ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.118「未熟者(ルーキー)たちの戦い」

「あらあら、さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら? 我々は病人とて容赦はしないわよ! ヤンチャム、ドードーに“きりさく”!」

「ちゃおーん!」

「ベビノス、テレネットに“あわ”だ! ここを奴らの墓場にしてしまえ!」

「もぅばっぶ!」

 

 

《あいての ヤンチャムの きりさく こうげき!》

 

《あいての ベビノスの あわ こうげき!》

 

 

 知らず知らずの内、自分たちを取り囲むように増殖したブルッタケたちの“ほうし”を吸ってしまったソラたち。

 そのカビ毒によって熱と倦怠感に苛まれたところへ、容赦なき追撃が仕掛けられる。

 

 

「っ……、くそ、かわせドードー!」

「てれーな……っ、“でんきショック”で迎撃!」

「ど……どぉ……っ!」

「れ、っぱ、れぱ……っしゅ!」

 

 

《てれーなの でんきショック!》

 

 

 ヤンチャムが右手を振り上げ、そのちっちゃな指先を鋭利な刃物へと見立てる。

 指示を受けたマハルドードーは回避を試みるが、その身を蝕む“どく”と熱が、いつもの鋭敏な動きを鈍らせ、尾羽根を微かに引き裂かれてしまう。

 

 ベビノスが口から吐き出した無数の泡を前に、てれーなは電撃を放って対抗。

 しかし彼女もまた、熱に浮かされた意識では集中力を発揮できず、めちゃくちゃな軌道を描いた電撃は、泡の弾幕を満足に薙ぎ払えない。

 

 

「れぷっ、れぴぷぷぷ……っ!?」

 

 

《てれーなの すばやさが さがった!》

 

 

 いくらかは撃墜したものの、撃ち漏らしたいくつもの“あわ”がてれーなに着弾。

 体にへばりつく粘性のシャボン液が、彼女の“すばやさ”を鈍らせていく。

 

 ……タイプ一致とはいえ、素の威力の低い“あわ”では、“とくぼう”の高いてれーな(テレネット)に大打撃を与える事はできない。

 マハルドードーの側もまた、“どく”が体を蝕む状況下にあっても、大技をかする程度に済ませられるくらいの瞬発力は残っている。

 

 その上で。

 

 

「て……て、りぃい……っ!」

「どどっ……どぉ、おお……」

 

 

《てれーなは どくの ダメージを うけた!》

 

《ドードーは どくの ダメージを うけた!》

 

 

 ブルッタケたちの発する冷気、もといカビの霧。

 その毒素が、じくじくと2匹の体を苛み、凌辱しつつあった。

 

 

「精彩を欠いているようだなぁ? 己の無力さを噛み締めて死ぬがいい! そのまま“はたく”だ!」

「ここで私たちが負けて、ザクム様の名に泥を塗る訳にはいかないわ。畳み掛けなさい、“つっぱり”よ!」

 

 そして、そんなあからさまな隙を見逃してくれるほど、残酷の徒たちは甘くない。

 こちらが疲弊した一瞬を縫い、更なる攻撃の波濤が迫る。

 

 

《あいての ベビノスの はたく こうげき!》

 

《あいての ヤンチャムの つっぱり!》

 

 

「べびぃっ!」

「ちゃちゃおっ、ちゃーっ!」

 

 

 ほぼ同時に動き出した、2匹の敵性ポケモンたち。

 いずれも各々の腕を振り抜き、相手を殴り倒さんと飛びかかってくる。

 

「く……てれーな、ジャンプして回避!」

「逃げろ、ドードー! 捕捉されるな!」

 

 それに対して、ソラたちもまた対処を叫ぶ。

 グツグツ煮える頭、マーブル模様に歪む視界を押してなお、目を逸らしては負けだと言わんばかりに。

 

 

「れっ……ぴ、ぃいいっ!」

「どっ、どっ、どどっ──ど、ぉおおっ!?

「ちゃむんだっ!」

 

 

《2かい あたった!》

 

 

 タイミングを合わせ、その身軽な体を跳躍させたてれーなは、なんとかベビノスの攻撃を回避する。

 一方のマハルドードーは、やはり連続攻撃の完全回避には無理があったようで、頭痛に足を竦ませた拍子、その胴体に2撃をもらってしまった。

 

 結果として吹き飛ばされた灰色の体は、よろめきながらも着地するが、ヤンチャムから大きく引き離される形に。

 てれーなも同様に、跳躍による回避を成功させたはいいものの、ベビノスとの距離は開くばかりだ。

 

 そうしている間にも、2匹の体を“どく”が脅かしていく。

 そしてそれは、トレーナーであるソラたちもまた例外ではない。

 

 

「はぁ……はぁ、くそっ……! 指示を、ドードーに……!」

「く、ぅ……っ!(ダメ……。風邪で寝込んでるみたいな、頭がふわふわして、耳もおかしく……わたし、今、ちゃんと立ててるの……?)

