ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.22「魔女はかく語りき」

「ところで、こんなにたくさん捕まえたようだけど……この子たちは、全員持ち歩くのかい?」

「いえ。何匹かは手持ちとして継続して持ち歩きますけど、その他の子たちはパソコンの“あずかりシステム”を使って、ルスティカ博士のところに転送するつもりです」

「へぇ、そりゃいい事だ。あの子の始めた研究は、まだまだ理解者も少ないからねぇ。手伝ってくれる(ポケモン)が増えて、研究が更に進めば、後に続く人も現れるだろうさ。……ほら、まずはあんたの番だよ」

「にゃおに」

 

 会話もそこそこに、魔女は棚から道具や薬品の一式を取り出した後、マハルニャースを両手で抱え上げた。

 それから机の上に乗せてやり、老眼鏡で体の様子を確かめている内、唸るように「ふむぅ」と声を漏らす。

 

 

「だぁいぶ泥んこ、そして傷だらけだねぇ。この子がこんなになってるのを見たのは初めてだよ。相当バトルしてきたみたいだね?」

「そりゃ、おいらは巡礼者じゃないけど、巡礼に挑むソラをサポートするって決めたからな。おいらの手持ちだって、バッチリ鍛えなきゃ嘘だろ」

「ひぇっひぇ! 鼻垂れ坊主が介添人とは、偉くなったもんだね。しかし、ポケモンみぃんながこの調子だと考えると、ちと“てだすけ”がいるね。……メザマメちゃぁん! 来ておくれ~!」

「まみ~?」

 

 

 宿の奥に向かって声を上げると、数秒して、ふわふわと“ふゆう”するポケモンが現れた。

 どうやら魔女のポケモンであるらしいが、やはりソラの見た事の無い、マハル固有の種であるようだ。

 

 その外見を一口で説明するならば、()()に入ったマメ、と言うべきか。

 緑色のさやの下部分から、ぴょっこりと露出した黒色のマメが、本体であるらしい。目と口を持つそれは、文字通りさやの隙間から顔を出して、こちらを伺っている。

 

 

「くろろ?」

「えっと、この子は……?」

「この子は『メザマメ』ちゃん。この子が出すミツは美味しくて栄養になるから、薬にも重宝するのさ」

「ついでにおばちゃんが、ソラが宿に入ってくる前から待ち構えてたのも、こいつの能力のおかげだぜ。メザマメのサイコパワーで、おいらたちの事を透視してたんだ」

「おやおや、ネタバレとは感心しないねぇ。ババアはミステリアスでなきゃいけないっていうのに。ほぉら、メザマメちゃん。ポケモンたちの手当てをするから手伝っとくれ」

「まみくろ~」

 

 

 指示を受けたメザマメが、“ねんりき”で以てミツを絞り出し、皿の中に落とす。

 それを魔女が、不可思議な手法で以て加工し、マハルニャースに対して塗布していく。

 

 その治療の様子は、素人が傍目から見ても、非常に洗練されていると理解できるほどのもので、あっという間に1匹ぶんの手当てを終えてしまう。

 魔女が「次はあんただよ」と言ってウェボムを机の上まで招くと、治療の終わったマハルニャースは机から飛び降り、リクの傍に戻った。

 

 

「凄い、こんなあっという間に……。あの、本当にお代は要らないんですか?」

「さっきも言ったけどね、別にロハって訳じゃあないよ。魔女はね、大神殿(リーグ)から補助金をもらっているのさ。だから、あんたらからもらう必要が無いってだけさね」

大神殿(リーグ)……?」

「おや、まだ聞いてなかったのかい。その名の通り、各地の神殿(ジム)を纏め上げる総本山だよ。お嬢ちゃんが挑む“リンネの儀”や、それに関連する決闘(バトル)の公式ルールも、大神殿(リーグ)が制定・管理してるのさ」

 

 そう言いながらに治療の手を止めると、人差し指を上に向け、自身も気持ち上を向く。

 それが何を意味するのかは、問わなくても理解できる。宿の天井ではなく、遥か上空に根ざす“獣の大地(ローランド)”を指しているのだ。

 

