ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.122「冷たい現状」

 ()()と違って、ソラはそれが夢であると明瞭に理解できた。

 

 暗い、暗い森の中。

 少女の足は、本人の意志に関係なく前へと進み、どこかへと向かっていた。

 

 そんなソラの視線の先。

 まるで少女を先導するかのように、数歩先を走る黄色と紫の矮躯は。

 

 

 

『マハ?』

 

 

 

 少女が、この“マハルの地”へ迷い込む切っ掛けとなったポケモン、マハッター。

 彼(メスかもしれないが)は、時折振り向いてこちらの様子を伺いつつも、ソラからつかず離れずの距離を維持し、ゆったりとした速度で森の中を進んでいた。

 

 不思議と、少女の胸中に恐れや不安は無かった。

 これが夢であると認識できているからか、どこか他人事のような気分でその後を追い……やがて、足を止める。

 

 そこは、鬱蒼と生い茂る森の中にあって、ぽっかりと開いた穴のような空間だった。

 木もキノコもなく、枝葉が頭上を覆い隠す事も無い、原っぱめいた広場。

 

 眼前のマハッターに促されるようにして見上げた先で、少女は()()を見た。

 

 

 

──これは……塔?

 

 

 

 それは、石造りの塔だった。

 色褪せた石を何十段も積み重ね、螺旋めいた文様を描くようにしてそびえ立つ、(にび)色の円柱形。

 

 窓の位置や数からして、3階建てだろうか。

 外からざっと見た限りでは、直径も一部屋分程度と、それほど巨大ではない様子。

 

 積まれた石と石の隙間は苔むしていて、相当長い年月を放棄されただろう事が見て取れた。

 まさしく廃墟、或いは遺跡だ。

 

 

 

──……。

 

 

 

 なんで森の中にこんな遺跡が、とか。

 どうしてマハッターは自分をここに連れてきたのか、とか。

 そもそもこれはどういう夢なのか、とか。

 

 普通なら脳裏を過ぎるべき疑問の数々は、今は影も形も無く。

 そんな諸々よりも、少女が関心を寄せるクエスチョンは、ただひとつ。

 

 

 

──(ここ)だけ、()()()()()()

 

 

 

 ふと視線を前にやると、マハッターが塔の中へと入っていくのが見えた。

 

 壁をくり抜いただけの入口をくぐり、灯りも無い内部へ歩を進め、やがて中途で足を止める。

 そうして謎めいたポケモンは、こちらを振り向いて。

 

 

 

『マハ』

 

 

 

 瞬間、淡い緑色の光が溢れ出す。

 

 塔内部の床から染み出したそれは、その場にいたマハッターをも呑み込みながら、塔の外へと解き放たれた。

 柔らかくも優しい光が、少女の視界一切を埋め尽くし──

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻すにつれ、まず感じたのは、全身を包み込む鋭い冷たさ。

 次いで、体の芯が冷え切っているのに、皮膚の表面だけを覆う半端な温もり……そんなアンバランスさと、絶妙な不快感。

 

 緩やかに瞼を開けば、靄がかかったような視界の中で、真っ赤な何かが不規則に揺れていた。

 それをじっと眺めている内、徐々に輪郭を取り戻しゆく意識と視界が、周囲の状況を把握し始める。

 

 

たき、び……わたし、ねむって……?」

「──お? 起きたか、ソラ」

 

 

 耳に滑り込むリクの声に、本格的に目を覚まし、ゆっくりと体を起こすソラ。

 

 どうやら自分は、全身を毛布で(くる)まれ、寝袋の中にいたらしい。

 不規則に揺れる赤の正体は焚き火で、今まで眠っていた自分を、遠すぎず近すぎない位置から温めてくれていたようだった。

 

 時刻は既に夜であるようだが、ぱちぱち弾ける火の粉が周りを照らしていて、視認に苦慮する事は無い。

 それでも、頭上をひた隠す枝葉の帷によって空は見えず、ここがまだ“ソコネ大森林”の内部である事はすぐに分かった。

 

 のろのろと首を動かせば、自分たちの今いる場所が、森の中を流れる川の岸辺である事に気付く。

 目の前の焚き火は特に川に近く、それもしっかり組まれた石の中で焚かれているらしい。

 

 

「あー……おいらはあんまそっち向けないんだけど、体痛いとかは無いか? 今までずっと眠ってたから、おいらもじいさんも心配してたんだ」

 

