ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.110「近況報告:“獣の大地(ローランド)”編」

ッスゥー……えっとね、ラギリ。これ、会議なの。皆で話し合う会議なの。分かる?』

『そうか』

 

 

 糠に釘、暖簾に腕押し、ゴーストタイプに“ハイパーボイス”。

 頷きも身動ぎもなく返ってきたそっけない一言に、シダが一瞬だけ眉間を揉む。

 

 

『あなたたちミクトジムの第1任務は、“クルギア大砂漠”の監視と街の防衛でしょう? だからあなたの口から、“砂漠のヌシ”の現状について教えてもらいたくってェ……』

『疲れた』

『……オッケー、アンタに聞いたアタシがバカだったわ。──ハナミきゅん♡ あなたたちのいるバルバシティも、同じく砂漠に隣接する街でしょ♡ 砂漠やヌシに何か異変が起きてないか、アタシに教えてほしいなって♡』

『フッ……殺界の砂海(クル・ヌ・ギア)に吹き荒ぶ砂塵は、大地を征せし王者の咆哮。なれど熱砂は圧制に満ち、その叫びは暴虐に似たる。僭王の布告は小さき民をも戦地に駆り立て、狂王の絶叫は卑しき衆愚を砂の下へ隠すだろう。力在る者よ、今こそ巨神を畏れ、巨獣に挑むがいい

『ブッ殺すわよアンタたち』

 

 

 思わず、ドスの効いた声が出てしまった。

 

 ラギリは言葉が足りず(足りないというレベルではないが)、ハナミは言い回しが難解(難解というレベルではないが)で、いずれも発言の意図を正確に汲み取る事が難しい、困った連中だ。

 それでいて実力は相応以上にあり、故にこそ“クルギア大砂漠”を挟んだ2つの街の大神官(ジムリーダー)を任されているのだが……如何せん、コミュニケーションに難があり過ぎた。

 

 

『えー……ノウジュ、カミイくん、シェラちゃん、助けて頂戴!』

『ラギリ殿の方は、ミクトシティ側でも漁獲量が減少し、また水棲ポケモンの凶暴化が見られていると語っている。砂漠側からの襲撃が平時より激しくなっている事と併せ、街の治安が悪化しつつあり、そちらの対処にも追われているそうだ』

『“砂漠のヌシ”についても、明らかな暴走が見られているそうです。そしてヌシの暴走が、砂漠の野生ポケモンたちにも影響を与えていて、彼らによる大暴走(スタンピード)の頻度と規模が上昇傾向にあると。……神殿(ジム)の神官たちも、かなり疲弊しているみたいですね』

「ヌシの暴走と野生ポケモンたちの凶暴化は、ハナミくんたちバルバシティ側でも起きてるみたい☆ こっちはミクトシティと違って大暴走(スタンピード)の防衛に向いた地形じゃないから、そこそこ被害が発生してるんだって。でも、どうにか抑え込んでるみたいだよ♪」

『翻訳たすかる~~~~~!!』

 

 

 思わず、手を合わせて叫んでしまった。

 

 ラギリの圧縮言語やハナミの独自言語を解読できる人間は、いればいるほど有り難い。

 シダでさえ、彼らの言葉を完全に読み解く事ができないのだから、ノウジュたちがいないと、報告や会議どころではなくなってしまう。

 

 ともあれ、だ。

 

 

『僕らアメンテシティ側の報告は後で行いますが……恐らく現状、最も逼迫した事態になっているのはミクトシティだと思います。“クルギア大砂漠”のヌシは元々、ヌシポケモンの中でも一、二を争うほどに凶暴。それが更に暴走しているとなると……』

『ええ、そうネ。加えて、()()()が確定だとすれば……いえ』

 

 そこまで言って言葉を止めて、シダは首を横に振った。

 先にも見たその思わせぶりな素振りを、何人かのジムリーダーが怪訝に感じるが、それに構わず彼は話を切り替える。

 

 

『ともかく、今のミクトシティに必要なのは純粋な戦力ネ。ハナミきゅん、あなたたちバルバシティは、まだ保ちそ?』

『我ら欲望の穴蔵(シバルバー)は元来、昏き穴の底にて享楽に酔う悪の華。例え善たる盾ならざれど、背徳の這いずる深淵そのものが、我らに与する剣となろう。狂乱を寿ぎし獣の祭典が、我らの腹の底を食い破る日とは即ち、残酷なる時の宿命(さだめ)が破滅に愛を告げる日と同義と知れ』

