「ほっ、ほぉ……!?」
目論見通りホーホーに命中した、ちゆりんの“ほっぺすりすり”。
弾けるような“せいでんき”が、ちっちゃな翼に絡みつき、その動きを縛った。
威力は低いが、それでも“こうかばつぐん”の一撃に加えて、“まひ”のおまけ付き。
相手にとっては、手痛い
「やるね……☆ ホーホーくん、後ろ下がっちゃって!」
「逃さない! ちゆりん、“でんきショ──いや、“しっぽをふる”!」
「ぴちゅっ、ぴーっ!」
“まひ”を与える事には成功した。だが、相手は腐ってもひこうタイプ。
でんきわざのチャージをし終える間に、捕捉し切れぬほど離脱されてしまう。そう判断したソラは、咄嗟に指示すべきわざを切り替えた。
果たして、主の呼びかけを正確に受け取ったちゆりんは、“ほっぺすりすり”を繰り出す為に跳躍したままの勢いで、尻尾を横に薙いだ。
空中で振るわれた小ぶりな尻尾は、しかし相手に命中する事は無く、ホーホーはそのまま後方へ離脱する。
だが。
「ほ……ほほぉっ……」
尻尾を振るった際に生じる、空気の流れと圧。
それらは少なからず、ホーホーの飛行に影響を与える。その翼が、でんきわざの残滓で痺れているならば尚更だ。
結果として、その丸っこい体は空中でバランスを崩してしまう。
その場から離脱し、距離を取る事には成功したものの、それまでの勢いは完全に絶たれてしまった形だ。
「……なーるほどねい♪ ソラちゃんってば、中々面白いコトするよね☆」
自らの下へ帰還したホーホーを前に、シェラは歯を剥いて笑っていた。
それまでのあどけなく
「“
「……はい。ホーホーの“ねんりき”は強力ですが、それでもタイプは不一致。ちゆりんの、タイプ一致の“でんきショック”であれば、“ないしょばなし”の分も込みで拮抗できると判断しました」
「で、拮抗し合ったわざで気を引かせて、その隙にピチューちゃんが接近……と。いいねいいね♪ まだまだ頭は硬めだけど、
「……。ありがとう、ございます」
苦々しい表情を伴い、その表情通りの言葉を漏らすソラ。
評価してもらえた事に、隔意や不本意がある訳ではない。
しかし一方で、この状況は、彼女の理想からは少しばかり遠いものである事も確かだった。
(さっきの一撃……本当なら“
“ねんりき”と“でんきショック”が拮抗し合っていた刹那。
スパーク音でシェラがこちらの声を聞き取りづらいと踏んだソラは、ちゆりんにある指示を飛ばしていた。
『“ねんりき”を吹っ飛ばして接近した後……“ほっぺすりすり”と“てんしのキッス”を同時に繰り出してほしいの。ぶつかる瞬間、相手の一点……くちばしに擦り付けるように、唇から電気袋までを一気に当てる。……できる?』
『ぴぃ……ちゅっ!』
シェラが解説し、その通りに実践してみせた手法。2つのわざを同時に繰り出し、それらの効果を一挙に発揮するテクニック。
はるりんを退けたその技術を、ソラはこのジムバトルの場で試してみようと考えた。
無論、最初からいきなり上手くいくとは思っていないし、試行した結果として不利になる可能性もあった。
けれど、バトルが始まる前にも考えていた事だ。
旅の序盤、最初のジム戦であれば、まだ
とはいえ、結果として出力されたのは、ただの“ほっぺすりすり”。
そこに相手を“こんらん”させるような力は無く、彼女の試みはまずは失敗に終わった。
(ちゆりんのせいじゃない。わたしの指示が冗長過ぎて、実際にわざを繰り出す時にピンと来なかったんだ。そのせいで、タイプ一致かつ使い慣れた“ほっぺすりすり”の方に比重が偏ってしまった……)
わざとわざとをぶつけ合っている最中に、後ろからいやに具体的な指示を出され、それを土壇場で成功させろなど、無茶な話にも程があるというもの。
それを分かった上でそのように指示をしたのだから、今回の不発の非はソラにあるとするのが当然だ。
今しがたの攻防で、シェラもこちらの目論見は見抜いていただろう。
だから彼女は、ああ言ったのだ。
──
(
「さって!
