ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.109「近況報告:“人の大地(ハイランド)”編」

「じゃ、まずはシェラちゃんだね☆ ウツシタウンについては、ヴォイド団に関する報告資料で書いた通り。近隣のカロンタウン、そしてシェラちゃんの担当するプルガーシティにも、今のトコは何も、異常らしいモノは見当たらないかな♪」

 

 

 まず始めにシェラが立ち上がり、明るい声色で以て、場の雰囲気を押し流さんとする。

 こういう時、彼女のように“ようき”なムードメーカーが率先して発言してくれるのは、誰にとってもありがたく、そして彼女は()()を理解できる人間だった。

 

 

「さっきも言ったケド、ウツシタウン襲撃犯の内、ポケモンたちはアラビカちゃんのボックスに転送済み。その他の人間たち──つまり、ヴォイド団の助祭(したっぱ)を名乗ってる人たちは、みーんなプルガージムの牢屋にぶち込んであるよ☆」

『司祭とかいう幹部の男には逃げられとるのが痛いとこだのう……。シェラちゃんの事じゃ、そ奴らへの尋問はもうやってあるのじゃろ? なんと言っとる?』

「うーん、それがねぇ……」

『支離滅裂なコトばっかでロクな情報を吐かなかった、でしょ?』

 

 

 当人の言葉を上塗りするように、シダが声を上げる。

 その少しおかしな言い方に、ノウジュが小さく眉を上げるが、それに誰かが気付く事は無い。

 

 

「そ~なんだよねぇ。尋問のやり方は一通り知ってるケド、どれもあんまり効果が無くてさ。二言目には“ヨミの神”……彼らが信奉してる神サマへの賛美ばっかで、成果としてはぜーんぜんダメっ☆」

『シェラさんに限って、そういうんで手ぇ抜くなんて思えへんからなぁ……。よっぽどおっかない連中なんやな、そいつら』

『ええ、ハナシは聞いてるワ。尋問の続きはこっちで引き受けましょ。近く、大神殿(ウチ)の人員を寄越すから、捕虜の引き渡し準備よろしくネ♡』

「はいはーいっ☆ うーん、シェラちゃんはこんなトコかな? それで、後はヌシポケモンの動向だっけ? でも、“森林のヌシ”については……」

『うむ、そちらは拙僧の方が詳しいだろう』

 

 

 先の違和感は一旦横に置き、ノウジュが(ホロ越しに、だが)前に出る。

 この場に集ったジムリーダーたちは、各々が用意した椅子に座りながらに話を聞いているのが大半だが、彼は変わらず立ち続け、腕を組みつつ会議に参加していた。

 

 

『この3日、“ソコネ大森林”で異常が発生した様子は見受けられぬ。無論、それより以前もだ。“死出の森”で起きかけ、シェラが鎮圧したという大暴走(スタンピード)も、こちらではそれらしき兆しも無かった』

「シェラちゃんも大体同意☆ このところ、大森林の方からおかしな風が吹いたカンジは無かったカナー。と言っても、これからどうなるかはまだ分かんないんだケド」

『そも“森林のヌシ”は、あまり表には出てこぬからな。基本的に森の奥に引き籠もっている故、何か異変があったとして、それが我らの目に届くかどうかは……な』

 

 

 唸るように溜め息をつけば、シェラもそれに同意を示しているのが見える。

 

 “ソコネ大森林”は、プルガーシティとパタラシティの中間に位置する広大な森林地帯だ。

 未だ人の手が完全に届かぬその地には、多種多様な野生ポケモンが暮らし、自然の恵みはポケモンたちの手に委ねられている。

 

 そんな領域が、この“マハルの地”には多く存在する。

 ……そして、その地一帯を束ねるポケモンも。

 

 

『おっけおっけ、引き続き監視をお願いネ♡ それで、街の方はどーお?』

『大きな事件の類いは起きておらぬ。ただ……件のヴォイド団と関わりがあるかは分からぬが、少々ガラの悪い者どもが街を出入りするようになっている。その者らが何かをしたという事は無いが、住民やポケモンの中には、怯えるものも出てきていてな』

