ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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BGM:「戦闘!ジムリーダー(マハル)」
イメージ的には、アコーディオンがベースの曲調に、東南アジア風の太鼓や笛のメロディーが合わさったジャンルごちゃ混ぜの感じ(適当)


Lv.60「戦闘! ジムリーダーシェラ」

──“マハルの地”には、大神殿(リーグ)が定めた、ポケモンバトルの()()()()()が存在する。

 

 

 1.互いに使用できるポケモンは、最大3匹まで。(シングルバトルの場合。ダブルバトルでは最大4匹、マルチバトルでは1人につき最大2匹まで)

 2.トレーナーの手による交代は巡礼者にのみ許可され、ジムリーダー、および四天王はそれらを行わない。(ポケモンのわざ、とくせい、もちものによる交代はその限りではない)

 3.ポケモンにもちものを持たせる事は、一部の例外を除き、巡礼者にのみ許可される。ただし、トレーナーの手によるどうぐの使用は、互いに許可されない。

 4.ジムリーダーは巡礼者の持つバッジの数に応じて、使用ポケモンの技量(レベル)を調整する義務を負う。

 

 

 野生ポケモンとの戦闘や、場末の野試合、ルール無用の野良バトルなどを除き、大神殿(リーグ)の管轄下にある決闘(バトル)は上記のルールに則って執り行われる。

 無論、それは“リンネの儀”におけるジムリーダーとの決闘(バトル)も例外ではなく──むしろ、“リンネの儀”が為に整備されたルールと言っていい。

 

 ソラの手持ちは当然、びぃタロ(デシエビ)はるりん(ハルドリ)ちゆりん(ピチュー)の3匹。

 そしてジムバトルの実施にあたり、シェラは自身の使用するポケモンの数を事前に公開している。

 

 

 

『──2匹。シェラちゃんは2匹のポケモンちゃんたちでお相手するよ☆ ソラちゃん相手なら、それで十分かな♪』

 

 

 

 侮られている──とは思わなかった。

 むしろ、それで適性とさえソラは思っている。

 

 

(こないだの“船出仕合”……わたしはびぃタロたち3匹のポケモンで戦って、相手のポケモン2匹に負けた。手加減されているとはいえ、相手(シェラさん)にも3匹をねだるほど、わたしは思い上がってない)

 

 

 あれから数度の戦いを乗り越え、ソラたちは成長した。

 だが、世のトレーナーたち……特にシェラたちジムリーダーに比べれば、彼女たちの得た成長など河原の小石にも等しい。

 

 だから、ここで。

 まだ()()()()()()()この場で、対人戦──それも格上との経験を積まなければならない。

 

 

(最果てへ到達する為にも……わたしは、わたしたちは、強くなる!)

 

 

 モンスターボールをギュッと握り締め、前を向く。

 誰もが固唾を呑む中、審判役を請け負った神官の男性が、手を高く掲げ──振り下ろした。

 

 

 

「いざ──決闘の儀(ジムバトル)、はじめ!」

「それじゃっ、レッツ・オンステージ☆」

「……行きます!」

 

 

 

《ジムリーダーの シェラが しょうぶを しかけてきた!》

 

 

 

 号令の直後、コートを挟んで向かい合った2人のトレーナーは、まったく同時にボールを投げ放った。

 その内、ソラの放ったモンスターボールは中空で慣性のままに開かれ、対するシェラのスーパーボールは、地面に着弾するようにして解き放たれる。

 

 

「行って、はるりん!」

「ホーホーくん、レッツ・ゴー♪」

 

 

《ジムリーダーの シェラは ホーホーを くりだした!》

 

《ゆけっ! はるりん!》

 

 

「ほっけるりーっ!」

「ほほーう! ほうっ!」

 

 ソラが繰り出すは、ボールから飛び出た勢いに身を任せ、滑空するハルドリ(はるりん)

 シェラが繰り出すは、地面スレスレを舐めるように飛び、静かに迫るホーホー。

 

 ともに、ノーマル・ひこうタイプのとりポケモン。

 奇しくも、ひこうタイプを専門とするジムらしいマッチングとなる形だ。

 

 

(相手はホーホーか……! ヨルノズクが手持ちにいた時点で、その進化前もいる事は容易に想像できたけど……見たところ、地上の個体と変わりは無さそう?)はるりん、まずは撹乱して! “ないしょばなし”!」

「ほりっ! ほっ、けぇーっ!!

