ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.14「広場にて」

「なんてーか……旅立ちってノリでも無くなったからな。今日のところはもっかい泊まってって、明日また改めて出発しろ。ま、相棒(パートナー)ポケモンとの親交を深めとく、いい機会とでも思っときな。ああ、メシはあんたのニャースに頼みたいんだが、大丈夫そうか?」

 

 

 そういう事になった。

 

 

「……まさか博士、じいちゃん特製きのみのガレットをまた食べたいから、ああ言ったんじゃないよね?」

「アネキだって、伊達にポケモン博士やってる訳じゃないんだぜ? 流石にそんな事は……無いと、思うぞ? うん」

 

 

 3匹のポケモンの脱走騒ぎがすべて解決してより暫く経って。

 ウツシタウンの中央にある広場で、ソラとリクは各々のポケモンに囲まれながらに、ゆったりと談笑していた。

 

 午前中は随分と町中を歩き回り、その上、バトルまでしたのだ。

 案外、人は自身の疲労に気付かないものである。昼食を終えて、よいせと広場の石段に腰を下ろした辺りで、ドッと全身を疲れが襲ってきた。

 

 そういう訳で、今日の疲れを癒やすのも兼ねてルスティカ博士の提案に賛成し、こうして広場で一休みする事になったのだ。

 博士は研究所に戻っている為、この場にいるのは少年少女2人だけである。

 

 

「び?」

「じいちゃんのご飯が気になるの? そうよ、じいちゃんが作るご飯は世界一なんだから。博士が気に入るのも当然ね。後で皆で一緒に食べましょう?」

「びび~♪」

 

 ソラの膝の上で、デシエビがぴょこぴょこ跳ねる。

 指を伸ばして、人差し指の腹でくりくりと頭を撫でてやれば、この上なく嬉しそうに触角を震わせている。

 

 

「ははっ。デシエビ、すっかりあんたに“なついて”んな」

「しゅみ~!」

わぷっ!? ……っと、悪かった。人の手持ち(パートナー)より、まず自分の手持ち(パートナー)だもんな~、ウェボム。安心しろよ、おいらのポケモンになったからには、目一杯構ってやるからさ」

「むっきゅ~♪ きゅっ、きゅ~♪」

 

 顔面に貼り付いて「構え」と言わんばかりのウェボムを引き剥がし、自身の膝の上に置いて、逆にその腹をくすぐってやるリク。

 そうされた側のほのおグモポケモンもまた、キャッキャと喜んでいる。

 

 

「いやはや、馴染んでおりニャスなぁ」

「はにゃおん」

「ええ。2匹とも、随分とひいさまたちをお気に召しニャしたようで。これも人徳ですかニャ」

 

 そんな彼らの様子を見守りながら、ニャースとマハルニャースが言葉を交わす。

 出身(フォーム)こそ違えど同じニャース同士、言葉も意志もちゃんと通い合っているらしく、各々の主、或いは相棒をぽっと出に取られた……なんて嘆く事もなく、和やかにコミュニケーションを取っている。

 

 

「しっかし……遂に旅立ちかと思ってたら、思わぬ事になっちゃったよな」

「本当にね。この子たちが脱走して、探して捕まえて、野生のデルビルと遭遇しちゃって……」

「んで、そのデルビルをソラとデシエビが倒した! 初めてのバトルで、手持ちでもないポケモンだってのに、ホントすげーよ、あんた」

「そっ……それほどでも、ない、かな。うん」

 

 

 裏表も、そして惜しみもない称賛の言葉を受けて、照れ隠しにそっぽを向いてしまう。

 

 なんせ、こんなに褒められたのも、それを受け入れる事ができたのも、どちらも生まれて初めての事。

 彼女の内に、この情動を完全に処理し切れるだけのキャパシティが無いのである。

 

 だからこそ、博士に褒められた時は、あまりのキャパオーバーっぷりに泣いてしまったのだ。

 今は落ち着いている為、そんな事も無いのだが、それでもやはり、照れ臭くてついつい反応に困ってしまう。

 

 そんな照れを誤魔化すようにデシエビの両脇を抱き上げ、「高い高い」をしてやった。

 

