ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.117「三司祭ザクム」

 “三司祭”。

 謎多きテロリスト集団“ヴォイド団”の助祭(したっぱ)たちを指揮する、3人の幹部格。

 

 “名無しのナシ”を名乗る少年曰く、彼らの名も素顔も、直属のしたっぱ以外には知らされていないという。

 彼らの正体を知っている者がいるとすれば、それは同じ三司祭か、未だ素性の知れないヴォイド団の酋長(リーダー)か……或いは、その事を語ったナシ自身か。

 

 事実、ウツシタウン襲撃の指揮を執っていた三司祭の男は、ナシと面識があるような素振りを見せていた。

 結局、リクとナシの奮闘で退けられてなお、最後までその名前も素顔も分からず終いだったが……その奇妙で異質な雰囲気を、リクはよく覚えている。

 

 したっぱたちと同じ白い髪に赤い目。

 そしてその素顔を覆い隠す、腐り果てた枯れ木の意匠を持つ仮面。

 

 もしもあの仮面こそが、“ヨミガミさま”なる邪神を信奉する、司祭の証であるのならば──目の前の、彼は。

 

 

 

「不運にも我らと出会ってしまった、マハルの民の子。だが、()れは貴様らを憐れみはしない。ポケモンともども、“ヨミの神”へその命を奉じる事のできる栄誉に、喜悦の涙を流すがいい」

 

 

 

 白い髪。仮面に空けられた穴から覗く赤い目。助祭(したっぱ)よりも豪奢な装い。

 素顔を覆う仮面が、先に会敵した痩せぎすの男とは異なり、腐り落ちた獣の亡骸や白骨死体が描かれていた。

 

 2人のしたっぱが左右に侍り、足元の冷気さえ彼に跪いているようで。

 その冷淡で、こちらを手折るべき草程度にしか見ていないような視線こそが、彼を“三司祭”の一角であると、少年少女たちに確信させていた。

 

 ……たとえ駆け出しトレーナーに過ぎずとも、ソラもまた、この“マハルの地”で数々の「強敵」と戦ってきた経験を持ち合わせている。

 

 彼らに視た強者としての雰囲気、在り方。

 そして、先のウツシタウンの攻防で接敵した三司祭の1人、枯れ木の仮面の男。

 

 それらの記憶を下に──ソラは、目の前の男を断じる。

 

 

 

(今のわたしたちじゃ……絶対に勝てない!)

 

 

 

 このまま1歩でも前に踏み出してしまえば、即座に自分たちの命は摘み取られるだろう、そんな直感と悪寒。

 全身へ浴びせかけられる冷ややかな殺意を前に、あまりにも怖気が走り過ぎて、いっそ頭が冷静にさえなってくる。

 

 そんな未熟な少女の持つ知覚手段のすべてが、ただひとつの答えを叫んでいた。

 この男は、何よりも明確な格上であると。

 

 自身の隣に立つリクを、視線だけを動かして見やる。

 彼も同様に、彼我の実力差を正確に理解し、それ故に動き出せていない様が、その佇まいから容易に想像できた。

 

 

(逃げるのは……無理。ドードーのとくせいでも、トレーナー付きのポケモンを振り切る事はできない)

 

 

 マハルドードーのとくせい“にげあし”は、野生ポケモンとの戦闘から必ず逃げる事のできる効果を持つ。

 だが不思議な事に、このとくせいはトレーナー同士の戦闘では発揮できず、ポケモンバトルからの離脱は許されない。

 

 トレーナーという指揮官の存在により追跡と捕捉の精度が向上するからだとか、相手トレーナーの存在が無意識下で“プレッシャー”になっているからだとか、その理由は様々に論じられているが、地上の学者間でも結論は出ていない。

 ともかくこの場において重要なのは、マハルドードーのとくせいを使った離脱は、今この時ばかりはできないという事のみだ。

 

 

