ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.64「(はし)る双頭」

「さぁっ、キミにとっての初陣だよっ☆ ハジメテの決闘の儀(ジムバトル)、バシッと勝っちゃおーか♪」

 

 

 そんな口上を上げ、シェラが手元のスーパーボールを投げ放つ。

 バトルコート上の地面に叩きつけられた瞬間、あまりに勢いよくボールが開かれた事で、炸裂同然の現象が起こり、あたりに砂煙が立ち込めた。

 

 もうもうと舞い散る砂埃の最中を引き裂き、飛び出してくる灰色の影。

 2本の脚でがっしと地面を掴み、()()()()()()()で砂利のカーテンを食い千切りながらに現れた、その正体は──

 

 

 

「レッツ・ゴー! ドードーちゃん☆」

「ディー、ディディッダ!」

 

 

 

《ジムリーダーの シェラは ドードーを くりだした!》

 

 

(シェラさんの最後の1匹はドードー……いや、姿形が微妙に違う!)

 

 

 細く長い脚、丸っこい胴体、そして2本の首。

 ソラの知識に照らし合わせるならば、それは間違いなく、ふたごどりポケモンのドードーと同じ姿を取っていた。

 

 だがしかし、ソラの知る地上のドードーと比べて、その身に帯びる差異点は数多い。

 

 茶色の羽毛に覆われたふわふわの毛並みを持つ()()に対し、目の前のドードーの羽根はくすんだ灰色で、毛並みも「ふわふわ」というより「しっとり」と形容した方が適切だろう。

 全体的なフォルムも、原種は丸っこい形状をしているが、こちらは尾羽根が長めで、シュッとした印象を受ける。

 

 そして、首。

 2つの首、2つの頭部を持つのは原種同様だが、その首の長さは驚くほどに短い。

 何なら、胴体から頭部が直接生えているのではないかと思えるほど、首は羽毛に埋まり切っているようだった。

 

 ……一般的に知られる同種のポケモンとは大きく異なる姿、特性を持つ変異種。

 そのような存在をなんと呼称するか、それを知らないソラではない。

 

 

 

「“マハルの地”のリージョンフォーム……“マハルのすがた”のドードー!」

「その呼び方、なっつかしー♪ 昔、この子のママを見て、クレオメさんも同じフウに呼んでたっけ☆ で、もぉ──」

 

 

 

 再び、フィンガースナップが鳴らされる。

 主のそれを開戦の合図として、シェラのドードー──即ちマハルドードーは、驚異的な勢いを伴って跳躍し、空中に躍り出た。

 

 

「この子は、シェラちゃんでも手を焼くくらい“やんちゃ”で、“あばれることがすき”なんだ♪ さっきまでの()()()なホーホーくんと比べてちゃ、痛い目見るぜい? ──それじゃっ、挨拶代わりに行ってみよーか☆ 重ねて“つつく”っ!」

「ディッディー、ダーッ!!」

 

 

《あいての ドードーの つつく こうげき!》

 

 

 空中で体を捻り、その身全体を激しく回転させながら、灰色の毛並みが急降下を仕掛ける。

 2つのくちばしを重ね、ちゆりんの頭上より襲い来るそのシルエットは、さながら弓より放たれた1本の矢のようだ。

 

「っ、左に避けて!」

「ちゅぴっ!」

 

 咄嗟に叫んだ指示は、寸でのところで間に合ったと言えた。

 

 一瞬だけ体に電流を纏い、弾かれるようにしてその場を離脱したちゆりん。

 そのコンマ数秒後、彼女の元いた場所に、超高速の鏃が着弾する。

 

 

「ぴちぃっ!?」

「く、ぅ……っ!?(すごい風圧……これでただの“つつく”って嘘でしょう!? まるで“ドリルくちばし”だわ!)

