ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.26「相打つ叫声」

「……いけ、ガプリコ」

「行ってきて、はるりん!」

 

仕合開始の宣言と同時、ソラは普通のモンスターボールを、名無しの少年は木製のボールをコートに向かって投げ放つ。

 それらはほぼ同じタイミングでコートに着弾すると、中から先鋒のポケモンたちを勢いよく飛び出させた。

 

 

《ななしの しょうねんは ガプリコを くりだした!》

 

《ゆけっ! はるりん!》

 

 

「──るりっきょ!」

「かろりっこ!」

 

 コート中央、モンスターボール型のラインを挟み、はるりんの対面に現れたのは、四足歩行のポケモンだった。

 

 メェークルから植物の要素を抜いたような小さい体は、白と黒のコントラストに染まっており、頭部の角はバイウールー程度には太く大きい。

 少年から『ガプリコ』と呼ばれていたそのポケモンは、キリリと鋭くさせた眼差しで、はるりんを睨んでいた。

 

 

(メェークルにケンタロスをちょっと混ぜた感じ……多分、ノーマルタイプ? 戦ってみれば分かるかな)はるりん、イニシアチブを掴みましょ。まずは“でんこうせっか”!」

「はるりーっ!」

 

 

《はるりんの でんこうせっか!》

 

 

 翼を畳み、その勢いで飛翔したはるりんは、矢のように宙を駆ける。

 まさしく電光石火の速度ですっ飛んでいったとりポケモンは、己の小さなくちばしで以て相手を貫いた。

 

「かろーっ!?」

 

 くちばしを頭部に受け、後方に向かってひっくり返らんとするガプリコ。

 その頭上を、初撃を綺麗に決めたはるりんが飛んでいき──

 

 

「ガプリコ、“にどげり”」

 

 

 空中で体を捻り、浮きながらに態勢を整えたくろヤギポケモン。

 その後ろ脚が、今まさに飛び去ろうとしていた背中へと突き刺さる。

 

 

《あいての ガプリコの にどげり!》

 

 

「かろーり!」

「けりぃっ!?」

 

 まずは一撃、態勢を整えながらの回転に乗せて、左後ろ脚のつま先が背中を穿つ。

 そうしてはるりんが地面に叩き落されるよりも先に、右後ろ脚によるヤクザキックがクリーンヒットした。

 

 

《2かい あたった!》

 

 

「はるりん、大丈夫っ!?」

「けるっ……は、るりーっ!」

「……っ、よかった。反撃開始よ!」

 

 2撃の蹴りをまともに受け、吹っ飛ばされながらも、そこは流石はひこうタイプのとりポケモン。

 翼を広げ、くるりと1回転する事で、吹き飛ばされるスピードを殺し、上空へ舞い上がる。

 

 自らの主人に、息災である旨の声を返し、小さく息を吸い込んだ。

 

「“エコーボイス”っ!」

「ほ、けるぅ──ほっけーっきょっ!!

 

 

《はるりんの エコーボイス!》

 

 

 3日前、びぃタロを苦戦させた“なきごえ”と“ないしょばなし”、その元となる甲高い声量。

 野生ポケモンとの戦いで経験を積み、成長(レベルアップ)した事で、声で以て相手に直接ダメージを与えるまでに至ったのだ。

 

「か、ろ……っ!?」

「……凄まじい声量だ。連発されると危険だな」

 

 空気を裂くほどの声に耳を塞ぎ、少年が呟く。

 “エコーボイス”は、連続で繰り出すほどに威力の上がるわざ。潰すのであれば、初撃の内が望ましい。

 

 

「確か、ハルドリのとくせいは“マイペース”。……ガプリコ、()()をやれ」

「か、かろ……? ……りっこ!」

 

 

 はるりんの叫声に目眩を覚えていたガプリコだったが、主の命令で我に返り、蹄で地面を蹴って宙へ跳ねる。

 向かう先は、まさに“エコーボイス”を継続している相手ポケモン、その眼前。

 

「……っ、何をする気? でも構わない。はるりん、そのまま“エコーボイス”続行!」

 

 敵のわざの真っ只中に自分から飛び込むとは、一体どういう魂胆なのか。

 それを読みかねたソラだが、1度“エコーボイス”を成功させた以上、後はそれを連発するだけでいい。

 

