ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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今日3話目の投稿です。ご注意ください。


Lv.62「とんち合戦」

「ほっ、ほぉ……!?」

 

 

《こうかは ばつぐんだ!》

 

《あいての ホーホーは まひして わざが でにくくなった!》

 

 

 目論見通りホーホーに命中した、ちゆりんの“ほっぺすりすり”。

 弾けるような“せいでんき”が、ちっちゃな翼に絡みつき、その動きを縛った。

 

 威力は低いが、それでも“こうかばつぐん”の一撃に加えて、“まひ”のおまけ付き。

 相手にとっては、手痛い痛痒(ダメージ)である事には間違いない。

 

 

「やるね……☆ ホーホーくん、後ろ下がっちゃって!」

「逃さない! ちゆりん、“でんきショ──いや、“しっぽをふる”!」

「ぴちゅっ、ぴーっ!」

 

 

《ちゆりんの しっぽをふる こうげき!》

 

 

 “まひ”を与える事には成功した。だが、相手は腐ってもひこうタイプ。

 でんきわざのチャージをし終える間に、捕捉し切れぬほど離脱されてしまう。そう判断したソラは、咄嗟に指示すべきわざを切り替えた。

 

 果たして、主の呼びかけを正確に受け取ったちゆりんは、“ほっぺすりすり”を繰り出す為に跳躍したままの勢いで、尻尾を横に薙いだ。

 空中で振るわれた小ぶりな尻尾は、しかし相手に命中する事は無く、ホーホーはそのまま後方へ離脱する。

 

 だが。

 

 

「ほ……ほほぉっ……」

 

 

《あいての ホーホーの ぼうぎょが さがった!》

 

 

 尻尾を振るった際に生じる、空気の流れと圧。

 それらは少なからず、ホーホーの飛行に影響を与える。その翼が、でんきわざの残滓で痺れているならば尚更だ。

 

 結果として、その丸っこい体は空中でバランスを崩してしまう。

 その場から離脱し、距離を取る事には成功したものの、それまでの勢いは完全に絶たれてしまった形だ。

 

 

「……なーるほどねい♪ ソラちゃんってば、中々面白いコトするよね☆」

 

 

 自らの下へ帰還したホーホーを前に、シェラは歯を剥いて笑っていた。

 それまでのあどけなく()()()()仕草ではなく、面白い遊びを見つけた子供のような、無邪気で楽しげな笑みだった。

 

 

「“()()()()()()()”だよね? ハルドリ(はるりん)ちゃんが倒される直前に、ホーホーくんの“エコーボイス”に紛れて指示してたんだ。だから、シェラちゃんたちの気付かない間に、ホーホーくんの“とくこう”は下がっちゃってて、“ねんりき”の威力も落ちてたワケだ☆」

「……はい。ホーホーの“ねんりき”は強力ですが、それでもタイプは不一致。ちゆりんの、タイプ一致の“でんきショック”であれば、“ないしょばなし”の分も込みで拮抗できると判断しました」

「で、拮抗し合ったわざで気を引かせて、その隙にピチューちゃんが接近……と。いいねいいね♪ まだまだ頭は硬めだけど、()()()のスジは悪くないよ☆」

「……。ありがとう、ございます」

 

 

 苦々しい表情を伴い、その表情通りの言葉を漏らすソラ。

 

 評価してもらえた事に、隔意や不本意がある訳ではない。

 しかし一方で、この状況は、彼女の理想からは少しばかり遠いものである事も確かだった。

 

 

 

(さっきの一撃……本当なら“()()()()()()()()()()()()()筈だった。“ほっぺすりすり”の出力が勝ちすぎたのか、それとも“てんしのキッス”の出だしが浅かったのか……。どっちにしても、“てんしのキッス”の威力が食われて、効果を発揮できていなかった)

 

 

 

 “ねんりき”と“でんきショック”が拮抗し合っていた刹那。

 スパーク音でシェラがこちらの声を聞き取りづらいと踏んだソラは、ちゆりんにある指示を飛ばしていた。

 

 

『“ねんりき”を吹っ飛ばして接近した後……“ほっぺすりすり”と“てんしのキッス”を同時に繰り出してほしいの。ぶつかる瞬間、相手の一点……くちばしに擦り付けるように、唇から電気袋までを一気に当てる。……できる?』

『ぴぃ……ちゅっ!』

 

 

 シェラが解説し、その通りに実践してみせた手法。2つのわざを同時に繰り出し、それらの効果を一挙に発揮するテクニック。

 はるりんを退けたその技術を、ソラはこのジムバトルの場で試してみようと考えた。

 