「……異常なくらいの冷気、それに周りの木や川が氷漬けになってるのって、あなたたちが……あなたたちのポケモンが、何かしたからなんですか?」

 

 

 逃げられない。勝てない。だからと言って、諦める訳にもいかない。

 寒さと恐れ、どちらによって震えているかも分からない喉から、ソラはどうにか言葉を紡ぎ出す。

 

 

「だとしたら、どうする」

「なんで、こんな事を……。こんな事をしたら、野生のポケモンたちが住めなく……ううん、凍えて死んでしまうポケモンが出てくるかもしれないのに」

「何か、問題でもあるのか?」

 

 嘲るような鼻息とともに、男はそう吐き捨てる。

 視線も声も冷たい中にあって、その態度だけは、グツグツ煮え滾るマグマのように感じられて。

 

 

「弱き者がどれだけ死んだところで、それこそが自然の摂理というものだ。むしろ、死ねば死ぬほどに“ヨミの神”への供物は増える。それを大義に思えど、悪行と思う道理は無いだろう」

「……っ。あんたも、あの男……ロゼリア使ってたあいつと同じ事を言うんだな」

「ほう。やはり、奴と会っていたか。しかし、ふむ。奴の手持ちにロゼリアなぞいなかった筈だが……ああ。大方、手加減……いや、遊ばれでもしたか。奴はそういう、くだらない()()()が好きな男だからな。でなければ、こうして貴様らが生きている筈も無い」

 

 

 大した感慨も無く、いたって当然の事のように嘯く。

 けれど、リクはその言葉に反論できず、グッと息を詰まらせる事しかできなかった。

 

 枯れ木の仮面の男は、ロゼリアを「適当に用意しただけ」だと告げていた。

 そのロゼリアに圧倒され、どうにか辛勝したリクとナシだが、あのまま戦闘が続いていればどうなっていたかなど、恐ろしくて想像のし様もない。

 

 だからこそ。

 

 

「尤も、今回の()れの作戦には、別の目的もあるのだが……それを貴様ら如きに、馬鹿正直に話す事もあるまい。貴様らはこれから、“ヨミの神”へその命を捧げるのだ。神の舌へ奉じる供物に、余計な雑味が乗ってしまっては事だからな」

 

 

 誰もが、理解する。してしまう。

 この男は、決して加減などしない。確実に、こちらを潰しに来る。

 

 

「ひ、ひいさま……」

「大丈夫……大丈夫じゃないけど、大丈夫。じいちゃんは、わたしたちの後ろに隠れてて」

「あくまでも、抗うか。まぁ、いい。それも一興だろう。ならば、その虚勢さえ摘み取るほど徹底的に──」

()()()様」

 

 

 男が、己の懐に手を入れようとした、まさにその寸前。

 彼の左右に立っていた2人の助祭(したっぱ)たちが、示し合わせたかのように前へ出て、それぞれの手に木彫りのモンスターボールを握る。

 

 彼ら(男と女が1人ずつ)は、冷徹な仮面の男とは対照的に下卑た笑みを浮かべ、こちらを甚振らんとする意志をありありと見せていた。

 ソラとリク、それぞれに相対するような位置取りに立ち、誇らしげに鼻を鳴らす。

 

 

「この程度の有象無象、あなた様のお手を煩わせるまでもありませんわ」

「我らが確実に仕留め、“ヨミガミさま”へ献上してご覧に入れましょう。ザクム様はこちらにかかずらう事なく、本来の任務をご優先なさ──げぶぁっ!?