 その旨の指示を出し、それに応えたはるりんもまた、更なる声を放つ為に息を吸い込み──

 

 

 

「かーろ♡」

「──り──!?」

 

 

 

 ガプリコのキラキラとした、それでいて悲哀に潤む目に、ほんの少しの哀れみと愛らしさを抱いてしまった。

 それこそが、相手の術中に嵌った証左とも知らず。

 

「“なかまづくり”だ。相手のとくせいを変えろ」

 

 

《あいての ガプリコの なかまづくり!》

 

《はるりんは にげあしに なった!》

 

 

「っ!? はるりんのとくせいを変えた……!?」

 

 

 ソラの視線の先、はるりんの動きが明らかに精細を欠いているのが分かった。

 

 “仲間”、或いは“同胞”と見做してしまったガプリコを攻撃する事を躊躇い、喉の震えが鈍くなっているのだ。

 微かに後ろへ退こうとしている動きは、押し付けられた“にげあし”というとくせい故のものか。

 

 だが、今最も重要なのは──今のはるりんから、普段の“マイペース”さが失われたという事。

 

 

「──! まさか!? はるりん、急いでその場から逃げ──」

「悪いが」

 

 

 少年の言葉に呼応して、くろヤギポケモンの口が開かれる。

 果たしてそれは、こちらが繰り出していたのと同じ──“声”による攻撃の兆し。

 

 

「このわざは、()()だ。──“ピヨピヨボイス”」

「がぁあ──ぷりっ、こぉーんっ!!」

 

 

《あいての ガプリコの ピヨピヨボイス!》

 

 

 キィーン!という激しい耳鳴りが、周囲の人々に顔を歪ませる。

 それはソラも例外ではなく、思わず耳を塞いでもなお、鼓膜にまで届く高周波が、彼女の頭をクラクラとさせた。

 

 

(見た事の無いわざ……でも、“()()()()ボイス”って事は……!?)

「け、けりぃ……ほっけるりー……」

 

 

 目はグルグルと渦を巻き、頭上にはデフォルメされたポッポ(イキリンコという説もある)が3匹、輪になって踊っている。

 誰がどう見ても、まともに飛んでいるとは思い難い、フラフラとした軌道で宙を舞うその姿は、まさしく“ちどりあし”。

 

 ガプリコの攻撃によって、はるりんの身に何が起きたのか。

 ポケモン勝負を知る者であれば、すぐに行き着くその答えは、つまり。

 

「相手を、“こんらん”状態にするわざ──!?」

 

 

《はるりんは こんらんした!》

 

 

 恐らく、わざ自体の威力は低いのだろう。

 “にどげり”と併せてもなお、受けたダメージは完全に倒れるほどではない。

 

 しかし、“こんらん”してしまっては話が変わってくる。

 何故ならば……

 

「まだよ、はるりん! 正気になって! ガプリコに、もう1度“エコーボイス”!」

「ほ、ほけるーり……」

 

 

《はるりんは こんらんしている!》

 

 

 ピヨピヨと音を立ててポッポ(イキリンコという説もある)が頭上を舞う中、トレーナーの叫びを受けて、はるりんは体に強く力を込めた。

 翼を大きく羽ばたかせ、相手を威圧せんと叫びを放つ。

 

 

「ほっ──け、きょーっ!?」

 

 

 ……叫びを放ちながら、思いっ切り地上に向かって急降下を仕掛け、そのまま地面にぶつかった。

 

 

 

《わけも わからず じぶんを こうげきした!》

 

 

 

 意識が“こんらん”して、今の状況を何も理解できないままの、自傷行為。

 策に()()()しまったが故のそれに、ギャラリーの中から「あぁ……」という声が聞こえてくる。

 

「──っ」

 

 気にしないようにしていた周囲の声が、再び耳に入る。

 相手の策にまんまとかかり、あまつさえこちらが更に不利なってしまった事で、無理くり意識の外に逸らしていたものが戻ってきたのだ。

 

 

「まずは、1匹目。ガプリコ、“にどげり”で確実にとどめを刺せ」

「かろーっ!」

 

 

 “こんらん”による自傷行為の最中で着地していたガプリコが、もう1度地面を蹴り飛ばす。

 一直線に向かうは、地に堕ちてなお、ピヨピヨと“こんらん”したままのはるりん。

 

