「まぁじょぉだぁよぉ~~~~~!!」
「ピィッ!?!?」
街の宿屋に入った瞬間、めっちゃ見覚えのある顔にどアップで迫られてビビり散らかした。
「ひぇっひぇっひぇ。イイ反応をするじゃあないか。この辺の奴はどいつもこいつも慣れちまったもんでね、そういう新鮮なリアクションは嬉しいものだよ」
「まっ、まま、魔女さんっ!? なんで、どうしてここに……!? カロンタウンにいる筈じゃ……」
疲労と眠気によって閉じかけていたソラの瞼と意識が、目の前の事実に対する衝撃で一気にかっ開く。
崖から落ちたところを、プルガージムのジムリーダー・シェラに助けてもらってから暫し経ち。
彼女に案内されてようやくプルガーシティへ辿り着いたソラたちは、兎にも角にも宿屋に泊まって休んでからシェラの話を聞こう……としてドアを開けた直後、見知った顔に出迎えられた。
「おやぁ、おや。その調子だとやっぱり、カロンのと知り合いみたいだねぇ。ま、あっちの方から巡礼を始めたんなら当然かね」
「らべんべ~」
古びたエプロンにとんがり帽子の老婆。
そこにいたのは間違いなく、カロンタウンの宿屋でお世話になった魔女と、ほとんど瓜二つの老婆だった。
強いて違いを挙げるとするならば、傍にいるのがメザマメではなく、黄色い花を抱き締めた小さなポケモン──フェアリータイプのフラベベであるという事くらいだろうか。
「カロンの……って事は、あの宿屋のおばちゃんとは別人なのか?」
「そりゃあ、そうさね。カロンタウンからここまで、直線距離で1日以上かかるんだよ? その上、間に洞窟だって挟まるっていうのに、それでどうやってあんたらを先回りしろってんだい」
「ここのお婆ちゃんは、シェラちゃんが赤ちゃんの時から魔女業やってるよ。シェラちゃんが知る限り、お婆ちゃんが他の街に移り住んだコトは1度も無いかな☆」
腕を組み、ウンウンと頷き補足するシェラ。
彼女がヨルノズクを先に街に向かわせ、ソラたちを招く旨の先触れを出してくれたおかげで、スムーズにチェックインが済んだ辺り、流石はジムリーダーと言うべきか。
一行の手持ちは魔女に預けられ、この後、フラベベの力も借りつつ治療が行われる事になっている。
なお、エスパータイプでないポケモンがパートナーであるにも拘らず、魔女がカロンタウン同様のドッキリを行えたのも、その先触れのせいだったりする。
「はええ……見た目までほとんどそっくりでビックリしちゃった。まるで地上の“
「ポケモンセンターの
こんなにそっくりな魔女の老婆が、よもやこれから向かう街々に1人1人存在するとでも言うのだろうか。
感嘆する主の隣で、疲労し切った頭でそんな事を考え、気疲れと少々の戦慄を覚えてしまうニャースであった。
「まぁまぁ、今はゆっくり休んで休んで☆ 歩きながら聞いた限り、丸1日すっごい冒険してきたんでしょ? じゃあまずは、その疲れをしっかり取るのが最初のジムテストです! シェラちゃんの試練はもう始まっているのだー♪」
「う……そっか、そうですよね。正直、もうほとんど頭も回ってなくて……外の景色とか、凄い筈なのになんも頭に入ってなかったんです」
「おいらも、正直限界……。魔女のおばちゃん、おいらたちのポケモンを頼むわ……」
「ひぇっひぇっひぇ。任せな、あんたらが起きてくるまでにはバッチリ終わらせてやるさ」
闊達に、綺麗な歯並びを見せて笑うその姿は、カロンタウンの魔女とそう変わらないものだった。
そんな彼女に頭を下げ、フラフラとした足取りで2階へ上がっていくソラたちを、シェラは手を振りつつ見送った。
そうして、階段の上から部屋の扉を開け、そして閉める音が微かに聞こえた後。
「……さって、と☆ お婆ちゃん、どう思う?」
「あのお嬢ちゃんたちが話していた事だろう? “ギムレの洞穴”で、テレネットの群れが暴れてたって話だね」
「そそ、それそれ☆ ソラちゃんたちが頑張ってどうにかしたって聞いたけどぉ……」
頬に人差し指を当てて、右上に目線をやる。
そういった所作・態度の1つ1つがどうにもあざとく、それでいてわざとらしさは感じられないのだから不思議なものだ。
「
「しかし、妙な話だねぇ。テレネットっていうのは本来、“おくびょう”で温厚なポケモンの筈だろう? それが他のポケモンのテリトリーを侵蝕し、浅層にまで出てくるくらい凶暴になっていたとはね」
「まぁ、詳しくはソラちゃんたちが起きてきてから聞くつもりではあるけどね~」
ぎ、と宿屋のカウンターに飛び乗り、腰掛ける。
うら若い少女のように見える体躯の割に、カウンターの上に載せられた臀部は、もっちりと太ましく見えた。
「……やっぱり
「ら~べ~?」
「何か知ってるのかい?」
「うーんにゃ、こっちの話~☆ シェラちゃんの方でバッチリ調べておくから、お婆ちゃんは気にしないでちょーだいっ♪」
誤魔化すようにウィンクをひとつ。
彼女の事は昔からよく知っているが、所作がいちいち絵に映えるような娘だと、魔女はそう思った。
「ま、面白そうな子たちなのは確かだからね~♪ その辺、ジムテストを通して詳しく見させてもらおっか☆ うーん、これは楽しみになってきたぞぉ~っ!」
結局、ソラが目を覚ましたのは、それから数時間後……16時ごろになってからの事だった。
微妙に気怠い頭を堪えてベッドから這い上がり、窓を開けると、さらさらと肌触りのよい、快適な風が部屋に飛び込んでくる。