 

 ふと声の方向を見やれば、リクは川に向かって腰を降ろしており、こちらには背中を向けている状態だった。

 何故にこちらを向かないのかを不思議に思いつつも、未だぼんやりしている頭のまま、とりあえずは質問に答える事にする。

 

 

「体……? あ、うん。痛い感じは無い、かな。体が濡れてて、ちょっと寒いけ、ど……?」

 

 

 意識が鮮明になるにつれて、蘇る記憶。

 

 ヴォイド団の一味と遭遇し、“三司祭”の1人、ザクムに敗北した事。

 トドメを刺される寸前、この森のヌシポケモンたるワムコンダが現れた事。

 彼らの激しい戦いに巻き込まれないよう、全員で川に飛び込んだ事。

 

 そうだ。そこでソラの記憶は途切れていたのだ。

 恐らくは川に飛び込む寸前、ザクムのバレゾーラとワムコンダの大技同士がぶつかった事による衝撃を食らい、意識が混濁していたのだろうが……。

 

 

(わたし、冷気を浴びて腕が凍ってたんじゃ……。でも、今はなんともない……?)

 

 

 びぃタロとウェボムが威力を削いだとはいえ、バレゾーラの“フリーズドライ”をまともに受けたソラの両腕は、凍傷同然の状態になっていた。

 そこへザクムに何度も蹴られて踏みつけられて、普通なら当分は腕を動かせないか、或いは今後も動かせないくらいの深い負傷になっていた筈だ。

 

 にも拘らず、今のソラは、自身の両腕を問題なく動かす事ができていた。

 包帯こそ巻かれているが、それも大して意味は無いように思える。身を刺す冷たさと寒さがある程度で、それ以外に痛みらしい痛みは無い。

 

 

(……もしかして、あの時吹いた風のせい……って、あれ? 当たり前だけど、意識を失う前は包帯なんて巻かれてなかったよね? じゃあこの包帯は、わたしが寝てる間に……)

 

 

 パズルのピースが合わさるかのように、自分の現状も理解し始める。

 

 あの後、どうにか強者同士の戦いから逃れ、無事に川から這い出る事ができたのだろう。

 しかし、当のソラは気を失ったまま。その上、冷たい水の中にいた事で、体が濡れて体温も下がり、危険な状態にあった事は想像に難くない。

 

 故にリクたちは焚き火を焚いて、応急手当を施した後、毛布にくるんで寝袋へ──

 

 

「……ん?」

 

 

 そうして、やっと気付く。

 焚き火の前に置いて乾かしているのだろう、自分の衣服の存在に。

 

 今の自分が、肌着しか身に着けていない事に。

 

 

「え……? な、ちょ──!?」

「安心しろ! おいらはなんも見てねぇ。ソラの服を脱がせるのはじいさんにやってもらった。まぁ、本当はそれもあんまよくないんだろうけど、緊急事態だったからな。昔からソラの世話してたって聞いてるし、服の支度とかもしてもらった事あるんだろ?」

 

 

 かぁ、と頬を染める熱に駆られて、反射的に毛布を掻き抱き、自分の肌を更に隠さんとする。

 リクがこっちを向こうとしないのは、そんな自分に配慮してくれているのだろうと理解しつつ、それでも恥ずかしい気持ちは止められない。

 

 確かに彼の言う通り、ニャースには自分の親代わりとして、服を着せてもらったりお風呂に入れてもらった事もあった。

 しかしそれは幼い頃の話で、今ではそういう事もなく、第一ニャースはポケモンとはいえ(オス)である。

 

 とはいえ、緊急事態にそういう事を言ってられないのも事実であり……という逡巡をする事暫し。

 毛布に口元を(うず)めながらも、一先ずは諸々を喉の奥まで飲み込む事にした。

 

 

「……あれから、どうなったの? 手持ちの皆は?」

「全員無事だよ。バッグの中の薬は大体無事だったから、それで治療して今はボールの中。一応こいつだけ外に出して警戒させてるけど、匂いの強い草をこの辺りに撒いてあるし、野生ポケモンが襲ってくる事は無い筈だから安心していいぜ」

「にゃ~み~」

 

 リクの隣で間延びした鳴き声を上げながら、彼の手持ちのマハルニャースが毛繕いをしている姿が目に入る。

 先のザクムとの戦いでも、相性の関係から選出していなかった為、元気が有り余っているらしい(或いは、みずタイプ故に川の傍が落ち着くのもあるだろう)