「んーと、まだ大丈夫っぽいね☆ 元々、バルバシティの側にはあんまり大暴走(スタンピード)は来てなかったそうだし、持ち堪える分にはまだどうとでもなるから、ミクトシティの方を優先してほしいんだって♪」

『翻訳アリガト♡ そ、う、な、る、とー……うん、やっぱそうネ』

 

 

 例の試作品──タブレットを操作し、画面に表示された文字列を改める。

 機密の観点から、何が書いてあるのかを他のジムリーダーたちが覗く事はできない(そもそもホロの仕様上、視認自体が物理的にできないのだが)が、それを確認したシダは、得心がいったように頷きをひとつ。

 

 

『近い内に、空いてる四天王を増援に向かわせるワ。と言っても現状、ウチでヒマな四天王っていうと()()()()()一択なんだけどネ。モチロン、頼りになる事は保証するわヨ♡』

『迷惑だ』

『まったく其処許は……。大暴走(スタンピード)に対処する都合上、現在のミクトジムは最前線に立っていたベテランの神官ほど負傷による離脱が多く、今は若手の者たちが中心になって防衛を行っている。だが彼らの実力では、逆にそちらの足を引っ張るのでないか……だそうだ』

『翻訳ホントに助かるワ、マジで。それと、そっちについても問題無いわヨ。むしろスナちゃんなら、そっちの子たちのコトをビシバシ鍛えてくれる筈だからネッ♡』

『そうか』

 

 

 2度目のウインクがラギリに向かって飛び、当人はそれをまったくの無表情で受け止める。

 相も変わらず、何を考えているか分からない男だ。

 

 “ダメおし”と言わんばかりに、シダが彼へと投げキッスをしてみるが、まったく無反応。

 代わりに彼以外の面々が、味わい深い表情を返してくるだけに終わる。ちょっと空気が微妙になった。

 

 

『……と、とにかく次行きましょ、次! ハナミきゅん、改めてバルバシティの報告よろしくネ♡ シェラちゃんも引き続き翻訳お願い』

『ククッ。死満ちし鉱の蔵(フン・カメー)は今も富なる光を秘め、その恩寵が死を希う運命は、果てより果てなりし彼方に座するだろう。されど心せよ。新たに開かれし扉は、未知なる富への(しるべ)にして、未知なる魔の(しとね)也。そのポケモンが紡ぎたる真名を、我らが拝する事は叶わじ』

「むむ? ハナミくんたちの管理してる“カメー坑道”は、今のとこ枯れる感じも無くて、安定して採掘できてるみたい。けど、最近見つかった新しい鉱脈の辺りで、強い野生ポケモンが出たんだって。どんなポケモンかはまだ分かんないけど、かなり暴れてるみたいだね」

 

 

 だよね? と可愛らしく首を傾げるシェラに、ハナミはニヤリと笑う事で応える。

 包帯で覆われた左目を手のひらで隠し、右の口角だけを吊り上げて。また『フッ……』とか言ってるし。

 

 

『“カメー坑道”で採掘される金や鉱石は、量も質もマハル一。その採掘に支障が出るのは看過し難いわネ。……分かったワ、追って大神殿(リーグ)からも人員を派遣しましょ♡ そのポケモンの調査データも、逐一こちらと共有して頂戴』

『心得た、岩の司教。我が愛しき半身もまた、未知なる災禍の訪れに憂いを歌う者の1人也。かの美しき朝の調べが絶え、静謐の風が吹きしその時にこそ、我らが穴蔵の斜陽が序曲は奏でられよう』

「うんうん、(クーサ)ちゃんが大事で心配な気持ちは、シェラちゃんたちみーんなも分かってるコトだから☆ もし困ったコトがあったら、いつでも言ってね。シェラちゃんもできる限りのお手伝いをしてあげる♪」

『……くだらない。辺境の田舎の怪力娘に、我ら“獣の大地(ローランド)”の厳しき地に住む民の、何を手伝えるというのですか。田舎者は黙って、“人の大地(ハイランド)”の生ぬるい土地で堕落に耽っていればよいでしょう』

 

 

 当人(ハナミ)でもないのに、そう吐き捨てるように声を上げるバントー。

 侮辱同然……否、侮辱そのものであるその言葉に、シェラは「ひっどーい! バン婆ってば相変わらず手厳しいんだから☆」と唇を尖らせているが、それが彼女なりの自制である事は容易に理解できた。