 

「“リンネの儀”に挑むなら、終着点が“縫いの霊峰”だって事も知ってるだろう? その麓、エンピレオシティってところに大神殿(リーグ)があるのさ。“リュウジンさま”の熱心な信奉者たちが集まって、修行に明け暮れている聖地だって話だよぉ」

「……凄いところなんですね」

「そりゃあね。なんせ、大神殿(リーグ)を統括なされている“四天王”さま方は、この“マハルの地”でも有数のポケモントレーナーだからねぇ」

「あ、その話ならおいらも知ってるぜ。“リュウジンさま”に仕える神官とは別に、“リュウジンさま”に選ばれた4人のトレーナーだろ?」

 

 

 椅子に座り、手当てを待つポケモンたちの相手をしながら、リクがそう補足する。

 ソラも彼らの話を聞きつつ手伝おうとしたが、慣れない旅で疲れただろうからと制止され、大人しく座って待っている。

 

 ……一方、喋る事を盛大に驚かれていたニャースは、このやり取りの裏で、どうにか宿泊の手続きに成功していた。

 今は、2人分の荷物を部屋に運んでいるようだ。

 

 

「“リンネの儀”を完遂したり、それか目覚ましい功績を上げたトレーナーを“リュウジンさま”が選んで、当代の四天王に指名するんだ。神殿(ジム)の視察とか、暴れるポケモンを鎮めたり、有事の時に活躍するのが仕事なんだってよ」

「となると……地上の四天王と違って、巡礼者と戦う役目って訳じゃないのね。じゃあ、“チャンピオン”はいるの?」

「チャンピオン……? どうだっけ、おばちゃん」

「そりゃあ、大司教さまの事だねぇ。“リュウジンさま”の意志を代弁する、大神殿(リーグ)の一番強くて偉い人さ。でも、前の大司教さま(チャンピオン)が老衰でお隠れになった後、次に誰が就任したのかはとんと聞かないねぇ」

 

 

 聞けば聞くほど、名前こそ類似すれど、地上におけるポケモンリーグとは、大きく異なる形式のようである。

 チャンピオンは宗教的なトップ、四天王は大神殿(リーグ)の運営陣を指し、その実力こそトップクラスだが、巡礼の旅には直接的に関わってこないらしい。

 

「ま、お嬢ちゃんがしっかり巡礼を進めて、霊峰に挑戦するって段階になったら、いずれ会う事もあろうさ。なんたって、この“マハルの地”をお創りになられた神様に謁見する訳だからねぇ。その段取りも、彼らが管理しているのさ」

「……」

 

 その語りを聞いて思い返すのは、やはりティータイム時のやり取りだ。

 ルスティカ博士の言う通り、本当にクレオメ博士が“リンネの儀”に挑み、“縫いの霊峰”へ立ち入る段階まで到達していたのなら。

 

 

(……やっぱり、リクの言う通り。ジムリーダーや四天王、それに大司教(チャンピオン)の人たちなら……父さんの事を知っているのかもしれない)

 

 

 話を聞けば聞くほどに、考えれば考えるほどに、この果てしない巡礼の旅に挑む意義と意欲が生まれてくる。

 この旅は、なんとしてでも成功させなければならない。その為にも……

 

 

「ふふ、何か焦っているね? 若い証拠だ。でもやめときな。休める時に休むのが、いい結果を残すコツだよ」

「……っ。でも、わたしにはこの旅で知らなきゃならない事が……」

「何を抱えているのかは知らないけどね、使命があるのなら尚更休みな。休まずハイペースで強行する旅と、しっかり休んでゆっくり進む旅は、実のところゴールまでの時間にそう変わりは無いもんだよ。ババアが言うんだから間違いない。ババアは全知全能なんだ」

「すげぇなおばちゃん……」

 

 

