ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.115「森の洗礼」

「……ヌシポケモン? ヌシって……あのヌシ?」

 

 

 数秒、目を瞬かせて。

 ソラは、今しがたの言葉を“はんすう”するように呟いた。

 

「どのヌシかは分かんないけど……って、もしかして知ってるのか?」

「地上でも、一部の地方にいるって話だから。そういうのも、父さんの資料とか、後はネットとかで色々ね」

 

 

 ヌシポケモン。その地のポケモンたちを統べる、文字通りの“(ヌシ)”。

 

 現代の地上において最も有名なのは、アローラ地方とパルデア地方だ。

 アローラでは“ぬしポケモン”、パルデア地方では“ヌシポケモン”と、若干のニュアンスの違いこそあるが、いずれも「ある特定の地域に根を張る強力なポケモン」である事には変わりない。

 

 加えてアローラ地方には、ぬしポケモンとは別に“守り神”と呼ばれる、文字通り神にも等しい力を振るうポケモンが存在する。

 彼らはアローラ地方を構成する4つの島を守る存在であり、広義では“ヌシ”の一種とも言えるだろう。

 

 一説には、遥か昔のシンオウ地方にも、“キング”或いは“クイーン”と呼ばれる、強大なボス級ポケモンが存在したらしい。

 

 生半可なトレーナーなど歯牙にもかけない、オヤブンの中のオヤブン。生態系の頂点。

 それが“ヌシ”の名を冠するポケモンたち──まさしく、自然の支配者たる存在だ。

 

 

「シェラさんも言ってたろ? この森は“龍脈”のエネルギーが濃くて、それがポケモンたちにとっての恵みになってるって。だから、そういう場所はポケモンがすくすく育って、そんだけ強くなりやすいんだってさ」

「……そういえば、この森に踏み入ってより、やけに力が漲るような感じがしニャス。全盛期……というほどでは流石にありニャせんが、それでも関節や腰がいつもより楽ですニャア」

 

 

 ニャースは己の手のひらを開いて閉じて、握力を確かめながらにそう零す。

 

 社交界(シャトー)を引退してより早十数年以上。

 バトルとは程遠い暮らしをしてきたにも拘らず、それなり程度には動き回れそうなだけの力が、体の底から湧き出してくるようで。

 

 

「それが“龍脈”の恩恵……かぁ。もしかして、てれーなも?」

「てりぃーっぴ♪」

 

 やや後ろに目を向けつつ声をかければ、フードの中からてれーなの声が飛んでくる。

 先ほどまでは、周囲から漂う気配たちに怯えた様子を見せていたが、ニャースと同様に“龍脈”の影響を受けたからか、今は少しばかり上機嫌そうだ。

 

 

「あんたは……」

どぉっ!? ど、どぉど……

「……あんま変わんねぇみたいな」

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「そんでアネキの話だと、こういう“龍脈”の濃い場所にはヌシ格のポケモンが1匹いて、そこに住んでるポケモンたちの縄張りとか群れを、ぜーんぶ纏め上げてるんだと」

「纏め上げ、って……縄張り争いを諌めたりとか?」

「多分? 詳しく聞いてないから分かんねぇ。でも、さっき言ったみたいな事……外からやってきた人間やポケモンが森を荒らしたりしたら、それを追い払うのもヌシの役割らしいぜ」

「外からやってきた人……つまりわたしたちの事、か」

 

 

 その言葉に、身を震わすような恐ろしさを覚えたのは事実だ。

 だが、それ以上に「納得」と形容するべき感覚があった。

 

 アローラ地方においても、その島の“守り神”の意向を無視してスーパーを建てた結果、怒った守り神によって施設が壊され、近隣の村も滅びてしまったという。

 強大な力を持ったポケモンとは、即ち自然災害にも等しい脅威を発揮する事がある。

 

 シェラの警告とはつまり、ヌシの怒りを買わないようにする為のものなのだ。

 

 同時に思い出すのは、プルガージムでのやり取り。

 その際、彼女はこのように語っていた。

 

 

 

『この世界で必要なのは、自然(ポケモン)との()()()()()()()()コト。必要な分だけ自然(あっち)からお借りする。それ以上はもらわないし、そうしようとする人がいたらとっちめる。逆に、自然(あっち)から人間(こっち)に不必要な干渉があれば、程々でやめてもらう。そして、その調整役を担うのが……』

