ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.19「Battle and Get」

「行くよ、びぃタロ! 今度という今度は、みすみす逃がしたりしないんだから!」

「びぃっ!」

 

 何度目かの正直、と言わんばかりに己を鼓舞するソラ。

 そんな彼女に同意するように、びぃタロもまた気合十分。

 

 戦意溢れる1人と1匹の眼前へ、野生のハルドリが飛び立ち、ちっちゃな翼を広げて迫り来た。

 

 

「けーりぃっ!!」

 

 

《あっ! やせいの ハルドリが とびだしてきた!》

 

《ゆけっ! びぃタロ!》

 

 

「相手が空を飛んでるってだけで、飛べないこっちは不利……。ならまずは、牽制ね。びぃタロ、“みずでっぽう”!」

「びぃ!」

 

 

《びぃタロの みずでっぽう!》

 

 

「るりっ!」

 

 空中の相手目がけて発射された水流は、しかしひらりと躱される。

 如何に小柄と言えど、相手はひこうタイプのとりポケモン。その程度であれば、やすやすと回避してのけるのが道理の話だ。

 

「し、しびび……」

「慌てないで、無理に当てる必要は無いの。こっちのスタミナが切れない程度に連射して、相手のペースに持ち込ませないようにしましょ」

「び……びっ!」

 

 攻撃が当たらず、つい弱気になりかけたびぃタロを宥めつつ、指示を継続する。

 リクから指摘されていた通り、バトル中のポケモンたちから適度に距離を取りつつも、周囲を歩き回り、絶えず状況を観察し続ける。

 

 

「びっ! びっ……びびっ! びぃっ!」

「ほるっ……るりっ──ほけるっ!?」

 

 

 そうして、望んだ機会(チャンス)が訪れた。

 絶えず連射し続けた“みずでっぽう”、その内の一条がハルドリの体を掠め、バランスが崩れたところへ第2射が命中したのだ。

 

(当たった! 下手な鉄砲……なんて言いたくないけど、撃ち続けていれば、避ける側の集中力も切れる!)びぃタロ! 落ちてきたところを追撃!」

「び! ──しぃいっ!」

 

 尻尾で地面を叩いて跳ねて、今まさに落下しゆく相手へ間合いを詰める。

 腰まで引いた拳を、接敵の瞬間、思いっ切り振り抜いた。

 

「びぃやっ!」

 

 

《びぃタロの はたく こうげき!》

 

 

 しかし、その刹那。

 拳が振り抜かれ、着弾するよりも早く、小さなクチバシが開かれる。

 

 

「ほるっ──ほけぇぇえっ!!

 

 

《やせいの ハルドリの なきごえ こうげき!》

 

《びぃタロの こうげきが さがった!》

 

 

「び──!?」

 

 真っ正面、かつ至近距離から受けた叫声に、ほんの僅かな時間をたじろぐ事に費やさせられる。

 それでも拳は命中するのだが、やはりというか、勢いの削がれた一撃は、相手に決定打を与えるには至らなかった。

 

 

「けりっ──ほ、け……っ!」

 

 

 無論、ダメージは通っている。

 然れども、むしろ攻撃が当たった勢いを逆に利用され、空中でくるりと回転しながら、態勢を整えられてしまう。

 

 そして、相手は空飛ぶとりポケモン。

 態勢さえ立て直せたのであれば、その機動力によって、すぐさま反撃へ移る事ができるのだ。

 

 

「ほぉっ──ほけーっきょ!

 

 

《やせいの ハルドリの ないしょばなし!》

 

《びぃタロの とくこうが さがった!》

 

 

「び……びびっ……!?」

「っ……!? 耳が、キーンッとする……!」

 

 大気を震わせ、鼓膜を刺激する高周波。

 攻勢に転じたとりポケモンの囀りは、ただそれだけで、こちらの集中力を掻き乱すわざとなるのだ。

 

「“なきごえ”なんかに負けないで、びぃタロ! もうⅠ度、“みずでっぽう”よ!」

「び、びび……。──びぃっ!」

 

 

《びぃタロの みずでっぽう!》

 

 

「けきょっ──けりぃ!」

 

 耳を狂わせる音波に耐えながらも、しかしそうして放った水流は、呆気なく躱されてしまう。

 ここまでそれなりにダメージを負っている筈なのだが、それでも余裕綽々な雰囲気を崩さないのは、相手のタフさの表れか。

 

「び……」

「ほけるりっ、りーっ!」

 

 そして今度は、あちらが攻撃を繰り出す番。

 滞空の構えに移行するとともに、それまで飛行する為に用いていた翼を、前後へ動かし、風を起こす。

 

