ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

117 / 125
今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.113「ソラのパーフェクト重業(カサネワザ)教室?」

【マハルの地 人の大地(ハイランド) 4番エリア】

 

 

 プルガーシティの西門を抜けた先、4番エリアは草原地帯だ。

 

 同じ草原地帯である1番エリアと異なるのは、背の低い茂みが多いあちらに比べ、こちらで生い茂る草は長く、「鬱蒼と生い茂る」という表現が適切だろう点。

 背の高い草むらは、全体的な地形が緩やかな下り坂になっている事もあって、どこかジメジメとした雰囲気を醸し出していた。

 

 腰よりやや上くらいに高い草を掻き分け、眼下に目を凝らしてみれば、巨大な森林地帯が西に向かって広がっているのが分かる。

 あれがシェラの言う、“リンネの儀”における第1の関門──“ソコネ大森林”なのだろう。

 

 

「あれが“ソコネ大森林”……。あの森を抜けないと、次の神殿(ジム)がある街には行けないのよね」

「一応、次の街まで保つ分の食料は用意してありニャスが……いやはや、実際に目にしてみると、思った以上にだだっ広いですニャア」

 

 ソラの隣で、ニャースも同様に下方の森を望み(身長ゆえに、背負っていた大きなリュックを足場代わりにして)、その雄大さに息を漏らす。

 カントー地方の出身だという彼にとって、森と言えば“トキワのもり”が一番印象深いものだが、目の前の大森林はかの森と同じか、或いはそれ以上の濃い緑に溢れていた。

 

 

「大体どんくらいで通り抜けられるんだっけ?」

「シェラさんの話だと、森の中の道からちゃんと逸れずに進めれば、大体2日くらいで向こう側の“5番エリア”まで出られるんだって」

「とはいえ、それもスムーズに進めれば、の話でありニャスからね。例え道を逸れずに進んだとしても、野生ポケモンが襲ってくれば、その度に立ち止まる必要がありニャしょう」

「……あの森の中は、完全にポケモンたちの領分って事、だよね」

 

 

 ごく、と音を立てて唾を飲み込んだのは、果たして誰だったか。

 

 “龍脈”──この世界における、遍く恵みの源泉たる自然エネルギー。

 それを豊富に有する領域のひとつが“ソコネ大森林”であり、それ故にあの森は、人間の影響力が著しく低い、ポケモンたちの勢力圏なのだ。

 

 シェラの言葉が、少年少女の脳裏に蘇る。

 

 

 

『森を進む時に、一番気を付けなきゃいけないコト。それは森の恵みを頂く時、必要最小限の量だけにしなければいけない。森の恵みは本来、森に住むポケモンちゃんたちのものであり、シェラちゃんたち人間は、それを()()()()()()()()()()()()()()()()立場なの』

 

 

 

 森の中において、ソラたちは誤魔化し様の無いほどに()()()であり、人間のルールは凡そ通じない。

 故に大事なのは、かねてより大神官(シェラ)から聞かされていた事……この世界における、自然との付き合い方、歩み寄りと線引き。

 

 

 

『ソラちゃんたちなら大丈夫だとは思うけど、約束して? 森に住むポケモンちゃんたちを、不必要に攻撃しないコト。もし、どうしても森の命をもらわなきゃいけない時は、必要な分だけにするコト。それがきのみでも、山菜でも、キノコでも、そして──』

 

 

 

 ()()()()を、ソラは胸の奥に仕舞い込んだ。

 

 

「……」

「──ま、とにかくシェラさんの言う通り、森の中で何があっても切り抜けられるくらい強くなれねーと、何も始まんないだろ? まだひとつの神殿(ジム)しかクリアできてないんだ。あと7つもクリアしなきゃならないのに、こんなとこで足踏みしてる訳にはいかないよな」

 

 

 思慮に耽りかけていたソラの意識を、力強い声色が“ふきとばし”、現実へと引き戻す。

 ふとそちらを向いてみれば、リクが歯を見せながら笑い、自分のモンスターボールを手にしているところだった。

 