『シェラさんたち大神官(ジムリーダー)……ですか?』

『そゆこと☆ ソラちゃんも分かってきたね~♪』

 

 

 

 大神官(ジムリーダー)が、人間の側から自然との橋渡しを担う役割ならば。

 ヌシポケモンとは、さしずめ──

 

 

 

「人と自然のバランスを整える……ポケモンの側の調停者」

 

 

 

 そう呟く内に、不思議な感情が(にわか)に輪郭を帯びてくる。

 

 恐ろしさはある。

 もし遭遇したならば、それは自分たちが森を脅かしたが故であり、その怒りによって手痛い報復を受ける事は明らかだ。

 

 そうでなくとも、強力で強大で、そして凶暴な野生ポケモンなど、ひよっこトレーナーに過ぎない自分が会っていい存在ではない。

 第一、“ギムレの洞穴”でオヤブンテレネットに襲われて酷い目に合った自分が、恐らくは彼よりもずっと強大なポケモン相手に太刀打ちできる訳も無く。

 

 なのに……何故だろう。

 

 

 

(もし会えるなら……会ってみたいな。戦闘(バトル)捕獲(ゲット)も要らないから……ただ、この目で見てみたい)

 

 

 

 湧き上がるその感情は、まさしく好奇心そのもの。

 未知の世界、未知の景色への渇望が、少女にヌシポケモンという存在への憧憬を抱かせていた。

 

 

「ねぇ、リク。この森のヌシがどんなポケモンかって、ルスティカ博士からは──」

「れーっぴ!」

 

 

 少女の声を打ち切るように、てれーなが叫ぶ。

 もぞり、とフードから這い出てきた彼女は、折り畳んでいた脚部を伸ばし、その勢いでソラの遥か頭上へと跳躍。

 

 彼女の頭部で光る天使の輪(エンジェルハィロゥ)は、既にバチバチと音を立てて帯電していた。

 

「てれーな!? まさか……」

「れぴぴっ、てりゃぁーっ!!

 

 

《てれーなの でんきショック!》

 

 

 仔細を問い切るよりも早く、放射状の電気光線が射出される。

 どっぷり昏い森の中にあって、周囲を眩く照らしながら奔る電流は、数メートル離れた先の樹冠を貫く──いや、違う。

 

 

 

「ギゲッギャ!」

 

 

 

 電流が到達するまさにその瞬間、樹冠から飛び出したピンク色の長い腕が、“でんきショック”を振り払う。

 

 閃光が立ち消え暗転する森の中にあって、華麗に着地したカラフルピンクのポケモン。

 その大きな耳とモジャモジャの髪が、ソラも知るポケモンの一種である事を示唆していた。

 

 

「ゲモッゲモッギ!」

「あれは……ギモー! ベロバーの進化系! この森にも住んでるのね……!」

「いえ、待つで御座いニャス! これは、もしや──!?」

「べぇ~ろ!」

「ばぁ~~~!」

「ばば~ろ!」

 

 

《あっ! やせいの ギモーが とびだしてきた!》

 

《あっ! やせいの ベロバーが とびだしてきた!》

 

《あっ! やせいの ベロバーが とびだしてきた!》

 

《あっ! やせいの ベロバーが とびだしてきた!》

 

 

 ソラたちの注目をわざと集めるようにして、彼女たちの目の前に現れた、しょうわるポケモンのギモー。

 目論見通り、一行の意識がそちらへ向いた隙に、その配下たるベロバーたちが一斉に周囲を取り囲んだ。

 

 地上においても、イタズラ好きのずる賢いポケモンとして知られるベロバーたちと、その進化系たるギモーは、やはり少女たちへの悪意と敵意を爛々と光らせている。

 それは習性通りの“いたずらごころ”であり、野生の世界へ迷い込んだ獲物を狩らんとする本能であり、そして。

 

 

「囲まれた……っ! そうか、ここはギモーたちの縄張りだったんだ!」

「いきなり外からやってきた余所者のわたしたちを、今の今まで静観してたけど、自分たちの縄張りに入ってきたとあっては容赦しない……そういう事ね」

「れれ、れぴぃ……」

 

 

 先ほど空中で“でんきショック”を放っていたてれーなは、今は主たるソラの頭頂部に着地し、足すべてを使ってしがみついている。

 彼女はエスパータイプであるが故に、自身のウィークポイントたるあくタイプの彼らを前にして、怯えを隠せないのだろう。

 

