ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

115 / 125
今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.111「夜に秘めるもの」

『──皆、今日はありがと☆ 早速神殿(ジム)でも対策を共有してみるよ! じゃ、まったねー♪』

『シェラさんたちには感謝しとる。せやけど、やっぱ大神殿(リーグ)の連中は信用し切れんわ。なんかあったら、ノウジュさんたちを頼るさけ、そん時はよろしゅうな』

『叡智を集わせし儀の執行は、肉の身に縛られし我らの脳髄を嘲り、怠惰なる痛みを寿がん。故に我らは、魔の釜にて罪を炙り、その怨嗟と血を飲み下さねばならぬ。血を求めし我が叫びは、我が愛しき半身へと届き、穴蔵の最奥にて狂える晩餐が開かれよう』

『面倒だ』

 

 

 その後、特に大きなインシデントも無く、神殿合議は恙無く終了し。

 各々の持ち帰るべき案件や方針を共有し終わったシェラたちジムリーダーは、それぞれの持つホロ通信用の機器を停止させ、そのシルエットを次々に消失(ログアウト)させてゆく。

 

 と言っても、そのペースは人それぞれ。

 四天王たるシダなんて、またぞろ『カーブトちゃーん! お化粧落ちちゃうから顔面にしがみつくのやめて頂戴ってば! あっコラ、チゴラスちゃんも宝石(ジュエリー)噛まないでー!? それ高かったんだから!』と、自分のポケモンたち相手に騒がしく格闘中だ。

 

 

『それでは、拙僧もこの場は失礼するとしよう。それとヤブサキ殿。近く其処許の町に、パタラジム名義で肉類の買い付けをする故、いつも通りにお願いしたく』

「うむ、いつものじゃな? 在庫はウチの神官どもに確認させとくぞいっ☆ そんじゃあの~」

 

 掻き消えるノウジュのホロに手を振り、彼が完全にログアウトしたのを確認した後で。

 ジョウハリタウンのジムリーダー・ヤブサキはふと、自身のいる通信会議室(ユニオンルーム)の隅で、通信装置を操作していた神官に声をかける。

 

 

「ああ、ワシはもう少し残って機材の確認と掃除をしておくから、お前さんも今日は上がりなさい」

「は……よろしいのですか?」

「なに、いつも頑張っちょる教え子への、ちょっとしたご褒美じゃ。今から上に戻れば、いつもよりゆっくり夕食にありつけるじゃろ。しっかり休んで、また明日から修行じゃぞ~」

「では、お言葉に甘えまして。『カピスパラ』はどうされますか? 普段であれば、この後お風呂の時間になりますが」

「フ~ロゥ?」

 

 

 神官の男の足元で微睡んでいるのは、ヤブサキの手持ちポケモン、カピスパラだ。

 

 成人男性の胸ほどの体長に、ずんぐりむっくりとした丸い胴体は、黄色と白の毛皮に包まれてフワフワと。

 ピカチュウなどに似て齧歯類めいた顔面はのほほんとしていて、頭頂部に四角く盛り上がっている白色の毛並みは、さながらタオルを乗せているかのよう。

 

 そんな緩いデカマスコット然とした見た目とは裏腹に、背中に形成された噴出孔からは、熱の籠もった蒸気がふつふつと吹き出ている。

 また、長く細い尻尾の先端は2つの長方形になっていて、どこか電化製品のプラグを思わせた。

 

 

「ああ、そっちも問題ないぞい。後でワシ手ずからウォッシングしちゃるからの。さ、行った行った」

支配人さま(ジムリーダー)がそう仰るのであれば。では、お疲れ様でした」

「ほっほほ、お疲れちゃん☆」

「ロッチュ~」

 

 

 そうして、神官が頭を下げつつユニオンルームを後にして。

 

 彼が完全にいなくなり、扉が閉じられたのを確認したのち、ヤブサキはその場を──立ち去らない。

 カピスパラも未だ、装置に繋がれたケーブルを食み、電力を供給し続けている。

 

 

 

「──さて。すまんの、待たせてしもうたか」

『いえいえ、気にするコトじゃあないワ♡ こっちもこっちで、色々とやっておくコトがあったしネ』

 

 

 

 ヤブサキが向き直った先。

 大神殿(リーグ)の四天王筆頭、シダは未だそこにいた。

 

 ()だけではない。

 ニヴルタウンのジムリーダー・バントーに、アメンテシティのジムリーダー・カミイもまた、依然としてホロ通信を閉じてはいない。

 

 

