ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.21「船出の町 カロンタウン」

【カロンタウン】

~旅立ちの 川岸 引き留め 無用~

 

 

 ……あれから、野生ポケモンとの戦闘や捕獲、休憩などを繰り返し。

 そうして1番エリアを進むにつれて、幾条ものか細い川と川とが交わり、徐々に大きな川へと変化していくのが見えた。

 

 その流れを追い、川がより大きくなるのを見守りながらに進んだ先にあった町、それこそが──

 

 

「よっし、とうちゃーく! この町に来るのも久々だなー」

「にゃおにー!」

 

 

 一番エリアより繋がる唯一にして巨大な川が中心を分かつ、水の市街。

 ソラが本やネットで知った知識に照らし合わせるならば、ガラル地方のターフタウンが最も近いだろうか?

 

 風に乗って香る豊かな匂いは、目の前に広がる田園風景に由来するもの。

 豊富な水資源を存分に利用した、農業の盛んな町である事は、この風景を見れば一目瞭然というものだ。

 

 時刻が夕方、空を浮かぶソルロックとルナトーンが入れ替わる、丁度狭間の時間である事も相まって、町はオレンジ色に染まっている。

 陽光と夜光、2種のポケモンたちの放つ入り交じった光が水面に映り、なんとも幻想的だ。

 

 

「土のいい匂い……。ここでは何が作られてるの?」

「色々! きのみは当然として、野菜も穀物も、農家によって色んなものを植えて育ててんだ。ウツシタウンにも、採れた作物を売りに来る人とか結構いるんだぜ」

「にー! にー!」

「そういやニャースは、ここの川で泳ぐのが好きだったな。行っていいぜ、いつもの場所で集合な」

「にゃおんぬ!」

 

 

 リクの許可をもらうや否や、一目散に川の中へ飛び込み、文字通り「水を得た魚」のように“すいすい”と泳ぎ出すマハルニャース。

 先に川にいた水棲ポケモンたちと喧嘩する事なく、ぱしゃぱしゃと水上を跳ねながらはしゃぎ回っている。

 

 

「こうして見ると、やっぱりリージョンフォームって感じがするわね。マハルのニャースは、水中での生活に適合した種なんだ」

「おいらは、そのリージョンってのはよく知らないけどよ、ソラのじいさん……地上のニャースは、水ん中を泳がないのか?」

「いやぁ……必要となれば泳げない事もありニャせんが、基本的には陸棲のポケモンでニャスね。ニャーは特に老骨です故、泳ぐのはからきしですニャ」

 

 

 そう話し合いながら橋を渡り、町を歩く。

 橋の下に流れる川では、マハルニャースが楽しそうに跳ね回っていた。

 

「そうだ、びぃタロも川で遊ぶ?」

「びー……びっ、びび」

ひゃっ!? ……そっか、騒がしいのは苦手だもんね」

「び……」

 

 同じ水棲ポケモンであるならばと、びぃタロをボールから出してはみたが、すぐにソラの着ているパーカーのフード部分へ潜り込み、丸まってしまう。

 

 “ものおとにびんかん”である故に、見知らぬポケモンや人の喧騒がお気に召さないのだろう。

 とはいえ、ボールに戻らず、ヒバニーパーカーへ潜り込んで周囲を伺う辺り、やはり水の気配は嫌いではないようだ。

 

 

「ウツシタウンの時からそうだったけど……本当に、ここが遥か地底奥深くの世界なんて嘘みたい」

「おいらはむしろ、ここが地面の下の世界だって事の方が驚きだったけどな。物心ついてからずーっと、頭の上に“獣の大地(ローランド)”が広がってるのが当たり前だったからさ」

 

 

 歩けば歩くほど、運河と田園風景の入り交じる奇妙な町並み。

 不思議と、そこに違和感を覚える事はなく、むしろ水のせせらぎと作物の揺れる音がマッチして、どこか爽やかな雰囲気を醸し出していた。

 

 ポケモンたちの姿も、町の風景の中に見て取れる。

 と言っても、川を泳ぐ水棲ポケモンや、人に連れ添ったポケモンである事がほとんどで、ウツシタウンのように野生のポケモンがそこら中にいるという訳でも無い様子。

 

 

「そういえば……さっき、リクのニャースに『いつもの場所で集合』って言ってたよね。プルガーシティへの中間地点として立ち寄ったはいいけど……今はこれ、どこに向かってるの?」