 

 

《はるりんの ないしょばなし!》

 

 

 小さなくちばしがパクリと開かれ、高周波の音波が発せられる。

 それは閉ざされた地下のコート内によく響き、聞く者の耳をキンキンと(つんざ)いた。

 

(ホーホーの脅威は、エスパータイプならざるサイコパワー! これでまずは、“ねんりき”の威力を封じる……!)

 

 放たれれば、相手の“とくこう”を確実に低下させる“ないしょばなし”。

 低技量(レベル)帯では脅威となる“ねんりき”も、ホーホーにとってはタイプの一致しないわざである以上、“とくこう”低下は大きな打撃と──

 

 

「うんうん、手堅いのはいいコトだね♪ でも甘いよ、ソラちゃん! “エコーボイス”で相殺しちゃって☆」

「ほほっ、ほ──ほぉおっ!!

 

 

《あいての ホーホーの エコーボイス!》

 

 

 ホーホーが、くちばしを開く。ハルドリ(はるりん)と比べても遜色のないほど、小さなくちばしを。

 しかし、そんな小さな口内から放たれたのは、ソラの想像を超えるほどの声量、そして大気の振動もたらす音のわざ。

 

 はるりんは前方に向かって撒き散らすように音波を放ったのに対して、こちらは低空から上方に向かって──つまり、迫り来る音波の下方から()()()()()ように発せられた。

 予期せぬ角度から掻き乱された“ないしょばなし”の奔流は、それよりももっと強力な音波に喰らい尽くされ、やがて散り散りに霧消する。

 

 

「な──!? “ないしょばなし”は“スピードスター”と同じで、“めいちゅうりつ”も“かいひりつ”も関係無い必中のわざじゃ……」

「ふふんっ、甘い甘い☆ 必中わざも防御わざも、頭を使えば突破できるんだよ♪ ホーホーくん、今度は“つつく”行ってみよー!」

「ほーうっ!!」

 

 

《あいての ホーホーの つつく こうげき!》

 

 

 ぷくぷく丸々とした体躯に見合わぬ小ぶりな翼をはためかせ、ホーホーがスピードを上げる。

 進化後のヨルノズクにも劣らぬ、静かで滑らかな飛翔で以て、“ないしょばなし”の音波が四散した間隙を縫うようにして、はるりんの下へ。

 

 わざを打ち消され、空中で態勢の崩れている彼女は、今や格好の的だ。

 その柔らかなお腹へと、鋭利なくちばしが迫る。

 

 

「っ! はるりん、“でんこうせっか”! 避けて!」

「り……ぃ、いいっ!」

 

 

《はるりんの でんこうせっか!》

 

 

 無防備に崩れた態勢から、無理やり翼を薙ぎ、その場からの緊急離脱を敢行する。

 指示を受けて“でんこうせっか”を繰り出す時には、既にホーホーが懐まで迫ってきており、くちばしの直撃こそ免れたものの、切っ先がはるりんの腹部を僅かに掠めた。

 

 

「りっ……!」

「……っ(ホーホーの飛行速度が早い……あっという間に近付かれちゃう。それに、さっきの“エコーボイス”だ。“ないしょばなし”を打ち消した時の余波が、はるりんにまで届いてたんだ!)

 

 

 果たして、ソラの推測は当たっていた。

 

 先ほど、はるりんの“ないしょばなし”を無効化するべく、ホーホーが繰り出した“エコーボイス”。

 必中の音波を確実に打ち消す為、相手に命中する角度から放ったものではなかったが、それでもタイプ一致、かつジムリーダーの手で鍛えられたポケモンのわざである。

 

 わざの打ち消しに威力を割かれてもなお残った余波は、はるりんに小さなダメージを与えていた。

 それ自体は軽微なものだが、しかしそのダメージが故に“でんこうせっか”の初動が遅れ、“つつく”一撃が掠めてしまったのだ。

 

 

(侮っていた訳じゃない……けど、強い! わたしなんかより、遥かに鍛え上げられている!)

