その他の人間たち──つまり、ヴォイド団の
『司祭とかいう幹部の男には逃げられとるのが痛いとこだのう……。シェラちゃんの事じゃ、そ奴らへの尋問はもうやってあるのじゃろ? なんと言っとる?』
「うーん、それがねぇ……」
『支離滅裂なコトばっかでロクな情報を吐かなかった、でしょ?』
当人の言葉を上塗りするように、シダが声を上げる。
その少しおかしな言い方に、ノウジュが小さく眉を上げるが、それに誰かが気付く事は無い。
「そ~なんだよねぇ。尋問のやり方は一通り知ってるケド、どれもあんまり効果が無くてさ。二言目には“ヨミの神”……彼らが信奉してる神サマへの賛美ばっかで、成果としてはぜーんぜんダメっ☆」
『シェラさんに限って、そういうんで手ぇ抜くなんて思えへんからなぁ……。よっぽどおっかない連中なんやな、そいつら』
『ええ、ハナシは聞いてるワ。尋問の続きはこっちで引き受けましょ。近く、
「はいはーいっ☆ うーん、シェラちゃんはこんなトコかな? それで、後はヌシポケモンの動向だっけ? でも、“森林のヌシ”については……」
『うむ、そちらは拙僧の方が詳しいだろう』
先の違和感は一旦横に置き、ノウジュが(ホロ越しに、だが)前に出る。
この場に集ったジムリーダーたちは、各々が用意した椅子に座りながらに話を聞いているのが大半だが、彼は変わらず立ち続け、腕を組みつつ会議に参加していた。
『この3日、“ソコネ大森林”で異常が発生した様子は見受けられぬ。無論、それより以前もだ。“死出の森”で起きかけ、シェラが鎮圧したという
「シェラちゃんも大体同意☆ このところ、大森林の方からおかしな風が吹いたカンジは無かったカナー。と言っても、これからどうなるかはまだ分かんないんだケド」
『そも“森林のヌシ”は、あまり表には出てこぬからな。基本的に森の奥に引き籠もっている故、何か異変があったとして、それが我らの目に届くかどうかは……な』
唸るように溜め息をつけば、シェラもそれに同意を示しているのが見える。
“ソコネ大森林”は、プルガーシティとパタラシティの中間に位置する広大な森林地帯だ。
未だ人の手が完全に届かぬその地には、多種多様な野生ポケモンが暮らし、自然の恵みはポケモンたちの手に委ねられている。
そんな領域が、この“マハルの地”には多く存在する。
……そして、その地一帯を束ねるポケモンも。
『おっけおっけ、引き続き監視をお願いネ♡ それで、街の方はどーお?』
『大きな事件の類いは起きておらぬ。ただ……件のヴォイド団と関わりがあるかは分からぬが、少々ガラの悪い者どもが街を出入りするようになっている。その者らが何かをしたという事は無いが、住民やポケモンの中には、怯えるものも出てきていてな』
『そうネェ……。事が起きる前から大っぴらに取り締まるというのも、それはそれで治安が乱れるかもだし……あ、そ~いえば』
と、そこでシダが何かを思い出し、どこからか(本当にどこからか)平ぺったい金属製の板を取り出した。
その表面に指をやり、スイスイと動かしながらに、板に映し出されているらしい
その様子があまりにも奇っ怪なもので、この場の面々はなんだなんだと訝しげな表情を
ようやく周囲からの視線に気付いたらしく、
『これね、アラビカちゃんの新発明♡ タブレットって言って……マ、手に持って運べるパソコンだと思ってくれていいワ』
『そんなものが……しかし、我らが知らぬという事は、まだ試作段階と見受けられるが』
『そゆコト♡ で、えーっと……ああ、あった。次の視察は、順番的にパタラジムだったわネ。その時ついでに、街の様子も軽く見といてもらいましょうか』
『ああ、もうそのような時期か。視察には其処許が来るのか?』
『ン~、それでもいいんだけど……アタシもちょっち忙しいからネ。他の四天王の子に頼んじゃお♡ 準備よろしくネ~』
『心得た。神官たちにも周知しておこう』
そう頷くと、シダは『お願いヨ、ウフッ♡』と大袈裟にウインクをひとつ。
ノウジュはそれに大したリアクションもせず、ただ手で制する事で、四天王筆頭が飛ばしてきた想像上のハートマークを振り払う。いつもの光景だ。