「そりゃ当然、一泊明かす為の宿だぜ。アネキの『おつかい』でよく行く先だから、亭主さんたちとも顔見知りだしな。それに、巡礼の旅をするにあたって、宿屋として以上に利用する事になるかもだからな。覚えておいて損は無い」

「宿屋として以上に……?」

 

 

 その言葉の不可思議さに、指を頬に当てて考える。

 

 マハルを一周する旅である以上、このカロンタウンにいつまでも留まり続ける訳が無い。

 であれば、どの街のどんな宿にも存在する機能、或いはサービスと解釈するべきだろうか。

 

 そしてリクの言う、「旅をするにあたって利用する」という言葉。

 ここまで考える事ができれば、地上出身のソラには思い当たる答えがあった。

 

 

(そっか、ポケモンセンター! 傷ついたポケモンの回復をしてくれる人がいるのか、もしくはそういう設備が置いてあるのね)

 

 

 ポケモンセンター。

 地上のどんな街にも存在し、時として秘境の中にも設置されている事がある、すべてのトレーナー御用達の公的施設。

 

 無料でポケモンの治療をしてくれる、というその唯一にして最強の利点において、旅に無くてはならない施設である。

 

 その設備は地方によって様々で、内部にフレンドリィショップを格納していたり、喫茶店があったり、或いは屋外スタンド式だったりする事も。

 一部の先進校では、生徒たちによるセルフサービス式の回復設備を用意している事もあるらしく、一口に回復施設と言っても、地域や時代によってその在り方は移ろっている。

 

 

(確かに、旅をする以上は必須不可欠の要素だけど……それはそうと、地上と同じ形式であるとは限らないわよね。父さんがその手の知識を広めていたとしても、既に似たような文化があるのかもしれないし)

 

 

 ともあれ、1人で推測ばかりを深めていても、答えが得られる筈も無し。

 まずは聞いてみない事には始まらないと結論付けて、前を歩くリクに言葉を投げかけた。

 

「それって、ポケモンの治療をしてくれる人か施設なの?」

「おっ、よく分かったな。やっぱあんた、ポケモン博士なだけあって物知りなんだな」

「わたしなんて、聞き齧り受け売りの知識がほとんどよ。……って、それはともかく。当たってたって事は、巡礼をサポートしてくれる存在って事よね」

「そうだけど、巡礼の旅に限らず、普段からポケモンの面倒を見てくれるぜ」

 

 成る程、地上のポケモンセンターとそう変わらないらしい。

 納得とともに、そう頷こうとしたソラは──

 

 

 

「──魔女のおばちゃんは」

「そうよね、やっぱり魔女の人が……えっ、魔女?

 

 

 

 すっげぇ予想外のワードに、思わずリクの背中を2度見した。

 

 

 

 

 

 

「まぁじょぉだぁよぉ~~~~~!!」

「ピィッ!?!?」

 

 

 宿に入った瞬間、顔面どアップで迫ってきた老婆のあまりのインパクトに、本来出るべき悲鳴すら引っ込んだ。

 

 何がなんだか分からず怯えたソラは、“こうそくいどう”もかくやという速度でリクの背後に回り込み、彼を盾代わりに震え出す。

 彼女のヒバニー風フードの中では、同じくびぃタロもガタガタと震えていた。

 

「ひぇっひぇっひぇ。お嬢ちゃんにはちょっと刺激が強すぎたかねぇ」

「おばちゃん……初見の客を“おどろかす”遊び、いい加減やめようぜ?」

「おやおや、挨拶も抜きに何を言うかと思えば。老い先短いババアの楽しみを奪おうってのかい、この小僧っ子は」

 

 開口一番の名乗り文句に、リクと親しい様子から、どうやら今のが件の「魔女」であるらしい。

 恐る恐る、彼の背中越しに様子を伺ってみれば、そこにいたのはシミだらけのエプロンを身に着け、とんがり帽子を被った老婆だった。

 

 

「あ、あの……」

「ああ、すまないねぇ、知り合いばかり盛り上がってしまって。そこのリクから話は聞いているだろうけど、あたしがこの町の魔女だよぉ。よろしくね、“星見人”のお嬢ちゃん」

「……!? な、なんでその事を……」

「ルスティカちゃんから連絡が来てねぇ。“星見人”の女の子が“リンネの儀”に挑むから、色々と便宜を図ってほしいって言われたんだ。その時、特徴も色々と教えてもらったのさ」

 

 

 そう言って老婆が指し示すのは、宿屋のカウンター。

 亭主らしき男性がにこやかに手を振っているその隣、1台のパソコンが併設されている事に気付く。

 