「“重業(カサネワザ)”、だったっけ? ソラやシェラさんたちがやってたやつ、アレをおいらのポケモンたちも使いこなせるようになれば、これまで以上に旅をサポートできるかもしれない。こないだは土壇場で成功できたけど、これからもぶっつけ本番って訳には、な」

「……うん、そうだね。わたしやびぃタロたちも、いくら本番で上手くいったからって、今後も成功し続けるとは限らないわ。今の内に、何ができて何ができないのかを確認して、しっかり慣らしておかないと」

 

 

 

──シェラによれば、わざとわざの組み合わせは、そう難しい技術ではないという。

 

 

 

 まだ駆け出し同然のソラたちからしてみれば、本当かよと思わなくもない話だが、実際にアドリブで成功させられていた辺り、あながち間違いでもないのだろう。

 

 曰く、“重業(カサネワザ)”とは、トレーナーの存在あってこその技術。

 ポケモンの育成と指示を担うポケモントレーナーがいて初めて、2つのわざの組み合わせで相乗効果を得るという、複雑な戦い方ができるのだそう。

 

 必要なのは、そのポケモンの素質を見極める事。

 そのポケモンが使えるわざの内、無理なく組み合わせられそうなわざはどれか。組み合わせられたとして、そのポケモンが使いやすい、繰り出しやすいものなのか。

 

 それを見定めつつ、時には難度の高い組み合わせでも、安定して使えるように訓練する。

 わざとわざとの組み合わせパターンは、文字通り無限に存在する以上、或いは武術よりも終わりのない修行と言っていい。

 

 

「それに“重業”は、普通のわざよりもポケモンのスタミナを消耗しやすい為、使い過ぎには注意するよう仰っておりニャしたな。確かに、この辺りの塩梅を予め知っておくのは、今後の為になりニャしょうな」

「そういう事。だから森に入る前に、この辺で少し腕試しでも──っと」

 

 

 がさり。

 近くの草むらが揺れる音で、その場の全員の意識がそちらへ向けられる。

 

 なんとなしに、初めて1番エリアに出た時の事を思い出すソラ。

 あの時と同じように、しかしあの時見たそれよりも背の高い草むらから、ヌッと顔を出したのは──

 

 

 

「わおおん!」

 

 

 

《あっ! やせいの イワンコが とびだしてきた!》

 

 

 岩石めいた茶色い体に、小柄な体躯。

 グルルと唸ってこちらを“にらみつける”その正体は、こいぬポケモンのイワンコ。地上では、アローラ地方を中心に生息しているポケモンだ。

 

 森からはまだ遠いとはいえ、余所者たるこちらを警戒しているのか、或いは別の理由か。

 ともあれ、あちらから敵意を露わにしてきているのだから、こちらとて遠慮する必要は無い。

 

 

「早速お出ましか。どっちが行く?」

「じゃ、わたしから。シェラさんから教わった事のおさらいに丁度いいわ」

 

 今にもモンスターボールを投げ放ちそうなリクを制し、ソラが1歩前に出る。

 リュックを背負い込んだニャースが、戦闘の余波を受けぬよう後ろに下がったのを確認してから、ボールホルダーに手を伸ばす。

 

 

「旅はまだまだ始まったばかり、色々試しながら行きましょ! まずはあなたよ、びぃタロ!」

「エ、ビぃーアッ!」

 

 

《ゆけっ! びぃタロ!》

 

 

 

 

 

 

──以下、抜粋形式(ダイジェスト)でお送りするものとする。

 

 

「まずは基本から試してみましょう。“アクアジェット”を重ねて“グロウパンチ”!」

「ビぁアッ!!」

 

 

《びぃタロの グロウパンチ!》

 

 

「わ──おぉんっ!?