 事実、目の前に迫るギモーのみならず、左右と背後を囲むベロバーたちでさえ、明らかな格上である事が目に見えて実感できた。

 先日、ヴォイド団の助祭(したっぱ)が繰り出していたベロバーなぞ、比較にもならない。

 

 ここはまさしく、強敵たちの巣窟(モンスターハウス)に相違ない。

 

 

「い、如何致しニャしょう……!? 数ではあちらが上、しかも格上とニャると……」

「いや……それ以前に、この子たちと争うのは避けたいわ。あくまで部外者……この森にとっての敵は、わたしたちの方。なのに『縄張りに踏み入った側』が攻撃し始めたら、本格的に敵と見做されてしまうわ。どうにか突破だけして、振り切らないと……」

「なら早速、こいつの出番って訳だ」

 

 じりじりと迫ってくる野生ポケモンたち。徐々に狭まる包囲網。

 そんな中にあって、リクは若干の虚勢こそあれど、普段と変わらない態度のまま……己の隣に立つ、新しい仲間へ呼びかける。

 

 

「頼むぜ、ドードー。ここから逃げるぞ!」

「ど、どどどぉっ……!」

 

 

《ポケモントレーナーの リクは ドードーを くりだした!》

 

 

「ソラ! じいさん! 乗れ!」

「っ、分かった! てれーな、わたしにしっかり捕まってて!」

「に、にぃっと!」

(ニャ)る程、そういう手が……! ドードーさま、暫しお背中をお借りしニャスぞ!」

 

 

 ベロバーたちが動き出すよりも先に、マハルドードーの背に乗るリク。

 そこへ、意図を察したソラとニャースもまた、彼に後ろからくっつく形で乗り込んだ。

 

 都合人間2人と小型ポケモン2匹分の重量を一身に受け、少しばかり苦しそうな表情を見せたマハルドードーだが、それもすぐに和らいで。

 細長い2本の足でしかと地面を掴むと、今まさにこちらへ飛びかからんとする野生ポケモンたちを前に、グッと足に力を込めて屈むと──

 

 

 

「どどどどっ、ど、どぉおぁ──ッ!!?

 

 

 

《ドードーは にげあしを つかって にげた》

 

 

 その跳躍は、先ほどてれーなが行ったそれを、遥かに上回る高度と飛距離を出していた。

 

 ギモーの指示でソラたちを攻撃しようとしたベロバーの群れ、そしてそれらを回避したところを追撃しようと企んでいたギモー自身。

 それらすべての上を取り──そして、悠々軽やかに飛び越えて、2人と2匹を乗せたマハルドードーは、彼らの背後へと着地する。

 

 

「ギモッ……!?」

「べぇばぁ……?」

 

 

 相手側からすれば、今の今まで自分たちが追い詰めかけていた獲物たちが、一瞬の内にどこかへ消えたように見えたのだろう。

 突然の事に虚を突かれた隙を縫い、彼らが気付くよりも早く、ふたごどりポケモンはゼンリョクで走り出す。

 

 とくせい“にげあし”、発動。

 たとえ格上の群れに囲まれた状況下であっても、“おくびょう”な健脚は逃げの一手をもぎ取る事ができる。

 

 

「ソラ、“ベタベだま”の反応をてれーなに追ってもらう事はできるか!?」

「れぴぴぴ……れにぃ!

「できるみたい。あっちの方向!」

「よっしゃ、ドードー!」

「どっ、どぉどっ!」

 

 草むら生い茂る森の中であるにも拘らず、見事なカーブを決めるマハルドードー。

 それでいて、背に乗る面々がカーブの勢いでバランスを崩す事も、その背から転げ落ちる事もなく、奇跡的なバランスで以て駆け抜ける。

 

 “にげあし”とは、ただ逃げるだけの能力ではない。

 ただ逃げただけでは、その後すぐに追いつかれてしまう可能性だってある。重要なのは、相手を完全に振り切る事。

 

 マハルドードーの秘めるサイコパワーは、本職のエスパータイプであるてれーな(テレネット)に比べれば、確かに低い。

 それでも、生存の為に開花したリージョンフォームとしての能力は、自身が生き延びられる可能性の高いルートを、正確に知覚し導き出す。

 

 

「あっ、そこのキノコ踏──」

「どどぉどっ!」

「……むなよ胞子を吸ったら“まひ”るから……って言う前に避けたな」

 

 