 リクの感嘆を笑って流し、治療の合間に、指を振って指示を出す。

 その指示をしっかり汲み取ったメザマメは、“ねんりき”で以てキッチンのコップをこちらへ引き寄せ、中にミツを注ぎ込んだ。

 

 そのまま、ミツで満たしたコップを、サイコパワーによってソラの手元へ。

 ミツという割にさらりとした黒色の液体は、鼻を近付けるだけでも芳しい匂いを纏っていた。

 

「ま、それでも飲んで落ち着きな。メザマメちゃんのミツは滋養強壮によく効くんだ」

「後でおいらにもおくれ。ミルクを入れてあっためてから飲むのが美味いんだよな、それ」

「あたしゃ、氷だけ入れて無糖(ブラック)でキメるのが好みだけどね。……さ、遠慮しなさんな。そりゃサービスだから、お代は取んないよ」

「あ、はい……。いただきます」

 

 コップに口をつけ、ズ……と小さく啜る。

 甘さの中に、ほんのりとほろ苦さを隠した滋味が、じんわり舌の上に染み込んでいく。

 

 

「は、ふぅ……」

 

 

 ミツを飲み込み、コップから口を離せば、自然と脱力の息が漏れる。

 ただそれだけの事でも、自分がどれほど体に力を入れたまま、ここまで来たのかがよく分かった。

 

 道中、ニャースの用立てたお茶とお菓子で休憩こそしていたが、しかしそれも旅の途中の事。

 やはり、ちゃんとした場所で落ち着いて休む、というのは旅において重要な事なのだ。

 

 

「……ありがとうございます。やっぱり、まだちょっと肩肘を張っていたのかもしれません」

「ま、無理も無いな。ソラは旅、これが初めてなんだろ? その上、1番エリアでもバトルしまくりで、疲れない方がおかしいからな」

「ひぇっひぇっひぇ。何事も始めたては楽しいけどね、加減も分からないものさ。自分に合ったペースを探すんだよぉ。あとは、そのペースを維持し続ければ上等さ。……ほい、っと」

 

 ぽん、と治療の終わったポケモンの背中を叩き、老眼鏡を外す。

 2人と話している間にもサクサクと手当てを進めていた魔女は、とうとう最後の1匹の治療を済ませ、道具を片付け始めていた。

 

 

「はい、これでおしまい。そっちの鼻垂れ坊主と違って、あんたはポケモンの扱いが丁寧だね。手当ても最小限で済んだよ」

「そんな……。加減を覚えるのも大変で、おっきいダメージを負わせちゃった事も何度かありましたし。手当てだって、リクやじいちゃんに教わってその場その場で……」

「最初はそんなもんさ。ポケモンたちに怪我を負わせたのを申し訳無いと思うなら、次は怪我をさせないようにすりゃあいい。ポケモントレーナーなんだろ? なら、何事も勉強と練習だよ」

 

 

 なんでもないようにけらけら笑い、一通りを片付け終えて立ち上がる。

 魔女に促されて、ソラたちもポケモンたちをボールに戻し出した頃、カウンターの方からニャースがやってくる。

 

「ひいさま、リクさま。荷物はお部屋に移し終えニャした。巡礼の参加者であれば、お代は結構との事でニャス」

「おやぁ、おや。喋るニャースとは珍しいねぇ。ババアも生きてきて長いけど、人の言葉を話すポケモンは滅多に見た事が無いよ。暫く滞在するんだろう? ちょいと調べさせてくれないかい?」

「申し訳ありニャせん、マダム。ひいさまのお傍付きとして、長く拘束される訳にはいきニャせんので」

 

 紳士めいた所作で丁寧に断るニャースを、魔女は「そりゃ悪かったねぇ」と軽く流す。

 本気の言葉では無かったらしい。

 

 ……と、そこで。

 ソラは、彼女の言葉に引っかかるものを覚えた。

 

 

「暫く滞在……? いえ、1泊したら出発して、プルガーシティに向かう予定ですけど……」

「おやぁ? ルスティカちゃんから何も聞いてないのかい。いや、あの子はああいうのに参加するタチじゃなかったから、すっかり忘れていたんだねぇ。ほら、あれ」

 