呼びかける声に応じて、ホーホーが再びコートへ躍り出る。
先の攻撃で“まひ”を受け、動きも精彩を欠いている。にも拘らず、彼の描く飛行軌道は、致命的な隙を孕んではいなかった。
「“なきごえ”重ねて、“エコーボイス”☆」
「ほ、ほぉぉぉぉぉおおおおお──ッ!!」
三たび放たれる、音と声の暴威。
はるりんが“ひんし”の間際に繰り出していた、“ないしょばなし”による“とくこう”の下降を加味してもなお、その威力は健在だ。
「ちゆりん、後ろに飛びながら“でんきショック”!」
「ぴちっ!」
大気震わせる奔流が届くよりも前に、黄色の小柄が跳ねた。
砂利を蹴飛ばしながらに後ろへ下がり、来たる攻撃から少しでも距離を取ろうと試みる。
だが、相手が繰り出したのは音のわざ。
その射程距離はコート全体に及び、わざの影響下から完全に逃れる術は無い。
故に、後方へ跳ね飛びながらも、ちゆりんは前方へ向けて電流を振り撒いた。
バチバチと弾けるでんきエネルギーが、虚空を裂くようにして暴れ回り、迫る音波の壁を掻き乱す。
それは或いは、この
はるりんの“ないしょばなし”を“エコーボイス”で打ち消されたように、今度はホーホーの“エコーボイス”を“でんきショック”で掻き回し、打ち消そうとしているのだ。
(空気を震わせて攻撃する音のわざは、逆に言えば空気中の変化を受けやすい! “でんきショック”で空気の流れをぐちゃぐちゃにすれば……)
「ふっふーん、発想はいいね☆ 1度見たアイデアをすぐ取り入れるのも、頭が柔らかくなってきた証拠かな♪」
しかし。
「で、もぉ? 対抗し切るには、少し威力が足りないし──何より、わざの相性が悪いかな☆ もっかい“なきごえ”重ねて、“エコーボイス”行っちゃって♪」
「ほっ──わぁぁぁぁぁあああああッ!!」
瞬間、音波の圧が一気に跳ね上がる。
“エコーボイス”は、連続で繰り出せば繰り出すほどに威力の上昇するわざ。
つまり、わざとわざとがぶつかり合い、拮抗するこのような状況では──重ねがけする事で、その均衡を食い破れる事を意味していた。
「ぢっ……! ぢ、ぴっ、ちゅぅ……!」
じりじりと、こちらのわざが押し負けゆく感覚。
ちゆりんの頬から迸る“でんきショック”のエネルギーが、徐々に、それを上回る音波によって振り払われていく。
そして、もう1つ。
(いや、そうか! このわざの狙いは──)
「ぴっ──ちゃぁああっ!?」
打ち消す為のわざが、逆に打ち消され。
とうとう“エコーボイス”の波に揉まれ、吹っ飛ばされたちゆりんが、コートの上の砂利に
その様子は、体に刻まれた
「……2発目の“エコーボイス”にも、“なきごえ”が重ねられていたんですね。そして同時に組み合わせ、繰り出したわざである以上、例え“なきごえ”の効果を含んでいたとしても、“
「いいね、どんどん気付いてる♪ シェラちゃん、ソラちゃんみたいに頭のいい子はだーい好きだよ☆」
“なきごえ”と組み合わせた“エコーボイス”、都合2回。
多段使用されたわざの威力を一気に浴びせかけられた結果、ちゆりんの“こうげき”は“なきごえ”2回分──つまりは“がくっと”下降してしまった形だ。
これでは、いくら“こうかばつぐん”とはいえ、元々威力の低い“ほっぺすりすり”が決定打足り得なくなってしまう。
反対に“でんきショック”では、その機動力で回避されるか、そうでなくとも威力の上がった“エコーボイス”で掻き消されるのがオチだろう。
(2段階目の“エコーボイス”とはいえ、はるりんの“ないしょばなし”は確実に効いてる……。だから、ちゆりんもダメージこそ受けたけど、まだ行動できる範疇にはある。そこは当初の目論見通り。後は、どこまで余力を残してホーホーを下せるかどうか)
確かにこちら側は、“なきごえ”の多段ヒットでスタミナを削がれているとは言っても、相手とて“まひ”による速度制限は決して無視できないものだ。
能力低下とタイプ相性の諸々を考えれば、彼我の残り
果たして、ここからどうするべきか。
思考のし過ぎで、クラクラと煮えてくる頭を抑え、目の前に広がるバトルコートへ意識を飛ばす。
「……ぴっちゅ!」
ふと、こちらの視線に気付いたちゆりんが振り返り、耳をピンと立てながらに声を上げる。
それはまるで、ソラを叱咤激励するような、自信に満ち溢れた一声だった。
「(……あんなにヘトヘトになって、力も出ない筈なのに。それでも、わたしに呼びかけてる……)……うん、ごめん。弱気になってた」
「ちゆっ」
それでいい、とでも言いたげに鼻息荒く、前を向き直すちゆりん。
“ゆうかん”で仲間想いな彼女の事だ。はるりんに繋いでもらったこの流れを、当のトレーナーたるソラに無駄にしてほしくないのだろう。
「ソラちゃんってば、いい顔になってきてるね♪
「はい。まだ完全にとは言えないですけど……でも、大丈夫です。やれます!」
「おっけー☆ それじゃっ、答え合わせに──重ねて“エコーボイス”!」
「ほっほー!」
“まひ”の状態異常で痺れる体をなお押して、ちっちゃなくちばしが開かれようとしていた。
これにて3連打。威力は右肩上がり、たかだか“とくこう”の1段階下降では抑え切れないほどの一撃が、じきに放たれる。
「……ちゆりん。わたしを、信じられる?」
「ちゅっ!」
「ありがと。……帯電しながら飛んで! 前に!」
「ぴちゃーっちゅ!」
渾身の踏ん張りから、一瞬の内に解き放った跳躍力が、ちゆりんとホーホーとの距離を縮めゆく。
頬から溢れ出した電流、その余剰分が後方へ流れ、さながら流星の軌跡めいたものを虚空に描いていった。
「何を狙っているかは分かんないけど──これでおしまいだよっ☆」
「ほほうっ、ほぉぉ──うっ!!!」
「ち──ゆぅっ!!」
激しい大音波が、トドメと言わんばかりに大気を揺さぶる。
その致命的な音の暴力、その最中へと、ちゆりんは駆け出していき──
この後【21:00】より3回目の追加投稿を行います。