ここからソラの冒険の旅が本格的に始まります。
Lv.17「はじめてのほかく(※なお結果)」
「わぁ……!」
感嘆の溜め息が、無意識の内に吐き出される。
広々とした草原に、さらさらと流れゆく小川。
遠くには、ぽつぽつと木立が見えて、ほんの3日前まで暮らしていた、ヒヨクシティの自然を思い出す光景だ。
遥か上空よりぶら下がる“
風の爽やかささえもが、心の高揚をより掻き立てていく。
「凄い……! こんな光景が、この先ずっと続くんだ」
「そうだぜ、ソラ。こんなところで驚いてちゃあ、旅が終わるまで保たないぞ?」
どう見ても“お上りさん”そのものなソラに、苦笑しながら呼びかける。
リク自身、姉であるルスティカ博士からの「おつかい」で、カロンタウンまで1人で行った事は何度もあるし、“死出の森”周辺には自作の“ひみつきち”もある。
その為、ここら一帯は、彼にとっては庭にも等しい。
「ここからカロンタウンまでは、近いの?」
「そーだな……寄り道せずに歩けば、半日よりは短い時間で着けるぞ。道自体はちゃんとあるしな」
そう言って、足元の土を蹴る。
草が丁寧に刈り取られ、整備された土の1本線が、ウツシタウンの出口より始まり、草原の向こうまで続いているようだった。
「ただ、色々と荷物を背負っての旅になるからな。無理は禁物だぞ」
「あ……そういえば、そうね。これだけの荷物と一緒に、マハル一周をしなくちゃなんだ」
自分の右肩に目を向ける。
今のソラは、モンスターボールやキズぐすり、後は着替えなど、旅に必要なものを色々と詰め込んだボストンバッグを肩から下げている。
更に、バッグの根革部分には、“かすがいのはね”をストラップに加工したものが取り付けられていた。
これが、“リンネの儀”に挑む者──巡礼者の証となるのだ。
リクも、自分の分の旅支度はリュックに入れて背負っている状態である。
旅をするにあたって、どういったものが必要で、どれだけ用意すればいいのかは、巡礼マニアである彼の母がすべてやってくれたとの事。
旅は手ぶらではできないもの。
なにせ、街から程遠い場所で夜を明かすのであれば、
「ごめんね、じいちゃん。しんどそうなら、いくつかはわたしたちが持つよ」
「
……なお、最も大量の荷物を背負っているのは、じいちゃんこと、ソラのニャースだ。
キャンプセット、料理道具、食材など、バトルに用いないような道具の大体は、彼のリュックに詰め込まれている。
彼は、自身の体とほぼ同じくらいの大きさになったリュックを、しかし重さを感じさせない足取りで、楽々と背負っている。
伊達に長年、召使いをしていないと言ったところか。
ちなみに、彼の背負う大量の荷物は、ソラやリクが「自分たちで持つ」と言っても、決して譲らなかった事を付記しておく。
「ともあれ、だな。多少寄り道しても、よっぽど迷わない限りは夜までには町まで着けるし、町には宿もあるから、急いで向かわなくても大丈夫だぞ」
「それは助かるわね。わたし、あんまり外を出歩いた事って無かったから、ゆっくり歩きながら、少しずつ慣らしていくつもりだったし。それに……」
がさり。
近くの草むらが揺れる音で、その場の全員の意識がそちらへ向けられる。
広大な大地、豊かな自然、穏やかな草原。
であれば当然、草むらに隠れ潜んでいるのは──
「ころ?」
「──ポケモン、捕まえなきゃだもんね」
そうして現れた野生のポケモンは、コソクムシに似たフォルムをしていた。
もっちり丸々とした見た目は、フシデと類似しているようにも思える。どちらにせよ、いくつかのフシを持つ、丸っこいむしポケモンだ。
「ありゃ、『コロムシ』だな。この辺ならいくらでもいる、むしタイプのポケモンだ」
リクの解説を聞きつつ、ロトム図鑑を起動する。
捕獲していない野生ポケモンであるが故に、詳細な能力こそ確認できないが、彼の言葉を裏付ける程度の情報は確認できた。
「ころむしゅ……」
「……うん、行けそう」
濃い目にくすんだ黄緑色の体色に、どこか弱々しさを感じさせる目つき。
見るからに強くはなさそうで──だからこそ、まだまだ未熟な
腰に下げたホルダーから、モンスターボールをひとつ外し、手に持つ。
握った手を通して、ボールの揺れる感触が伝わってくる。中にいる
リクやニャースが、1歩後ろへ退くのが見える。
この場はこちらに譲ってくれる、という事だろう。
ならば、それに応えるまで。
