ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.32「ギムレの洞穴(ほらあな)

【マハルの地 人の大地(ハイランド) ギムレの洞穴(ほらあな)

 

 

「……わ、本当に洞窟の中でも浮いてる……」

「外のやつほど大きくはないから、浮いてる高さもそれなりだけどな。……ほら、足元に気を付けな。転ぶぞ」

 

 

 ほぼ垂直と言っていいほどに切り立ち、険しい崖の麓。

 そこにぽっかりと空いた入り口から中に入ってみれば、それなりに広く、思っていたよりも通りやすそうな洞穴が続いていた。

 

 外でも見られたリバーテル結晶の塊が、そこら中にふわふわと浮いており、どこか非現実的な雰囲気を醸し出している。

 

 とはいえリクの言う通り、洞窟の外にあった、大人1人よりも遥かに大きな塊たちとは違い、大きさとしてはソラたちと似たりよったりのものが多い。

 だからこそ、それらが自立した壁のような役割を果たし、広さの割に歩きにくい環境を生み出しているのだが。

 

 

「“リンネの儀”に挑む巡礼者や、町から街へ移動する人たちとかが、長い時間をかけて掘ってった結果、こんくらいの広さになってるらしい。油断してると危ないのは当然だけど、それでも次の街へ向かう分には、難なく通り抜けできる筈だぜ」

「ふーん……ホウエンの“カナシダトンネル”みたいなものなのね。洞窟を掘る時に、野生のポケモンたちが怒ったりはしなかったのかしら」

「だから、掘ったのも“ちょっとずつ”だってさ。野生ポケモンたちの暮らしを脅かさないよう、彼らと相談しながら、少しずつ……っと。あそこ、見てみな」

 

 

 ふと立ち止まったリクが、壁のある方向を指差し、ソラたちもそれに倣う。

 彼らの足元では、びぃタロとウェボムもまた、興味深そうな目を向けている(彼らは、洞窟という閉所を探索するにあたり、先んじてボールから出されていた)

 

「あれは……苔が、光ってる?」

「ありゃ『コケムレ』ってポケモンだ。こういう洞窟に住んでるんだけど、あいつら自身が光って、中を明るくしてるんだ。ちょっと近付いてみようぜ」

 

 言われるがまま、壁に向かう一同。

 手持ちポケモンたちもそれぞれ跳躍し、びぃタロはソラの着るパーカーのフードに、ウェボムはリクの背中に張り付いた。

 

 

「じり……」

 

 

 辿り着いた先、壁に張り付いていたのは、体に苔を纏った不定形のポケモンだった。

 苔に覆われた、お団子めいた丸く小さなフォルムの個体が5~6体、半ば癒着した状態で寄り集まっている。タマタマやタイレーツのような、群体系のポケモンであるらしい。

 

 苔はそれそのものが光を放っているようで、ランプの光のように淡く優しい。

 知らない人間たちが近付いてきたにも拘らず、ぼんやりと壁にくっつき、どこか眠たそうに振る舞っている。

 

「この子がコケムレ……。このポケモンのおかげで、洞窟の中でも光源が要らないのね」

「おまけにのんびり屋だからな。よっぽどの事が無いと暴れないし、巡礼者の頼れる味方って話だ」

 

 そう言って壁から離れ、再び奥に向かって歩き出す。

 ソラだけは、壁のコケムレに手を振ってからその場を離れたが、当のコケムレは何のリアクションも返す事なく、のんびりとそこにい続けていた。

 

 奥に進むにつれて、入り口の周辺よりは道も細まり、狭まっていく。

 それに伴い、宙に浮くリバーテル結晶の数も減っていくが、その代わり、コケムレの淡い光がそこら中から見えるようになった。

 

 

「じ……」

「じり、り……」

 

 

 果たして、ソラたちの存在に気付いていないのか、それとも気付いた上で無関心なのか。

 光る苔を纏った彼らは、只々じっとそこにいて、洞窟の中を照らし続けていた。

 

「綺麗……これ全部、コケムレの光なのね」

「あいつら、さっきはのんびり屋って言ったけど、実は結構、繊細なとこもあってさ。一時期、無理な掘削で洞窟の中が掘り返されて、それで土や水が汚れた結果、コケムレの数が減った時もあったらしい」

「……それ、本当?」

「20年くらい前に、実際にあった話だってよ。まぁ全部、アネキから聞いたんだけど」

 

