ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.15「過去と今を繋ぐもの」

「こぉんぬ!」

「グル、ウゥ……」

 

 

 ルスティカ博士に連れられるまま、再び戻ってきたポケモン研究所。

 中に入るや否や、玄関の近くで、ロコンがデルビルの頭をぺしぺし叩いているのが見えた。

 

「おーおー、ロコン。その辺にしといてやれ。書類を踏んで破いたくらいじゃ、あたしは別に怒んねーからさ」

「ころぉん……」

 

 ややしゅんとしつつも、「伏せ」の姿勢を崩さない新入り(デルビル)の背中へ、のしっと乗っかる“きまぐれ”な相棒。

 その様子に呆れ笑いを浮かべながらも、通りすがる間際、“ひのこ”でタバコに火をつけてもらう。

 

 

「今のは……」

「ウチの相棒が、新入りに上下関係を叩き込んでるんだとよ。床に散らばってた資料の紙を踏んづけて破いちまったそうでな。あたしは気にしねぇんだが……」

「思うんでニャスが、それは大事な書類を散らかしたままにしている博士に非があるのでは……」

「アネキ……折角、ソラのニャースが片付けてくれた家ん中を、どうすれば半日足らずでこんなに散らかせるんだ?」

 

 

 背中に突き刺さる呆れた視線は盛大にシカトして、研究室の椅子にどっかり座る。

 足を組み、タバコを咥え、よーく味わった煙をゆっくり吐き出して。

 

「さて……改めて、さっきは悪かったな。ちょいと気が動転していて、あんたを責めたフウになっちまった」

「……いえ。わたしの方も、あれだけパニックになってまで隠そうとしていたら、やましい事があるんじゃないかって疑われるのは当然ですし……。それよりも、この羽根について……」

「ああ……そうだな。まずは、それから話そうか」

 

 咥えていたタバコを手に取り、指の代わりにして、ソラの持つ羽根を指す。

 

 濃い緑色を基調に、根の方は白く、それでいて、全体的にほんのりとしたオレンジ色が混じっている。

 間違いない。博士はそう確信していた。

 

 

「もしそいつが、あたしの知るモノと同じであれば……それは“かすがいのはね”。この“マハルの地”に伝わるアイテムの1つだ」

「かすがいの、はね……」

「初めて聞く名前だけどよ、アネキ。それって何に使うやつなんだ?」

「“リンネの儀”の挑戦者である事を表す証だ」

「へー、“リンネの儀”の……。……!?」

 

 

 一同ギョッとして、羽根──“かすがいのはね”に注目を向ける。

 それは無論、羽根の持ち主であるソラとて例外ではない。

 

 

「その昔、信心深い男が、神の為、己にできる事は無いのかと強く祈った。そこへ、空から1枚の羽根が落ちてきて、男の手に収まった。男は羽根の導くままに“マハルの地”を旅し、やがて“縫いの霊峰”へ辿り着いた。これが、“リンネの儀”の始まりとされている」

「その羽根が、この“かすがいのはね”……」

「じゃ、じゃあさ、アネキ。この羽根って、“リュウジンさま”の羽根なのか!?」

「知らね。あたしの知る限り、“リュウジンさま”ってのは、大昔に“縫いの霊峰”で眠りについたっきり、その姿を現した事はねーらしい。他所の街の神殿(ジム)になら、壁画だのなんだのがあるらしいから、詳しい話は神官連中に会って聞いてくれや」

 

 

 そこまで言ったところで、やおら椅子から立ち上がり、本棚をひっくり返す。

 昨日の講義の際と同じような蛮行の後、取り出した学術書を開いてみれば、そこにはたった今語られた通りの内容が、古めかしいスケッチによって記されていた。

 

「話戻すぞ。そんでそれからも、信仰心の篤い奴ん前に、その羽根が舞い降りてきて、巡礼の旅に導くって伝承が各地に残されてる。それを整備し直したのが、今の“リンネの儀”だ」

「それじゃあ、巡礼の旅に出る人は皆……」

「あーいや、今現在の巡礼で配られてる証は、その羽根を模して作られたレプリカだ。あたしも、そのレプリカをもらって旅に出たんだが……だから、言える。そいつは、本物の“かすがいのはね”だ」

 

 経験者としての、そして研究者としての言葉に、重々しさを感じる一同。

 しかし、だからこそ疑問も芽生えてくる。

 

 

「……でも、なんでそんな羽根をソラが持ってんだ?」

「とは言われニャしても……先ほどひいさまが仰られた通り、ひいさまのおとうさまが、遺跡発掘からお帰りになられた際に、お贈りになられたもので御座いニャして」

「そりゃあ、いつの事だ?」

「ひいさまが4歳の頃……今から10年も前の事で御座いニャス。でニャスよね? ひいさま」

 

 