 

 

 己の見立ての甘さに歯噛みするが、ウジウジしている暇は無い。

 今も目の前に広がるバトルコートでは、“でんこうせっか”で離脱した筈のはるりんへと、ホーホーがわざも使用せずに追い縋らんとしているのだから。

 

「いけない……! もう1度“でんこうせっか”! 回り込んで、後ろを取って!」

「──りぃっ!」

 

 翼を畳み、己の身を矢のように鋭く尖らせる事で、更なるスピードを得る。

 1段階上の“かそく”を身に纏ったはるりんは、大きくカーブを描いて旋回し、己を背後から強襲せんとしていたホーホーを振り切った。

 

 その速度を維持したまま、大回りに弧を描き続け──遂には、逆に相手の背後を取り返してみせる。

 

「ほっ!?」

「へぇ……☆」

「そのまま──突っ込んで!」

「ほっけ、りぃッ!」

 

 

《はるりんの でんこうせっか!》

 

 

 一瞬だけ翼を開き、即座に閉じ切って。

 瞬間的なトップスピードを獲得した小さなくちばしが、真っ直ぐに、標的目掛けて地下の空を駆け抜ける。

 

 元より“でんこうせっか”は、相手よりも先に攻撃できる先制わざ。

 そこにタイプ一致による補正と、“こうげき”に秀でた“やんちゃ”なせいかくが合わさり、決して侮り難い、対処不可の一撃が──

 

 

 

「──ほうっ」

 

 

 

 背後より迫る、対処不可の一撃に対して。

 ホーホーは、グリンと首を傾け、()()()()()()()()

 

 

「は──っ!?」

「ホーホーくんは丸々ボディがカワイイけど、実はけっこー首が柔らかく回るんだ♪」

 

 

 見た目も速度も、文字通り矢の如くして迫るはるりんを前に、ホーホーはくちばしを開く。

 ちっちゃな口内の昏い奥底で、空気が振動しているのが見えた。

 

 狙いをつける必要は無い。

 ターゲットは、自分から飛び込んでくるのだから。

 

 

()()()、“エコーボイス”っ♪」

「──ほぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!

 

 

《あいての ホーホーの エコーボイス!》

 

 

 ()()以外の音が消えた。

 少なくとも、まだバトル経験の浅いソラの耳は、現実をそのように解釈した。

 

 

「く、ぅう……!?(これが、本気の“エコーボイス”……!? さっきの打ち消す時のとは全然違う……!)

 

 ビリビリと痛いくらいに震えているのは、果たして大気か、或いは相手のわざを目の当たりにした自分自身の肌か。

 ただ確かな事があるとすれば、駆け出しトレーナーの彼女にとっては間違いなく、これまでに経験したバトルの中で最も高レベルな戦場がここだった。

 

 

《きゅうしょに あたった!》

 

 

 そして、放たれた高周波を真っ正面から、まともに喰らってしまったはるりんは、多大な痛打(ダメージ)を避ける事ができずにいた。

 物理的な破壊力さえ帯びた囀り声は、その矮躯に秘められた生命力(HP)を着実に削り取っていく。

 

 

「りぃ、いっ……り、ほっけ、る、りぃぃぃぃぃ──!!」

 

 

 それでも、彼女とて何の成長も無しにこの舞台(ジムバトル)まで辿り着いた訳ではない。

 

 フカシオやオヤブンテレネットに打ちのめされて、それ故に鍛えられた耐久性。

 積み重なった努力(きそ)に裏打ちされたタフネスは、至近距離からの“エコーボイス”に耐える為の根性をもたらした。

 

 加えて、今のはるりんを突き動かしているのは“でんこうせっか”の速度である。

 多少のダメージこそ受けれど、それでも音波という形の無いものを突っ切る事ができるだけの勢いは、十二分に残っていた。

 

 

「ほ、りぃ──ッ!!」

 

 

 自らの身に刻まれゆく傷を根性で耐え切りながら、不可視の波濤を突破した先。

 淡い若草色の弾丸が、ふくろうポケモンを貫いた。

 

 

「ほほっ!?」

「やっ──」

 

 

 やった。

 そう言いかけて、口を噤む。

 

 それは何も、今の攻撃で仕留めきれていないから……という事ではない。

 元より、たったの一撃で倒せると思えるほどソラは思い上がっていないし、相手を過小評価もしていない。

 

 それでも、確かなダメージを与えられた筈なのだ。

 だが、現実はどうだろうか。

 

 

「ほ……ほほっ、ほーうっ」

 

 

 正面からくちばしの一撃を受け、痛痒によりふらついてはいる。

 しかし、それも刹那の事。すぐに態勢を立て直したホーホーは、後方へ飛び去ったはるりんの姿を支障なく捕捉し続けていた。

 

「なんで……!? 確かに実力(レベル)の差はあるだろうけど、それでもダメージが小さ過ぎる……」

「ふっふーん♪ なんでだと思う? 能力考察はバトルの華、ソラちゃんもやってみよーっ☆」

 