そんな恒例のやり取りが終わった辺りを見計らい、ヤブサキが『じゃ、次はワシかのー』と声を上げる。
彼は椅子ではなく座布団の上に腰掛けているようで、いつの間にやら淹れてきた茶を啜っていた。
『ジョウハリタウンは異常ナシ、温泉街は変わらず大盛況じゃ。今日も“エンマ
『儲かっているようで何よりだケド、火口に異常は見られないのね?』
『今のとこはの。その為に、ワルハラシティから学者先生を誘致もしておるし、噴火の兆候があればすぐに対策するわい。お主も、どうじゃ? ノウジュんとこの次は、ワシの町に視察に来るというのは。温泉に浸かれば、疲れなんかすぐに吹っ飛んじまうぞい☆』
『ウフフ、考えておくわネ♡ それで、“湿原のヌシ”の方はどう?』
『ああ、“コタン大湿原”のヌシじゃの。と言っても、のう……』
湯呑みを脇に置き、白髪をコリコリと掻く。
確かに“コタン大湿原”は、ジョウハリタウンから見て西に位置する領域だ。だが、それを己に問うのは不適格ではないかと、ヤブサキは漏らす。
『ワシらの方から見ても、湿原に異常の兆しは見られんよ。水質汚染が起きた感じも無いしの。じゃが、“湿原のヌシ”についてはワシよりも、アラビカちゃんに直接聞いた方がよかろうに。彼女は、あそこのヌシを一等可愛がっとるじゃろ?』
『そ~なんだけどネェ。あの子、最近アタシたちがあれこれ注文してるせいで、色々忙しいのヨ。それでも合間を縫って湿原には行ってるみたいだケド』
『ふむぅ……。あの子はマハルの頭脳、無理はせんでほしいところじゃが……。ま、これでワシの方は以上じゃ。次は、順番的に……』
『ウチやろ? 分かっとる。やけど、ウチんとこはヤブサキじーさんと
そう不機嫌に告げたのは、簡素な木の椅子の上であぐらをかくカデリアだ。
露出の多い格好であるにも拘らず、股を大きく広げて座る彼女に、シェラが「女の子がそういう座り方するものじゃないよー?」と諌めるが、当の本人は“どこふくかぜ”といった様子。
『先に言うとくわ。“サイノ
『むむ。話には聞いてたケド、ニライカナシティの現状は、思った以上に深刻みたいネ……。ヌシが現れなくなった原因は分かっているのかしら?』
『それこそ言わんでも分かるやろ? ……ウチらニライカナジムは、環境汚染が原因の可能性が高いと
ギロリ、と己を糾弾するように“にらみつける”視線に、シダは分かっていたと言わんばかりに肩を竦める。
視線の主たるカデリアは、恨みがましげな目つきを崩さず、それを余す事なく四天王筆頭の
『聞いとるで。ワルハラシティで最近、ぎょうさん開発が行われとるらしいな。そんで、それを指揮しとんのが
『……耳が痛いわネ。確かに新技術の実証実験や土地開発を、ワルハラシティを中心としてワタシたち
『ハッ、どうやろな。……ニライカナジムは、ウチがお父ちゃんから引き継いだ大事な
『そう、ネ。……一応、報告と連絡だけは怠らないようにして頂戴ネ』
その程度の釘は刺しておかねばならない。
それでもやっぱり、カデリアはフンと鼻息荒く腕を組み、椅子の上でふんぞり返るようにして黙ってしまった。
……彼女は、亡くなった自身の父から
それは先のバントーとの言い争いが顕著に示していて、
とはいえ今この場は、そんな彼女の未熟さを糾弾する為のものではない。
そう小さく呼吸して意識を切り替え、シダは次の報告を……
『……さて。これで、“
……促そうとして、気付く。
ここまで、“
その順に従うならば、次は“サイコ湖”を挟んだニライカナシティの向こう側、“
『……えーっと、ラギリ。次はあなたのところのミクトシティなんだケド……その、最近どうかしら?』
頼む。ちゃんと会話に応じてくれ。
それは或いは、シダだけでなく、他の面々が秘める願いでもあったが──しかし。
『面倒だ』
それが悪意ある拒絶でない事は、流石に長年の付き合いから理解できる。
理解できる上で──あんまりにも言葉が足りないせいで、
まったくの無表情、仏頂面から放たれた残酷な一言に、シダはガックリと首を下げた。
“神殿合議”はまだまだ続く。
この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。