 

 

 したっぱの男の方が、言葉を言い切るより早く。

 仮面の男の裏拳がその後頭部を打ち据え、隣に立つ木の幹へと顔面を“たたきつける”。

 

 ツッコミとか、掣肘とか、そんな生易しいものではない。

 本気で──或いは、()()()で放たれた拳の一撃は、したっぱの頭部から不快な音を奏でさせた。

 

 やがて拳が離れ、樹木との熱いベーゼから解放されたしたっぱの顔面は、鼻がひしゃげて血みどろそのもの。

 そうでもどうにか立っていられるらしく、口や潰れた鼻から弱々しい呼吸音が漏れる中、仮面の男は重々しい言葉を吐いた。

 

 

「……愚か者が。貴様の言う有象無象に、なぜ()れの名を晒す。我ら司祭の名は、“ヨミの神”の忠実な(しもべ)として授けられた神聖なもの。資格無き者が口にする事も、耳にする事も許されぬ」

「も、申し訳、ありません……。どうか、お、許し、を……」

 

 

 ゲボゲボと血を垂らしながら許しを請う姿は、道化のようであり、また乞食のようでもあった。

 

 三司祭の名前は、直属の部下以外には伏せられている。ナシから聞いた話だ。

 だが、その名を不用意に口にしただけで本気で殴られ、血みどろになってなお反抗も逃走も戦意喪失もしないなど、ハッキリ言って異常な光景でしかない。

 

 ソラたちは、その奇怪な情景を、ただ見ている事しかできなかった。

 やがて、それまでとは別種の「恐怖」で揺れる喉から、吐き戻しが一呼吸ぶん。

 

 

「……ザクム。それが、あなたの……」

「……どうやら、こいつらよりも輪にかけて愚かな小娘のようだな。今のやり取りを見てもなお、()れの名を口にするか」

 

 

 思わず口に出してしまい、しまった、と思った時にはもう遅い

 仮面の穴から放たれる眼光に、少女の心臓は、一瞬で凍結したかのような錯覚へと(いざな)われる。

 

 ともすれば、たちまちに身が竦んで、そこからはもう何もできなくなるくらいの恐怖。

 

 しかしソラは、“きょすうのはね”に狂わされたナミノルロスの殺意と闘志を、真っ向から体験している。

 今浴びている圧力は、あの時のそれよりもずっと強く鮮明ではあるが、それでも今のソラは「何も知らない無力で愚かな少女」ではなかった。

 

 

「……リク、戦おう!」

「ああ。……こうなったら、勝つしかおいらたちが生きる術は()ぇ。どうにかして切り抜けるぞ」

 

 

 手も足も、声さえ震わせながら、しかし後ろに退く事は無く。

 仮にも「1度はヴォイド団を退けられた」という成功体験が、少年少女の足元を、向こう見ずという名の泥で絡め取っていた。

 

 

「……浅はかだな。死という己の宿命(さだめ)を受け入れぬとは、やはり子供は嫌いだ」

 

 そんな2人の愚行を見て、男──ザクムは、面倒臭そうに息を吐く。

 だが、彼がモンスターボールを手にする事は無い。半ば吐き捨てるようにして、したっぱ2人へと命令を下す。

 

 

「三司祭が1人、“荒廃”のザクムが貴様らに命じる。己が愚行は、己が手で始末をつけよ。あの子供たちを鏖殺し、我が聖なる名の隠匿を為せ。すべては、深淵の神が為に」

 

 

 

悪の組織(ダークカルテル) ヴォイド団】

司祭(かんぶ) ザクム】

 

 

 

「し……然るべく! すべては、深淵の神が為に!」

「お前たちの命、すべて“ヨミガミさま”に捧げなさい!」

 

 

《ヴォイドだんの したっぱと ヴォイドだんの したっぱが》

 

《しょうぶを しかけてきた!》

 

 

 お決まりの口上を挙げて、2人の助祭(したっぱ)がモンスターボールを投げ放つ。

 

 彼我の実力差、相手の負傷など、もはや問題ではない。

 ここを突破できなければ、ソラたちはこの森を出る事はおろか、生き延びる事すら許されない。

 

 

「ちゃちゃーお!」

「べぇび、もーう!」

(相手はヤンチャムと……見た事の無いポケモン。でも、なんとなくナミノルロスに似てる……進化前?)