『やはりというか、なんというか……まぁ、勘付かれてますよね』

『勘付かれている、で済む話なものですか。彼の事です。私たちが伏せている事など、とっくの昔に怪しんでいたでしょう』

 

 困った風に息を吐くカミイの言葉を、バントーがバッサリと切り捨てる。

 そうして次に目を向けるのは、“神殿合議”が終わってもなお続くこの場の主催、豪奢な椅子に腰掛ける全裸の漢女(おとめ)だ。

 

 

『シダ、一応聞いてはおきますが……対処はするのですか?』

『いいえ? いくらでも疑わせときちゃいなさい。どうせこっちはYesなんて言わないんだし、向こうも調べようとするだけ無駄だって分かってるでしょ。別に、アタシたちは敵でもなんでも無いんだし、ネ』

 

 

 分かり切った答えに、老婆は首を振り席につく。

 

 “リュウジンさま”への敬意と信心の下、人とポケモンを守る為に戦う戦士。

 大神殿(リーグ)神殿(ジム)も、皆で手を取り合って、“マハルの地”を良くしていく為に力を尽くす。

 

 先のノウジュとの問答で、シダが告げたその答えに、嘘偽りは無い。

 

 

『では、こうしてこの場に残されたという事は』

『ま、ここからの話はディープな案件ばかりになるからネ。ささ、座り直して頂戴? 話すべきコトは、まだまだいっぱいあるわヨン♡』

 

 

 シェラたちの預かり知らぬところで幕を開く、“神殿合議”の秘された続き。そこに集った4人。

 彼ら彼女らは、()()()()()()の下に集まる者たちであり──そしてそれは、他の面々には決して明かせぬ秘密でもあった。

 

 

『“()()()()()”さまより提言を預かっているワ。現時点で捕捉できているヴォイド団の動向に、“ヨミの民”の再調査。新たに現れた“偽りのヌシ”たちの対策、2つの“うでわ”の管理と防衛、“眷属さま”方の捜索。そして──』

 

 

 これより始まるは、議事録に決して残る事の無い秘密の協議。

 彼らが何を知り、何を隠し……そして、この世界に何をもたらそうとしているのかは──

 

 

 

『“かすがいのはね”に選ばれし者、真の巡礼者。10年ぶりに現れた“星見人”にして、()()()()()()の娘だというステキなレディ。彼女が、鎹を納めるに足る存在かどうか、見定める()し。すべては、“リュウの神”が導くままに……ネ♡』

 

 

 

 

 

 

「へっぷし!」

「れぴゃあ!?」

 

 

 少女の、まぁまぁ少女らしからぬ大きさのくしゃみに、加入したばかりのつながりグモポケモンが驚きの声を上げた。

 

 

【プルガーシティ】

 

 

「大丈夫か? ソラ。もしかして、風邪でも引いたか?」

「ううん、そんなんじゃないよ。ただなんか、ちょっとゾクっとしちゃって」

「宿屋に着いた時には、もう夜でしたからニャア……。“マハルの地”の夜は、地上より(さむ)う御座いニャスから、お体を冷やしてしまったのかもしれニャせん」

 

 

 ズビズビと鼻を擦り、「そうかも……」と呟いている少女は、ご存知の通りソラである。

 

 “ギムレの洞穴(ほらあな)”を抜け、プルガーシティまで戻ってきた彼女たち一行だったが、ニャースが語っていた通り、到着した時にはすっかり夜も遅く。

 シェラに会おうにも、()()()()()()ゆえに今日は会えない旨を、神殿(ジム)の神官から伝えられた為、今日のところは宿に泊まる事としたのだ。

 

 そういう訳で、ソラたちは宿屋の食堂でテーブルを囲み、遅い夕飯を摂っている。

 本来であれば、手持ちポケモンたちの食事は各々の個室で食べさせるのだが、今回は宿の亭主さんの好意で、手持ちも含めた全員がテーブルについていた。

 

 

「今日は丸1日歩きっぱなしだったし、ご飯食べたら早めに寝るわ。お風呂は……まぁ、体を拭いて終わりかな。水はびぃタロに出してもらえばいいし」

「ビ? ビビ、ビぃ──ビぇアっ!?

