「そ、そんな馬鹿なっ!? 我々は、ザクム様直属の
「嘘でしょう……!? ザクム様のポケモンがお作りになられた
マハルドードーの高速“つつく”に射抜かれたヤンチャム。
てれーなの一点集中“でんきショック”に貫かれたベビノス。
カビ毒に蝕まれたソラたちにトドメをさす筈だった彼らは、ブルッタケの“こんらん”リンチにあい、逆にトドメをさされる結果となった。
“ひんし”になった2匹は、ものの見事にしたっぱたちの足元に転がされ、起き上がる気配などちっとも見えない。
結果だけを見れば、決着そのものにはあっさりと持ち込ち、勝利する事ができた。
けれど……
「はぁ、はぁ……なんとか、勝てた」
「だな……。正直、アネキたちを襲ったしたっぱと同じだと思って、油断しちまってた」
頷かずにはいられなかった。
思えば21番エリアで起きた戦闘の内、1戦目はてれーなたちより戦い慣れていたびぃタロたちがバトルをしていたし、2戦目はナシの助力が無ければ危うかったところを否定できない。
辛勝の事実を見落とし、「前にも勝った相手だから」で挑んだ結果、まんまと罠に嵌められてしまった。
無論、逃げられる状況ではなかった以上、挑まざるを得なかった事も事実だが……しかし。
「てれーな、ドードー、お疲れ様。早く“どく”の治療を──っ!?」
「れ、れぇえ……っぴ……」
「ど……ど、どぉぉ……」
……やはり、“どく”に侵されたまま戦うにも限界があったらしい。
体力の枯渇し切ったてれーなとマハルドードーもまた、その場に崩れ落ち、相手側と同じく“ひんし”の状態を示した。
慌てて駆け寄り、それぞれのポケモンを抱き抱える2人。
目を回し、苦しそうな息を吐く2匹の姿は、これ以上の継戦が不可能である事の何よりの証左だ。
「……っ、ごめんね、てれーな。ありがとう……わたしたちの為に戦ってくれて」
「あんなに“おくびょう”だったってのに、体張っちまって……。悪い……そんでありがとな、ドードー」
感謝と謝罪を交互に告げながら、バッグの中をまさぐる。
コンディションこそ“ひんし”だが、今からでも“どくけし”を飲ませれば解毒はできる筈だ。
周囲のブルッタケたちも、まだ“こんらん”から立ち直れていないようで、一帯を包んでいた冷気にも、少し陰りが見えているように思えた。
ソラたちが飲んだ“どくけし”による“どく”の予防にも、時間制限がある。その前に、次の行動に移らなければ……
「認め、られるか……っ!」
腹の底から絞り上げるような、怨嗟の声だった。
顔を上げた先では、したっぱの男が、血まみれ傷だらけの顔面のまま、怒りの形相でこちらを
女の側も同様に、
血走った目のまま、己の懐を必死になってまさぐるが……しかし、彼らは2つ目のモンスターボールを所持してはいなかった。
「そうよ……そうよ! 私たちは、ザクム様からあんたたちの始末を任されたのよ……! それを違える事は……あの方の命令に、逆らう事は……っ!」
「お、俺は、己の失態をばっ、挽回、しなければ……! 失敗は……失敗は、許されないっ! それを……それを、有象無象如きがッ……!」
彼らは、新たなモンスターボールを取り出す事はしない。
ただし男したっぱは、その代わりに……小ぶりなサイズの巾着袋を、
ここまでにしたっぱたちやそのポケモンたちから漂ってきたそれとは、比較にならないほど甘ったるく、嫌な気分になるような匂い。
その巾着袋が、先の事件でシェラがしたっぱから奪ったものと、まったく同一のものである事に、少年少女はすぐに気付いた。
「その甘い匂い……ヴォイド団の秘薬!?」
「
「気付いても遅い! さぁ、ベビノスよ! その命絶える時まで、我らに……“ヨミガミさま”に尽くすがいい!」
“ひんし”のポケモンに投与される、麻薬同然の強化薬。
それが、“げんきのかけら”なんて目じゃないほどの効果と副作用、そして身体への負担をもたらす事など、誰に言われずとも察し取れた。
対応しようにも、今この場に出ているポケモンたちは、全員が戦闘不能状態。
ソラたちの側も咄嗟にボールを抜き放つが、その時には既に、男の手の内で巾着袋が紐解かれ──
「──……あっ?」
パキン、と音がして。
それが、急激な凍結による音だと、誰もが理解した時には。
したっぱの男の右腕は、その手に握られていた巾着袋ごと、完全に凍りついていた。
「な、ぁああ、あぁああぁああ……っ!?」
言葉を失う少女たちを他所に、男は遅れてやってきた痛みと冷たさに苦悶の声を漏らす。
同時に、突如として起きたこの異変が、
「お、おおっ、お、お許しを! お許しを、ザクム様! 司祭様! まっ、まだやれます! 私たちはっ、必ず、必ずやっ! ですから、お許しを! お許しを、どうか……っ!」