 なんだかんだ、姉であるルスティカ博士の言う事をちゃんと聞いて、覚えていたらしい。

 その時の事を思い出すように、リクは洞穴の中を先導しながら、姉の言葉を諳んじていく。

 

 

「アネキ、言ってた。この10年、アネキの師匠のおかげで色んな発明がされて、暮らしもどんどん便利になってった。でもそのせいで、一部の人たちが強引な発展を進めようとしてて、野生のポケモンたちにも迷惑が降り掛かってるって」

「……それは……」

 

 

 その言葉に、思い浮かぶもの。

 それは資料やニュース、SNSで見てきた、地上での様々な出来事だった。

 

 産業廃棄物をエサに育つベトベター、増やし過ぎて生態系を乱したラプラスなど、人間の発展がもたらしたポケモンへの影響は、数えればキリが無いほどに多い。

 自然豊かなアローラ地方でさえ、人間の持ち込んだ様々な事情によって、環境が徐々に変化しつつあると聞いている。

 

 それと同じ事がこの、未だ地上の誰も知らない“マハルの地”でも起きようとしている。

 それがルスティカ博士の師匠……この地でも「稀代の天才」と呼ばれる人物の発明によってもたらされたものであるならば、その源流は。

 

 

(“星見人”……わたしの父さんたちが持ち込んだ、現代の知識が元になっている。父さんたちの知識を元に生まれた発明が、この世界に影響を与えようとしている?)

 

 

 発展と破壊は紙一重。

 これまでバランスを保っていた人とポケモンの関係性が、徐々に乱れようとしているのだとしたら……。

 

 

(博士は、父さんを「名声ある人物」として語ってた。でも、本当にそれだけなのかな。もしかしたら、人によっては別の側面も──)

「ソラ、危ねぇ!」

 

 

 リクの呼びかけに我に返れば、今まさに、自らの爪先が石に蹴躓こうとしていた。

 慌ててバランスを取ろうとして、逆に力が入り、目の前の石を蹴っ飛ばしてしまう。

 

 その拍子に、背中からすっ転んでしまう寸前、どうにかリクが抱き留める事に成功する。

 かくん、と首が前後に振れて、どうにか転ばなくて済んだ事に息をつき、介助されながらに体勢を戻す。

 

「大丈夫でニャスか? ひいさま」

「ったく……だから気を付けろって言ったろ」

「ご、ごめん……。少し考え事、を……?」

 

 パチクリと瞬いた、視線の先。

 今しがた蹴飛ばしてしまったばかりの石ころが、標的へ着弾する、まさにその瞬間がそこにはあった。

 

 

 

「──ぴりっ!?」

 

 

 

 その見た目を簡潔に説明するならば、四足歩行のコロボーシ、とでも形容すべきだろうか。

 体は黄色を基調として、大きく薄い1対の羽根が、背中からリボンのように展開されている。

 

 そんなポケモンへと、今まさに、石ころが着弾した。してしまった。

 羽根はぷるぷると震え、見るからに気弱な顔は、今にも泣き出してしまいそう。

 

 

「あちゃ……野生のポケモンにぶつけちゃった。悪い事した……って、リク?」

「……ヤバい。逃げるぞ、ソラ」

「えっ? え、何? どうしたの? まさか……凶暴なポケモン?」

 

 

 訝しむ少女を他所に、そのポケモンは全身を震わせながら、羽根を大きく広げた。

 次の瞬間、広がった羽根が、目にも止まらぬ速さで振動し──

 

 

 

「──ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!」

 

 

 

 アラームにも似た音を、全身から発し始める。

 

「び、びびぃっ!?」

「むしゅ、きゅぅ……!?」

 

 野外であれば「うるさいなぁ」で済むそれも、洞窟という環境下では、反響に反響を繰り返し、とてつもない大音量へと変換される。

 思わず耳を塞ぐ一行だったが、それでもなお、けたたましい音が鼓膜へ届く。

 

 

「な、なに……!?」

「あいつは『ピリベル』! あいつ単体は弱いポケモンだけど、だからこそ身に危険が近付くと、大音量を発して警戒するんだ!」

「まさか、この音を聞いた他のポケモンがこっちに……!?」

「それもあるけど──見ろ!」

 

 

 彼の指し示す先を見た瞬間、ぶわりと大量の汗が吹き出した。

 そして、己の不注意がもたらした結果に、恐れと後悔を抱く。

 