 遠目ではあるものの、地上出身のソラにとっては、よく見慣れたポケモンセンターのボックスパソコンと、ほぼ遜色ない見た目をしている。

 どうやら、クレオメ博士の知識を元に、様々な発明を再現した“稀代の天才”というのは、相当な傑物であるらしい。

 

 とはいえ、だ。

 

 

「……パソコン、使えるんですか?」

「ババアを舐めてもらっちゃ困るね。魔女たる者、自分の宿屋に設置された設備の事には、誰よりも精通していなくちゃならないのさ」

「すげーな、おばちゃん。確かあのパソコンっていうの、前までは神殿(ジム)くらいにしか置いてなかったんじゃないのか? それが最近になってようやく、各地の宿に設置されるようになったってアネキから聞いたけど……」

「新しい道具の使い方をマスターするくらい、ババアなら当然のスキルさ。メンテナンスに修理もできるし、ソースコードだって打てるよ」

 

 

 ババアは凄い。改めてそう思った。

 

 

「それで、魔女っていうのは……?」

「魔女ってぇのは職業の事でね。治療に調薬、栄養学にポケモン育成、とにかくポケモンの体の事なら何でもござれの医者業なのさ。どの町にも必ず1人はいるから、親しみを込めて『魔女さん』と呼ぶといいよぉ」

「おばちゃん、すげぇんだぜ。どんなにボロボロのポケモンでも、あっという間に治しちまうんだ」

「ひぇっひぇっひぇ。あたしゃ、それでご飯食べてるからねぇ」

 

 

 朗らか(と言っていいかは微妙だが)に笑う魔女は、最初の印象とは異なり、随分と親しみやすい人物である様子。

 

 話しながらに2人を、1階に併設された食堂の奥へと招き、薬の匂いが染み付いたテーブルに腰を下ろす。

 そうして老眼鏡を装着すると、少年少女に向けて手を差し出した。

 

 

「それじゃ、ポケモンを出しな。なに、お金は別でもらってるから、お代はいらないよぉ」

「遠慮しなくていいぞ、ソラ。何匹回復してもらっても、本当にタダだからさ」

「う、うん。それじゃあ、お言葉に甘えまして……」

 

 

 手慣れた様子で、マハルニャースとウェボムをボールから出すリクの言葉に従い、自分も捕獲したポケモンを全員ボールから出してやる。

 ティータイムの後も、何度かバトルと捕獲を繰り返した為、現在の所持ポケモンは、公式戦における6匹を幾分か超過していた。

 

 ……なお、先にも語った通り、上限6匹というのはあくまで公式戦でのルールであり、ルール無用の野良バトルではその限りではない。

 しかし、7匹以上のポケモンを同等程度に育成し、彼らの能力を理解し、指示に従う程度に絆を深め、あまつさえ膨大な手持ちの中から、その状況状況で適切なポケモンを選び続けるというのは、やはり現実的に考えて厳しいものがある。

 

 そういった面からも、バトルで運用できる手持ちの数は最大6匹が丁度いいとされている。

 単なる公平性だけの話ではなく、トレーナーの為の制度でもあるのだ。

 

 

「おやぁ、おや。随分と捕まえたものだねぇ。こりゃあ、ババアも治療のし甲斐があるってものさ」

「あの、大変でしたら何匹かに分けて、時間を置いたりしても……」

「ひぇっひぇ。娘っ子が遠慮してるんじゃないよ。それに、傷つき疲れたポケモンたちをほったらかしにするのは、魔女の沽券に関わるからねぇ。ま、そこに座って待ってな」

 

 

 そう言って魔女が、ソラたちの側にある椅子を指差す。

 それに頷いたリクは、当然の権利のようにのっしりと座り、もう1つの椅子をポンポンと叩いた。

 

「ま、ゆっくり待ってよーぜ。どの道、今日はもう外に出ないんだからさ」

「……そう、ね。うん。じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「任せな。完璧な仕事を約束しようじゃないか。なんたってババアだからね」

 

 それが理由になるのかはともあれ、任せてもよさそうだと判断し、ソラも椅子に腰掛ける。

 似たような人たちには、これからの旅で何度もお世話になるのだ。どういう事をするのか、しっかり見届けなければならない。

 

 

 

「それでは、2名の宿泊をお願いしたいのでニャスが……」

「ええ、ではお部屋は──ぽっ、ポケモンが喋ってるっ!?

 

 

 

 ……カウンターの方から聞こえてくる亭主の叫び声には、そっと聞こえないフリをして。




この後【18:00】より2回目の追加投稿を行います。
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