 

 

 いくら“どく”とはいえ、即座に命に関わるほどの致死性は無いらしい。

 それでも、体を蝕む“どく”というのは、ただそれだけで脅威であり……何より人間の体は、ポケモンほど丈夫にはできていないのだ。

 

 上がり続ける体温に反比例するように、周囲の気温は下がる一方。

 そんな状況で、まともな指示が……否、そもそも戦闘を続行できるのか、という前提自体が不明瞭になりつつあった。

 

 相手のしたっぱたちやそのポケモンたちは、いたってピンピンしているが、彼らは元よりこの状況を作り出した側だ。

 事前に解毒剤を飲んでおくなど、“ほうし”対策をしていない訳が無い。この状況に持ち込んだ時点で、彼らの優勢は決まっていた。

 

 

(やば……もう、意識、が……)

「もう限界のようね。なら、トドメを刺してあげる。ヤンチャム!」

「ベビノス、確実に仕留めろ! 先の失態をここで取り戻せ!」

 

 

 とうとう足に力が入らなくなりかけた、その刹那。

 したっぱたちの号令を受けて、ヤンチャムとベビノスが最後の攻勢を仕掛けてくる。

 

 ぐにゃぐにゃ揺れる視界に迫る、2色の殺意。

 指示を出さなければ。そんな思いだけが先行して、舌を動かす事さえままならない中──

 

 

 

「ひい、さま……っ、リクさま、これを──っ!」

 

 

 

 突如、背後からかけられる声。飛んでくる何か。

 力の入らない自分たちの手の内に、そのまま飛び込んできた()()は、この場を包む冷気とは、また異なる冷たさを孕んでいて。

 

 体を甚振る寒気ではなく、体を労る涼しさ。

 手のひらに転がり込んできた()()の正体を、理性ではなく直感で理解した、その瞬間。

 

 

「──っ!! てれーな、“ねんりき”ばら撒いて!」

「っ、そうか──ドードー、“すなかけ”だ! てれーなに合わせろ!」

 

 

 本能が理性をかき集め、致命へ至るギリギリのところで、喉の奥から声を捻り出す。

 

 

「れっ──れぇ、ぴぃいいいい……っ!!」

「どどどっ……どぉどぉっ!!」

 

 

《てれーなの ねんりき!》

 

《ドードーの すなかけ!》

 

 

 攻撃目的ではなく、不可視の障壁を作るようにして、前方にサイコパワーを振り撒く。

 そうして、てれーなが発した“ねんりき”に重ねる形で、マハルドードーは足元の地面を全力で蹴飛ばし、凍てついた砂を巻き上げた。

 

 それら自体は、いとも容易く振り払える程度のものだ。

 “どく”で弱まった2匹に出せる力では、相手側にさしたダメージを与える事はできない。

 

 ダメージ、であればの話だが。

 

 

「っ、ちゃぁむ!?

「もぅぎゃーっ!?」

 

 

《あいての ヤンチャムの めいちゅうりつが さがった!》

 

《あいての ベビノスの めいちゅうりつが さがった!》

 

 

 如何に出力が低くとも、ヤンチャムにとっては“こうかばつぐん”。

 そうでないベビノスに対しても、攻撃ではなく壁、押し出す事を目的としたサイコパワーは、彼らの接敵を妨害するには十分だった。

 

 そして、そんな不可視の圧力に混ぜるようにして巻き上げられた、無数の砂粒。

 それらが、障壁にぶつかり足を止めざるを得なくなった2匹へと降りかかり、その視界を塞ぎにかかる。

 

 総じて、相手が仕掛けようとしていたトドメの一撃を、ものの見事に阻止する事に成功。

 その一瞬の隙に、ソラとリクは。

 

 

 

「~~~っ!? すっ、ぱぁ~!? これ、ホントに“モモンのみ”が材料なの!? わたし、“すっぱい”味って苦手なんだけど!」

「“モモンのみ”以外にも、色んなきのみを混ぜてあるんだよ。良薬は口に苦かったり酸っぱかったり渋かったりするんだ、我慢してくれ!」

「おかげで解毒はできニャしたが……あまり常飲したくない味で御座いニャスね、これは……」

 

 

 

《ソラの どくは きれい さっぱり なくなった!》

 