 

 

《ヴォイドだんの したっぱは ヤンチャムを くりだした!》

 

《ヴォイドだんの したっぱは ベビノスを くりだした!》

 

 

 2人いるしたっぱの内、女の側が繰り出したのは、やんちゃポケモンのヤンチャム。

 白黒模様の鮮やかなコントラストが特徴だが、その矮躯から想像以上の力を発揮する事は、地上でも有名だ。

 

 そして、先ほどザクムに殴られていた男の側は、ソラの知らない小柄なポケモンを繰り出していた。

 

 一見すると、先にも4番エリアで遭遇したエレズンに似たフォルムをしているが、体色は淡い水色で、うしポケモンめいた角と蹄を持っている。

 ソラが内心思った通り、かつてヴォイド団が使役していたナミノルロスを、そっくりそのまま赤ちゃんにしたような……何なら、赤ちゃんそのものにしか見えない。

 

 指示せずとも、求められている事が分かったのだろう。

 少女の目前まで飛来したロトム図鑑が、目の前のポケモンをスキャンし始める。

 

 

(『ベビノス』……やっぱりナミノルロスの進化前ね。タイプはみず単。能力値(ステータス)はそれほどだけど……でも、これまでの戦いと同じなら、あの子たちも秘薬で強化されてる筈)

 

 

 目の前に迫る2匹のポケモン、その奥に立つ2人の敵性トレーナー、その更に向こう側へと視線を這わせる。

 

 先ほどまでそこにいた筈の、ザクムなる仮面の男は、いつの間にかいなくなっていた。

 したっぱたちの言う「本来の任務」に動いているのか、或いはもはや自分たちのような路傍の石に興味すら無いのか。

 

 いずれにしても、このバトルに彼や彼のポケモンが介在してくる事は無い。

 実際のところはどうあれ、今はそう判断するしかない。決め打つとともに、仲間たちへと声をかける。

 

 

「リク、わたしとてれーなはベビノスの方をなんとかするわ。そっちはヤンチャム……かくとうタイプの方を!」

「分かった。……行くぞ、ドードー! おれの手持ちで、相手と一番タイプ相性がいいのはあんただ!」

「どどぉ!?」

「わたしたちも行くよ、てれーな! あなたにとってのホントの初陣、必ず勝ちましょ!」

「れれーにぃ!」

 

 

《ゆけっ! てれーな!》

 

《ポケモントレーナーの リクは ドードーを くりだした!》

 

 

 でんきタイプのてれーなと、ひこうタイプのマハルドードー。

 みずタイプのベビノスと、かくとうタイプのヤンチャム。

 

 こちらの2匹は、加入したてで技量(レベル)は低く、戦闘経験も浅い。

 加えてあちらの2匹は、その身に纏う甘ったるい匂いから分かる通り、例の秘薬──ポケモンを狂わせる麻薬によって強化されている事は明白だ。

 

 しかし、タイプ相性の上ではこちらが有利であり、何より既に場に出てしまっている。

 故にソラたちは、1度こちらのポケモンを引っ込めて出し直すロスよりも、このままタイプ相性で押し通した方がいいと判断。

 

 そしてその上で、少年少女の意図は、口に出さずとも一致していた。

 

 

(2対2よりも、1対1を2つ!)てれーな、“ねんりき”をベビノスに! 横へ吹っ飛ばして!」

「ドードー、“でんこうせっか”だ! ヤンチャムに突っ込め!」

 

 

《ドードーの でんこうせっか!》

 

《てれーなの ねんりき!》

 

 

「どっ──どどぉどっ!!

「れっぱにしゅーっ!」

 

 事ここに至ってようやく逃げ場が無い事を悟ったのか、半ばヤケになりながらマハルドードーが地面を駆ける。

 その背後から、彼の軌跡を追うようにして、てれーなは己の持つサイコパワーを前方へ解き放った。

 

 

「そっちから来るとはね。ヤンチャム、受け止めなさい!」

「ちゃむっぱ!」

「ベビノス、抗うな! 死にゆく者どもへの、せめてもの慈悲だ。思惑に乗ってやろうじゃないか」

「ば、ばぁああ……っぶ!