 

 そんな軽い(或いは、()()()()()()()抗議を、フンと小さな鼻息でいなし、老婆は椅子の上からシダを見やる。

 彼女の座る椅子は、寒い地域らしい、ふわふわの毛皮が敷き詰められたものだ。

 

 

『次は私ですか。ニヴルタウンとその周辺に、目立った異常はありません。私たちの町があるのは、“獣の大地(ローランド)”の……いえ、この“マハルの地”で最も過酷な土地。そこに住まう我らは皆、精強な者たちばかりですから、町を脅かす脅威など元から存在しませんがね』

『うーわ出おったよ、クソババアのお里マウント。年がら年中、寒いねぐらに引き籠もっとるから、脳ミソも凍って固くなるんじゃな』

 

 

 性懲りも無く嫌味を零したヤブサキとの間で、暫しの睨み合いが起きる。

 シダはそれを『どうどう』と軽く手を振り宥めつつ、今しがたの報告に話題を向け直さんとした。

 

 

『確かに“オリュンス大山脈”は、環境そのものが敵を阻む自然の要塞……。ケド、その広大な領域すべてをあなたたちが把握できているワケでも無いでしょう? ヴォイド団なりなんなりが、どこかに潜伏している可能性は無いかしラ?』

『愚問ですね。私たち人間だけであればそうかもしれません。ですが、オリュンスの山々には、我らが“山脈のヌシ”さまがおられます。かのヌシさまは、山のどこに不届き者が隠れていようとも、それを必ず暴き出し、どこまでも追い詰めて狩り尽くすでしょう』

『……マ、それもそうネ。だからこそ、“砂漠のヌシ”やその群れが大暴走(スタンピード)を起こす時は、山脈のある東側じゃなくて、西のミクトシティ方面に向かってがほとんどなんだし』

 

 

 彼女の言う事にも一理はあるか、と頷き、それ以上の追求はしない。

 

 バントーは過激で排他的な物言いこそ目立つが、それでも今代最年長のジムリーダーだ。

 それだけの実績と実力がある以上、その見解に驕りがあるとは思い難い。

 

 それに、彼女の普段の物言いが大言壮語でない事もまた、ひとつの事実。

 

 彼女の町がある“オリュンス大山脈”に、ラギリたちの管轄である“クルギア大砂漠”。

 これら2つの広大な領域こそが、“獣の大地(ローランド)”を過酷たらしめる大きな要因なのだから。

 

 仮に人間が、何の対策も実力もなしに、迂闊に潜伏先として利用しようものなら、凡そその者の命は無いだろう。

 

 

『なら、ニヴルジム周辺は今のところ問題ナシ……っと。それじゃ、最後の報告は』

『僕、ですね。と言っても、僕の担当するアメンテシティと神殿(ジム)は、大神殿(リーグ)のあるエンピレオシティから最も近い場所にありますし、大方の情報はシダさんも知っているでしょうけれど』

『それでもお願いネ♡ “神殿合議”は神殿(ジム)間の情報共有の場なんだから、アタシだけ知ってても意味は無いでしょう?』

『……それは間違いないですね。では最後に、アメンテジムのカミイより現状報告です』

 

 

 コホン、と仮面越しに咳払いして、カミイが席を立つ。

 

 キリッとした背筋に堂々とした佇まい、それでいて温和な雰囲気は、伊達に教職では無いという事だろう。

 その雰囲気の大体を、仰々しい仮面が台無しにしているきらいはあるが。

 

 

『とはいえ、あまり報告するほどの事も無いんですけどね。先にも言った通り、ウチは大神殿(リーグ)のご近所ですから、そんな場所で何かをやらかそうって輩もそういないですし。ただ、繁殖期が近いので野生ポケモンがピリついているところはありますね』

「カミイ先生、学校の方はどう? 聞いたよ。最近ようやく、夢だった校舎を建てられたんだってね☆」

『ええ。僕以外の教師も育ってきていて、やっと軌道に乗った感じです。このまま少しずつ規模を大きくして、いずれは他の街にも学校を増やせればいいな、とは思ってます』

 

 

 仮面を被っている故に表情こそ分からないが、それでも彼の声が嬉しそうなものである事は、それを聞く誰にでも理解できた。

 そんな彼の返答に、シェラもまた嬉しげな表情を返すが、そこでカミイは『ただ……』と声のトーンを少し落とす。

 

 