《リクの どくは きれい さっぱり なくなった!》

 

《ニャースの どくは きれい さっぱり なくなった!》

 

 

 “どくけし”。その名の通り、“どく”を治療する薬。

 地上においては他の薬と同様、患部に噴霧するスプレー形式だが、“マハルの地”における“どくけし”は、経口服用する水薬(ポーション)の形状を取っていた。

 

 2人の背後に立つニャースが、熱に苦しみながらも取り出した3本の小瓶は、一先ず少年少女の“どく”を癒す事に至った。

 同時に、その薬効が残っている間は、新たな“どく”が体内で活性化する事も無い。

 

 しかし。

 

 

(暫くは効果が保つとはいえ、そう長くはない。早く決着をつけないと、また“どく”がぶり返しちまう!)

(マハルの“どくけし”が液体の飲み薬ってなると、てれーなにもドードーにもすぐには飲ませられない。あの子たちには、“どく”状態のまま戦ってもらう事になるけど……)

 

 

 少女の脳裏をチラつくのは、やはり21番エリアでの戦闘だ。

 あの時、“ふきとばし”によって交代を強いられた刹那に、ヴォイド団はトレーナーたるソラ自身への直接攻撃を指示していた。

 

 如何にソラの判断や行動が早くとも、「場にいるポケモンを引っ込め、新たなポケモンを繰り出す」という動作には、どうしてもラグが付き纏う。

 

 もし、その一瞬に攻撃を差し込まれたら?

 トレーナーであるソラやリクを直接狙った、致死の一撃を。

 

 

 

「……れーっぴ!」

 

 

 

 数秒の逡巡を吹っ飛ばしたのは、前方に立つてれーなの声だ。

 “どく”が今も苦しいだろうに、彼女は震える足のまま気丈に振る舞い、あまつさえ背後の自分たちへと声をかけてきている。

 

「……てれーな」

 

 そこに、懇願も糾弾も、ましてや助命も込められてない事を、ソラは感じ取る。

 気のせい、ではない筈だ。だって彼女の呼びかける声は、びぃタロたちが自分へかけてくる鼓舞と、ほとんど同じだったから。

 

 

「ど、どぉっ……どど、どぉおお……!」

「ドードー、あんた……」

 

 

 マハルドードーも、“どく”やら痛みやら、死の恐怖やらで足がガクガク震えまくっているのに、これまでのような逃げ出す素振りを見せていない。

 それは、この危機的状況を前に、逃走を試みるだけ無駄だと悟った諦め故か。或いはどれだけ“おくびょう”であろうとも、群れの仲間(リクたち)を見捨てる訳にはいかないという小心故か。

 

 いずれにしても、彼もまた戦闘続行の意志を見せている。

 どれだけ足を震わせていても、こちらの指示に応える姿勢を見せている。

 

 彼らは、まだ戦える。

 未熟でも、“どく”で苦しくても、バトルを投げ出す理由にはなりはしないと。

 

 

「そうだ……そうだよな。おいらたちも、“どく”にやられて、冷静さを欠いてたみたいだ」

「……うん(昨日今日に手持ちに加わったばかりのてれーなも、ドードーも、まだ戦う意志を見せてくれてる)

 

 

 それは当然、自分が生き延びる為でもあるだろう。

 けれどもそこに、旅の仲間としての情も確かにあるのだと、ソラは信じる事にした。

 

 

(……周りを囲むブルッタケたちは、“ほうし”を出すだけで攻撃はしてこない。そういう指示をされてる? ううん、というよりは……そもそも、それほど乱暴な生態じゃない? もしかして、別にボスがいて、そいつがザクムの本当の手持ち?)

 

 

 あり得ない話ではないだろう。

 ビークインに対するミツハニー、ドラパルトに対するドラメシヤのように、ボス格のポケモンによって使役され、手持ちのように振る舞う種は存在する。

 

 しかしそれは、あくまでボス個体に従っているだけで、トレーナーに従っている訳ではない。

 もしブルッタケたちも()()であり、彼らはただ繁殖しているだけで、そこにソラたちへの敵対の意図は無いのならば。

 

 

「策はある! リク、ドードー! まずは相手を足止めして!」

「分かった! よっし、行くぞドードー! “すなかけ”ぶちかませ!」

「どっ、どどぉっ!」

 

 

《ドードーの すなかけ!》

 

 

「ハッ! 威勢が戻ったと思ったら、結局は馬鹿の一つ覚えね! ヤンチャム、避けなさい!」

「ちゃーむっ!」

「ベビノス、もう1度“あわ”だ! 打ち消してしまえ!」

「ばぶぅ、もーぶ!」

 

 

《あいての ベビノスの あわ こうげき!》

 

 

 所詮は破れかぶれの“わるあがき”。

 したっぱたちからすれば、そう見えたのだろう。

 

 先ほどとは違って見え見えの砂塵を、ヤンチャムはひらりと回避し、ベビノスは口から吐き出した泡の弾幕で、砂粒たちを打ち払う。

 ぱちぱち弾けて宙を濡らすシャボン液に絡め取られて、力なく地に落ちる土の残骸。

 

 

 

「──“でんこうせっか! 突っ込め!」

「どっど、どぉ──っ!!