 やがて意図的に生み出された風は、それそのものが攻撃へと転じるのだ。

 不可視の、そして怒涛の一撃が、びぃタロの矮躯いっぱいに叩きつけられた。

 

 

《やせいの ハルドリの かぜおこし!》

 

 

「び……びっ、びび──びぃい~~~っ!?」

「びぃタロっ!?」

 

 その場で踏ん張って耐えようにも、びぃタロはあまえびポケモン。

 足ではなく、曲げた尻尾で立っているのだ。

 

 こらえようとしたのも、一瞬の話。その小さく軽い体はすぐに吹き飛ばされて、枯れ葉のように宙を舞う。

 風の圧力で全身を殴りつけられるだけでなく、落下先の地面でバウンドし、更なるダメージを受けてしまう。

 

「びぃタロ、大丈夫!? ……立てる?」

「びっ……びびっ……びぃ」

 

 全身を打ちのめされて、這いつくばった相棒へ声をかける。

 

 わざのダメージでズキズキと痛む矮躯は、しかし両腕で地面をグッと押し、その拍子で自らの体をゆっくり起こした。

 その際に少しふらつくも、すぐに体勢を整えて事なきを得、しゃっきりと直立してみせる。

 

 

「──しびっ!」

「……! うん、まだまだ行けるよね!」

 

 

 何をこれしき。そう奮起する背中は、ただ“おくびょう”なだけのポケモンではなかった。

 だからこそ、それに応えなければならない。そんな思いとともに、まずはロトム図鑑を起動する。

 

 液晶画面の向こうに映るハルドリは、こちらの出方を伺っているらしい。

 だが、だからと言って悠長にこちらのシンキングタイムを黙って見守ってくれる訳が無い。

 

 時間はあちらの味方。トレーナーたる者、常に素早い決断が求められる。

 ソラは、その事を実地で強く実感していた。

 

 

(……こっちが“みずでっぽう”で牽制し続けていたとはいえ、接近する様子を見せず、使ったわざも音系に“かぜおこし”……。多分、相手は“とくしゅ”型。それと、“とくぼう”は低いと見た方がいいのかな)

 

 

 ここまでびぃタロが繰り出したわざの内、 “はたく”よりも“みずでっぽう”の方が通りがよかったように感じた

 タイプの一致やステータスの減少などもある為、一概に()()とは言い切れないが、恐らくは相手の“とくぼう”が低い故のダメージと見ていいだろう。

 

 

(このまま“みずでっぽう”を連射し続ければ、いつかは当たって倒せると思う。でも、“ないしょばなし”が痛いわね……。あれでこっちの勢いが削がれてる以上、下手に乱射した隙を狙って、また“かぜおこし”を受けたら……?)

 

 

 ふと、()()が目に入る。

 どうして()()を持っているのかと考え、すぐに答えに行き着いた。

 

 そして、その使い方は──

 

 

「──いける! びぃタロ、接近しながら“みずでっぽう”! できる?」

「しびびっ!」

 

 そういう指示を出す理由は分からないが、相棒(トレーナー)がそう言うのだから、何か考えがあるのだろう。

 ならば、それに従うまで。尻尾を叩いて跳ねて、滞空するハルドリへ向かって駆ける。

 

「びびぃっ!」

 

 

《びぃタロの みずでっぽう!》

 

 

 口から吐き出す“みずでっぽう”の水流は、先ほど受けた“ないしょばなし”の影響が響いているのもあって、いくらか勢いが落ちている。

 しかし、それでも滞空している相手へ届く程度の威力は残っており、いくつか放たれた内の一条が、やはり相手の頬を掠めた。

 

 

「り──!?」

 

 

 たまらず距離を取ろうとするハルドリを前に、それでも追い縋り、水流を絶えず浴びせかけ続ける。

 

 それら自体は、あっさりと避けられるものだ。

 音波によって掻き乱され、削がれた勢いでは、当てるのも一苦労というもの。

 

 だが、いつまでも回避し続けられる訳ではない。

 攻撃を避ける為に動き続けていれば、体力も集中力も消耗するし、その隙を狙われればひとたまりもない。

 

 であれば、どうするか。

 相手の勢いを更に減らし、こちらへの有効打をより削りにかかる。

 

 

「ほぉぉお──ほけっきょぉーっ!!