 足を引っ掛けて転んでしまいそうな位置にある根、肌を裂いてしまいそうな風に突き出た草に枝、踏むと不味そうなキノコ。

 それらすべてを的確に、そして迂回しない程度にギリギリの距離で避け、時として跳ね回る。

 

 それは或いは、マハルドードーの持つ嗅覚(五感としてのそれではなく、危険を嗅ぎ取る直感の意だ)が、本能的に危険を察知しているが故か。

 同時に、通常の個体よりもとりわけ“おくびょう”だという彼は、より危険感知に高い適性を持っているのだろう。

 

 だが、それでも。

 物音に気付いて後ろに意識をやると、なおも追い縋らんと迫る、ピンク色のシルエットが垣間見えた。

 

 

「ゲギャーモッ!」

「も、もう追ってきニャした!」

「ウソだろ!? “にげあし”持ちのドードーが逃げられないなんて……」

「……違う、“いたずらごころ”! こっちが逃げるより先に行動して、先手を取ろうとしてるんだわ!」

 

 

《やせいの ギモーは わるだくみを した!》

 

《やせいの ギモーの とくこうが ぐーんと あがった!》

 

 

 “いたずらごころ”。

 相手の行動よりも先にへんかわざを繰り出すとくせい。

 

 21番エリアでのバトルで、ヴォイド団に使役されていたベロバーもまた、このとくせいを活かし、ソラたちを苦しめたのは記憶に新しい。

 そんなベロバーの進化系たるギモーもまた、このとくせいを持ち、かつ進化前以上に適切な運用ができるのは当然の話だ。

 

 こちらの行動を上回る速度での行動により、マハルドードーの“にげあし”を捕捉せんとするギモー。

 加えて、“わるだくみ”によって向上した知性──という名の悪知恵が、最短ルートでの追走を可能としていた。

 

 

「やば、追いつかれる……! どうにかして撒かねぇと」

「やるしかない、か。てれーな!」

「れーに!」

 

 ソラの後頭部にしがみついていたてれーなが、頭上の輪っかを輝かせた。

 1人と1匹が振り向いた先、木の枝の向こうから、こちらに向かって跳躍したポケモンをともに見据え、指示の時を待つ。

 

 

(攻撃行為はNG……自衛の為の迎撃が認められるかは分からないけど、この状況で余計なリスクを負う訳にはいかない。それに……)

 

 

 少女は、知っていた。

 今まさに眼前へと到来しつつあるポケモンが……その振り上げられた右腕が、どのようなわざを繰り出すのかを。

 

 

「ギャッギャギーッ!」

 

 

《やせいの ギモーの ふいうち!》

 

 

 “ふいうち”もまた、相手の行動直前に先手を打って攻撃する、先制効果を持つわざだ。

 

 威力の高さもさることながら、わざのタイプはあく。

 あく・フェアリータイプのギモーにとっては威力向上の見込めるタイプ一致わざであると同時に、エスパータイプのてれーなが受ければ大ダメージは免れない。

 

 だが、このわざにはひとつ、欠点が存在する。

 それは、このわざを繰り出すにあたって、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。

 

 

 

「“あやしいひかり”!」

「れっぱ──ぴぃいーあっ!!

 

 

 

《てれーなの あやしいひかり!》

 

 

 瞬間、放たれた光を、ギモーは真っ正面から直視してしまった。

 

 

「ギ、ィイイ──モォッ!?

 

 

《やせいの ギモーは こんらんした!》

 

《やせいの ギモーは こんらんしている!》

 

《わけも わからず じぶんを こうげきした!》

 

 

 光に目を焼かれ、動きが鈍る。

 

 与えられた“こんらん”によって狂った挙動は、本来ソラたちを襲う筈だったルートを大きく逸脱。

 結果、近くの木から伸びる大きな枝に向かって飛び込んだギモーは、樹皮で強かに頭をぶつけてしまう。

 

 

「今よ!」

「ようし、かっとばせ!」

「どぉ、どぉ……どどぉおおーっ!!