「ほりりー♪」

 

 

 ソラの言葉に、彼女の隣に据わっていたびぃタロが、任せて! と言いたげに胸を叩く──その隙を突いて、横合いからくちばしが強襲。

 結果として、彼が食べていた魚の塩漬けは、まんまとはるりんに奪われてしまった。

 

 小柄なとりポケモン故、テーブルの上に乗っかる形で食事に参加しているはるりんは、“どろぼう”した塩漬けの切れ端を美味しそうに啄み出す。

 それを見て、ぷりぷりと怒りながら抗議するびぃタロを宥めつつ、ソラは自分の皿に盛られていた“クラボのみ”を彼に分けてやる。

 

 

「ほら、わたしの分けたげる。だから機嫌直して、ね?」

「ビ……ビぃーイ」

「はるりんも。一緒に旅をする仲間なんだから、仲間のご飯を勝手に盗っちゃダメでしょ?」

「けーりぃ……」

「……あーもー、そんな顔しないでよ。あなたにも“クラボのみ”あげるから。あなたもびぃタロも、“からい”味が好きだもんね」

「り! けり~♪」

 

 咎められてしょげた顔をするはるりんの前に、フォークに刺された真っ赤なきのみが差し出される。

 それまでの暗い顔から一転、喜びながらきのみを“ついばむ”彼女の姿に、ソラは溜め息をつきつつも笑ってしまう。

 

 

「まったく、“ぬけめがない”んだから」

「れっぴ……」

「てれーなも欲しいの? いいわよ、ちょっと待ってね」

 

 

 びぃタロたちの反対側、同じくソラの隣に座るのは、この度新たに手持ちポケモンとして加入する事となった、テレネットのてれーなだ。

 先輩2匹のやり取りを目にした彼女は、どこか物欲しそうな、しかしモジモジと躊躇いがちな視線を主へ向けている。

 

 そんな新入りの引っ込み思案な態度に小さく微笑み、手元の皿へとフォークを突っ込む。

 皿にこんもり盛られているのは、新鮮な野菜ときのみのサラダ。その中から、よさげな具材を取り分けて。

 

 

「うーん、これかな? はい、“バンジのみ”。多分、あなたの好きな味だと思うわ」

「ぱしー……?」

 

 

 カットされた黄緑色のきのみをフォークに乗せて、てれーなの口元まで近付けてやる。

 差し出されたそれを不思議そうに見やった彼女は、かつてポフィンをもらった時のように、頭上の天使の輪(エンジェルハィロゥ)を緩く回転させ……やがて、ひとくち。

 

 

「! れっぴ、れぴ、ぱ~しゅ~♪」

「ふふ、よかった。あなたは“おだやか”なせいかくだから、“にがい”味が好きだと思ったのよね」

 

 

 体をゆらゆら揺らし、全身で美味しさを表現する幼子に、思わずこちらも顔が綻んでしまう。

 その頭をそっと撫でてやれば、顔面を覆う硬質のバイザーが、にっこり「へ」の字になった単眼光(モノアイ)を映し出した。

 

 それを見たはるりんが、自分も自分も、と更なるお裾分けをねだり、びぃタロもまた“ひかえめ”に主張し始める。

 進化を1回経験したとはいえ、まだまだ甘えたい気持ちは消えないらしい。

 

 仕方ないなと言いながらも、ソラの表情は優しげだ。

 わちゃわちゃと主張する手持ちたちを「はいはい」と制しながらも、忙しなくフォークを動かし、自分の分のサラダを手ずから食べさせていく。

 

 そのわちゃわちゃとした様子を、リクは彼女たちの対面からじっと見物していた。

 

 

「なんてーか、すっかりトレーナーが板についてきたな、ソラ」

「そう、かな? わたしはただ、この子たちおねだりを聞いてるだけなんだけど」

「それでも、ダメな事はちゃんとダメって言うし、フォローもするだろ? そういうとこ、昔のおいらより──ぶっ!?

「むきゅっきゅー!」

 

 

 のんびり語らう主人を隙ありと見做し、その顔面に“とびかかる”ウェボム。

 モゴモゴと呻きながらも引き剥がせば、胴体を摘み上げられたほのおグモポケモンは、愉快そうにケラケラと笑っていた。

 

 

「むきゅきゅっきゅ、むっし~♪」

「ったく、あんたは相変わらず“イタズラがすき”だな……。ニャースを見ろよ、あいつは騒がず静かにメシ食ってるぜ?」

「にゃりん?」

 

 名前を呼ばれたマハルニャースはと言えば、リクの言う通り、1匹黙々と喫飯中だ

 彼らの足元で身を丸め、ポケモン用の(フードボウル)に乗せられた魚の塩漬けをモリモリ貪っていた彼は、己の主と後輩(ウェボム)のやり取りを見ても、淡々と“マイペース”に毛繕い(グルーミング)をするのみ。

 

 

「それより、いいのか? そうやって遊んでる内に、あんた以外の皆が先に食べ終わって、あんたの晩飯も下げられるかもしれないぞ?」

「きゅっ!? むっきゅー!」

 