 頷きを以て肯定する。

 そのやり取りに「ふむ」と息を吐いて、次の質問を投げかけた。

 

「その父親からは、なんか聞いてねぇか? 由縁あるモノだとか、そういうの」

「いえ……父さんからは、何も。それに……」

 

 言うべきか、言うべきでないか。

 暫しの逡巡の後、ニャースを見やる。

 

 彼はただ、ソラに首肯だけを返した。その御心のままに、という事らしい。

 その頷きに決心を固め、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……父さんは、この羽根をわたしに送ってすぐ……失踪、しました」

「なっ……」

「……」

 

 

 息を呑むリク。

 それから悪い事を聞いてしまったと思ったのか、バツが悪そうにしている。

 

 しかしその一方で、ルスティカ博士は、どこか得心がいったような表情で、バリバリと頭を掻き始めた。

 

 

「“星見人”、10年前、そんでこの羽根……こりゃ確定かねぇ……。ったく、どういう天運の下に導かれてきやがったんだ? あんたは」

「あ、あの……それってどういう──」

「率直に聞く。あんたの父親は、()()()()って名前じゃねぇか?」

 

 

 ひゅ、と息を呑んだ。

 ニャースやロトムも、何故その名を、と言いたげに表情を強張らせている。

 

 その反応こそが、何よりの回答だった。

 溜め息をつきながらに、博士はタバコを咥え、どっかと椅子に座り直した。

 

「ど、どうして……」

「あんたの端末からデータを吸い出す時、大量の動画データを見つけてな。悪いたぁ思ったんだが、セキュリティ的な意味で、目を通させてもらった。んで、そん中に……」

 

 ソラの父──クレオメ博士が講義する様子が、映っていた。

 誰よりも動画を視聴し続けていたからこそ、続く言葉を理解した。理解できてしまった。

 

 

「大事な質問だ。答えてほしい。あんたの父親は……」

「……はい。わたしの父は……クレオメと言います。動画を見たのであれば、既に分かっていると思いますが……地上では、ポケモン博士と呼ばれていました。そして……」

「“マハルの地”について研究していた……か?」

 

 

 頷く。

 そのやり取りを受けて、真っ先に驚いたのはリクだった。

 

「ええっ!? それってソラも、ソラの父親も、前からマハルについて知ってた……って事か!?」

「……うん。黙っててごめん。博士の言う通り、父さんはわたしが物心つくずっと前から、“マハルの地”の存在を研究していたの。でも……」

「その先は、言われんでも予想はできる。大方、地上じゃあ、この世界の事は知られてねぇんだろ? だから、あんたの父親の言う事は誰にも……」

 

 そこから先は、語られなかった。

 中途のところで、少女の様子を察した博士が首を横に振り、「悪い」と言って中断したのだ。

 

 

「……デリカシーに欠けた物言いだった。忘れてくれ」

「いえ、事実ですから。……父さんは、世間からウソつき呼ばわりされて、そのまま姿を消しました。それから世間の目は、残ったわたしに……」

「……なんだよそれ、ソラはなんも悪くねーじゃん!」

 

 

 ぷんすかと、怒りを全面に押し出すリク。

 今まで言われた事の無い言葉に、少女は一瞬だけ驚き、やがて困ったように微笑んだ。

 

「話を聞く限りじゃ、ソラは父親がいなくなってから10年、ずっと独りぼっちだったんだろ!? そんな奴をよってたかってイジメるとか、サイテーだろ!」

「……ありがと。でも、もう済んだ事だし、気にしないで。それに……」

 

 小さく、一呼吸を置いて。

 目を細めてこちらを見やる博士を、真っ正面から見返した。

 

 

 

「わたしの父さんについて聞いたって事は……()()んですね? この世界に」

 

 

 

 頓に、周囲が騒がしくなる。

 どういう事かと、そう問いたげなニャースやリクたちには意識を向けず、眼前に座る博士から目を離さない。

 

 ずっと考えていた事だ。

 10年前、忽然と姿を消した父・クレオメは、本当は故あってこの“マハルの地”に迷い込み……どこかで暮らしているのではないか、と。

 

 だが、本当に()()だった時の恐怖が、彼女の口を噤ませていた。

 地上では悪名で知られていて、その通りの風評に晒されてきたが故に、父の名の実在を知る事が、少女の中に恐れを生じさせていた。

 

 しかし──

 

 

「……あたしは、実際には会った事は無ぇ。だが、その()()を知らねぇ奴ぁ、学者の間にゃ1人だっていやしねぇよ」

 

 

 それはまさしく、肯定の言葉だった。

 だが、それよりも先に、反応せねばならない箇所がある。

 

「めい、せい……? 博士、それってどういう……」

「……今から、10年前の事だ」

 