 

 

 

 そんな、泡と土の入り混じるカーテンを突っ切って現れた、灰色翼のくちばし2本。

 

 

《ドードーの でんこうせっか!》

 

 

「べび──もうっ!?

「どどっど!」

 

 ヤケクソ気味に突貫したマハルドードーは、その両足で豪快にベビノスを蹴り倒す。

 

 “すなかけ”はブラフ。本命は、それに対処した隙にマハルドードーを突っ込ませる事。

 その事に気付いた女したっぱが、ヤンチャムに迎撃を指示しようとした寸前。

 

 

「ヤンチャムに“なきごえ”!」

「どっ──どきゃぁあああああああああああああああっ!!!

「ちゃぁあああっ!?」

「べぇぶぅっ!?」

 

 

《ドードーの なきごえ こうげき!》

 

《あいての ヤンチャムの こうげきが さがった!》

 

《あいての ベビノスの こうげきが さがった!》

 

 

 猿叫(えんきょう)、とはまさしくこのような事を言うのだろうか。

 2つある首、2つあるくちばしからまったく同時に解き放たれた叫び声は、“なきごえ”というよりも、むしろ悲鳴や絶叫に近かった。

 

 “おくびょう”であるが故の、真に迫った叫喚。

 とりポケモンとして持つ強い喉は、鳥肌が立つほどの絶叫をヤンチャムに浴びせかけ、その身を竦ませてしまう。ついでに至近距離にいたベビノスもビビり散らかしていた。

 

 そして、それは。

 

 

「ぶるる……!?」

「るっちー!?」

「ちずーび!?」

 

 

 周囲に根ざすブルッタケたちも、対岸の火事ではいられない。

 それが音である以上、彼らもまたその影響を受け、無反応を貫き切れなかった。

 

 それこそが、本命の一手に繋がると知らずに。

 

 

「……行けるわね? てれーな」

「ぱっしゅ」

 

 

 苦しさを押して、気丈な声を返す幼子。

 そこに謝罪も労りも野暮だと知り、ソラは周囲を見やった。

 

 ……技量(レベル)の低さ故に、4番エリアでは何度も失敗した。

 しかし、その度にトライ&エラーを繰り返し、少しずつコツを掴んでいった。“けいけんち”は、着実に積み重なっているのだ。

 

 ならば後は、実践するだけ。

 

 

 

「“()()()()()()()()()()()()()()()()”っ!!」

「れっぴ、ぱぁ──っしゅ!!」

 

 

 

《てれーなの あやしいひかり!》

 

 

 直後、その場にいたあらゆる者たちの視界が歪んだ。

 それは何も、精神攻撃を受けたとか、意識が朦朧としたからだとか、そういう話ではない。

 

 薄く、広く、ピザの生地めいて伸ばされた、微弱なサイコパワー。

 微弱である為に、広範囲へと拡散され切った不可視の力場が、大気を揺らめかせ、蜃気楼めいた歪みを生み出しているのだ。

 

 わざとわざとの組み合わせ、“重業(カサネワザ)”の成就。

 下手くそなアートめいたサイケデリックが、見る者誰もの心をざわつかせた。

 

 

「あれは不味い……! 下がれベビノス! 直視もするな!」

「ばぶぅ……っ!」

 

 

 攻撃を目的としていない事は、理解できる。

 その上で、何を狙った行動なのかまでは分からない。

 

 助祭(したっぱ)たちとて、腐ってもトレーナーだ。

 術中に嵌る事の拙さを即座に看破し、ヤンチャムとベビノスに後退するよう叫ぶ。

 

 果たして指示通り、敵性ポケモン2匹は難なく影響範囲外へと離脱する。

 場を仕切り直すのが狙いだったのだろうか? そう思い、顔を前に向ければ──

 

 

「あなたたちは避けれるだろうね。けど──()()()()()は、どうかしら?」

 

 

 この場一帯が、震えていた。

 

 “じしん”? “ハイパーボイス”? それとも先ほどのようなサイコパワー?