 

 それはイヤだとテーブルに飛び降り、自分の分の皿に顔を突っ込む。

 そのまま缶ソーセージ(ランチョンミート)をがっつき始めたウェボムを見て、リクはやっと解放されたと脱力し、自分の夕飯であるミートソーススパゲティへとフォークを伸ばした。

 

 

「うん、美味い! こないだ神殿(ジム)で食べさせてもらったのも美味かったけど、この宿の麺料理(パスタ)も格別だな! やっぱりプルガーシティって、小麦の出来がいいんだろうな──って、どうした? ソラ。なんで笑ってんだ?」

「……ううん。そう言うリクも、いいトレーナーだなって」

 

 

 頬杖をつき、こちらを見て微笑む少女に、そうかぁ?と首を傾げる少年。

 ともあれ、褒められて悪い気分はしないと、引き続き手元のパスタを食べ進める彼を、少女はフォークを弄びながらに見つめていた。

 

 

(やっぱりリクって、なんていうか……)

「ところで、ひいさま。先ほどから、ご自分の食事をポケモンたちにお与えになっておられニャスが、ちゃんとひいさま自身も食べておられニャスよね?」

 

 

 ソラの思考を打ち破るように声を上げたのは、やはりと言うべきか、彼女の世話役たるニャースだった。

 彼はソラたちと同じく椅子に座っており、その手元の皿には、まだ食べかけのサンドウィッチ(具はスライスした魚の油漬けだ)が残っている。

 

 

「今日は歩き詰めでお疲れニャのは分かっておりニャスが、きちんと食べないと、翌日以降に響きニャスよ。追加の注文を致しニャしょうか?」

「ホントだ。よく見たらあんた、今日はサラダしか食べてないな。いつもならガッツリと肉系のも食べるのに」

 

 

 無論リクとて、スパゲティの副菜として別にサラダを頼んでいる。

 対してソラは、珍しくサラダしか頼んでいない。大皿にたっぷり盛られているとはいえ、その幾分かを自分の手持ちたちに分け与えていたのは、先にも見た通りだ。

 

 普段からこのくらいしか食べない訳ではなく、むしろいつもの彼女ならば、もっとモリモリと食べている筈。

 肉料理も好物の類いに入る彼女が、今日はサラダしか食べていないというのは……。

 

 

「あー……うん。流石にちょっとヘトヘトでさ。明日はちゃんと食べるよ」

「ホントに大丈夫か? もしかして、本当に風邪引いて食欲が無いとかか?」

「うむぅ……もしそうであれば、後でお熱を測った方がよいやもしれニャせんな。場合によっては、明日1日は休息に……」

「ううん、そんなんじゃないから! 本当にちょっと疲れただけ。だから、大丈夫。ね?」

 

 

 誤魔化すように笑うソラの顔色は、彼女自身の言う通り、体調が悪い風には見えない。

 その顔に映し出されているのは、カロンタウンから1日かけてプルガーシティまで歩き通しだったが故の疲労と……もうひとつ、別の何か。

 

 その表情の正体を訝しむリクだったが、これ以上この場で話題を掘り下げる事は難しいと判断し、頷いて「分かった」と呟きをひとつ。

 

 

「ま、ソラがそう言うなら信じるさ。その代わり、自分で言った通り、明日の朝飯はちゃんと食べろよ? 魔女のおばちゃんに頼んで、デッカいオムレツ焼いてもらおうぜ」

「あはは、それ最高。……うん、分かった。約束は守るよ」

 

 

 瑞々しい野菜たちが、一緒くたにフォークで刺し纏められ、少女の小さな口へと運ばれる。

 シャクシャク、という小気味よい咀嚼音を奏で、“あますっぱ”味のドレッシングに目を細める彼女の姿を、ニャースは心配そうに見守っていた。

 

 

(この世界に来てからというもの、大胆な振る舞いをニャされるひいさまを多く見てきニャしたが……やはり、その根は繊細。少し思い詰めるきらいがありニャスからなぁ……。恐らくは、精神的なものでありニャしょう)

 

 

 非戦闘員ゆえその場に居合わせなかったニャースだが、ヴォイド団との攻防で何があったのかは、凡そ聞き及んでいる。

 その中でソラが見聞きしたものの内、彼女が気に病みそうな事となると……。

 

 次に彼が意識を向けるのは、リュックの中身。

 特に、専ら彼が持ち運ぶ役割を請け負った──食料の存在だ。

 