 コートの向かい側で、シェラが得意げな顔をこちらへ飛ばしてきている。

 

 彼女の言葉を聞く限り、何も理不尽なギミックの押し付けなどではなく、推察可能なロジックである事は確かなのだろう。

 ソラの知る限り、ホーホーというポケモンが使えそうなわざ、できそうな事などを頭の中に思い浮かべ、思考回路をひっくり返し……

 

 

「──?」

 

 

 少女は見た。

 視線の先で、舞うように飛び交う2色の軌跡を。

 

 逃げるはるりんをホーホーが追う、地上で言うところの空中戦(ドッグファイト)

 しかし、そんな攻防もいつまでも続けられる訳ではない。先にスタミナが切れるのは、当然ながらはるりんの側だ。

 

 だから、それまでに勝負を決めなければならないが──問題は、そこではない。

 

 

「……まさか」

 

 

 ソラが見たもの。

 それは、ホーホーから逃げ回っているはるりんの動きが、明らかに精彩を欠いている様だ。

 

 単にダメージを負い過ぎているからとか、そういう話ではない。

 スタミナを()()()()()のではなく、スタミナを()()()()()()ような、そんな違和感。

 

 その光景に、見覚えがあった。

 体力(HP)気力(PP)の減少ではなく、持ち得る能力そのものをこそぎ落とされているような感覚。

 

 つまり、それは。

 

 

 

「まさか、“なきごえ”……!? “()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていうの!?」

「だーいせいかーいっ☆ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。巡礼に挑むなら、覚えておいて損は無いテクニックだよ♪」

 

 

 

《あいての ホーホーの なきごえ こうげき!》

 

《はるりんの こうげきが さがった!》

 

 

 ……口にするだけならば、簡単な話だ。

 けれども、それを実際にモノにできるポケモンが──()()()()()()()()()()()トレーナーが、果たしてどれだけの数いるのだろうか。

 

 今回のケースとてそうだ。

 ホーホーが組み合わせたのは、相手を攻撃する“エコーボイス”と、相手の“こうげき”を下げる“なきごえ”。

 

 いずれも音を発するわざであり、ともにノーマルタイプという点で一致しているが、だからと言って同時に繰り出せるかと問われれば、微妙と言わざるを得ない。

 闇雲に試そうとすれば、どちらかに比重が偏って効力を発揮できないか、そうでなくても2つのわざが競合してバランスが崩れ、不発に終わってしまうのが関の山だ。

 

 逆に言えば、シェラは──マハルのジムリーダーは、彼らのポケモンたちは。

 その高等技術(テクニック)を、当然のように使いこなしているという事である。

 

 

「授業料は()()()でいーよ☆ ね、ホーホーくんっ♪」

「っ、いけない! はるりん──」

「遅いよ♪ “ねんりき”で、バシッと決めちゃって☆」

 

 

 指示と同時、ホーホーの目が青色の光を纏う。

 その光、その気配は、“ギムレの洞穴(ほらあな)”で目にしたものと同種のそれだ。

 

 ノーマル・ひこうタイプのとりポケモンであるにも拘らず、彼らが持つ力。

 それ即ち、本職たるエスパータイプにも決して劣らぬ、サイコパワーの才覚(ポテンシャル)である。

 

 

「ほっ、ほほっほ、ほぉ──っう!!」

 

 

《あいての ホーホーの ねんりき!》

 

 

 動きを完全に捕捉されている以上、射程距離(レンジ)無用の念動力から逃れられる術は無い。

 苛烈なサイコパワーの襲来を前にして、はるりんには最早、くちばしを開けて座視するしかなく……

 

 

「けっ、りぃぃいいい──!? りっ……り、ぃぃ……

 

 

《はるりんは たおれた!》

 

 

 大気ごと握られ、揉まれ、シェイクされた末に。

 うぐいすポケモンの小柄なシルエットは、いとも容易く地に落ちた。




マハル図鑑 No.016
【ホーホー】
ぶんるい:ふくろうポケモン
 タイプ:ノーマル・ひこう
とくせい:ふみん/するどいめ(いろめがね)
ビヨンド版
 昼夜の 境界が 曖昧な マハルでは 正確な 時間に 鳴く ホーホーは 有り難い 存在。
ダイブ版
 どこから どこまでが 首かは 不明だが 真後ろを 振り向ける くらいには 柔軟だぞ。

《進化》
ホーホー
→ ヨルノズク(Lv.20で進化)



この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。
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