「わたしの、トレーナーとしての初陣──行くよ、びぃタロ!」
前回の失敗を踏まえ、両手で抱え込んだモンスターボールを、下から掬い上げるように投げる。
狙い通りの軌道を描いたボールは中空で開き、中から飛び出してきたびぃタロが、野生ポケモンの眼前へ躍り出る。
「──びぃっ!」
「ころっしゅ!?」
戦意たっぷりのポケモンが、いきなり目の前に出現した。
その事実に驚いた野生のコロムシは、しかし相手が自身と矛を交える気だと察するや否や、6つの脚で地面をがっしり掴み、戦闘態勢へと移行する。
「バトル中は、トレーナーも歩き回るんだ。常に動き続けて、流れ弾に当たらないようにしたり、状況を俯瞰して見るようにするんだぞ」
「トレーナーも歩き回る……分かった! びぃタロ、まずは“はたく”!」
「びびーっ!」
「ろむっしゃ!?」
尻尾をバネに見立てて地面スレスレを跳躍し、拳を突き出す。
見た目通りの稚拙な技だが、しかし、その繰り出す速度ゆえ、相手に
「やった!」
「喜ぶのは早いぞ。相手はまだ元気そうだ、反撃に警戒しろ!」
「しゅぅうう……!」
リクの指摘通り、わざを食らって吹っ飛んだコロムシだったが、その体を丸める事で、接地の衝撃を和らげている。
更に、そこからコロコロと数回転がり、慣れた動作で態勢を立て直していた。
「こむっしゅー!」
「来る……! 気を付けて、びぃタロ!」
「び……!」
態勢を整えた相手は、そのまま助走をつけながら体を丸め、前方へ跳ね跳んだ。
草原を駆け抜けるように転がるその姿は、丸々としたボールそのものだ。
「びびぁっ!?」
その勢いに対応し切れず、まんまと“たいあたり”を受けてしまうびぃタロ。
全身を使った突撃に、あまえびポケモンの小さな体が草の上を跳ねる。
「だ、大丈夫!?」
「……び、びっ!」
「よかった……。まだやれそうね」
攻撃を食らった衝撃に痛み、相手の気迫。
それらに一瞬
そんな相棒の背中に頼もしさを覚えながらも、ソラは相手を見た。
警戒心が強いのか、野生のコロムシは一当てをし終えた後、こちらの出方を伺っているようだった。
(初めて見るポケモンだったけど、やり口自体はそうおかしなものじゃない。体を丸めて転がるだけなら、ゴマゾウやイシツブテだってやってる。これでいきなり“10まんボルト”とかを繰り出されてたら困ってたけど……杞憂だったみたいね)
やはり、この世界に来て最初に遭遇したポケモンがガチゴラスだったのは、彼女にとって大きかったらしい。
けれどウツシタウンの町並みを見て回り、デシエビたちと出会い、デルビルと戦った事で、あるひとつの確信を得た。
(地上も、
彼らは変わらず
それが分かれば、臆する事など何も無い。
「びぃタロ! 隙を作って、大きいの行くよ!」
「びぃ──びっ!」
「ころむっしゅ……!」
それを受けて、コロムシはより地面を掴み、その場に留まる構えを見せた。
大方、こちらがまた“はたく”を繰り出す瞬間を狙って、切り返しを図るつもりなのだろう。
だが、それはソラにも見えている。
「──飛んで!」
「びびぃ──っ!」
相手が眼前まで迫ったその瞬間、尻尾を地面に叩きつけ、その勢いで大きく跳ねる。
カウンターを狙ってたコロムシの頭上をぐるりと半回転し、背後で着地。
「むし──!?」
「びぃっ!」
背中を取られた事に驚き、振り返った瞬間を狙った、必殺のエビパンチが放たれる。
「むしゅっ……!?」
相手の顔を狙った一撃だったが、“まるくなる”事で高まった“ぼうぎょ”故か、軽く後ろへ仰け反らせるだけに終わる。
それどころか、むしろ仰け反った勢いを利用して、後方へ転がりゆく事で、彼我の距離を取られてしまう。
だから、それでよかった。
「“とくしゅ”なわざなら、“ぼうぎょ”は関係無いでしょ? ──びぃタロ、“みずでっぽう”!」
「び、びぃぃい──ッ!!」
口腔より迸る水の奔流が、こちらとあちらの距離差を埋めるように滑空する。
水の流れが、勢いよく体にぶつかる。ただそれだけの事が、十分な痛痒をもたらすのだ。
「むしゃ──がぽごぽーっ!?!?」
クリーンヒットした水流に押し流され、体の回転を自分で制御する事もできないまま、地面に叩きつけられるコロムシ。
“ひんし”にこそなっていないが、グルグルと目を回しており、ノックダウン状態だ。
つまり、今こそ好機。
「今だぜ、ソラ!」
「──うんっ」