 

 

 着弾の瞬間に吹き上がる砂煙。

 その爆風めいた風圧に煽られて、ちゆりんの軽い体が吹っ飛び、暫し地面の上を転がってゆく。

 

 理屈の上では理解できる。

 あまりの速度、あまりの威力から、地面に突き刺さると同時、着弾地点の一切が吹き飛んだのだ。

 

 問題は──そんな芸当を、この実力(レベル)帯で実現してみせた相手の能力値(スペック)

 

 

*おおっと!* まーだシェラちゃんたちの攻勢(ターン)は終わってないぜーい? 更に重ねて、“みだれづき”っ☆」

「ディダッ、ディーッ!!」

 

 

 場に現れた時と同様に、砂煙を食い破りながら突っ込んでくるマハルドードー。

 

 通常の空飛ぶとりポケモンよりも、遥かにガッシリとした(あしゆび)が、大地を掴んでは蹴り飛ばし、恐ろしいほどのスピードで彼我の距離を無へ近付けていく。

 その荒々しさたるや、静かに空を飛ぶホーホーの比ではなく、その速度もまた、ホーホーのそれを凌駕していた。

 

「尻尾で回避! 1発でも当たっちゃダメ!」

「ちゅ、ちゆ──っ!?」

 

 回避の為、ちゆりんがほんの僅かに身じろぎした、その刹那。

 その時にはもう既に、鋭い2本のくちばしが眼前にまで迫ってきていた。

 

 

(速っ──!? いくらなんでも、ここまで速いなんて……)

 

 

 驚愕に目が見開かれ、視界に映る光景をより鮮明に認識する。

 

 だからだろうか。

 ソラの瞳孔は、マハルドードーのくちばしに、青色のエフェクトが淡く纏わりついている事に気付いた。

 

「ディダッ! ディッ──ディディディディディッ!!」

 

 

《あいての ドードーの みだれづき!》

 

 

 一撃。身を捻って直撃は避けるが、くちばしが肩に掠れてバランスが崩れる。

 二撃。隙ができたところへ、2本目のくちばしが土手っ腹に突き刺さる。

 三撃。あえて大きく身を倒す事で、追撃が背中を擦るも、相手の狙いをズラしにかかる。

 

 そして、四撃目。くちばしの射程から逃れるとともに、地面に触れさせた尻尾を軸に回転し──

 

「ぢ──ゆぅっ!」

「ド、ディーッ!?」

 

 

《3かい あたった!》

 

《ちゆりんの しっぽをふる こうげき!》

 

《あいての ドードーの ぼうぎょが さがった!》

 

 

 勢いをつけて場を離れ、更なる連撃を防ぐ事に成功。

 おまけに、その際の回避に“しっぽをふる”を活用した事で、マハルドードーの体勢を崩す事にも繋がった。

 

 ただし、その一方で……。

 

 

「ぢゅっ……ち、ぴちゅ……」

 

 

 離脱する事には成功したちゆりんだが、彼女の肉体は既に、肩で息をするほどに消耗し切っていた。

 

 それも当然の話である。先んじてホーホーから2段階強化された“エコーボイス”を浴び、“なきごえ”も2発喰らっている。

 そこへ今しがたの連撃を受けたのだから、その体力(HP)はもはや限界域だ。

 

 

(ちゆりんはもう限界……次に何か受ければ、多分すぐに倒れちゃう。一撃一撃の威力が低い“みだれづき”でも、繰り出すポケモンの“こうげき”が高いと、こうも脅威になるのね……)

 

 

 びぃタロの場合は、類似わざである“れんぞくパンチ”の威力を、“ビルドアップ”によって補填していた。

 だが、相手にそのような兆候は無い。十中八九、素の“こうげき”から繰り出した威力に違いないだろう。

 

 そして、もうひとつ。

 

 

(ドードーの動きが明らかに速すぎる……。いくら地上最速クラスのひこうタイプと言ったって、あそこまで速いのはおかしい!)