 無論、最初からいきなり上手くいくとは思っていないし、試行した結果として不利になる可能性もあった。

 

 けれど、バトルが始まる前にも考えていた事だ。

 旅の序盤、最初のジム戦であれば、まだ()()()()()()()。だから、試せるものはなんでも試してみるべきだと判断したのだ。

 

 とはいえ、結果として出力されたのは、ただの“ほっぺすりすり”。

 そこに相手を“こんらん”させるような力は無く、彼女の試みはまずは失敗に終わった。

 

 

(ちゆりんのせいじゃない。わたしの指示が冗長過ぎて、実際にわざを繰り出す時にピンと来なかったんだ。そのせいで、タイプ一致かつ使い慣れた“ほっぺすりすり”の方に比重が偏ってしまった……)

 

 

 わざとわざとをぶつけ合っている最中に、後ろからいやに具体的な指示を出され、それを土壇場で成功させろなど、無茶な話にも程があるというもの。

 それを分かった上でそのように指示をしたのだから、今回の不発の非はソラにあるとするのが当然だ。

 

 今しがたの攻防で、シェラもこちらの目論見は見抜いていただろう。

 だから彼女は、ああ言ったのだ。

 

 

──()()()()()()()()()()()、と。

 

 

理屈っぽ(ロジカル)過ぎてる……か。頭では分かってるけど、実際に切り替えるとなると難しいなぁ……!)

「さって! 一息つくの(ハーフタイム)はもういいよね? 今の感覚を忘れずに、もっかい挑んでみよーか☆ ホーホーくんっ♪」

 

 

 呼びかける声に応じて、ホーホーが再びコートへ躍り出る。

 先の攻撃で“まひ”を受け、動きも精彩を欠いている。にも拘らず、彼の描く飛行軌道は、致命的な隙を孕んではいなかった。

 

「“なきごえ”重ねて、“エコーボイス”☆」

「ほ、ほぉぉぉぉぉおおおおお──ッ!!

 

 

《あいての ホーホーの エコーボイス!》

 

 

 三たび放たれる、音と声の暴威。

 はるりんが“ひんし”の間際に繰り出していた、“ないしょばなし”による“とくこう”の下降を加味してもなお、その威力は健在だ。

 

「ちゆりん、後ろに飛びながら“でんきショック”!」

「ぴちっ!」

 

 大気震わせる奔流が届くよりも前に、黄色の小柄が跳ねた。

 砂利を蹴飛ばしながらに後ろへ下がり、来たる攻撃から少しでも距離を取ろうと試みる。

 

 だが、相手が繰り出したのは音のわざ。

 その射程距離はコート全体に及び、わざの影響下から完全に逃れる術は無い。

 

 

《ちゆりんの でんきショック!》

 

 

 故に、後方へ跳ね飛びながらも、ちゆりんは前方へ向けて電流を振り撒いた。

 バチバチと弾けるでんきエネルギーが、虚空を裂くようにして暴れ回り、迫る音波の壁を掻き乱す。

 

 それは或いは、この決闘(バトル)が始まって最初に起きた攻防が反転した形である。

 はるりんの“ないしょばなし”を“エコーボイス”で打ち消されたように、今度はホーホーの“エコーボイス”を“でんきショック”で掻き回し、打ち消そうとしているのだ。

 

 

(空気を震わせて攻撃する音のわざは、逆に言えば空気中の変化を受けやすい! “でんきショック”で空気の流れをぐちゃぐちゃにすれば……)

「ふっふーん、発想はいいね☆ 1度見たアイデアをすぐ取り入れるのも、頭が柔らかくなってきた証拠かな♪」

 

 

 しかし。

 

 

「で、もぉ? 対抗し切るには、少し威力が足りないし──何より、わざの相性が悪いかな☆ もっかい“なきごえ”重ねて、“エコーボイス”行っちゃって♪」

「ほっ──わぁぁぁぁぁあああああッ!!」

 

 

《あいての ホーホーの エコーボイス!》

 

 

 瞬間、音波の圧が一気に跳ね上がる。

 

 “エコーボイス”は、連続で繰り出せば繰り出すほどに威力の上昇するわざ。

 つまり、わざとわざとがぶつかり合い、拮抗するこのような状況では──重ねがけする事で、その均衡を食い破れる事を意味していた。

 

「ぢっ……! ぢ、ぴっ、ちゅぅ……!」

 

 じりじりと、こちらのわざが押し負けゆく感覚。

 ちゆりんの頬から迸る“でんきショック”のエネルギーが、徐々に、それを上回る音波によって振り払われていく。

 