『そうネェ……。事が起きる前から大っぴらに取り締まるというのも、それはそれで治安が乱れるかもだし……あ、そ~いえば』

 

 

 と、そこでシダが何かを思い出し、どこからか(本当にどこからか)平ぺったい金属製の板を取り出した。

 その表面に指をやり、スイスイと動かしながらに、板に映し出されているらしい()()()を見やる。

 

 その様子があまりにも奇っ怪なもので、この場の面々はなんだなんだと訝しげな表情を()に送る。

 ようやく周囲からの視線に気付いたらしく、()『ああ、これね』と言って、手に持っていたその板をジムリーダーたちに見せてみせた。

 

 

『これね、アラビカちゃんの新発明♡ タブレットって言って……マ、手に持って運べるパソコンだと思ってくれていいワ』

『そんなものが……しかし、我らが知らぬという事は、まだ試作段階と見受けられるが』

『そゆコト♡ で、えーっと……ああ、あった。次の視察は、順番的にパタラジムだったわネ。その時ついでに、街の様子も軽く見といてもらいましょうか』

『ああ、もうそのような時期か。視察には其処許が来るのか?』

『ン~、それでもいいんだけど……アタシもちょっち忙しいからネ。他の四天王の子に頼んじゃお♡ 準備よろしくネ~』

『心得た。神官たちにも周知しておこう』

 

 

 そう頷くと、シダは『お願いヨ、ウフッ♡』と大袈裟にウインクをひとつ。

 ノウジュはそれに大したリアクションもせず、ただ手で制する事で、四天王筆頭が飛ばしてきた想像上のハートマークを振り払う。いつもの光景だ。

 

 そんな恒例のやり取りが終わった辺りを見計らい、ヤブサキが『じゃ、次はワシかのー』と声を上げる。

 彼は椅子ではなく座布団の上に腰掛けているようで、いつの間にやら淹れてきた茶を啜っていた。

 

 

『ジョウハリタウンは異常ナシ、温泉街は変わらず大盛況じゃ。今日も“エンマ(さん)”の恵みに感謝感謝じゃの』

『儲かっているようで何よりだケド、火口に異常は見られないのね?』

『今のとこはの。その為に、ワルハラシティから学者先生を誘致もしておるし、噴火の兆候があればすぐに対策するわい。お主も、どうじゃ? ノウジュんとこの次は、ワシの町に視察に来るというのは。温泉に浸かれば、疲れなんかすぐに吹っ飛んじまうぞい☆』

『ウフフ、考えておくわネ♡ それで、“湿原のヌシ”の方はどう?』

『ああ、“コタン大湿原”のヌシじゃの。と言っても、のう……』

 

 

 湯呑みを脇に置き、白髪をコリコリと掻く。

 確かに“コタン大湿原”は、ジョウハリタウンから見て西に位置する領域だ。だが、それを己に問うのは不適格ではないかと、ヤブサキは漏らす。

 

 

『ワシらの方から見ても、湿原に異常の兆しは見られんよ。水質汚染が起きた感じも無いしの。じゃが、“湿原のヌシ”についてはワシよりも、アラビカちゃんに直接聞いた方がよかろうに。彼女は、あそこのヌシを一等可愛がっとるじゃろ?』

『そ~なんだけどネェ。あの子、最近アタシたちがあれこれ注文してるせいで、色々忙しいのヨ。それでも合間を縫って湿原には行ってるみたいだケド』

『ふむぅ……。あの子はマハルの頭脳、無理はせんでほしいところじゃが……。ま、これでワシの方は以上じゃ。次は、順番的に……』

『ウチやろ? 分かっとる。やけど、ウチんとこはヤブサキじーさんと(ちご)て、景気のええ話はできひんで』

 

 そう不機嫌に告げたのは、簡素な木の椅子の上であぐらをかくカデリアだ。

 露出の多い格好であるにも拘らず、股を大きく広げて座る彼女に、シェラが「女の子がそういう座り方するものじゃないよー?」と諌めるが、当の本人は“どこふくかぜ”といった様子。