 

 

 ジムリーダー手ずから鍛えたポケモンだから、では説明できない反射神経。

 明確に、こちらの動きの上から繰り出されたわざの出だしの速さ。

 

 現象には必ず理由が存在する。それがジムバトルであるならば尚更だ。

 

 

(ドードーに指示する時、シェラさんは“()()()”と言っていた……っ、まさか──)

「そんなにチンタラ考えてていいのかーい? ここからドンドン進攻(ギア)上げてくよん♪ だよね、ドードーちゃんっ☆」

「ディダディダッ、ドーダァッ!!」

 

 

 “しっぽをふる”によって崩れた体幹をすぐに整えて、マハルドードーが再びコートを駆ける。

 地面を掴んで走るそのスタイルは、ひこうタイプでありながら空を飛べない彼女たちが身につけた、高速機動の真髄。

 

 こと地上戦においては、他のひこうタイプの追随を許さない速度で、息も絶え絶えなちゆりんへと追撃を仕掛けてくる。

 

 そのくちばしが、やはり青い光を帯びてゆく瞬間を、ソラは見逃さなかった。

 そして、恐るべき速度を実現したトリックの正体も。

 

 

 

「やっぱり、速度の正体は()()()()──!」

「ふふっ♪ ソラちゃんには簡単だったかな? それじゃあ答え合わせにっ──“サイコソニック”☆」

「ディディ──ッ!!」

 

 

 

 聞き慣れない名前。見慣れない挙動。

 だが、少女ははたと理解した。

 

 マハルドードーの帯びる淡い青光──あれは、()()()()()()であると。

 

 

《あいての ドードーの サイコソニック!》

 

 

 くちばしに宿した青色のサイコパワーが、ほんの一瞬だけ肉体を“かそく”させ、尋常以上の速度を発揮する

 その瞬間的なトップスピードは、“でんこうせっか”や“アクセルロック”などとほぼ同等のものだ。

 

「っ、ほっぺで受けて!」

「ぢっ、ぃい──ゆぅっ!!」

 

 回避は間に合わない。ならば、取るべき手はひとつ。

 青く光るくちばしが己に迫るその間際、ちゆりんは最後の力を振り絞って帯電させた己の頬を、相手の攻撃が当たるだろう位置に()()()

 

 

「ディッ──!」

「ちゅ、ぅう……っ」

 

 

 接触の瞬間、サイコパワーとでんきエネルギーとが反発し、小さな力場の破裂を生む。

 火花の弾ける音とともに仰け反り(ノックバックし)合うも、それこそが彼我の命運を分けた。

 

 体力の消耗と、その身の軽さ故に、ノックバックの衝撃で大きく宙を舞うちゆりん。

 対するマハルドードーは、その自慢の脚力で踏ん張り抜き、仰け反った体を逆に追撃の勢いへ転用できた。

 

 

「“つつく”を重ねて、“みだれづき”♪」

「ディダダダダッ──ダッ、ダダァーッ!!」

 

 

《あいての ドードーの みだれづき!》

 

 

 2つの首、2つの頭部、2本のくちばし。

 首の筋肉を余す事無く活かした怒涛のラッシュが、空中で無防備なままの矮躯を襲う。

 

 そのままでは打点に劣る“みだれづき”に、タイプ一致のわざである“つつく”を重ねる事で威力を増強。

 ひこうタイプの“つつく”は、でんきタイプであるちゆりん(ピチュー)に“こうかいまひとつ”。その分だけ威力も落ちるが、それを込みでもなお──

 

 

《きゅうしょに あたった!》

 

《きゅうしょに あたった!》

 

《こうかは いまひとつ のようだ……》

 

《5かい あたった!》

 

 

 その攻撃力(ダメージ)は、致命的。

 

 

「ぴっ──ちゅぅう~~~!?」

「ちゆりんっ!」

 

 

 ソラの呼び声も虚しく、黄色い体は地面の上を跳ね、やがて倒れ伏す。

 耳も尻尾も力なく横たえられて、グルグルと渦巻く目が、己の“ひんし”を静かに告げていた。

 

 

《ちゆりんは たおれた!》

 

 

「ピチュー、戦闘不能! 巡礼者ソラ、残り1匹!」

「……ありがとう、ちゆりん。よく踏ん張ってくれたわ」

 

 

 ちゆりんを戻したボールを、額にそっと当てながらに囁く。

 そうしてホルダーに収め、顔を上げた先では、マハルドードーが手持ち無沙汰と言わんばかりに後ろ脚で地面を蹴っていた。

 

「“マハルのすがた”のドードー……わたしの知ってる地上のドードーよりもパワフルで、随分と暴れん坊みたいですね」

「ん~、実はそうでもないんだよねぇ。この子がトクベツ“やんちゃ”なだけで、普通のドードーちゃんたちは大人しくて怖がりな子が多いんだ~♪」

「……えっ?」

 

 ()()が?