「……どうやら、
心臓が凍てついてしまうのではないかと錯覚するほど、底冷えする男の声。
それがどこから飛んできたのかを知覚するよりも先に、この場一帯に新たな異変が起きる。
「ぶる~……」
「か~び~……」
「ち~ずぅ……」
「ぶる~び……」
周囲にひしめき、あらゆるものを氷漬けにしていた元凶、あおカビポケモンのブルッタケたち。
元々半ば溶けかかったようなフォルムをしていた彼らは、突如としてその肉体を崩壊させ、「溶けかかったような」ではない、完全なドロドロの状態へと成り果てていく。
そして彼らが発していた毒性の冷気もまた、“きりばらい”でもされたかのように急速に晴れつつあった。
いや、違う。晴れていくのではない。どこかへと……どこか一点へと集まり、ひとつに纏まろうとしている。
目に見えるほど白い冷気の行き先を追って、ソラたちの視線もそちらへ向かう。
果たして、そこには。
「たかだか子供如き、そのポケモン如きすら始末できない能無しが、
おぞましき死体の仮面をつけた三司祭、ザクム。
仮面の穴より垣間見える赤い瞳には、怒りも苛立ちも、そればかりか関心さえ含まれていない。
ただ、地面に転がる生ゴミを見下ろすかの如き、淡々とした眼差しだけが、そこにはあって。
そして、もう1人……いや、
「ゴォール、ゾォー……」
(あれは……モロバレル? ううん、きっとあれがブルッタケの進化系……ザクムの、本当の手持ちポケモン!)
ブクブクと、一点に集まった冷気が膨張を繰り返し、やがて形成される青白い巨体。
ブルッタケと同じプロセスを経て、しかしブルッタケのそれよりもずっとスケールアップした形で顕現したそのポケモンは、やはりと言うべきか、(ブルッタケがタマゲタケに酷似しているように)モロバレルに似た姿を取っていた。
異なる点を挙げると、まずはブルッタケ同様、頭部と両手、それぞれの傘の色。
モンスターボールを模していたモロバレルに対して、こちらは白の半円2つの間に赤いラインの継ぎ目が走っており、さながらプレミアボールだ。
そして、進化前に輪をかけて溶解しているように見える、グチャグチャのフォルム。
遠目から見てすら「まぁモロバレルに見えるかも……?」程度の形しか保てておらず、もし死体でないのならば、不格好な粘土細工の方がまだ近いだろう。
そんな異形のキノコもどきが、ザクムに付き従うようにして地面から生えてくる。
頭上の樹冠をギリギリ掠めるほどの巨体は、概算で身長2mほどと思われた。その長駆に反比例するかの如く、胴体に相当する
「ひっ……!? お許しを、どうか! ザクム様! 秘薬が、この秘薬を更に飲ませれば……! こんな子供程度、容易く……っ!」
「その子供程度に、ヴォイド団の栄えある神官が遅れを取ったのだぞ。……いや、そうだな。それについては、たかが子供と侮り、
「……! でっ、では、我らにももう1度チャンスを」
「故に」
ザクムが手を振るう。
その無慈悲な動きに追随して、白濁した巨大カビのポケモンが動き出す。
「己が愚行は、己が手で始末を。まずは……貴様らのような無能を部下とし、あまつさえ身の丈に合わぬ事を命じてしまった、
「ひぃっ!? お、おやめください! お許しを! どうか、どう──」
「『バレゾーラ』」
呟かれたその名が、彼の傍らに在るカビのポケモンを指すのだと。
その事実を、ソラたちが認識するよりも──そして、対応に動くよりも、一拍早く。
「“フリーズドライ”」
「──ゴルチィーズッ!!」
一瞬だった。
「おゆる」
「ザク」
情けなく命乞いを叫んでいた、2人の
そして、彼らの足元に倒れ伏したまま動けずにいた、ヤンチャムとベビノス。
彼らは断末魔の言葉ひとつさえ上げる事を許されず、全身を一瞬にして氷漬けにされた。
今際の際に吐き出される筈だった最後の一息が、氷の像と化した彼らの口から、ほんのひと呼吸分だけ放出されて、それですべてが終わる。
4つの氷像に、そのフォルムを覆い尽くすほど無数のヒビが入り、次の瞬間には、氷の粒と成り果てて無惨にも砕け散った。
そこに、人間だった痕跡、ポケモンだった痕跡など、ただのひとつもありはしない。
血の一滴さえ氷に変わり、その場にバラバラとぶち撒けられた氷粒は、やがて凍結した地面と区別がつかなくなっていく。
「ひ、ひでぇ……」
「ニャんと……ニャんと、残酷な……」
「そん、な……こんな、あっさり」
その光景を、ソラたちはただ見ているしかできなかった。
あまりにも迅速に行われた為、何かをする余地すら無かったのも、当然ある。
