ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日2話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.61「衝突する閃光」

 空中戦に敗れ、呆気なく地に落ちるちゆりん。

 傷だらけで砂利にまみれた彼女は、目を渦巻かせて“きぜつ”していた。戦える力が残っていないのは明白だ。

 

 

「はるりんっ!」

「ハルドリ、戦闘不能!」

 

 

 状況を俯瞰して見ていた審判が、厳正に勝敗を宣言する。

 これでソラの手持ちは、残り2匹。相手の手持ちと並ぶ形になる。

 

「まずは1匹☆ そう簡単に倒されるほど、シェラちゃんのポケモンちゃんたちは甘くないぜーい?」

 

 横ピースを伴い、堂に入ったウィンクを決めるシェラ。

 そんな彼女の下へ、ホーホーが一息を入れに舞い戻っていく。

 

 

(これが、ジムリーダーとの戦い……。たった数手の攻防なのに、実力(レベル)が違うのを肌で実感できる……!)

「ソラちゃんはねぇ、バトルのセンスは光るモノがあるけど、ちょーっと理屈っぽいトコが目立つかな? 指示してる時も、場を見てる時も、必要以上に頭を捻り(ロジカル)過ぎてるよねい☆ ホーホーくんの首くらい、ソラちゃんの頭も柔らかくしていこーか♪」

 

 

 巡礼の試練たるバトルの最中にあっても、指導(インストラクション)助言(アドヴァイス)を忘れない。

 それが神官──神に仕えるポケモントレーナーたちを教育・鍛錬する、ジムリーダーとしての職分なのだろう。

 

 ……そんなコート上のやり取りを、リクとニャース(と、リクの膝の上に乗っかっているマハルニャース)は観戦席から目撃していた。

 そして、目の前で繰り広げられた攻防と、そこで用いられた技術(テクニック)も。

 

 

「……なぁ、じいさん。今の、シェラさんが言ってたやつ……マジにできるもんなのか?」

「理論上は可能……で、御座いニャスね。ですが、実際に似たような事をやれと言われれば……少なくとも、老いぼれた今のニャーでは難しいでニャしょう」

 

 

 腕を組み、重々しく頷くニャース。

 今でこそ老い故に一線を引いているが、かつては社交場(シャトー)で腕を鳴らした身。シェラの言葉にも、一定の理解と考察を示す事ができていた。

 

「ニャーの使えるわざで言うニャらば、例えば“みだれひっかき”と“ネコにこばん”、もしくは“フェイント”と“ねこだまし”を組み合わせて、それらをまるで1つのわざであるかのように繰り出す、という事ニャのでしょう。でニャスが……」

「……むずくね? それ。今の例えに出た“フェイント”と“ねこだまし”なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だろ? そりゃ、口で言う分には簡単だろうけど……ニャース、できるか?」

「にゃみ……」

 

 膝の上で大人しくしていたマハルニャースに聞けども、返ってくるのは耳をぺしゃりと畳みながらの力ない鳴き声のみ。

 

 無理も無い話だ。いくらバトルの経験があるとはいえ、そうやすやすとできる技巧ではない。

 実際にやっているところを見て、そういう風なやり方があると知って……そこからが、ようやくスタートラインのようなものだ。

 

 もしも、それを成せるとすれば。

 

 

 

「ポケモンの側にも、トレーナーの側にも、相当な練習か……或いは、相応の才能(ポテンシャル)が求められニャしょう」

 

 

 

 そう結論づけた視線は、2人のトレーナーが対峙するバトルコートの一方に向けられていた。

 傷つき倒れたはるりんをモンスターボールに収納し、そのボールをギュッと胸の内に抱くソラの姿から、片時も目を逸らさないように。

 

 

「……ナイスファイトよ、はるりん。後は任せて」

 

 

 労りの言葉を呟いた後、ボールを腰のホルダーに収める。

 そうして、次に繰り出すボールに指をやろうとして……数瞬を、思考に費やした。

 

 

(タイプ相性から考えて、ちゆりんはこのバトルにおいて有利に動ける。本当なら相手のエースに合わせて最後に投入したいけど……でも、ホーホーの“すばやさ”にびぃタロがどこまで追い縋れるかは未知数。それに、()()()()()が上手くいけば……まだ、余裕はある)

 

 

 理屈(ロジカル)で動き過ぎている、とは先ほどの指摘だが、それでも何も考えないよりは幾分かマシというもの。

 結論は出たとして、2つ目のモンスターボールに手をかけ、ホルダーから取り外す。

 

(どうせ相手の方が速いなら、有利な方でドンと構える!)行って、ちゆりん!」

「ぴちゃーっ!」

 

 

《ゆけっ! ちゆりん!》

 

 

 空中で開かれたボールから飛び出し、軽やかに着地したのはちゆりん(ピチュー)だ。

 頬の電気袋からバチバチと迸る火花が、彼女なりの闘志の表れであり、仲間(はるりん)を下した相手への憤りである事は、ソラもよく知っていた。

 

「お次はピチューちゃんか☆ ハルドリちゃんが倒されたコトに怒ってるのかな? とっても仲間想いの、“ゆうかん”な子なんだね♪」

「はい。ちゆりんもはるりんも、1番エリアで捕まえた子たちなんです。カロンタウンでの“船出仕合”の時も、今と同じように奮い立っていましたから」

「そっかそっか♪ 手持ちの子たち同士が仲良しなのはステキなコトだね☆ でもでもぉ──」

 

 右手を前に突き出し、フィンガースナップ。

 華麗な所作、綺麗な指先から放たれたそれは、軽やかな音を響かせ、己の友たるホーホーを突き動かす“おいかぜ”となった。

 

 