『やっぱり、“()()()()()()()()()()”という名前は如何なものか、という声が挙がってまして。僕としては、マハルの歴史的にも、そして“星見人”の皆さんから教えて頂いた知識から見ても、この名前を大事にしたいところなんですが……』

『無理もなかろう。つい数十年前に、あれだけの事が起きてはな。……一応聞くが、其処許の生徒たちには』

『勿論、“()()”には立ち入らないように指導しています。あそこのポケモンに対処できるのは、アメンテでは僕だけでしょうから』

『ならば』

 

 ノウジュは更に問いを重ねる。

 これまでにも幾度も繰り返した問いであり、そして、その度に同じ答えを繰り返されてきた問いを。

 

 

 

『その地に、()()()()()()()()()()()()()()()、という事も無いのだな?』

『──ええ、ありませんよ。徹頭徹尾、ただ野生のポケモンたちが住み着いているだけの場所です』

 

 

 

 カエンジシを模した仮面、そこに開いた小さな穴。

 そこからチラリと見える青色の瞳は、一切の揺れを悟らせない。

 

 ……大神官(ジムリーダー)が「人間の側の調停者」であるならば、ヌシポケモンは「自然の側の調停者」だ。

 その地の野生ポケモンを纏め上げ、統率する強力な個体の存在あってこそ、自然界の秩序は保たれていると言っていい。

 

 故にこそ。

 

 

『……先にハナミ殿が告げた、「“カメー坑道”に現れた未知のポケモン」もそうだ。それがただのオヤブンポケモンであれば、大神官(ジムリーダー)たる者が手こずる道理も無し。そも、暴れるオヤブン程度を調伏できぬ者がバルバの大神官(ジムリーダー)であれば、砂漠の大暴走(スタンピード)に対処できぬ故な』

『……』

『カミイ殿しか……最優の大神官(ジムリーダー)しか対処できぬポケモンの住まう領域。こちらから近付かねば害無き領域。そんなものがあるとすれば、それはヌシが治める地ではないのか? “カメー坑道”もまた、未知のヌシが住まう領域と繋がってしまったのではないのか?』

『……ふむ』

 

 饒舌なハナミでさえ、考え込む仕草を見せている。

 それを一瞥した後、ノウジュの視線は、カミイと──シダへと向けられた。

 

 

 

『これまでにシダ殿が見せた、思わせぶりな態度もだ。……何を隠しておられる? 大神殿(リーグ)は、我ら大神官(ジムリーダー)すらも預かり知らぬ()()を知って──』

()()()()

 

 

 

 シダは、笑っていた。

 悩みも憂いも、隠し事さえ何ひとつとして無い。そう言いたげな、綿の布めいて柔らかい笑み。

 

 性別も装いも、化粧すら何も気にならない。

 それほどに、見る者を惹きつける──そして、岩のように硬い微笑みだった。

 

 

『アタシたちはみーんな、“リュウジンさま”への敬意と信心の下、人とポケモンを守る為に戦う戦士。大神殿(リーグ)神殿(ジム)も、皆で手を取り合って、この“マハルの地”を良くしていく為に力を尽くす。隠し事なんてせず、ずーっと仲良しでやってきた。そうでしょ?』

『……そう、だな。非礼を詫びよう、シダ殿、カミイ殿』

『ンもうっ、そんなに固くならないでチョーダイッ! アタシたち仲間なんだから、ネ♡』

 

 

 またも放たれたウインクに投げキッス。

 しかし、今のノウジュは、それにまともに応対できる心地では無かった。

 

 

(……やはり、大神殿(リーグ)は何かを知っている。そして、それを我らにすら伏せている。その意図までは、掴みかねるが)

 

 

 大神殿(リーグ)の秘密主義は、今に始まった事ではない。

 ノウジュがパタラの大神官(ジムリーダー)に就任するよりも前、シダが四天王に就任するよりも前、その先代よりも、先々代よりも、更にずっと前からそうなのだろう。

 

 それでも、だ。

 

 チラ、と周囲の面々を見やる。

 この中の一体何人が、ノウジュと同じ事を考えているのだろうか。或いは。

 

 

 

『──さ、会議を続けるわヨ♡ 皆からの報告は大体出揃ったから、次はそれを踏まえての対策を話し合いましょう、ネ?』

 

 

 

 この中の何人が、大神殿(リーグ)()()()()なのか。




この後【18:00】より2回目の追加投稿を行います。
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