 だって、そうだろう。

 

 

 

「ぴり?」「ぴ?」「ぴり!?」「ぴりり!?」「ぴり?」「ぴ!?」「ぴり……?」「ぴぴっ!?」「ぴーっ!?」「ぴ」「ぴぴぴ?」「ぴーりー……」「ぴりりっ!?」「ぴー!?」「ぴりっ……」「ぴり!?」「ぴー?」「ぴ」「ぴりりー!?」「ぴり?」「ぴ」「ぴ」「ぴ」「ぴ」「ぴり?」

 

 

 

 物陰から、岩陰から、壁に空いた小さな穴から、地面の陥没から、天井の隙間から。

 見える範囲の至るところから、大量のピリベルたちが顔を出し──最初の1匹が放ったアラームに、敏感に反応し始めていたのだから。

 

「……ピリベルは、複数で固まって行動する事が多いんだ。それこそ、1匹見たら50匹はいると思え、ってくらい」

「それって……まさか」

「ああ」

 

 彼らの予感と恐れは、5秒と待たず現実のものとなった。

 

 

 

「「「「「「「「「「──ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 ……後で知った事だが、巡礼者や駆け出しの子供がうっかりピリベルを驚かせてしまい、彼らの放つ大合唱の被害に合うのは、()()()()とでも呼ぶべき恒例行事らしい。

 だが、今のソラたちはそんな事を知る由も無い訳で。

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバい……っ! 逃げるぞ、ソラ!」

「な、なに言って……!? 何も、聞こえな──ひゃあっ!?」

 

 爆音を合唱しながらに蠢くピリベルたちの大行進。

 こちらへ向かってくる黄色の波濤を前に、少年少女たちは半ばパニックになりながら逃げ出した。

 

 

──()()()()に向かって。

 

 

「こっ、これ、どこに向かって……っ!?」

「分かんねぇっ! でも、あいつらは相手を見失えば落ち着くから、とにかく振り切らなきゃ──」

「……っ!? ひいさま、リクさま! 前方を!」

 

 ニャースが叫ぶ通りに前を見てみれば、視界が蠢く大量の藍に染まろうとしていた。

 

 洞窟。藍色の体。視界──人の頭と同程度を飛ぶモノ。

 そこまで材料が揃ってしまえば、その正体が何かは容易く分かる。

 

 

「「「ギャーッス!!」」」

「ズバット──!? しかも、あんなに!?」

「ピリベルでニャス! 彼らの鳴き声が、ズバットの群れを刺激したんで御座いニャス!」

 

 

 果たしてニャースの推測通り、突如として洞窟内に反響したむしポケモンの大合唱が、聴覚に優れるズバットたちをもパニックに陥れていた。

 バッサバッサと飛び狂うこうもりポケモンの群れが、ソラたちと正面衝突するまで、あと僅か。

 

 

「ひいさま! このままでは……!」

「……っ! わたしのせいでごめん──びぃタロ!」

 

 

 自らの不注意が招いた事を目の前のズバットたちに詫びつつ、フードの中の相棒に声をかける。

 “ものおとにびんかん”な為に縮こまっていたびぃタロは、未だ反響し続けるピリベルたちの鳴き声に顔を顰めながらも、呼びかけに応じて飛び出してくる。

 

「び……び、ぃいっ!」

「おいらたちも! 頼めるか、ウェボム!」

「むきゅっしゅ!」

 

 こちらもリクの声に応じて、背中に貼り付いていたウェボムが前方へ躍り出る。

 ともに博士からもらったポケモン同士、迫り来るズバットの群れに向けて、それぞれ水と炎を滾らせる。

 

 

「──“みずでっぽう”!」

「──“ひのこ”!」

 

 

《びぃタロの みずでっぽう!》

 

《ウェボムの ひのこ!》

 

 

「びぃあぁ──っ!!」

「むきゃあ──っ!!」

 

 激しい水流に、猛る火球。

 洞窟内の湿った空気を、それぞれ異なる意味で上書きする2つのわざが、蠢く藍色のカーテンへ突き刺さる。

 

 

「ギャァッ!?」

「ギャリラッ!?」

「っ、群れに穴が空いた! あそこを抜けるぞ!」

 

 

 水に押し流され、或いは炎に打ちのめされて怯んだズバットたちの隙間を、掻い潜るようにして突破を試みる。

 