「気持ちだけで勝てるほど、ジムリーダーは容易くないのだー☆ ホーホーくん、いきなり“ねんりき”行っちゃおう♪」

「ほほっほう!」

 

 

 距離は離れているとはいえ、確かに目視できる距離と位置にいて、その姿もハッキリ見えている。

 

 にも拘らず、ホーホーの飛行は驚くほどに静かで、その上速い。

 気を付けていないと、目視している筈なのに見失ってしまいそうになるほどだ。

 

 

「……まだよ。まだ、構えて」

「ちぴ!」

 

 

 対するちゆりんは、その場から一切動く事なく、デンと相手を待ち構える。

 ソラに指示されずとも、彼女は元よりそのつもりだった。ちっちゃな腕をガッシリ組んで、電気袋のボルテージだけを上げていく。

 

 1人と1匹の挑戦者(チャレンジャー)が、不動の構えを取りながら見据える先で。

 無音の襲撃者は、その目を青く光らせた。

 

「ほほーっ!」

 

 

《あいての ホーホーの ねんりき!》

 

 

 その、刹那の事である。

 

 

「──今! “でんきショック”!」

「ぴっ──ちゅーっ!!」

 

 

《ちゆりんの でんきショック!》

 

 

 溜めに溜め込んだ電流が、前方に向けて一気に放出された。

 不可視である筈の念動力は、迎撃に襲いかかってきた黄色の奔流と正面衝突して、そのシルエットを朧げながらも中空に映し出す。

 

 

「っ、(すげ)え閃光……! 離れたところにいるおいらたちまで、眩しくて見てらんないくらいだ……!」

 

 

 リクが思わずといった風に呟いた通り、目を焼くほどの鮮烈な輝きがそこにはあった。

 

 薄くも仄かに青い圧力の壁が、眩いばかりの電流とぶつかり合い、喰らい合い、拮抗を演出する。

 今この時、電灯で照らされていた地下のバトルコートは、昼間の外であるかのように──或いは、それ以上の明るさに支配されていた。

 

 

(眩しくて頭がクラクラしそう……けど、拮抗できてる!)ちゆりん、もうちょっとだけ頑張って!」

「ぴ、ぢゃーっ!!」

 

 

 その眩しさたるや、観戦席の彼らよりも至近距離で状況を見ているソラも、腕で目を庇いながらでないと、まともに場の俯瞰ができないほど。

 一方のシェラはと言えば、常人ならば直視すれば目が潰れかねない閃光の中にあって、さも当然のように目をパッチリと開き、目の前の光景を観察していた。

 

 

(さっすが、“でんきショック”ですらこの威力とは、将来性バツグンだねぇ~♪ で、もぉー? ちょっと鍛えただけの進化前(ベイビィ)じゃあ、ホーホーくんの“とくこう”を上回るコト、は……──?)

 

 

 仄かな違和感。

 

 ともに進化前のポケモン同士とはいえ、練度と経験の差は大きいものだ。

 客観的に見ても、“とくこう”勝負は間違いなくホーホーの側に軍配が上がる。

 

 にも拘らず、()()()()()()

 “ねんりき”の側が出力で勝り、“でんきショック”を打ち払いながらちゆりんに襲いかかる──というヴィジョンが、まったく実現していない。

 

 

(まさか、()()()──!)

 

 

 バチッ!と火花の弾ける音がした。

 それこそが、ソラの待ち望んだ瞬間だった。

 

 

「突っ込んで──()()()()()!」

「ぴっちゃ、ぢゅ──ッ!!」

 

 

 こねずみポケモンが跳ね、前へ飛ぶ。

 電気袋から電気エネルギーを()()()()()()に、サイコパワーの壁へと突っ込んでいく。

 

 そうして、念動力の波濤が目と鼻の先まで迫り、その圧力に真っ向からぶつかる寸前。

 首を上に向かって全力で振り上げ、“でんきショック”の勢いと指向性を大きく転換させた。

 

 現状、拮抗し合っている“ねんりき”と“でんきショック”は、片方の出力や性質に変化があれば、もう片方もその影響を受ける。

 であれば、今の今までぶつかり合っていた“でんきショック”の側が、いきなり上方へ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、果たしてどうなるだろうか?

 

 

「そう来たか……☆ ホーホーくん、急いでその場から──」

「遅いですっ!」

 

 

 シェラは、寸でのところまでソラの狙いに気付かなかった。気付けなかった。

 如何に超人的な身体能力(スペック)を持つ彼女とて、サイコパワーと電気エネルギーのぶつかり合う向こう側までは見通せないし、その際の激しいスパーク音が聴覚を阻害する。

 

 だから彼女が指示を下し切るよりも早く、ホーホーの放っていた“ねんりき”は、電気の奔流と諸共に、天井に向かって吹き飛ばされていた。

 

 

「ほっ──」

「ぴっ、ちゅ」

 

 

 自らのサイコパワーがその流れを大きく歪められてしまい、ホーホーがそちらに意識を向けてしまった、その隙に。

 限界まで姿勢を低くしながら突っ込み、混じり合う2つのエネルギーを掻い潜ったちゆりんの矮躯は、既に直下の地点まで到達していた。

 

 体の小ささは、即ち体重の軽さ。

 そして体重の軽さは、そのポケモンに一定のすばやさを保証する。

 

 如何に速度に秀でたとりポケモンとはいえ、懐にまで潜り込まれてしまえば、回避は困難。

 

 

()()()()()()()()──“ほっぺすりすり”!」

「ちゃーっ!!」

 

 

《ちゆりんの ほっぺすりすり!》

 

 

 勢いよく飛び上がったちゆりんの電気袋は、確かにホーホーの顔面へと擦り付けられた。




この後【18:00】より2回目の追加投稿を行います。
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