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《びぃタロの こうげきが あがった!》

 

 

「先制効果に、“こうげき”の上昇……。やっぱり、この組み合わせはスタンダードに強いな」

「“アクアジェット”はみずタイプで、“グロウパンチ”はかくとうタイプ。いずれも、びぃタロさまのタイプと合致している為、それだけで威力上昇が見込めるのも大きいですニャー」

「威力や性能だけ見るなら、これがメインウェポンでもいいくらいなんだけど……びぃタロ、調子はどう?」

「……ビぃっ!

「誤魔化さなくていいわよ。……んー、腕にちょっと負荷がかかってそうかな?」

「かくとうタイプの力強いわざを、“アクアジェット”の勢いで放っている訳ですからニャ。繰り出す度に威力が上がるのも、それに拍車をかけているのかニャと」

「連発は禁物、か。でも、ここぞで確実に通したい(わざ)なのは確かね」

 

 

 

 

 

 

《あっ! やせいの ハヤシタが とびだしてきた!》

 

《ゆけっ! はるりん!》

 

 

「でんでってでっで~♪」

「ヴォイド団の助祭(したっぱ)が使ってたポケモン……ハヤシタだったか?」

「確か、かくとうタイプだったわよね。それならあなたよ、はるりん。“スピードスター”を重ねて“かぜおこし”!」

「けーり、ほっけりーっ!

 

 

《はるりんの かぜおこし!》

 

 

「でっ、だでーっ!?

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

 

「上手い……! 必ず相手に命中する“スピードスター”とのコンボか!」

「うーん……でも、なんか威力が低いような……? どっちもタイプ一致だし、その上“こうかばつぐん”なんだけど……」

「恐らく、業が()()()()()にニャってしまわれているのでニャしょう。星型の光弾をいくつも放つ“スピードスター”と、突風を生み出し相手にぶつける“かぜおこし”とでは、わざの挙動や形状がまったく別物でニャスから」

「そっか、わざのエネルギーがグチャグチャになって、無駄に外へ逃げちゃってるんだ……。はるりんは大丈夫? 体、なんともない?」

「りー……りっ!」

「少しお疲れのようでニャスな。やはり、異なる挙動のわざ同士を無理に組み合わせて放つとなると、それだけ負担もかかるようで御座いニャス」

「この業は選択肢から除外するか、もしくは繰り出し方を工夫する必要がありそうね。……星型弾ごと風で巻き上げて、纏めて相手にぶつけるっていうのはどうかしら……?」

 

 

 

 

 

 

《あっ! やせいの エレズンが とびだしてきた!》

 

《ゆけっ! てれーな!》

 

 

「ばぁーっぶ!」

「おお、エレズンですニャ。地上ではあまり見ない、珍しい種でありニャス」

「なら……出番よ、てれーな! これがあなたの初陣になるわ、準備はいい?」

「れ、れぱーに!」

「大丈夫みたいね。それじゃ──“でんきショック”を重ねて“ねんりき”!」

 

 

《てれーなの ねんりき!》

 

 

「れっぱ、しゅーっ! ──……しゅ、み?」

「ばぶぅ……?」

 

 

《しかし うまく きまらなかった!》

 

 

きゃっ!? サイコパワーと電気が反発し合って、業にならずに霧散しちゃった……」

「完璧に失敗だな……これも、さっきと同じパターンか?」

「それもありニャスが……いずれも、高エネルギーを放射するわざだったが故の事故で御座いニャしょう。異なるエネルギーを同時に扱おうとした結果、コントロールし切れずに暴発したのでありニャスな」

「まぁ……そもそもてれーなは、今のが初戦だからな。ここまでそれなりに経験を積んできたびぃタロたちと違って、初陣からいきなり“重業”を撃とうとするのは無理があるか」

「れ、れっぴぃ……」

「ご、ごめんね、てれーな。今のは、わたしが調子に乗って無茶振りしたのが悪かったわ。少しずつバトルに慣れていって、それから“重業”の練習をし始めましょ? ホラ、相手はまだそこにいるわ。バトルを再開しなくちゃ!」

「ふわぁ……あ」

「暇すぎて、相手のエレズンが“あくび”してるな……」

 