 

「デルビルに勝てたのは、()()()()がちゃんとわたしの指示を聞いてくれたからだもんねー。あの時のあなた、とってもカッコよかったよ」

「びびっ、びぃ!」

「おいおい、ソラだってちゃんと頑張ってたろ……って、ん? ()()()()?」

「この子のNN(ニックネーム)。『びぃ』って鳴くから、『びぃタロ』って呼ぶ事にしたの」

 

 

 ねー、と同意を問うと、両脇を抱えられたデシエビ──びぃタロもまた、「びぃ!」と楽しげな鳴き声を返す。

 どうやらお気に召したらしい。

 

「へぇ、ソラは手持ちにニックネームをつけるのか。珍しいな」

「マハルには、そういう文化は無いの? 『フッシー』とか『セパルトラ』とか、『クスクス』とか」

「無い事は無いけど、少数派だな。おいらも、ニャースやウェボムにはつけてないし。けど、いいんじゃないか? おいらは悪くないと思うぜ」

 

 実際、ニックネームの有無は地上世界でも好みの別れるものだ。

 とは言っても、必ずしもニックネームをつけなければならない訳でもなく、つけないからと言って愛情が無い訳でもない。

 

 ニックネームをつけるかつけないかは、トレーナーの好き好み次第。

 それは、地上でも地下でも変わらない共通の見解のようだ。

 

 

「名前の候補は色々考えたんだけど、この子は男の子(オス)みたいだから、それっぽい名前にしたんだ」

「あ、そいつオスなんだ。どうやって分かったんだ?」

「それは勿論──来て、ロトム」

「ケテテー!」

 

 

 ソラの呼びかけに従って、目の前に“ふゆう”するモノ。

 それは壊れたスマホから、ルスティカ博士にもらったポケモン図鑑へと、その駆体を乗り換えたロトムだった。

 

 デルビルの攻撃で破壊されたソラのスマホは、結局、修理は難しいという結論になった。

 しかし、受け取ったポケモン図鑑には、どうやらロトムを受け入れる事ができるだけの機能があるらしく、代わりの駆体として憑依してもらう事になったのだ。

 

 幸い、図鑑にもカメラ機能や録画機能が搭載されており、図鑑以外の使用にも十分耐え得るスペックだった。

 “リンネの儀”を行うにあたって非常に有用である為、以降はスマホロトム改め、“ロトム図鑑”として活躍してもらう予定である。

 

 なお、壊れたスマホは現在、博士に預かってもらっている。

 なんでも、データの吸い出しであれば、技術的にできる可能性があるらしい。

 

 

「ロト!」

「ほら、これ。図鑑でびぃタロの能力を解析してもらって、それで性別も分かったの」

「どれどれ……お、本当だ。便利なもんだな。これ、ウェボムたちのも見れるのか?」

「うん、見れるよ。こうやってウェボムにカメラを合わせて、解析を……って、うん?」

 

 

 パチクリ、と。

 表示されたデータの中に、気になるものを発見して、意外そうに瞬きをする。

 

 

「おん? どうしたんだ?」

「その子、どうやら女の子(メス)みたい」

「え、マジで? へー、お前、メスだったのか」

「しゅみ?」

 

 

 頭上のウェボムに目線をやると、あちらもまた、不思議そうな目つきを返してくる。

 

「アネキが言うには、今回選んだ3匹はオスメスの比率がかなりオスに偏った種だって話だったけど……」

「確か、オスが87.5%で、メスが12.5%。比率に直すと7対1だから、かなりレアな事は間違いないかな」

「へー。でもま、おいらはこいつがオスだろうとメスだろうと、立派なポケモンに育てるつもりだけどな。なー?」

「しゅみっしゅ~♪」

 

 嬉しそうな反応とともに、ふりふりとお尻を揺らす。

 2人(正確には、1人と1匹)のやり取りを見て、そういえば、と思い出す疑問があった。

 

 