 すっかり短くなったタバコを、灰皿に押し込んで。

 ルスティカ博士は、誰にとっても驚くべき事実を口にした。

 

 

 

「ある1人の“星見人”が、先進的な科学知識と技術を、この世界にもたらした。そうして、この“マハルの地”の発展に大きく貢献した“星見人”の名を──クレオメ、という」

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝。

 昨日と同じく、研究所の2階に泊まる事になったソラは、やはり同様に、早くに起き出してしまった。

 

 焼き直しのようにベランダに出て、ロトム図鑑を呼び出せば、表示された時刻は午前5時。

 今から寝直す……という時間でもなく、仕方が無いので、適当に時間を潰して過ごす事にした次第である。

 

 

「……綺麗ね、ロトム」

「ロトケー!」

 

 

 ベランダを介して見る遠景は、昨日の朝に見たそれよりも、ずっと幻想的なものだった。

 

 遠くに見える山々(上空の“獣の大地(ローランド)”を含めたものだ)から、ぽつぽつと、大きな明かりが灯り出し、薄暗い空を明るく染め上げていく。

 そしてそれに呼応するかのように、宙に浮かぶルナトーンたちが下降し始め、地表のどこかへ消え去っていった。

 

 そんなルナトーンたちと入れ替わるようにして、地表のどこかから現れ、空へと上昇しゆくソルロックたちの群れ。

 ロトム図鑑のカメラ機能でズームしてみれば、成る程。ルナトーン同様、体表に淡い緑色の結晶片が露出していた。

 

 

「……あれが、リバーテル結晶の輝き。この大地を照らす、温かな光」

 

 

 ぽつりと呟き、ふと、ポケットから羽根を取り出す。

 ソラと父を繋ぐ唯一の宝物であり、期せずして重要な意味を宿し始めたアイテム……“かすがいのはね”。

 

 空にかざして照らしてみれば、リバーテル結晶の放つ光を浴びて、きらきらと輝いている。

 

 見れば見るほどに、不思議な羽根だ。

 “あさのひざし”に呼応して輝くそれは、まるで、最初からこの地に存在していたかのような親和性を帯びている。

 

 と、その時。

 

 

「サン……」

「あれ……? こっちに来た」

 

 

 宙を舞うソルロックたちの内の1体が、ふよふよとベランダまで接近してきたのだ。

 何をするのかと微かに警戒したのも束の間、こちらへ来た個体は、何やらソラの持つ“かすがいのはね”に擦り寄るように“ふゆう”している。

 

「これ……? これが気になるの?」

「サン……」

 

 掲げるように持ち上げてみれば、ソルロックはゆらゆらとその体を揺らす。

 同時に、その体表に露出するリバーテル結晶が、キラキラと淡い光を強めたように見えた。

 

 そうして十数秒、満足したらしいその個体は再び上昇し、空に浮かぶ光の1つとなる。

 なんだったのだろうか、と思いつつも、何故だか不快な心地では無かった。

 

 

「……ふふ。この羽根に、何か特別な力でもあるのかな」

「どうでしょうニャー。何分、この地に伝わる御伽噺の一品との事でニャスから、まだまだ分からない事だらけで御座いニャス」

 

 

 ふと、後ろから聞こえてきた声。

 それに振り向くより早く、ニャースがベランダの柵の上に飛び乗ってきた。

 

「じいちゃん、起きてきたんだ」

「それはもう。ニャーはいつも、この時間くらいに起き出しておりニャスよ。むしろ、ひいさまの方が、こんな早い時間に起きるのは珍しいでニャスね」

「まぁ……そう、ね」

 

 目線を外し、上空を見る。

 

 遥か上の天井世界、“獣の大地(ローランド)”。

 そのいたる箇所で、光を溜め込み切ったリバーテル結晶たちが、内部の光を解き放っている。

 

 ググッと、首に負担をかけつつ見上げてみれば、ここウツシタウンの上空に根ざす、巨大な山々が見える。

 分厚い雲をドレスのように纏っていて、その全貌を掴む事はできないが──恐らくはあの山々こそが、この世界を創った神のおわす地、“縫いの霊峰”なのだろう。

 

 

「やはり……気になりニャスか。おとうさまの行方が」

「……うん」

 

 

 肯定しながらに、思い出す。

 昨日の昼間に、ルスティカ博士が告げた言葉の数々を──




マハル図鑑 No.139
【ソルロック(マハルのすがた)】
ぶんるい:ようこうポケモン
 タイプ:いわ・はがね
とくせい:ふゆう
ビヨンド版
 全身が 特殊な 鉱石で できており 昼の 光を 吸収して 自身の パワーに 変換する。
ダイブ版
 夜に なると 地表の どこかで 眠る。それが どこなのかは 未だに 分かっていない。

《進化》
なし



この後【21:00】より3回目の追加投稿を行います。
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