 

 

 真正面から追突してきたマハルドードーを、ヤンチャムはこれまた真正面から受け止め、そのくちばしが己を射抜く寸前で組み付いた。

 がっぷり()つの姿勢になり、完全に“でんこうせっか”の勢いを殺し切る事にこそ成功したが、代わりに数歩ばかり後ろへと押しやられる形になる。

 

 対するベビノスの側は、てれーなの放った“ねんりき”に抵抗する事なく、そのまま右方へと吹き飛ばされる。

 しかし、小柄ゆえの身軽さで受け身を取ると、木にぶつからずに難なく着地。体を締め付けていたサイコパワーも、秘薬により向上した“とくぼう”で耐え切ってしまった。

 

 

「振り払え、ドードー!」

「どどっ……どぉどどぉっ!」

「てれーな、ベビノスをヤンチャムに合流させないようにするわよ!」

「ぱにぃーとっ!」

 

 

 ヤンチャムの拘束から無理やり逃げ出し、バックステップするマハルドードー。

 てれーなは彼らの攻防から完全に背を向けて、こちらを“にらみつける”ベビノスの側に意識を割く。

 

 2対2の複数乱戦(マルチバトル)でなく、1対1の一騎打ち(シングルバトル)を同時に2戦。

 未熟なれども“けいけんち”を積んできた2人の駆け出しトレーナーは、自分たちなりの最善を導き出していた。

 

 だが──

 

 

(足元の冷気が体温を奪いにきてる……。長期戦はこっちが不利になるだけ。なら、タイプ相性でゴリ押すしかない! 大丈夫、これまでも勝ってきたんだ。今のわたしたちなら──)

「勝てる、とでも思い上がっているのか? どこまでも甘いガキだ。まだ自分たちが、ここから生きて帰れると思い込んでいる」

 

 

 不意に飛んできた嘲りに、思わず顔を前に向ける。

 視線の先にいたしたっぱの男は、先ほど頭を殴られた痛みなどとうに忘れたのか、グチャグチャの顔面のまま、勝ち誇ったような嘲笑を浮かべていた。

 

「寒いのだろう? 木を腐らせ、川を淀ませるほどの冷気だ。お前たちは既に、ザクム様の術中に嵌っているのだよ。最早、お前たちに勝ち目など無い」

「なに、を──……っ!?」

 

 

──寒気がする。

 

 

 ただ冷気によって体が冷えたから、ではない。

 まるで風邪を引いてしまったかのように、ひどい熱が出てしまったかのように、体の芯が熱くなり、肌はゾクゾクと震え上がる。

 

 

「こ、れ……っ!? なに、が……」

 

 

 熱を帯びて眩む頭。ふらつく足をなんとかその場に縫い止めながら、ソラは周囲を見る。

 

 てれーなも、リクも、マハルドードーも、後ろで戦いを見守っている筈のニャースでさえ。

 自分たち側の誰もが、突如湧き出した熱と倦怠感に、その身を蝕まれつつあった。

 

 

「れ、れぇっぴ……!?」

「どど……ぉおお……」

「こっ、この症状……まるで、パラスの“ほうし”を吸ってしまった、かのような……。まさか……“()()”、でありニャスか……!?」

「“どく”だって……!? けど、そんな匂いはちっとも……それに、おいらが知ってる“どく”の中に、こんなのは──」

 

 

 自然に発生し、もたらされる毒の内、完全な無味無臭のものはそう多くない。

 ましてや、こんな森の中で自然発生する毒となれば、極めて稀か、ほぼ存在しないと言っていいだろう。

 

 であれば、これは。

 

 

 

 

 

「ぶるる~」

 

 

 

 

 

 もこり、と。

 霜すら凍るほど冷気に覆われた地面が、お餅のように柔らかく隆起する。

 