まだ使っていない、空のモンスターボールを手に持つ。
フルスリの時のように、相手ポケモンが元気いっぱいという事は無い。
十分に弱らせてからボールを投げる。それは地上でも地下でも変わらない、ポケモン捕獲の
だから、今度こそは。
「いけっ、モンスターボール!」
そうして、気合十分に投げ放たれたボールが──
「……」
「……」
「……うん?」
「……こ、ころむしゅ……?」
……なんか、消えた。
コロムシに当たらなかったとか、見当違いの方向に飛んでったとかでもなく。
投げた筈のモンスターボールが、誰の視界からも、綺麗さっぱり消え去っていた。
投げた本人であるソラはおろか、投げられる側だった筈のコロムシすらも困惑している。
一体、どこへ消えたのか。事態を飲み込めずにいながらも、投げた筈のボールを探して周囲を──
「あいたぁ!?」
──探す前に、頭上から落ちてきたボールが、ソラの頭頂部にクリーンヒットした。
「ぶふぉっ!?」
「びぃ!?」
「ひ、ひいさまぁー!?」
まさかの事態にむせるリク。
気が動転するびぃタロ。
悲鳴に似た叫びを上げるニャース。
狼狽する周囲へ意識を割く余裕も無く、ソラはその場へうずくまり、頭を抑えて悶絶している。
その傍を、着弾の拍子にスイッチが押されたらしく、開口した状態のボールが転がっていた。
……なお、モンスターボールがポケモンを捕獲できるのは、あくまでポケモンという存在が共通して持つ「自身の体を縮小して身を守る」能力を利用したものである。
よって、ボールが人間に当たったからと言って、人間が吸い込まれるという事は無い。
「ひいさま!? 大丈夫で御座いニャスか!?」
「う、うん……大丈夫。ちょっと頭打っちゃっただけだから。それに、まだバトルは──あれっ!?」
ニャースの呼びかけに答えながらも、視点を前に向け直して……そこで、気付く。
先ほどまでそこにいた筈のコロムシが、影も形も──
「むっ、むしゅ~~~っ!」
その場を離脱し、大急ぎで草むらへと飛び込むむしポケモンの後ろ姿。
それに気付き、視線を向けた時には、コロムシは既に草むらの向こうへと消えていた。
「あ、あぁーっ!? 待って、行かないでーっ!?」
そう叫んで手を伸ばしても、もう遅い。
相手がもう戻ってこない事を悟ると、かくり、と芝の上に座り込んで項垂れた。
「うぅ……逃げられちゃった」
「惜しかったな。でも、バトルの方はいいセン行ってたと思うぜ? あれでボールさえ当たってりゃ、間違いなくゲットできてたさ」
「あの、リクさま……。それは慰めになっておりニャせん」
肩に手を置きながらのリクの言葉に、ソラがより一層の落ち込みを見せる。
その「ボールさえ当たってりゃ」こそが、彼女の悩みであるからだ。
「フルスリの時といい、なんでボールを上手く投げられないんだろ……」
「び! し、び!」
「慰めてくれるの? ありがと、びぃタロ……」
落ち込む
そんな
「……うし、ちょっと元気出た。1匹捕まえられなかったくらいで、くよくよしてらんないよね」
「その意気ですニャ、ひいさま。このまま次の街……カロンタウンへ向かいながら、他のポケモンをドンドン探しニャしょう」
「そーだな。おいらの方も、巡礼に向けて、手持ちの皆を鍛えなきゃいけねぇ。どしどしポケモン探して、捕まえたりバトルしたりしないとな」
「にゃおぉん!」
旅の仲間たちがかけてくる言葉に、頷きを以て応え、よいせと立ち上がる。
両手で自分の頬を叩き、気を引き締め直した後、小さく「おいで」と、びぃタロを自分の肩まで招いた。
旅の相棒が肩に飛び乗ったのを確認して、前を見る。
どこまでも続いているように見える草原だが、必ずゴールがある。草原を抜けた先のカロンタウンに到着するのが、現時点の小目標。
後はそこへ辿り着くまでに、どれだけのポケモンを仲間にする事ができるかどうか。
「よし……頑張ろう!」
マハル図鑑 No.013
【コロムシ】
ぶんるい:ダンゴムシポケモン
タイプ:むし
とくせい:むしのしらせ(ぼうだん)
ビヨンド版
小さな 体だが 甲羅は 硬い。甲羅を 丸めて コロコロと 転がり 坂を 移動 するぞ。
ダイブ版
春先は コロムシの 群れが 原っぱを 転がりながら 移動していく 様子が 見られる。
この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。