「……やっぱり、寝ぼけての見間違いじゃなかった。風車があんなにもいっぱい建ってる……本当に風の街なのね」
ここプルガーシティは、“ギムレの洞穴”のある丘陵を下った先、ちょうど緩やかな谷の底に位置している。
谷底と言っても、街の近くを流れる川のおかげで植物の生育も盛んな、いわゆる谷底平野と呼ばれる地形であり、岩肌はほとんど見えない。
むしろ、街は青々とした草原に囲まれており、窓から望む景色は、穏やかな色彩に溢れていて目に優しい。
何よりも目を引くのは、何と言っても巨大な
街のあちこち(多くの場合は、川の傍だ)に建てられたそれらは、谷間に吹く風を受けて、カラカラと快活に回転している。
また、おもちゃの、或いは小型の
それらも風を受けて回転し、“風の街”という異名の何たるかを、語らずして示していた。
「……素敵な場所。カロスのフウジョタウンを思い出すわね」
自然と、感嘆の言葉を零す。
地上で似通った街と言えば、ルギアの守護する街として知られるフウラシティだろうか。
尤も、あちらは海沿いの都市であり、単純に比較できる訳では無いのだが。
ともあれ、窓の向こうに広がる光景が、心を動かすものである事には変わりない。
ぐっすりと寝て休んだのもあるが、鮮やか過ぎない穏やかな街並みと、吹き込む風の気持ちよさに、疲れもすっかり吹き飛んでしまった。
(……思えばこの
地上にいた頃の
他人と上手く接する事ができず、人間関係そのものから距離を取り、日がな1日ネットを見てばかりだったあの頃。
強いトレーナーや観光地などのニュースを見ても、それをただ「情報」或いは「知識」としか認識せず、読み流すだけだった時に比べれば、随分と感性豊かになったものだと自分でも思う。
(でも、本当にそれだけなのかな)
この世界に来て変わった……そう言うのは容易いが、どうしてか、それだけでは無いようにも思えた。
人はそう簡単には変わらない。ましてや如何に劇的と言えど、この世界に迷い込んでから1週間ほどしか経ってはいないのだ。
であればきっと、ソラの感性と価値観は、地上にいた頃からそう変わってはいないのかもしれない。
擦れているように見えていたのは、或いは元々豊かで素直だった感情を、地上では出力する機会が無かっただけとも言えるだろう。
もしも“マハルの地”に来て以降に何かが変わったとすれば、それは感性そのものではなく、自他への接し方、或いは向き合い方。
他者に心を開かなかった彼女が、素直に感情を発露し、他者に関わろうと思えるようになった勇気・前向きさは、確かな成長と言うべきだ。
現に、彼女は。
(わたしは今……この景色を、
無意識に浮かび上がった
ウソつき呼ばわりされた父の汚名を晴らす為でも、未知の世界を発見したのだと承認欲求を満たす為でもなく。
今、目の前の景色を見て抱いた感動を、他の人にも抱いてほしい。その気持ちを共有したい。
少女が抱いたのは、ただそれだけの感情だったのだ。
(わたしは、誰に見てほしいと思ったんだろう?)
リクやニャースたちではない。彼らも今頃、別の部屋から同じ景色を見ているだろう。
びぃタロたち、手持ちポケモンではない。魔女から彼らを引き取った後、間もなく目の当たりにするだろうから。
自分たちを排斥した地上の人たちではない。復讐や意趣返しなどを企むほど、ソラは彼らに執着している訳でも無い。むしろ、2度と関わりたくないほどだ。
では、誰に?
そこまで考えて……気付いた。否、
(……ああ、そっか)
ソラが、この景色を見てほしいと願った相手。
それはきっと、彼女の心が決定的に閉ざされる事なく、善性を維持し続ける事ができた理由でもあり──
「──おっはよー☆ ソラちゃん、もう起きてるよねい?」
直後、コンコンとドアがノックされる。
それとともに廊下側から飛んできた声は、シェラのものに相違ない。
パッと意識を切り替えて、そちらに向き直る。
思えば、起きてすぐに窓から外の景色を眺めていた為、外に出る支度はそんなに済んでいない。
「あ、すみません。まだ支度ができてなくて……」
「うんうんっ、だいじょーぶっ♪ ソラちゃんの声が聞こえたから声をかけただけだからさ、ゆっくり着替えて、下でゴハン食べよーね☆ リクくんもニャースさんも、もう下にいるからさ~」
それじゃ、と言い残して、シェラはその場を離れたらしい。パタパタと廊下を歩き去る音だけが、ドアの向こうから聞こえてきた。
ゆっくり着替えて、とは言われたものの、そうチンタラしていてはリクたちを待たせてしまう。
ヒバニーパーカーは修繕の為、ニャースに預けてある。なので軽く身だしなみを整えたら、さっさと1階に降りてしまわなければ。
……というところで、不意に手が止まる。
先ほどのシェラの言葉に、ふと引っかかるものがあったのだ。
「わたしの
マハル図鑑 No.048
【フラベベ】
ぶんるい:いちりんポケモン
タイプ:フェアリー
とくせい:フラワーベール(きょうせい)
ビヨンド版
気に入った 花と 一生を 共にする。例え 花が 枯れても 代わりを 探す 事は 無い。
ダイブ版
お気に入りの 花と 同じ 花の ミツしか 飲まないので 仲間と 取り合う 事も 無い。
この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。