 次の街への道程やその距離は、予め調べてある。

 その為、必要十分な量の食料は買い込んだりしてあるのだが、旅の過程でいつアクシデントがあるとも限らない。

 

 もしもそうなった時、彼らが取るべき手段。

 そしてそれを、ソラの“なやみのタネ”と照らし合わせれば──

 

 

 

(もしかしたら、或いは……ひいさまには少々、お辛い旅にニャるかもしれニャせんね)

 

 

 

 

 

 

「──おっはよー☆ いやーっ、昨日は会えなくてごめんね? ソラちゃんたちがこの街まで戻ってきたって聞いて、今日は朝一番に会いに来たよーっ♪」

 

 

 

 翌朝。

 どこまでも響き渡るような高らかな声色を告げて、シェラが宿の入口を開け放ち現れた。

 

 あまりにも唐突の登場のあまり、席について朝食を摂っていたソラたちは、あんぐりと固まってしまっている。

 リクに至っては、頬張っていたオムレツが喉に詰まりかけて、必死に胸を叩いている有り様だ。

 

 

「……ってぇー、まだ朝ゴハン中だった? ごめんごめん☆ ちょっと気が急いちゃったみたい♪」

「げっほ、げほ……ビックリしたー……。驚きすぎて、喉に詰まっちまうところだったぜ」

「き、気にしないでください、シェラさん。あ、シェラさんもご飯食べていきます? 宿の人に頼んで、オムレツを焼いてもらったんですけど」

「食べる食べる♪ 魔女のお婆ちゃんのオムレツは格別だからね☆」

 

 ハツラツと同意を示し、ソラたちの下まで近寄ろうとしたところで、不意に止まる足。

 なんだろうと少年少女が怪訝そうな目を向ける中、シェラは徐に振り向いて、先ほど自分が開け放った入口のドアを見た。

 

 

「折角だし、()()も一緒に食べてこうよ☆」

「……? シェラさま、どなたかとご一緒でありニャしたか?」

「まぁね☆ というか、むしろあの子が本題だったり? さ、おいでおいで♪」

 

 

 くいくい、と手招きを贈る視線の先で。

 ドアの陰から、恐る恐る顔を出してきた、その正体は。

 

 

 

「その子……もしかして、マハルのドードーですか?」

「でぃっ……どど、どぉー……」

 

 

 

 細く長い脚、くすんだ灰色の毛並み、丸っこい胴体に埋まった2つの首。

 それはまさしく、シェラとの決闘の儀(ジムバトル)で戦った、“マハルのすがた”のドードーだった。

 

 しかし、目の前に現れた個体は、見るからにビクビクオドオドとしていて、歩みもイマイチ覚束ないように見える。

 何より、こちらを伺うような震える瞳孔は、どう見ても、シェラの手持ちであるあのマハルドードーとは別個体だ。

 

 一体なんだろうと首を傾げてみれば、シェラは普段と変わらない笑みを携え、件のマハルドードーをソラたちの下まで連れてくる。

 

 

「この子は、ウチの神殿(ジム)で育ててるドードーくん☆ 見ての通り、ちょっと“おくびょう”な子でさ、見慣れないキミたちにビックリしちゃってるみたい」

「いや、シェラさんが思いっきりドアを開けたから、そっちに驚いてビビってるんじゃないか?」

「そうとも言うね☆ で、本題なんだけど──」

 

 

 ぽん、と胴体に手を置いて撫でただけで、全身が震えるほどにビクつく彼。

 ちょっと、どころでは済まないくらいに“おくびょう”なその個体を指して、この街の大神官(ジムリーダー)は、イタズラを思いついたかのように笑ってみせた。

 

 

 

「この子も、キミたちの旅に連れてってほしいんだ☆ だいじょーぶ、この子ならきっと、キミたちの役に立つよ♪」

 

 

 

 意図を測りかね、ぽかんと口を開くソラたちと、信じられないと顔を上げ、己の今の主を見上げるマハルドードー。

 対照的な2つの視線を一身に受けてなお、シェラは「おっ、今日のオムレツも美味しそうだねぇ☆」と“のんき”な声を上げていた。




マハル図鑑 No.096
【カピスパラ】
ぶんるい:はつねつポケモン
 タイプ:でんき・ほのお
とくせい:でんきエンジン/ものひろい(でんきにかえる)
ビヨンド版
 大量の 電気エネルギーと 高熱の 体温を 持つ。どんな 場所でも 常に ポカポカだ。
ダイブ版
 熱エネルギーを 利用し カピスパラに お風呂を 沸かさせる 宿屋も よく 見かける。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。