 そして、もう1つ。

 

 

(いや、そうか! このわざの狙いは──)

「ぴっ──ちゃぁああっ!?」

 

 

 打ち消す為のわざが、逆に打ち消され。

 とうとう“エコーボイス”の波に揉まれ、吹っ飛ばされたちゆりんが、コートの上の砂利に(まみ)れて膝をつく。

 

 その様子は、体に刻まれた痛打(ダメージ)以上に、疲労が目に見えて現れているようで──

 

 

「……2発目の“エコーボイス”にも、“なきごえ”が重ねられていたんですね。そして同時に組み合わせ、繰り出したわざである以上、例え“なきごえ”の効果を含んでいたとしても、“()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()……!」

「いいね、どんどん気付いてる♪ シェラちゃん、ソラちゃんみたいに頭のいい子はだーい好きだよ☆」

 

 

《ちゆりんの こうげきが がくっと さがった!》

 

 

 “なきごえ”と組み合わせた“エコーボイス”、都合2回。

 多段使用されたわざの威力を一気に浴びせかけられた結果、ちゆりんの“こうげき”は“なきごえ”2回分──つまりは“がくっと”下降してしまった形だ。

 

 これでは、いくら“こうかばつぐん”とはいえ、元々威力の低い“ほっぺすりすり”が決定打足り得なくなってしまう。

 反対に“でんきショック”では、その機動力で回避されるか、そうでなくとも威力の上がった“エコーボイス”で掻き消されるのがオチだろう。

 

 

(2段階目の“エコーボイス”とはいえ、はるりんの“ないしょばなし”は確実に効いてる……。だから、ちゆりんもダメージこそ受けたけど、まだ行動できる範疇にはある。そこは当初の目論見通り。後は、どこまで余力を残してホーホーを下せるかどうか)

 

 

 確かにこちら側は、“なきごえ”の多段ヒットでスタミナを削がれているとは言っても、相手とて“まひ”による速度制限は決して無視できないものだ。

 能力低下とタイプ相性の諸々を考えれば、彼我の残り体力(HP)はざっくりとほぼ互角(イーブン)

 

 果たして、ここからどうするべきか。

 思考のし過ぎで、クラクラと煮えてくる頭を抑え、目の前に広がるバトルコートへ意識を飛ばす。

 

 

 

「……ぴっちゅ!」

 

 

 

 ふと、こちらの視線に気付いたちゆりんが振り返り、耳をピンと立てながらに声を上げる。

 それはまるで、ソラを叱咤激励するような、自信に満ち溢れた一声だった。

 

 

(……あんなにヘトヘトになって、力も出ない筈なのに。それでも、わたしに呼びかけてる……)……うん、ごめん。弱気になってた」

「ちゆっ」

 

 

 それでいい、とでも言いたげに鼻息荒く、前を向き直すちゆりん。

 “ゆうかん”で仲間想いな彼女の事だ。はるりんに繋いでもらったこの流れを、当のトレーナーたるソラに無駄にしてほしくないのだろう。

 

「ソラちゃんってば、いい顔になってきてるね♪ 頭の体操(シンキングタイム)は終わったかい?」

「はい。まだ完全にとは言えないですけど……でも、大丈夫です。やれます!」

「おっけー☆ それじゃっ、答え合わせに──重ねて“エコーボイス”!」

「ほっほー!」

 

 “まひ”の状態異常で痺れる体をなお押して、ちっちゃなくちばしが開かれようとしていた。

 これにて3連打。威力は右肩上がり、たかだか“とくこう”の1段階下降では抑え切れないほどの一撃が、じきに放たれる。

 

 

「……ちゆりん。わたしを、信じられる?」

「ちゅっ!」

「ありがと。……帯電しながら飛んで! 前に!」

「ぴちゃーっちゅ!」

 

 

 渾身の踏ん張りから、一瞬の内に解き放った跳躍力が、ちゆりんとホーホーとの距離を縮めゆく。

 頬から溢れ出した電流、その余剰分が後方へ流れ、さながら流星の軌跡めいたものを虚空に描いていった。

 

 

「何を狙っているかは分かんないけど──これでおしまいだよっ☆」

「ほほうっ、ほぉぉ──うっ!!!

 

 

《あいての ホーホーの エコーボイス!》

 

 

「ち──ゆぅっ!!」

 

 激しい大音波が、トドメと言わんばかりに大気を揺さぶる。

 その致命的な音の暴力、その最中へと、ちゆりんは駆け出していき──




この後【21:00】より3回目の追加投稿を行います。
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