 

 

《やせいの ハルドリの ないしょばなし!》

 

《びぃタロの とくこうが さがった!》

 

 

 大きく開かれたクチバシから、精神を掻き乱す高周波が再び発せられる。

 耳を抑えて顔を顰めるソラの目の前では、相棒たるびぃタロも同様に、集中力を著しく削り取られていき──

 

 

 

「今よ、びぃタロ──()()()!」

 

 

 

──むしゃり

 

 

 懐に隠していた()()を、一息で頬張った。

 果たして、その直後。

 

 

 

《びぃタロは オトーのみで すべての ステータスが もとに もどった!》

 

 

 

「──びびっ、びぃっ!!」

 

 

 食べていた途中でハルドリに襲われた為、一旦懐に仕舞ってあった“オトーのみ”。

 それを口にした瞬間、びぃタロを蝕んでいたすべての不調が消し飛んで、一気に元気を取り戻す。

 

 

「あれは……“オトーのみ”!? 使い方を教える前にバトルになったってのに、どうやって理解したんだ?」

「完全には分かってないけど、推測はできるわ。リク、言ってたでしょ? 『能力のどれかが“()()()()()()()()”時に』……って」

 

 

 例えば、相手の“ぼうぎょ”を2段階下げる“いやなおと”。

 例えば、相手の“すばやさ”を2段階下げる“こわいかお”。

 

 そういった、能力を一気に2段階──“がくっと”下げるわざではなく、既に1段階下がっている状態で、更に1段階以上の能力低下が起きた時。

 その際に起動するかどうかは割りと賭けだったが、どうやら的中したらしい。

 

 

「“オトーのみ”は、自分の能力が2段階まで下がったタイミングで食べる事で──自分のステータス変化すべてを帳消しにするきのみ! 言うなれば、“くろいきり”のきのみ版ってこと。わたしの推測、どうやら当たりみたいね」

 

 

 “もちもの”によって、劣勢をひっくり返す。

 スマホの向こうでしか知らなかったバトルの世界、その一端を、彼女はここで得た。

 

 先にも語った通り、ソラ的には「期待する効果を得られるかどうか」は幾分かギャンブルだった部分が大きい。

 それでも、不確定な要素を踏まえて勝負に出る事ができたのは──

 

 

「その場で()()()()()()()。確かに悪くないわね。──さぁ、一気に決めちゃいましょ!」

「しびぃーっ!」

 

 

 尻尾を思いっ切り地面にぶち当てて、その作用で以て跳躍する。

 そうすれば、あれだけ空を飛ぶ事によって距離を取れていたハルドリも、すぐ目の鼻の先まで迫るではないか。

 

「ほけっ、るり──」

「び、びぃっ!」

 

 翼を震わせ、“かぜおこし”を放とうとする相手ポケモン。

 それよりも早く──びぃタロの口内で、水の波濤が荒れ狂った。

 

 

「びっ、びびぃぃい──っ!!」

 

 

《びぃタロの みずでっぽう!》

 

 

「け、り──ほけごぼーっ!?」

 

 迎撃の構えをしていたが故に、目の前の攻撃に対処し切る事ができず。

 迸る鉄砲水をまともに喰らいまくったハルドリは、目を回しながらに飛び力を失い、地面へ落ちてくる。

 

 

「きゅ、きゅぅ……」

 

 

 ポトリと倒れ伏した小さなとりポケモンのを見てみれば、“ひんし”とは言わないまでも、“きぜつ”する程度にはダメージを負っている様子。

 起き上がって逃げ出すにしても、暫く時間がかかりそうだ。

 

「やっ……たの?」

「何やってんだよ、ソラ。ほら、早くボール投げようぜ?」

「ボール……え? 捕まえ……られる、の?」

「相手の体力を削って、弱らせたんだろ? なら、絶好の捕獲チャンスだろ」

 

 そう言われて、改めて“きぜつ”状態のハルドリを見る。

 

 

(ボール……当てられるの? わたしに?)

 

 

 本当は、分かっている。

 何度も何度もボールを投げては失敗する中で、なんとなく()()と呼べるような感覚を覚えつつあった。

 

 けれどもソラは、1度の失敗経験が尾を引いて、そういう機会が来る度に「今度は成功させなくちゃ」と慌てては、それ故に空回りし続けていたのだ。

 落ち着いて挑めば、きっと成功する。しかし彼女には、その確信が──

 

 

 

「びっ!」

 

 

 

 こちらへ振り返り、ビシッと手を掲げる相棒(パートナー)の姿が、視界に映った。

 それはまるで、自分に対して「大丈夫だ」と語っているようにも見えて。

 

 何度もこちらの指示を信じ、その通りに従ってくれていた相棒が今、こちらを鼓舞するように呼びかけている。

 

 

「……」

 

 

 息を吸い、息を吐き。

 幾分かの逡巡の後、意を決してボールを取り出し、グッと握り込んだ。

 

 ボールを握った手を、腕を、後ろへ引き絞り。

 ゼンリョクのオーバースローを、捕獲対象に向かって投げ放つ!