 

 そう言って指差したのは、壁に貼られたポスター。

 一体何が書いてあるのかと目を凝らせば、そこには3日後の日付と……

 

 

「ふ、『船出仕合(ふなでじあい)』……?」

「この辺の風習さ。年に1度のお祭りなんだけどね、祭りの目玉のポケモン勝負に、“リンネの儀”に挑む子が参加すると、いいゲン担ぎになるんだよ。勝負に勝てば、これから挑む巡礼の旅も、きっといい結果に終わりますよ……ってね」

「それは……でも、負けたらどうなるんですか?」

「そりゃああんた、その弱さを鍛え直すいい切っ掛けになりましたね、だよ。むしろ、旅の中で致命的な傷を負わないよう、ここで厄落としができたってもんさ」

 

 

 要は旅の前哨戦代わりに、祭りで腕試しをしていけ、という事らしい。

 そこで勝てば旅は順風満帆、負ければ旅立ち前の厄落としと、どちらにしても旅にいい影響をもたらしますよ、という縁起担ぎ目的で参加すればいい訳である。

 

「最近は“リンネの儀”に挑む子もすっかりいなくてねぇ。祭りの勝負も、単に“リュウジンさま”へ捧げる為だけのものになってたんだよ。勿論、それも悪い事じゃないんだけどねぇ。よければ、参加してってくれると嬉しいねぇ」

「だってよ。どうする? ソラ」

「……決まってる」

 

 グッ、とモンスターボールを握る。

 ボール越しに、中のびぃタロもまた、こちらへ闘志を返しているような、そんな気がした。

 

 

「ゲン担ぎもそうだし、ジムリーダーとの勝負に向けて、対人戦の経験を積むのも悪くないわ。数日泊まって、手持ちを鍛えてから参加しましょ」

「おっ、いいね。その意気だぜ! なら、おいらも特訓に付き合うとすっか!」

「ひぇっひぇ! これは面白くなってきたねぇ。ババアはね、船出仕合を見ながら、メザマメちゃんのミツを氷入り(アイス)でキメるのが好きなのさ」

「くろめ~」

 

 

 魔女に(マメ)を撫でられ、メザマメが機嫌よく体を揺らす。

 

 新しく宿に来たお客の少女に、前からここに通っている少年。それと、彼女たちが連れている色んなポケモンたち。

 どんな想いを胸に秘めているのかは分からないが、彼らの悲喜交交によって、自らの主が楽しそうにしているのならば、それが一番だと感じていた。

 

 

「く~……くろ?」

 

 

 そんな少年少女たちの意気込みから、ふと意識を逸らし。

 お得意のサイコパワーで以て、ふと入り口方面──カウンターで亭主(実のところ、ここの魔女の息子だ)が、誰かと話をしているのを知覚した。

 

 見た事の無い人物であるからして、どうやらお初の客らしい。

 背丈は、今ここにいる少年と同じくらい。他に誰も連れておらず、1人でこの宿まで来たようだが……。

 

 

「はい。じゃあ、これが鍵ね。夕飯はこの後……」

「いい。こっちで済ませる」

 

 

 半ばひったくるように鍵を受け取り、淡々と階段を登っていく()

 そのズボンに取り付けられた、チェーンのアクセサリーに──

 

「……船出仕合、か」

 

 

 

 “かすがいのはね”が、揺れていた。

 

 

 




マハル図鑑 No.077
【メザマメ】
ぶんるい:くろまめポケモン
 タイプ:エスパー
とくせい:スイートベール(かんろなミツ)
ビヨンド版
 その 体 からは 美味しい ミツを 出す 事が できる。ミツは 子供たちの オヤツだ。
ダイブ版
 メザマメの 出す ミツを あまり 飲み過ぎると 夜に 寝れなくなる 為 注意が 必要。



この後【21:00】より3回目の追加投稿を行います。
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