 

 

『先に言うとくわ。“サイノ()”の大将……“湖畔のヌシ”さまは、暫く姿を見せとらん。それが原因かは分からんけど、このところ漁獲量もじりじり減ってきとる。このままやと、1年以内になーんも獲れへんようになるかもしれん、っちゅんのが漁業組合の見解や』

『むむ。話には聞いてたケド、ニライカナシティの現状は、思った以上に深刻みたいネ……。ヌシが現れなくなった原因は分かっているのかしら?』

『それこそ言わんでも分かるやろ? ……ウチらニライカナジムは、環境汚染が原因の可能性が高いと(おも)とる』

 

 

 ギロリ、と己を糾弾するように“にらみつける”視線に、シダは分かっていたと言わんばかりに肩を竦める。

 視線の主たるカデリアは、恨みがましげな目つきを崩さず、それを余す事なく四天王筆頭の()──ひいては、大神殿(リーグ)そのものへと向けていた。

 

 

『聞いとるで。ワルハラシティで最近、ぎょうさん開発が行われとるらしいな。そんで、それを指揮しとんのが大神殿(リーグ)っちゅう事も。ニライカナはワルハラの隣やさけな。その開発の影響で土地が、そんで川が汚されて、ヌシさまが怒っとるんや』

『……耳が痛いわネ。確かに新技術の実証実験や土地開発を、ワルハラシティを中心としてワタシたち大神殿(リーグ)が主導しているのは事実ヨ。ケド、環境への影響には十分気を付けて計画してるし、そっちとの因果関係については、まだ調査の余地があるんじゃない?』

『ハッ、どうやろな。……ニライカナジムは、ウチがお父ちゃんから引き継いだ大事な神殿(ジム)大神殿(リーグ)がアテにならんのやったら、街を守れんのはウチしかおらんのや。どないかしてヌシさまのお怒りを鎮められへんか、ウチらはウチらで勝手にやらせてもらうで』

『そう、ネ。……一応、報告と連絡だけは怠らないようにして頂戴ネ』

 

 

 その程度の釘は刺しておかねばならない。

 それでもやっぱり、カデリアはフンと鼻息荒く腕を組み、椅子の上でふんぞり返るようにして黙ってしまった。

 

 ……彼女は、亡くなった自身の父から大神官(ジムリーダー)の座を継いだばかりであり、他の面々に比べて経験に劣り、些か直情的なきらいがある。

 それは先のバントーとの言い争いが顕著に示していて、神殿(ジム)の主、街を守る調停者としての役割を背負いすぎて気負っているのは、目に見えて明らかだ。

 

 とはいえ今この場は、そんな彼女の未熟さを糾弾する為のものではない。

 そう小さく呼吸して意識を切り替え、シダは次の報告を……

 

 

『……さて。これで、“人の大地(ハイランド)”側の神殿(ジム)の報告は大体聞けたわネ。それじゃあお次は、“獣の大地(ローランド)”側、の……』

 

 

 ……促そうとして、気付く。

 ここまで、“人の大地(ハイランド)”の東部から、“リンネの儀”の正規ルート順に沿って報告を促してきた。

 

 その順に従うならば、次は“サイコ湖”を挟んだニライカナシティの向こう側、“獣の大地(ローランド)”の玄関口。

 

 

『……えーっと、ラギリ。次はあなたのところのミクトシティなんだケド……その、最近どうかしら?』

 

 

 頼む。ちゃんと会話に応じてくれ。

 それは或いは、シダだけでなく、他の面々が秘める願いでもあったが──しかし。

 

 

 

『面倒だ』

 

 

 

 それが悪意ある拒絶でない事は、流石に長年の付き合いから理解できる。

 理解できる上で──あんまりにも言葉が足りないせいで、()()()()()()()()()を紐解く事ができない。

 

 まったくの無表情、仏頂面から放たれた残酷な一言に、シダはガックリと首を下げた。

 “神殿合議”はまだまだ続く。




この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。
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