 

 

 

 

 

《あっ! やせいの ガーディが とびだしてきた!》

 

《ポケモントレーナーの リクは ニャースを くりだした!》

 

 

「がう! がうがうがーう!」

「今度はガーディか。なら、次はおいらたちに譲ってもらうぜ、ソラ」

「にゃおんぬ!」

「ははっ、ニャースも気合入ってるな! それなら……“みずでっぽう”を重ねて、“ねこだまし”!」

 

 

《ニャースの ねこだまし!》

 

 

「にゃぁーみっ!」

「があおっ!?」

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《やせいの ガーディは ひるんで わざが だせない!》

 

 

「……お! 今のは上手く行ったんじゃないか!?」

「そうね。“みずでっぽう”を相手の顔面にぶつけて、怯ませる……挙動と効果が無理なく同居してるし、みずタイプ寄りの業になるのも好印象かも」

「“ねこだまし”とは要するに、相手が行動するより先に、相手の意表を突いて“おどろかす”わざでありニャスからな。素早く繰り出して意表を突く、という目的の下であれば、手段を“みずでっぽう”の発射に置換しても問題は無さそうですニャ」

「もしかしたら、“ネコにこばん”でも同じ事ができるかも……? “ネコにこばん”と“ねこだまし”を組み合わせて、水の代わりに小判をぶつけて怯ませるとか」

「悪くないな。ただ……」

「んにゃっぴ……」

「びぃタロの時と同じだな。先制わざを組み合わせた業だったから、繰り出すのに負担がかかったみたいだ。特に“ねこだまし”は、こないだ身につけたばっかだし、無理も()ぇ。まずは、“ねこだまし”自体をじっくり身につける必要がありそうだ」

 

 

 

 

 

 

《あっ! やせいの デデンネが とびだしてきた!》

 

《ポケモントレーナーの リクは ウェボムを くりだした!》

 

 

「ででっち☆」

「デデンネまで! マハルって本当に、珍しいポケモンがたくさんいるのね」

「きゅっきゅ! むしっきゅ!」

「ウェボムが戦いたくてウズウズしてるからな、次もおいらたちがもらうぜ。よーし、“ミサイルばり”を重ねて“ひのこ”だ!」

「むーむっ、きゅーっ!!

 

 

《ウェボムの ひのこ!》

 

 

「でで──んねっ!? ねっ、っ、んねっ!?

 

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

《4かい あたった!》

 

 

「今度も成功だ! けど、やっぱ威力が低くなってるか……?」

「いえ、今回は単純にタイプ相性でニャしょうな。“ミサイルばり”はむしタイプのわざ、フェアリータイプのデデンネとは相性が(わる)う御座いニャス。異なるタイプのわざ同士で“重業”をすると、逆にタイプ相性で不利になってしまう事もある、という事でニャスな」

「けど、“こうかいまひとつ”の上からこの威力なら、かなり効果的な方だよ。タイプ一致の“ひのこ”を、連射して撃てるようになるのは、それだけでアドバンテージだと思うわ」

「それもそうか。それで、ウェボムは……」

「むっきゅむきゅ~♪」

「元気が有り余ってるな……。むしろ、『もう1回!』ってねだってきてる」

「現状、ウチで一番タフなのって、この子なのかもね……」

 

 

 

 

 

 

《あっ! やせいの フラベベが とびだしてきた!》

 

《ポケモントレーナーの リクは ドードーを くりだした!》

 

 

「ららぁべ~」

「あっ、フラベベだ。でも、プルガーシティの魔女さんのフラベベとは、何かが違う……?」

「あれは、“オレンジいろのはな”のフラベベでありニャスな。魔女さまのフラベベは確か、“きいろのはな”の個体だったように記憶しておりニャス」

「相手にとって不足は無いな。よし、ドードー! てれーなの次はあんたの初陣だ、ぜ……?」

 

 

《ドードーは にげあしを つかって にげた》

 

 

「どどっど、でぃっだ、どどぉ~~~~~っ!?!?