 いや、そうではない。

 これは、冷気だ。地面を撫でる冷気そのものが実体を帯びて、土や草の残骸を巻き込みながらに、その質量を増していく。

 

 そうして形成されたのは、20cmほどの小さなフォルム。

 

 

「ぶるぶる」

「ぶるちー」

「ちーかびー」

「かびーるー」

「な……なに、これ……!? タマゲタケ、みたいな……これも、ポケモンなの?」

 

 

 ソラが零した通り、その見た目はきのこポケモンのタマゲタケに酷似していた。

 

 しかし、本来のタマゲタケであれば、モンスターボールめいた赤と白の半円で構成されている筈の傘は、青と白の半円に置き換わっている。

 青の半円部に走る2本の赤いラインも相まって、さながらスーパーボールだ。

 

 加えて、外見が辛うじてキノコに見えるというだけで、実際は溶けているかの如くグズグズに崩れており、底部などは地面と半ば癒着しているのが見て取れる。

 これでは、キノコというよりも、まるで──

 

 

 

「か、()()……!?」

「如何にも。ザクム様の使役なされる『ブルッタケ』は、その冷気によって万物を腐らせる低温カビ! この森も、川も、ポケモンどもも! そしてお前たちも、その“どく”によって凍てつき、死に至るのだ!」

 

 

 

《あいての ブルッタケの ほうしで ソラは どくを あびた!》

 

《あいての ブルッタケの ほうしで てれーなは どくを あびた!》

 

《あいての ブルッタケの ほうしで リクは どくを あびた!》

 

《あいての ブルッタケの ほうしで ドードーは どくを あびた!》

 

《あいての ブルッタケの ほうしで ニャースは どくを あびた!》

 

 

(ただの冷気じゃないとは思っていたけど……まさか冷気そのものがポケモンで、おまけに毒のカビだったなんて……っ! 彼らと遭遇した時点で、わたしたちは既に包囲されてたんだ!)

「こりゃ不味いぞ、ソラ……。おいらたちまで、風邪引いたみたいに熱に浮かされて……こんな状態でバトル、できるのかよ……!?」

 

 

 全身が粟立ち、喘ぐような吐息には熱が籠っていて。

 

 ただのしたっぱ、1度は勝って退けた手合い。

 少年少女の心の奥底で、微かに燻っていたそんな驕りたちは、まさしくカビが生えたかのように朽ち果てていった。




マハル図鑑 No.038
【ヤンチャム】
ぶんるい:やんちゃポケモン
 タイプ:かくとう
とくせい:てつのこぶし/かたやぶり(きもったま)
ビヨンド版
 格下だと 思われないよう 横柄に 振る舞うが 多くの 場合 可愛がられて 失敗する。
ダイブ版
 自分を 怖く 見せる 為に 葉っぱを 咥える。葉っぱを 取り上げられると 落ち込む。


マハル図鑑 No.116
【ベビノス】
ぶんるい:こうしポケモン
 タイプ:みず
とくせい:きけんよち/いしあたま(ムラっけ)
ビヨンド版
 感情が 幼く ちょっとした 事で すぐに 泣いてしまう。褒めると すぐに 泣き止む。
ダイブ版
 将来は 強い ポケモンになる 事を 夢見ているが かすり傷でも すぐ 泣いてしまう。

《進化》
ベビノス
→ ナミノルロス(Lv.30で♂のみ進化)
→ ???(???で進化)


マハル図鑑 No.187
【ブルッタケ】
ぶんるい:あおカビポケモン
 タイプ:フェアリー・こおり
とくせい:ほうし(じゅくせい)
ビヨンド版
 寒い 場所でも 繁殖する。雪山の 洞窟の 奥に ブルッタケの コロニーが 存在する。
ダイブ版
 ブルッタケの 胞子を 植えつけた チーズは とろけるほど 甘く 美味しく 変化する。



この後【18:00】より追加投稿を行います。
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