 

 

「それとじいさんは、メシになりそうなの取りに行ってる。結局、ヤマサルサに盗られた食料を取り返し損ねてるからな。ソラの手持ちに勝手に指示出して悪いけど、はるりんも一緒についてってるぞ」

「……ううん、気にしないで。じいちゃん戦えないし、この森の中を1匹だけじゃ危ないもんね」

 

 

 チラと視界の隅に留まるのは、焚き火の傍に置かれたソラたちのバッグ。

 それらに寄り添うように置かれた4つのモンスターボールは、先のヴォイド団との戦いで傷つき倒れたびぃタロたちのものだろう。

 

 とりあえず最悪は逃れたらしい事に安堵しつつ、徐に頭上を見上げる。

 空を遮るほどに色濃く分厚い樹冠の存在を踏まえてもなお、昼間よりも真っ暗に感じられるのは、今が夜である故か。

 

 

「川に飛び込んだ後、結構な距離を流されたみたいだから、ここが森のどの辺かは分かんねぇ。けど、とりあえず今んとこ、ヴォイド団もヌシポケモンも追ってくる感じはしないから、今日のところはここで野宿する事になった。ソラがいつ起きるかも分かんなかったしな」

「……」

 

 

 夜の冷えた風が、木々の彼方から吹いてくる。

 マハルの夜は、少し寒い。毛布を被り、焚き火に当たっていても、それなりに身震いする程度には。

 

 元々光を遮るほどに暗い森の中で、ここがどこかも分からない。

 これまでは、ヤマサルサにつけた“ベタベだま”の跡を追いかけられていたが、今はそれも見失ってしまっている。

 

 つまり、これは。

 

 

 

「遭難しちゃった……って、事になるのかな」

 

 

 

 思わず零してしまった呟きに、リクは「そうだなぁ……」と腕を組む。

 背中越しである為、その表情は伺い知れないが、彼もまた途方に暮れているらしい事は態度で分かった。

 

「とりあえず今日はここで休むとして、明日以降どうするかだな。てれーなのサイコパワーで探知してもらうにしても、さっきの戦闘で本人がへばっちまってる」

「川が流れてるなら、その流れを追うのは……?」

「難しいかもな。……あれ、見えるか?」

 

 

 少年が指差す方向を目で追う。

 自分たちのすぐ傍を流れる川の先に、何やら大きな壁らしきものが天高く伸びているのが見えた。

 

 滝のようにも見えたが、その割には、滝壺らしきものは見えてこない。

 いや、それよりも……むしろ、()()()()()()()()()()()()()()()? そして川の流れは、()()沿()()()()()()()()()()()()

 

 何よりも、壁がほんのりと発する緑色の光。

 まさか、と口に出すよりも早く、答えが言葉となって漏れ出した。

 

 

「……リバーテル結晶?」

「そ。シェラさんから聞いてたろ? あの結晶は重力を発する性質を持ってるって。だからあんな風に、()()()()()()()()()()なんてトンデモが起きちまうみたいだ。おいらも、川から上がって見た時はビックリしたぜ。あれじゃ、川を遡るのは無理そうだな」

 

 

 木々と夜の帷に隠れて視認し難かったが、どうやらここは崖際である様子。

 

 森の中に岩場や切り立った崖などがある事自体は、そうおかしな話ではない。しかし、状況が状況だ。

 それ以上そちらには進めない、という行き止まりを示すオブジェクトの存在は、ソラたちにとって文字通りの「壁」となっていた。

 

 

「だいぶ奥まで入り込んじまった、ってのはなんとなく分かるんだが……それ以上はな。人が通る用のルートを探そうにも、右も左も分かんねぇし……何より、メシがな。お菓子の残りとかも、もう全部食っちまってるし……」

「……わたしが」

 

 衝動的な声が喉から溢れる。

 

 

 

「わたしが……森を出る前に、食料を取り返そうって言ったから」

 

 

 

 言ったところで、どうしようもない事は分かっている。

 それでも、言わずにはいられなかった。どこかに、自分の責の所在を探さねば、やっていられなかった。

 

 故にリクは溜め息をつきつつ、「それは違うぞ」と少女の自傷行為を切り捨てる。

 

 