「あっ、ちょ、待てって! どこ行くんだよ~!?」

「……」

「……」

「逃げたわね」

「逃げニャしたなぁ……」

「ら~べ~」

「あ、フラベベも逃げちゃった……」

 

 

 

 

 

 

「──はふ。ちょ、ちょっと休憩……。流石に、わたしたちもヘトヘトだわ」

「ですニャ。小休止は適時挟んできニャしたが、そろそろしっかりと休息を取った方がよろしいかニャと」

 

 

 戦闘に考察に小休止、たまに捕獲などもしつつ、4番エリアを順調に進むソラたち。

 気付けば、“ソコネ大森林”の入口はもうそこまで近付いており、4番エリアとの境界ギリギリのところで、一行は暫し腰を下ろす事にした。

 

 ただでさえ野生との戦闘(エンカウント)が連続していたところに、慣れない“重業”の訓練も加わって、人もポケモンも、それなりに疲労が蓄積していた。

 木陰で一息つきつつ、水袋に口をつければ、ひんやり冷たい“おいしいみず”が喉を通っていく。

 

 

「ふぅ……やっぱ“重業”って、おいらたちトレーナーも頭を使うからしんどいな。組み合わせ次第ではそもそも失敗したりするし、成功する組み合わせだったとしても、どうしたら効率よく繰り出せるとかを、しっかり考えなきゃいけない」

「そう、ね。それに、ポケモンにかかる負担も思った以上だったし、やっぱり軽々しく連発していいものじゃなさそうだわ」

 

 

 そう言いつつ、膝の上に乗ったはるりんの翼に櫛を通し、優しくブラッシングしていくソラ。

 木の幹に背を預けて座る彼女の傍には、びぃタロが物欲しげに肩を寄せていて、てれーなに至ってはソラの頭の上にへばりついていた。

 

 リクもまた、2匹揃って膝の上に押しかけてきたウェボムとマハルニャースを構いつつ、彼ら彼女らにも“おいしいみず”を飲ませてやっている。

 それから視線を向ける先には、草むらに身を(うず)め、見るからにしょげているマハルドードーの姿があった。

 

 

「ど、どどぉ……」

「あんたも、あんまり気にすんなって。これまで、あんまりバトルしてこなかったんだろ? これからゆっくり慣れていけばいいさ。そうすりゃその内、逃げずに済むようになるって」

 

 

 野生との戦闘を重ねた結果、ほとんどの手持ちポケモンたちは、“重業”をどう使っていくかの考察と訓練がそれなりに捗った。

 勿論、完全とは言い難いが、それでも実践での経験を通して、得るものはあったと言っていいだろう。

 

 ……リクのマハルドードーを除いて。

 

 新しく加入したメンバーの内、てれーな(テレネット)はおっかなびっくりながらも、どうにかバトルに食らいつき、何ができるかの確認をする事ができた。

 しかしマハルドードーは、野生ポケモンと出会うや否や、すぐに逃げ出してしまい、“重業”どころかバトルすら満足にできなかったのだ。

 

 

「兎にも角にも、まずは他の人間やポケモンに慣れてかないとダメそうね……」

「けど、あの“にげあし”はあんたたちも見ただろ? シェラさんが言ってた通り、あいつの能力は、これからの旅で必要になる筈さ」

「とまれ、まずはお体を休めニャしょう。“モーモーミルク”を温めニャスゆえ、欲しい方、は──」

 

 

 ピタ、とニャースの動きが止まる。

 

 彼が目を見張る先には本来、旅の食料などを詰め込んだ特大のリュックサックを置いて()()()

 森に入る前に休憩を取る事になり、一先ず地面に下ろした後、ソラたちの雑談に意識が向いて、ほんの一瞬だけそちらを見ていた……だけだったのに。

 

 

 

──そこにある筈のリュックは、影も形も無くなっていた。

 

 

 