 いや、違う。

 

 

 

「ぶるるるるるる」

「ちーーーーずっ」

「ぶるったぶるった」

「かびぃぃぃぃぃ」

 

 

 

 この場に存在するのは、何も少年少女とヴォイド団だけではない。

 その事は、罠を仕掛けた彼ら(したっぱ)たちこそがよく分かっていたというのに。

 

 

《あいての ブルッタケは こんらんした!》

 

《あいての ブルッタケは こんらんした!》

 

《あいての ブルッタケは こんらんした!》

 

《あいての ブルッタケは こんらんした!》

 

《あいての ブルッタケは こんらんした!》

 

 

「……っ、そうか! 先ほどのわざは、我らのポケモンではなく、周囲のブルッタケたちを“こんらん”させる為の……!」

「このブルッタケたち、別にあなたたちの味方って訳でもないんでしょう? それに、秘薬で狂わされてる感じもしない……野生ポケモンに近い存在。それなら──てれーな、もう1回“あやしいひかり”よ。前に飛ばして!」

「れーっぴ!」

 

 

《てれーなの あやしいひかり!》

 

 

 天使の輪(エンジェルハィロゥ)から射出されたのは、なんとも頼りなさそうな灯火ひとつ。

 ふぅと吹けばそのまま消えてしまうのではないか、それほど弱々しい光は、これまた酔っ払いの如く情けない軌道を描きながら、したっぱたちの方へと向かう。

 

 如何に“めいちゅうりつ”の高いわざと言えど、ここまでナメたような繰り出し方をされては、避けられない方がおかしい。

 だが、したっぱたちはすぐに気付いた。

 

 これもまた、自分たちに向けられたものではない。

 周りに根ざし、“こんらん”によって意識も曖昧なあおカビポケモンたちの、その注目を集める為のもの。

 

 

「ぶ」「ぶる」「かびる」「ぶるる」「ちずかーび」「ちずーる」「ぶるかびー」「ぶるる」「ぶ」「ぶ」「ぶ」「ぶる」「ぶ」「ぶるる」「かーびー」「ちぃず」「ぶるかびちーず」

 

 

 気付けば、今の今まで接近してきていた筈のマハルドードーが、いつの間にかいなくなっていた。

 なんて事は無い。ブルッタケたちの注目がしたっぱたちに向いた隙に、ソラたちの下へとトンズラしていたのだ。

 

 とくせい“にげあし”は、トレーナー同士の対決では適用されない。

 けれども、彼の“おくびょう”さと危機への勘どころを持ってすれば、少しばかりこの場を離脱し、距離を取るくらいは造作でもない。

 

 故に。

 

 

 

「「「「「ぶる、るぅ──っ!!!」」」」」

 

 

 

《あいての ブルッタケは こんらんしている!》

 

《あいての ブルッタケの ようせいのかぜ!》

 

《あいての ブルッタケの ようせいのかぜ!》

 

《あいての ブルッタケの こなゆき!》

 

《あいての ブルッタケの こなゆき!》

 

《あいての ブルッタケの ようかいえき!》

 

 

「な、馬鹿やめろ、こっち来るなァーっ!?」

 

 

 “あやしいひかり”に惑わされ、いきり立ったブルッタケの群れ。

 彼らの注意(ヘイト)を一身に集めた、したっぱたちのポケモンたちへと、毒々しい冷気が一斉に降り注いだ。

 

 いくら事前に“ほうし”対策をしていようと、それはあくまで「吸ってしまっても大丈夫」程度のものに過ぎない。

 ここまで高密度の、それも攻撃的な波濤をモロに受けてしまってはひとたまりもない。

 

 おまけにヤンチャムにとっては、“こうかばつぐん”の攻撃も混じっていた。

 威力こそ低いが、複数体からの集中攻撃。自分たちの味方をする筈の面制圧が、逆に彼らへと牙を向く。

 

 

「ちゃ、ちゃぁ、お……」

「べっ、べび……もぅ……」

 

 

 ……やがて攻撃が止み、冷気が元の勢いへ戻りつつある中。

 爆心地とでも言うべき猛攻の中心部には、もはや息も絶え絶えなポケモンが2匹。

 

 それでもヴォイド団の秘薬によって、その耐久性は向上している。

 まだ動ける。まだ戦える。まだやれる。ボロボロの体でなお、前方を睨視(げいし)しようとして──

 

 

 

「“でんこうせっか”を重ねて、“つつく”だッ!!」

「ど、どぉおお──ッ!!」

「“でんきショック”、一点集中!!」

「れっ、ぱぁあああッ!!」

 

 

 

 冷気の帳に、2つの穴が穿たれる。

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