「リクが巡礼の旅に着いてきてくれるのはそうだけど……あなたも、わたしと一緒にジムに参加するの?」

「いいや。おいらはソラの旅に同行するだけ。道のりこそ一緒だから、大変な時は助け合いだけど、ジムリーダーたちに認めてもらうのはソラだけの力じゃなきゃダメだ。そうじゃないと、“リュウジンさま”に謁見する意味が無いからな」

「それもそうよね。わたしも、おんぶにだっこをしてもらうつもりは無いわ」

「分かってんじゃねぇか。それに、ソラの素質なら十分渡り合えると思うぜ? おいらが言うんだから、間違いないっ」

「それ、わたしをポケモン博士だー、って言ってた時も同じ事言ってたよね」

 

 

 呆れと嬉しさの交じるおかしな笑みを零し、明るく話す。

 

 ……この2日で、随分と気安く話せるようになったように思う。

 たった2日の関係、と人は言うだろう。けれどもニャースの言う通り、彼女にとっては人生が180度回転するほどの時間だった。

 

 こんなに話したのはいつぶりだろう。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。

 ソラという少女の中で、2人の姉弟の存在は、それなりに大きなものとなっていた。

 

 あとひとつ、足りないものがあるとすれば。

 それは、きっと──

 

 

「しびぃ……! びびっ!」

「うきゃあっ!?」

 

 

 突如、不満げな態度を取りながらに、びぃタロがソラのお腹に顔を突っ込んだ。

 そのままグリグリと頭を擦り付けてきたかと思いきや、彼女の着ているヒバニーパーカーの中へもぞりと潜り込んでしまう。

 

「わひゃっ!? ちょ、ちょっとびぃタロ、どこ入って……っ!?」

「ははっ。おいらとばっか仲良く話してるもんだから、ヤキモチ焼いてんだろ。“さみしがり”屋の面目躍如ってこった」

「わ、笑ってないでっ、助けひゃあっ!? 助けてよぉ……っ!」

「びぃ~~~」

 

 もぞりもぞりと、いじけるように体を体に擦り付ける。

 やがてパーカーのポケットにまで顔を捩じ込み、内部をひとしきり蠢いた後……。

 

 

 

「──び?」

「え? ──あっ、それ、それはダメっ!?」

 

 

 

 

 するり、とポケットの中から探り当て、不思議そうに顔を出しながら、外へ露出させたのは。

 少女が大切に仕舞い込んでいた、オレンジ色の交じる緑色の羽根だった。

 

「ん? なんだそれ。ポケモンの羽根……か?」

「これはっ、ち、違うのっ! なんでもないのっ!」

 

 慌ててびぃタロから取り返し、パニクりながらに、両手の内へ隠し込む。

 その尋常ならざる様子に、色めく周囲の面々。リクたちは訝しみながらに、羽根の事を知るニャースは気まずそうに。

 

 しかし当のソラは、やはり内から湧き出すトラウマに目を回していて、それに気付かない。

 両手で抱え込み、隠したと自分では思っている羽根も、拳の隙間から、その先端がひょっこり顔を出してしまっている始末だ。

 

 そしてその、拳から垣間見える先端を見て、リクは首を横に傾けた。

 

 

「なぁ、その羽根……」

「な、なっ、何!? これっ、これは、その……」

「それ、どっかで見た事ある気がすんだよな」

 

 

 その呟きは、果たして、少女の目を限界まで見開かせるには十分なものだった。

 反射的に伸ばされた両手が、少年の両肩を固く強く掴み、彼に「うおっ!?」と声を上げさせる。

 

「どこ!? どこで見たの!? リクはこの羽根の事を知ってるの!? 教えて!」

「おっ、落ち着け! 落ち着けって! 一体、どうしたってんだ?」

 

 ここは町の広場で、それ故に人の目もある。

 兎にも角にも、まずは冷静にさせるべきだと判断して、両肩を掴む手を降ろさせようとして──

 

 

 

「──おい。その羽根を、どこで手に入れた?」

 

 

 

 2人の後ろから聞こえてくる、低い女性の声。

 少女と同じくらいに目を見開き、タバコをその手から取り零すほど狼狽する、ルスティカ博士がそこにいた。

 