「ニャ、(ニャ)い!? ニャーが運んでいたリュックが、どこにも!?」

「な、なんだって!? まさか、物盗りか!?」

「待って、あそこ! あのポケモンが持ってる!」

 

 

 にわかに動揺が走る中で、真っ先にソラがそれを見つけ、力強く指を指す。

 その切っ先が示すのは、“ソコネ大森林”の入口のすぐ近く。

 

 

 

「きっき♪」

 

 

 

 黄土色の毛並みに、フリフリ揺れる細い尻尾。

 頭部の毛が左右前後に伸びて円盤状を形成し、さながら帽子を被っているかのよう。

 

 悪ガキめいた嘲りを浮かべ、歯を剥くそのポケモンは、ヒコザルやマンキーのような、サルポケモンの類いと思われた。

 それ相応の小柄な体躯にも拘らず、己の何倍も大きなリュックサックを、両手で軽々と持ち上げている。

 

 

「あいつ──『ヤマサルサ』! “どろぼう”好きのポケモンだ!」

「ニャんと!? よもや、ニャーたちの食料を奪うつもりでニャスか!?」

「ききっき~♪」

「あっ、逃げるわ! 早く追わないと!」

 

 

 こちらを煽るように尻を向け、尻尾を振りつつその場を去るヤマサルサ。

 

 あのリュックの中には、旅の為に用意した食料の大半が入っているのだ。

 奪われる訳にはいかないと、ソラたちは休憩もそこそこに立ち上がり、急いでその後を追い始める。

 

 

「ききっ? きっきゃー!」

「待って! 待ちなさい! こら、待ちなさいってば!」

 

 

 黄土色の矮躯は草むらの中に消え、奴が持ち上げているリュックサックの影のみが、唯一の目印となり。

 それを見失わないよう、必死になって走る一行の姿は、やがて見えなくなっていった。

 

 ……“ソコネ大森林”の内部。

 人間の手が一切入っていない、()()()()()()()()()()()()森の奥へと向かって、ひたすらに。




マハル図鑑 No.042
【イワンコ】
ぶんるい:こいぬポケモン
 タイプ:いわ
とくせい:するどいめ/やるき/マイペース*1(ふくつのこころ)
ビヨンド版
 首の 岩は 鋭いほど よい。敵への 威嚇や 仲間への 親愛の 表現に とても 役立つ。
ダイブ版
 人懐っこい 性格だが 成長に 伴い 気性が 荒くなる。それでも 勇敢さは 失わない。


マハル図鑑 No.082
【ヤマサルサ】
ぶんるい:わるザルポケモン
 タイプ:じめん
とくせい:わるいてぐせ/ほおぶくろ(ムラっけ)
ビヨンド版
 何かと よく 人の 物を 盗む。最早 盗むこと そのものが 彼らの 生き甲斐 なのだ。
ダイブ版
 山に 群れで 暮らしている。盗んだ 成果を 見せ合っては 歌や 踊りで 遊び呆ける。


マハル図鑑 No.099
【デデンネ】
ぶんるい:アンテナポケモン
 タイプ:でんき・フェアリー
とくせい:ほおぶくろ/ものひろい(プラス)
ビヨンド版
 電気が 大好物だが 機械が 発展する 前は どうやって 生きていたか 定かではない。
ダイブ版
 世界の どこかに デデンネたちが 集まる 静電気 だらけの 洞窟が 存在するらしい。


マハル図鑑 No.180
【エレズン】
ぶんるい:あかごポケモン
 タイプ:でんき・どく
とくせい:びびり/せいでんき(ぶきよう)
ビヨンド版
 汚れた 水を 体内で 毒液に 変える。毒液は 僅かに 電気エネルギーを 帯びている。
ダイブ版
 わがままで 甘えん坊。お腹が 空くと エサを 探して 親の 下から 離れてしまうぞ。



今回の書き溜めは以上。
またある程度のストックが完成したら更新します。

次回より第3章後半戦、「“ソコネ大森林”編」開幕です。

*1
「特別なイワンコ」のみ、とくせいが「マイペース」となる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。