「っ! はるりん!」

「ほーけーりー……」

 

 くらりくらりと揺らぐ意識は、呼びかけで以てもなお戻らない。

 そうしている内にも、相手の蹴撃が2発、最後の一撃と言わんばかりに打ち込まれる──

 

 

「──()()()!」

「ほ──」

 

 

《あいての ガプリコの にどげり!》

 

 

 その、刹那。

 

 

 

「ほっ──けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇきょっ!!」

 

 

 

《はるりんの エコーボイス!》

 

 

「か、ろぉ──っ!?!?」

 

 至近距離から放たれる、回避不可能の雄叫び声。

 先の“ピヨピヨボイス”以上の高周波が空気を震わせ、ソラたちの耳すら蹂躙する。

 

 (いわん)や、それを間近で耳にしてしまったガプリコはと言えば。

 

 

「か……ろ、りっ……こ」

 

 

 シェイクされた意識のまま、蹴撃の勢いを失い、ふらりと倒れ伏す。

 グルグル渦を巻く目は、“こんらん”の証ではなく──戦闘続行が不可能である事を表す、“ひんし”の目。

 

 

《きゅうしょに あたった!》

 

《あいての ガプリコは たおれた!》

 

 

「ガプリコ、戦闘不能!」

「! やった!」

 

 まさかの逆転劇に、周囲もワッと沸き立った。

 リクたちが「よっしゃ!」とガッツポーズしているのが視界の隅に見える中、ソラは自分の目論見が上手く行った事に、安堵の声を漏らす。

 

 

「……よくやった、戻れ」

 

 

 コートの反対側、名無しの少年は手元のモンスターボールを取り出し、ガプリコに向けてスイッチを押す。

 ボールに備わった回収機能が、ポケモン自身の防衛本能によって体の小さくなったガプリコを吸い込み、パチリと音を鳴らす。

 

 回収の終えたボールを腰のホルダーに戻して、少年はソラを見やる。

 策を覆された事への悔しさこそあれど、その目には敵意は映っていないように見えた。

 

 

「……意識が混濁している状況だからこそ、本能的な行動であれば突発的に出せると踏んだか」

「半ば賭けでしたけどね。“きゅうしょ”に当たらなければ、今頃どうなっていたか」

「よく言う。あれだけ至近距離から叫声をまともに浴びれば、耳そのものが急所(ウィークポイント)になる」

 

 

 決して運だけではない、相手の策を逆に利用し返しての一勝。

 その様を目の当たりにして、観戦していた人々から「いいぞ!」「今のはよかった!」という声が飛ばされる。

 

 

(……周りの状況に乱されないで。ちゃんと前を見て、指示を出す。リクやじいちゃんから教わった事)

 

 

 呼吸を数回繰り返し、熱くなった精神を冷ます。

 一時はギャラリーの残念がる言葉に心を掻き乱されかけたが、事前に仲間たちからエールをもらっていたおかげで、なんとか持ち堪える事ができた。

 

 これにて3対1。はるりんはボロボロだが、それでも、こちらには後2匹残っている。

 しかし、それでも少年の顔色は変わらない。口元は結ばれたまま、目も、血を思わせる真っ赤な色を保っていた。

 

 その手には、やはり新たなボールが握られていて。

 

 

 

「だが、おれは()()()()()()()()()。──行け」

 

 

 

 大胆な宣言とともに、投げ放たれた2つ目の旧式ボール。

 空中で開口し、中から飛び出してきたポケモンは、果たして──




マハル図鑑 No.024
【ガプリコ】
ぶんるい:くろヤギポケモン
 タイプ:ノーマル
とくせい:にげあし
ビヨンド版
 野菜が 大好物。人間の 畑に 現れては 育てられている 野菜を 盗んで 食べるのだ。
ダイブ版
 昔 ガプリコを 飼おうと 試した 農家も いたが すぐに 食料を 盗まれて しまった。



《ピヨピヨボイス》
 ぶんるい:とくしゅ
  タイプ:ノーマル
 いりょく:20
めいちゅう:-
 ふしぎな こえで あいてを まどわせる。かならず めいちゅうして あいてを こんらんさせる。



この後【21:00】より3回目の追加投稿を行います。
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