「ヤマサルサを追う事になったのは、おいらたち全員で話し合った末の結論だ。だから、あんただけのせいじゃない。すぐ追いつける、すぐ取り戻せる、すぐ引き返せる……そう甘く見てたのは、おいらもそうさ」

「……でも、森の奥まで行かなきゃヴォイド団に出会う事も無かっただろうし……それに」

 

 

 視線の先、焚き火に照らされる4つのボールが目に映る。

 

 ほとんど初陣にも等しい状況で、“どく”に蝕まれながら戦い力尽きた、てれーなとマハルドードー。

 明らかな格上相手に挑み、その圧倒的な実力差によって返り討ちにされた、びぃタロとウェボム。

 

 いずれも、敗因はポケモンたちの技量(レベル)不足と──それよりも、何よりも。

 

 

「わたしが、びぃタロたちに無理させちゃったんだ。1度勝った相手だからって、油断して……。結果的に助かったからよかったものの、もしそうじゃなかったら……あの場で皆、殺されてた」

「……それを言うなら、おいらもだよ。今日の朝初めて会ったばっかのドードーに、しんどい思いさせちまった」

 

 

 初めて会った時から、マハルドードーは見るものすべてに怯えるほど“おくびょう”だった。

 

 そんな彼を、状況が状況ゆえにそうするしかなかったとはいえ、“どく”に侵されながら戦うという、とても危険で……そして怖い目に合わせてしまった。

 自慢の“にげあし”も封じられた中で、それでも逃げずに戦えと、そのように指示してしまった。

 

 

「危ない場面から逃げる為の、おいらたちを生かす為の力だって、シェラさんは言ってたのに……結局、死に急ぐような事をさせちまった。あいつにも、シェラさんにも、申し訳が立たねぇよ」

「でも、あれは……」

「そうだな。あの場はどうあっても……それこそ、ヌシポケモンが乱入でもしなきゃ逃げられない状況だった。それに、向こうが殺す気で襲ってきてた以上、おいらたちは『勝たなきゃ殺される』状態だった。それはそうさ」

 

 でも、とリクは言う。

 

 

「だからって、手持ちのポケモンたちに無理させて、ボロボロにさせちまって……あまつさえ、死にかけるような目に合わせてもいい理由にはならないだろ? そんなの。そうさせる判断をしたのは、トレーナーであるおいらたちなんだから」

「……」

「ドードーだけじゃなくて、ウェボムもそうさ。勝てないって、負けるって分かって……それでもおいらたちを生かす為に、最後まで足掻いたんだ。あんたんとこのびぃタロだって、そうだろ?」

「……うん」

 

 

 勝てない戦いだった。それでも、逃げる事はできなかった。

 そんな、どうしようもない強敵を前にして……びぃタロとウェボムは、背後のソラたちを守る為に、相手の攻撃を迎え撃つ選択肢を取った。

 

 その事実を、献身を、敵である筈のザクムでさえ理解していたのだ。

 それがどう彼の怒りに触れたのかは分からないが、それでもソラの耳には、彼の怒号が今も焼き付いていた。

 

 

 

『貴様らが未熟で惰弱で無能で蒙昧が故に、己のポケモンを死に至らしめる気分はどうだ? 己に力が無い故に、自分どころか、自分の周りすべてを巻き添えにしてしまう気分はどうだ!? それが弱者だ! 弱き者だ! 弱き者は食い潰され……骨さえ、残らない!』

 

 

 

 それは、紛う事なき真実だった。

 そんな絶望の中から、ソラたちが逃げ延びる事ができたのは、いくつもの偶然が重なった末の……ただの幸運に過ぎない。

 

 

「結局、おいらたちの実力でどうにかできたんじゃねぇ。おいらたちは、自分のポケモンたちに助けてもらったんだ。なら、これ以上あれこれ言っててもしょうがないだろ? それで腹が膨れる訳じゃないんだし」

「リクって……たまに、達観してる感じの時あるよね」

「そりゃこちとら、ガキの頃からあちこち駆けずり回ってたからな。格上の野生ポケモンに何度も追いかけられてりゃ、ある程度は割り切るようになるもんさ」

「そういうもの……?」

「そっ。……あんたさ、腹減ってんだよ。腹ん中ペコペコの時に何か考えようとしたって、ロクな事にはならねぇぜ?」

 

 