 だが、攻撃を受けてよりパニックに陥った彼らの間を抜けるのは至難の業。

 幾多もの牙や翼が体を掠め、擦れ、ぶつかる時の衝撃で、真っ直ぐ走り抜ける事すら困難になる。

 

「痛っ……!? こ、れっ……どこまで走れば……っ!?」

「しっかり走れ! ピリベルたちが追ってくる──なぁあっ!?」

「っ!? リクさま!」

 

 ズバットの内の1匹が顔面に正面衝突をかまし、つんのめって後方に転げるリク。

 彼自身の声、そしてニャースの悲鳴に、一瞬早く群れの中から抜け出せていたソラが、思わず後ろを振り返り……。

 

 

 

「リ、ク──っ!?」

 

 

 

 ぐらり、と体が揺らぐ。

 

 それも当然の話だ。ここまで無茶苦茶に走り回り、その上こうもりポケモンの群れを無理やりに突っ切ってきたのだ。

 そこから抜け出せた時の勢いが、彼女の体をひっくり返そうとしていた。

 

 さながらカーブに失敗した時のバイクのように、ずるりと滑る足元。

 転げる視線が見たのは、直下に広がる陥没。洞窟が洞窟として成立するにあたって、自然にできた穴の中。

 

 

(あ、落ち──)

 

 

 ろくに受け身も取れない状態で、穴の中へ落っこちる。

 数秒と経たない内に襲い来るだろう衝撃と痛みに、さぁ、と顔を青褪めさせた。

 

 まさに、その直後の事である。

 

 

 

「ぇ」

 

 

 

 ()()()()()()()()

 

 穴に落っこちて、底の地面にぶつかる筈だった少女の体は、穴に落ちる寸前、不自然なくらいに静止する。

 まるで一時停止したかのような体勢になったのも一瞬の内。すぐさま、彼女の体は宙に浮き、天井部分にぽっかり空いた穴へと吸い込まれるように──否、違う。

 

 

(これ、なん──()()()()()……!?)

 

 

 空中で藻掻く事こそできるが、それ以上の事はできず、至るべき場所へ向かって体が勝手に引っ張られていく。

 それはまさしく、()()()()()()()()()()()かのようだった。

 

 

「びぃっ!?」

「ダメ、びぃタロ! 来ないでっ──きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 主人にして相棒の身に起きた異変に、彼女を助けようと跳躍してくるびぃタロ。

 しかし彼もまた、一定の位置と高さに達した時点で、体が勝手に浮き上がり、ソラと同じく上へ落ちるようにして、天井の穴へ吸い込まれてしまう。

 

 あっという間に遠のいていく地面。

 やがて、1人と1匹が消えた穴を隠すようにして、ズバットの群れがどこかへ飛んでいく様子が遠目に見える。

 

 ……そうして、後には静寂だけが残った。

 少女たちが()()にいたという痕跡を、ただのひとつも残さないまま。




マハル図鑑 No.063
【ズバット】
ぶんるい:こうもりポケモン
 タイプ:どく・ひこう
とくせい:せいしんりょく(すりぬけ)
ビヨンド版
 暗い 洞窟の 中で 群れを 作って 暮らす。目は 見えないが 超音波で 周囲を 探る。
ダイブ版
 1匹では 獲物の 血を 吸うのは 難しい 為 群れで むしポケモンを 狩って 食べる。


マハル図鑑 No.088
【ピリベル】
ぶんるい:すずむしポケモン
 タイプ:むし・でんき
とくせい:びびり(きんちょうかん)
ビヨンド版
 自分に 危険が 近付くと 大きな 音を 出す。この 音で 仲間に 危険を 知らせるぞ。
ダイブ版
 群れで 行動する 為 1匹が 大きな 音を 出すと 周りの 仲間も 一斉に 音を 出す。


マハル図鑑 No.090
【コケムレ】
ぶんるい:ヒカリゴケポケモン
 タイプ:くさ
とくせい:はっこう/しめりけ(グラスメイカー)
ビヨンド版
 ほんのり 光る 不思議な コケを 纏っている。暗くて ジメジメした ところが 好き。
ダイブ版
 コケムレたちの 暮らす 洞窟は いつも 明るく ライトなし でも 歩く 事が できる。



この後【18:00】より2回目の追加投稿を行います。
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