 

 

 ここまでずっとノンストップで走り続けていたマハルドードーが、最後の踏ん張り時と言わんばかりに地面を蹴る。

 ようやく追いついたらしいベロバーたちが、“こんらん”状態で地面に転がるギモーに声をかける姿が、みるみる内に遠い景色の一部となって同化しゆく。

 

 ……やがて、更なる追撃の気配が無い事を確認し、徐々に走る速度を落としていって。

 立ち止まり、ヨロヨロとその場に這い蹲るマハルドードーの背から、ソラたちは一斉に地面へと転がり落ちた。

 

 

「はぁ……はぁ……やっと、振り切れた……」

「て、れぇり……」

「追いつかれかけた時は、ヒヤリとしニャしたけどね……」

「だな……マジでお疲れさん、ドードー。あんたのおかげで助かったぜ」

どっ!? どぉ……ど、どど……

 

 

 羽根を撫でながらに告げられた褒め言葉を、マハルドードーはビクつきつつも受け入れ、むず痒そうにそっぽを向く。

 どうやら褒められ慣れていないらしく、照れ臭そうな態度を隠せていない。

 

 こちらを見ようとしない彼の首を、無理やりこちらに向かせ、水袋を差し出すリク。

 初めこそ抵抗していたが、やがて喉の渇きを我慢できず、2本の首を代わる代わる袋の中に突っ込み始めた。

 

 

「はは、やっぱ喉渇いてたよな。あんだけ走ったんだし」

「それも、わたしたち全員乗せて、ね……。本当、お疲れ様」

「どぉ……」

 

 

 水袋からくちばしを引き抜いたマハルドードーの表情は、なんとも複雑そう。

 怯えと疲労と「もう懲り懲りだ」って感じの表情に、褒められた事に対する少しばかりの嬉しさ。

 

 今朝初めて彼と引き合わされた時、その“おくびょう”全開な姿を見て、さしものソラも不安にならなかったかと問われれば嘘になる。

 しかし蓋を開けてみれば、“おくびょう”であるが故の逃走能力と危険を感じ取る勘が、これほど頼もしく感じられるとは思わなかった。

 

 

「てれーなも、ありがとね。あなたにも助けられたわ」

「れぱ~しゅ♪」

 

 

 頭の上で嬉しげに身を揺らす彼女へと、人差し指を向かわせる。

 その頬を指先でぐりぐりと撫でてやっている内、今の今まで緊張で強張っていた肩の力も、なんだか自然に(ほぐ)れていくようで。

 

 ……そんな中、リクが徐に立ち上がり、自分の分の荷物を背負い直す。

 その傍では、マハルドードーも嫌々ながら姿勢を正し、周囲への警戒を始めていた。

 

 

「さて……そろそろ動き出すぞ。さっきの追いかけっこで、他のポケモンたちも、おいらたちの事を『襲ってもいい奴』だと認識し始めてるかもしれない」

「……確かに。先ほどより、森の中の気配がより剣呑になり始めているような気が致しニャス。ニャーたちを警戒しているのか、それとも別の要因か……いずれにせよ、いつまた襲ってきてもおかしくありニャせん」

 

 

 ニャースの言葉に頷きを返し、ソラもまた立ち上がる。

 愛でる手を止められたてれーなも、その事を不満にこそ思えど、それよりも周囲の探知再開を優先しているようだ。

 

「びぃタロさまたちは……」

「まだ出さない。何かあった時の為に、余力を持っておいてもらいたいから」

「だな。じゃ、行こうぜ」

 

 当初の予定通り、ヤマサルサが残しただろう痕跡を辿って、森の奥へと進む一行。

 肌をヒリつかせる“警戒”の空気が、つい先ほどまで弛緩していた肉体に、新たな緊張を走らせていく。

 

 プルガーシティを立つ前、シェラから送られた警句の意味が、実感を以て形を帯びる。

 ギモーたちに襲われ、なんとか逃げ延びた先の会敵は、まだ序章に過ぎない。

 

 

(“ソコネ大森林”……人の介在を許さない領域、その洗礼って事……ね)

 

 

 張り詰めた気配の中を、草むらのように掻き分けて歩く。

 野生世界を横断する旅は、まだ始まったばかりだ。




マハル図鑑 No.175
【ギモー】
ぶんるい:しょうわるポケモン
 タイプ:あく・フェアリー
とくせい:いたずらごころ/おみとおし(わるいてぐせ)
ビヨンド版
 良質な マイナス感情を 食べる 為に 森を 歩く 人間を 自分の 縄張りに 誘い込む。
ダイブ版
 土下座の 振りで 相手を 油断させて 攻撃する。卑怯は ギモーに とって 褒め言葉。

《進化》
ベロバー
→ ギモー(Lv.32で進化)
  → ???(???で進化)
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