 思わず唖然として指を差すソラに、シェラは頬を掻きつつ複雑そうに笑う。

 

 

「まぁ~……この子は本当に例外みたいな子だから、あんまり基準にはしないでね? ホントは“おくびょう”な子たちばかりで、天敵から逃げる為にサイコパワーを身に着けたって言われてるの。と言っても、本職の超能力(エスパー)に比べればまだまだ未熟なんだけどね☆」

「ディダーッ!」

 

 ダン!ダン!とその場で“じだんだ”を繰り返す……というか“とびはねる”マハルドードー。

 どうやら「未熟」という言葉がお気に召さなかったらしく、全身を使って抗議の意を示している様子。

 

 

「なはは、ごめんごめん♪ ……さって、これでお互いに残り1匹。最後の子を出しなよ、ソラちゃん☆」

「……」

 

 

 ボールホルダーから、最後のモンスターボールを取り外し、手の内に握り込む。

 

 思えば、“マハルの地”に来てからもう10日ほどになる。

 その10日間で、このボールも随分と手に馴染んだように思う。

 

 恐らくは、これからも何回、何十回、何百回と、今と同じように手に取るだろう一球。

 その感触を確かめながら、ふと思う。

 

 

 

(……同じだ。“船出仕合”の時と)

 

 

 

 はるりんとちゆりんの活躍で、相手のポケモンの内1匹を倒し、しかし彼女たち2匹もやられてしまい。

 残るは相手の最後の1匹と──こちらも、最後に残った相棒が1匹。

 

 だが、条件は互角ではない。

 

 

(……不遜に振る舞っているように見えるけど、実際はあっちも“まひ”を受けてる。ちゆりんの頑張りは無駄じゃなかった)

 

 

《あいての ドードーは まひして わざが でにくくなった!》

 

 

 “サイコソニック”に対する迎撃として繰り出した“ほっぺすりすり”か、或いは“みだれづき”を受けた際に押し付けた“せんでんき”か。

 いずれにせよ、ちゆりんは自らが倒れゆく中であってもなお、相手に“まひ”という枷を嵌め込む事に成功していた。

 

 当然、シェラもその事には気付いているだろう。

 その上でなお、マハルドードーはあれだけ活発に動いている。或いは、同じく“まひ”を受けていたホーホーよりも激しく、アグレッシブに。

 

 

(“まひ”の上から動けるって訳……上等じゃない)

 

 

 今一度、ボールを握り締める。

 

 ボールの中の相棒は、繰り出される前のマハルドードーと同様、今にも飛び出したくて仕方がないようだった。

 揺れに揺れ、震えに震えるモンスターボールを制御する事無く、ソラは投球の構えを取る。

 

 船出仕合(あのとき)は、負けた。

 でも、今度こそは。

 

 

 

「今度こそ──勝つよ、びぃタロ!」

「──びいっ!!」

 

 

 

《ゆけっ! びぃタロ!》

 

 

 猫背気味の水色フォルム、脚の代わりに尻尾で接地。

 1対2本の触角はピコピコ震えて唸り、グローブめいた形状の前脚は、シャドーボクシングのキレも“ばつぐん”だ。

 

 あまえびポケモンのデシエビ、ニックネームはびぃタロ。

 ソラの相棒にして最後の1匹が、バトルコートに堂々登場(エントリー)した。




マハル図鑑 No.053
【ドードー(マハルのすがた)】
ぶんるい:ふたごどりポケモン
 タイプ:ひこう
とくせい:にげあし/ふみん(ききかいひ)
ビヨンド版
 厳しい マハルの 大地で 生き延びる 為 サイコパワーを 身につけようと している。
ダイブ版
 進化の 過程で 首が 短くなった。天敵の 目を 盗んで 素早く 逃げる 為の 能力だ。



《サイコソニック》
 ぶんるい:ぶつり
  タイプ:エスパー
 いりょく:40
めいちゅう:100
 サイコパワーで すばやく いどう しながら あいてに つっこむ。かならず せんせい こうげき できる。



この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。
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