「ぇ……あの、はか、せ」

「そいつをどこで見つけた。教えろ。なんであんたが、その羽根を持ってる?」

 

 責めている、というよりは、驚愕のあまりに気を回す余裕が無い。

 傍目からはそう取れる問い詰め方だが、やはりというかなんというか、問われている側の少女にもまた、そう受け取るだけの余裕が無かった。

 

 普段なら割り込んでくる筈のニャースも、のっぴきならない雰囲気に動けないでいた。

 博士が悪意でなく、どこか焦りを滲ませながらに問うているが為、どう介入すればいいのか、踏み込みかねているのだ。

 

 

「本来、そいつはあんたら“星見人”が持ってる筈の無いものだ。それをどうして……」

「ぇ、あ、あの、その、えっと、あのっ、わた、わたし……っ」

 

 

 また、責められる。

 また、ウソつき呼ばわりされる。

 また、信じてもらえない。

 

 そうした強迫観念が、グルリと彼女の正気を捻じ曲げて……

 

 

 

「いい加減にしろって、アネキ! ソラの話も、ちゃんと聞いてやれよ!」

 

 

 

 ぴしゃん、と問う側に対する非難の声が、少女を現実世界へ引き戻した。

 見れば、リクが自分を庇うように前に立ち、自身の姉を糾弾している。

 

 今まで体験した事の無かった事態に、ソラがポカンと口を開けて、思考停止している間。

 そんな彼女の姿を目の当たりにした博士が、自分の言動によるやらかしを理解して、バツが悪そうに頭を掻いていた。

 

 それから顔を俯かせたり、空を見上げたりと、様々な方向に目を向ける事を繰り返して暫し。

 少女がようやく我に返った時、博士は深々と、自身に向けて頭を下げていた。

 

 

「……悪い、あんたを責めるつもりは無かったんだ。ただちょっと、本当にビックリして、それで……いや、言い訳だな。とにかく、許してくれ」

「へっ? あ、いや、え、その……いえ、わたしも少しパニックになってしまって……」

 

 

 しゅんとした様子に、気まずい空気が辺りを支配する。

 伺うように、それでいて慰めるように、びぃタロが膝に触れ、こちらを見上げてきた。

 

「びぃ?」

「……うん。ごめんね、ちゃんと言うべきだよね」

 

 息を吸い、息を吸い、息を吸い、それから息を吐いて。

 無理やりにでも気を落ち着かせた後、改めて、羽根をその場の皆に見せるように持った。

 

 

「これは……昔、父さんがわたしにくれたものなんです。出自とか由来とか、何も分かんなくて……でも、わたしに似合うと思うから、って」

「それは、地上にいた頃の話……だよな?」

「はい。それからずっと、宝物として大事にしてきたんです。片時も離さず、ずっと……」

 

 

 羽根を手に抱え、胸に抱く。

 そうしている内に、強引に落ち着かせた精神が、段々と普段通りの平静さを取り戻していく。

 

 大丈夫。博士は、頭ごなしにこちらを糾弾してくるような人じゃない。

 リクだって、こっちを庇ってくれた。ちゃんと話を聞くべきだと、そう言ってくれた。

 

 その事実を、少しずつ、少しずつ心に溶かし込んでいく。

 

 

「だから……ごめんなさい。博士の聞きたい内容は、わたしも何も分からないんです。信じてもらえないかもしれませんけど……」

「いや、信じる。信じる、というか……あー……」

 

 

 あっけらかんと、こちらの言い分を信じられた。

 それに驚く間もなく、今度は博士の、言葉を選んでいるような、どこか煮え切らない態度に首を傾げる事になる。

 

「なんだよ、アネキ。言いたい事があるんなら、ハッキリ言えよな」

「あー……分かった、分かったよ。ただ、ここだとちょっと説明に困っから……」

 

 グッ、と親指を後方に向けて。

 ルスティカ博士は、困った風な表情を見せた。

 

 

「1回、研究所に戻るぞ。そこで説明するし……こっちからも、あんたに聞きたい事がある」

 

 




この後【18:00】より2回目の追加投稿を行います。
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