 

 

「今度こそ──行って! モンスターボール!」

 

 

《ソラは モンスターボールを つかった!》

 

 

 その投球フォームは、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。

 投げられたボールもまた、綺麗とは程遠い軌道を描いて宙を飛んでゆく。

 

 それでも、決して的外れなものではない。

 その事を証明するかのように、宙を舞ったモンスターボールはやがて、倒れ伏したまま動かないハルドリへとぶつかった。

 

 蓋がパカリと開いて、中から光が放たれる。

 その光に絡め取られた捕獲対象がボールの中に吸い込まれて、やがて閉じる。

 

 

「……!」

 

 

 ごく、と固唾を呑む一同。

 彼女たちの思惑を知ってか知らずか、地面を転がったボールが1度震え、2度震え、3度震えて──

 

 

 

──パチン。

 

 

 

《やったー! ハルドリを つかまえたぞ!》

 

 

 

 ……最初、ソラはその事実を上手く認識できないでいた。

 音を立てて静止したモンスターボールは、即ち、中のポケモンが抵抗をやめて、捕獲される事を受け入れた事を意味している。

 

「え……え?」

 

 ぽかん、と開いた口が塞がらない。

 何度も何度も瞬きを繰り返し、その場に立ち尽くす少女の後ろから、リクが歩み寄る。

 

 その肩を叩き、彼女が振り向いたところへ、ニッと笑みを返す。

 彼らの足元では、事の次第を見守っていたニャースも同様に、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「おめっとさん。初めての野生ゲットだな」

「おめでとうございニャス、ひいさま。これは紛う事なく、ひいさまが成せた事でありニャスよ」

 

 

 かけられる称賛の言葉に、ようやく現実が追いついてくる。

 パクパクと口を開いて閉じてを繰り返し、目には涙が溢れ出す。

 

 震える体が徐々に縮み、力を貯めて。

 そうして限界まで縮み切ったその瞬間、ソラの体は爆発するように跳ね飛んだ。

 

 

 

「いぃっ──やったぁぁぁぁぁあ!!!」

「びびーっ!」

 

 

 

 1人の少女と1匹のポケモンの雄叫びが、広々とした平原に木霊する。

 

 たかがポケモン1匹を捕まえただけで。そう笑う者もいるだろう。

 低レベルなバトルに勝って何が嬉しいのか。そう呆れる者もいるだろう。

 

 こんな辺境の田舎で、弱い野生ポケモンとのバトルで、苦戦の果てに捕獲に成功したとして。

 それよりも遥かに凄いバトルをするトレーナーは、今しがた捕獲したポケモンよりも強いポケモンは、この“マハルの地”にはいくらでもいる。

 

 それでも、ソラは嬉しかった。

 初めて、野生のポケモンを捕まえる事ができた。自分と、相棒ポケモンだけの力で!

 

 それは間違いなく、彼女にとって大きな経験であり──大きな前進であるのだから。

 

 

「やった! やったよ、びぃタロ! わたしたち、勝った上にゲットまでできたんだ!」

「びびっ! びーっ! しびっ、びびー!!」

「うん、うんっ! 間違いなくびぃタロのおかげだよ! あなたのおかげ! ありがとう!」

 

 

 キャイキャイと、童女のようにはしゃぎ回るソラ。

 長年お付きをしてきたニャースの知る限り、こんなに喜びはしゃぐ彼女の姿は、1度たりとて見た事が無かった。

 

 それを抜きにしても、バトル中にあれほど声を荒げたり、テンションの上がった彼女の姿を見るのは、いずれも初めての事だった。

 それが、彼女にとって善い変化であり、善い成長である事など、最早語るまでも無いだろう。

 

 

(ひいさまが楽しそうにしておられるだけでも、ニャーにとっては望外の喜びでニャス)

 

 

 そんな胸中はそっと秘めて、今はただ、花が綻ぶように笑う主を見守るのみ。

 視線の先では、拾い上げられたモンスターボールが、さながら優勝トロフィーのように、高く掲げられていた。

 

 

 

「まずは1匹──ハルドリ、ゲットよ!」

 

 

 




《オトーのみ》
ぶんるい:きのみ
 ポケモンに もたせると のうりょくが がくっと さがったとき じぶんの のうりょく へんかを もとに もどす。
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