 その言葉に何かを返そうとして、少女のお腹から甲高い音が轟き、喉から出そうとした声色の一切を塗り潰す。

 明らかにリクにも聞こえただろうそれに、先ほどとは別の意味で赤面してしまう。

 

 

「な? だから、まずはメシにしようぜ。メシ食って寝て起きて、明日どうするかは明日考えりゃいいさ」

「そうは、言っても……食料は盗られたまんまだし……」

「だから今、じいさんたちに食べられそうなのを探しに行ってもらって──っと、戻ってきたか」

 

 がさり、と草むらの揺れる音。

 すわ襲撃かと警戒したのも一瞬の事。その剣呑ならざる気配に、そうではないとすぐに気付いた。

 

 

 

「ただいま戻りニャし──ひいさまっ!? お目覚めにニャられたのでニャスね!?」

「けるーりっ!」

 

 

 

 背の高い草むらを掻き分け現れたのは、やはりニャースとはるりんだ。

 2匹とも、ソラが意識を取り戻している事に喜びの声を上げ、ニャースに至っては、手に持っていた籠を思わず投げ捨てそうになっていた。

 

「お、お、お体は大丈夫で御座いニャスか!?」

「あ……う、うん。ごめんね、心配かけちゃって」

「ニャ、ニャんのニャんの! むしろニャーの方こそ、ひいさまたちのお力にニャれず……。にも拘らず、この老骨めの命をもひいさまに守って頂き、ニャんと(ニャさ)けない事か……!」

 

 

 こちらへ駆け寄り涙を流す彼の姿に、困った顔をしながらも、同時に申し訳なさを覚えるソラ。

 

 思えば、彼にはずっと心配させっ放しだった。“ギムレの洞穴(ほらあな)”でもそうだし、ウツシタウン防衛戦でもそうだ。

 自分が無茶を働く間、老い故に戦えない彼は、本来守るべき主の背中を見て何を思ったのだろう。

 

 そうしている間に、はるりんもソラの頭の上に乗って「けりぃ」と一鳴き。

 普段は“マイペース”な彼女さえ、まるで「心配させやがって」と言っているようで。

 

 

「で、じいさん。どうだった?」

「いやぁ……やはり、リクさまの仰った通りでニャス。どの木も苗床も、それぞれを縄張りとするポケモンがいらっしゃるようで……。分けて頂く事ができた場合もありニャしたが、それでも数はあまり……」

 

 ニャースが申し訳無さそうに見せてきた籠の中身は、凡そ「大量」とは程遠い有様だった。

 

 ただでさえ萎びているきのみは数えるほどしかなく、キノコはそれなりの数を確保できたようだが、それだけだ。

 この程度では、ソラやリク、そして手持ちポケモン全員の腹を満たす事は叶わない。

 

 

「そりゃそうだろうな。自分の食い扶持を分けてくれる野生ポケモンなんて、滅多にいるもんじゃない。分けてもらえたのだって、じいさんがポケモンだったからだろうし」

「しかし、如何致しニャしょう……? 最悪、ニャーは食わずともよいとしても、ひいさまとリクさまは……」

「いや、あんだけの事があったんだ。今寝てる奴らも含めて、全員、腹に何か入れなきゃこの先しんどいぞ。だから……やっぱり、取るべき手段はひとつだ」

「な、何をするつもり……いや、待って。()()、まさか……」

 

 

 震える指で、リクの手元を指し示す。

 これまで、ずっと意識の外にあった。彼がずっとこちらに背を向けていたが故に、そこまで注意が回らなかった。

 

 川に向かって腰を降ろした少年の手元から伸びる、1本の棒。

 そこから川の中へと垂らされた、細長い糸。

 先ほどから周囲を警戒しつつも、川の中に絶えず視線を落とし続けているマハルニャース。

 

 点と点が線で繋がろうとする中、不意にシェラの言葉がリフレインする。

 

 

 

『ソラちゃんたちなら大丈夫だとは思うけど、約束して? 森に住むポケモンちゃんたちを、不必要に攻撃しないコト。もし、どうしても森の命をもらわなきゃいけない時は、必要な分だけにするコト。それがきのみでも、山菜でも、キノコでも、そして──』

 

 

 

 果たして、少女の口にした「まさか」は、その通りに的中した。

 

 

 

「決まってるだろ? こいつで()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

『──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時も。決して、必要以上に森の命を奪わないように、ね?』

 

 

 

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