同時に、ザクムの帯びる冷徹さと残酷さを前にして、無意識下に生じた恐れが、少年少女の足を縫い付けていた。
そして、何よりも。
「人が……ポケモンが、死ぬなんて……殺す、なんて……!?」
ソラは。
地上で生まれ、地上で暮らしていた、ただの少女は。
人も、ポケモンも……生き物が、目の前で殺され、死に至る様など、これまでの人生で1度だって見た事は無かったのだ。
「……ぬるま湯のような事をほざくのだな、小娘」
そうして、もはや粉々に果てたかつての部下たちなどには目もくれず。
さながらゴミ箱にゴミを捨てた後のように、いたって平然とした態度で、ザクムはソラたちへと向き直る。
「役目も果たせぬ無能なぞ、ヴォイド団には不要。ならば最後に、その命を“ヨミの神”へと捧げて果てるのが、奴らにできる最低限の忠誠というものだ」
「ウツシタウンを襲った……秘薬を作ったっていうあの人もそうだった、あなたと同じ事を言ってた。なんでそんなに、簡単に誰かを傷つけて、命を奪えるんですか……?」
「力無き者は、力在る者に踏み躙られる。力在る者は、力無き者を踏み躙る。それこそが自然の摂理だ。貴様らとて、力無きポケモンを使役し、その身を“どく”に侵させてもなお、戦う事を強いていただろう。
ぐ、と言葉が声ごと喉に詰まる。
てれーなもマハルドードーも、加入したてで
そんな彼女たちに無理をさせて、結果的に“ひんし”へ追いやってしまったのは、自分たちの油断と慢心が故だ。
それが、彼の言う「力在る者に強いられた戦い」……少しバトルの経験を積んだ程度でしかないソラたちが、てれーなたちに無理をさせた結果であるというならば。
「
「……だから、部下の人たちを殺したんですか。わたしたちに負けたから」
「そうだ。だが、その事を貴様らが悔いる必要は無い。貴様らは
故に、と。
そう零したザクムの意図を拾ったかのように、バレゾーラが前へ出る。
その白濁に淀み切った眼光は、ソラたちを射抜いていた。
傘から雪めいて発せられる冷気が、徐々に、徐々にこの場を色濃く塗り替えていくようで。
「貴様らが生存に値する強き者であるというならば、
「モロニチーズッ……!」
「気を付けろ、ソラ。ウツシタウンで、あいつと同じ三司祭と戦った時……そいつはまったく本気を出してなかった。でも、あいつは……」
「分かってる。……ちゃんと、分かってる。でも、やらなきゃ死ぬ。わたしも、皆も」
解毒のタイミングを逃したてれーなたちは、一先ずモンスターボールの中に収納する。
ポケモンとして持つ「衰弱時に小さくなる性質」を利用して、“どく”の進行を遅らせる為だ。
ボールホルダーに彼女たちのボールを収めながら、「もう少し耐えて」と小さく呟いて。
入れ替えるように取り出したボールを、ソラとリクは震える手を抑えながらに投げは成った。
「お願い、びぃタロ! 絶対……ここから生きて帰るよ!」
「ウェボム、頼む! あんたが頼りだ!」
「ビ、ぃイッ!!」
「むしっきゅ!!」
彼らも、事の仔細はモンスターボールの中から把握していた。
再び訪れたヴォイド団の脅威、その為に傷つけられた仲間の為、何より主たるトレーナーたちの為、2匹の戦意は十二分。
ソラにとって未知のポケモンたるバレゾーラだが、進化前であるブルッタケの振る舞いや、先のわざの行使を見るに、凡その推測はつく。
こっそり呼び出したロトム図鑑のサーチ結果を流し見しつつ、己の推測を頭の中で確信へと変える。
(相手はフェアリー・こおりタイプ……。かくとうタイプのびぃタロでは不利だけど、はるりんよりは立ち回れる筈。それにリクのウェボムなら、確実に“こうかばつぐん”を狙える。……勝てなくてもいい。せめて、ここから逃げられるくらいの隙は──)
「甚振る趣味は無い。さっさと終わらせるぞ」
……結果だけを、先に告げよう。
ソラたちは、敗北する。一矢報いる事すらできず、ほんの一瞬の内に。
「“
「ッ!? びぃタロ、回避を──」
少年少女が指示を告げ切るよりも早く。
傘より溢れ、虚空すら凍てつかせながら、“ほうし”が森の中を舞う。
「──“メルヘンパウダー”」
「ブルカービッ」
マハル図鑑 No.188
【バレゾーラ】
ぶんるい:じゅくせいポケモン
タイプ:フェアリー・こおり
とくせい:ほうし(ポイズンヒール)
ビヨンド版
胞子は 氷にも 根を 張り 腐らせる。それを 利用して チーズを 作る 職人も いる。
ダイブ版
地面から 栄養を 吸い上げて 育つ。バレゾーラが 育った 森は 凍土に 成り果てる。
《進化》
ブルッタケ
→ バレゾーラ(Lv.39で進化)
この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。