「さぁっ、キミにとっての初陣だよっ☆ ハジメテの
そんな口上を上げ、シェラが手元のスーパーボールを投げ放つ。
バトルコート上の地面に叩きつけられた瞬間、あまりに勢いよくボールが開かれた事で、炸裂同然の現象が起こり、あたりに砂煙が立ち込めた。
もうもうと舞い散る砂埃の最中を引き裂き、飛び出してくる灰色の影。
2本の脚でがっしと地面を掴み、
「レッツ・ゴー! ドードーちゃん☆」
「ディー、ディディッダ!」
(シェラさんの最後の1匹はドードー……いや、姿形が微妙に違う!)
細く長い脚、丸っこい胴体、そして2本の首。
ソラの知識に照らし合わせるならば、それは間違いなく、ふたごどりポケモンのドードーと同じ姿を取っていた。
だがしかし、ソラの知る地上のドードーと比べて、その身に帯びる差異点は数多い。
茶色の羽毛に覆われたふわふわの毛並みを持つ
全体的なフォルムも、原種は丸っこい形状をしているが、こちらは尾羽根が長めで、シュッとした印象を受ける。
そして、首。
2つの首、2つの頭部を持つのは原種同様だが、その首の長さは驚くほどに短い。
何なら、胴体から頭部が直接生えているのではないかと思えるほど、首は羽毛に埋まり切っているようだった。
……一般的に知られる同種のポケモンとは大きく異なる姿、特性を持つ変異種。
そのような存在をなんと呼称するか、それを知らないソラではない。
「“マハルの地”のリージョンフォーム……“マハルのすがた”のドードー!」
「その呼び方、なっつかしー♪ 昔、この子のママを見て、クレオメさんも同じフウに呼んでたっけ☆ で、もぉ──」
再び、フィンガースナップが鳴らされる。
主のそれを開戦の合図として、シェラのドードー──即ちマハルドードーは、驚異的な勢いを伴って跳躍し、空中に躍り出た。
「この子は、シェラちゃんでも手を焼くくらい“やんちゃ”で、“あばれることがすき”なんだ♪ さっきまでの
「ディッディー、ダーッ!!」
空中で体を捻り、その身全体を激しく回転させながら、灰色の毛並みが急降下を仕掛ける。
2つのくちばしを重ね、ちゆりんの頭上より襲い来るそのシルエットは、さながら弓より放たれた1本の矢のようだ。
「っ、左に避けて!」
「ちゅぴっ!」
咄嗟に叫んだ指示は、寸でのところで間に合ったと言えた。
一瞬だけ体に電流を纏い、弾かれるようにしてその場を離脱したちゆりん。
そのコンマ数秒後、彼女の元いた場所に、超高速の鏃が着弾する。
「ぴちぃっ!?」
「く、ぅ……っ!?(すごい風圧……これでただの“つつく”って嘘でしょう!? まるで“ドリルくちばし”だわ!)」
着弾の瞬間に吹き上がる砂煙。
その爆風めいた風圧に煽られて、ちゆりんの軽い体が吹っ飛び、暫し地面の上を転がってゆく。
理屈の上では理解できる。
あまりの速度、あまりの威力から、地面に突き刺さると同時、着弾地点の一切が吹き飛んだのだ。
問題は──そんな芸当を、この
「*おおっと!* まーだシェラちゃんたちの
「ディダッ、ディーッ!!」
場に現れた時と同様に、砂煙を食い破りながら突っ込んでくるマハルドードー。
通常の空飛ぶとりポケモンよりも、遥かにガッシリとした
その荒々しさたるや、静かに空を飛ぶホーホーの比ではなく、その速度もまた、ホーホーのそれを凌駕していた。
「尻尾で回避! 1発でも当たっちゃダメ!」
「ちゅ、ちゆ──っ!?」
回避の為、ちゆりんがほんの僅かに身じろぎした、その刹那。
その時にはもう既に、鋭い2本のくちばしが眼前にまで迫ってきていた。
(速っ──!? いくらなんでも、ここまで速いなんて……)
驚愕に目が見開かれ、視界に映る光景をより鮮明に認識する。
だからだろうか。
ソラの瞳孔は、マハルドードーのくちばしに、青色のエフェクトが淡く纏わりついている事に気付いた。
「ディダッ! ディッ──ディディディディディッ!!」
一撃。身を捻って直撃は避けるが、くちばしが肩に掠れてバランスが崩れる。
二撃。隙ができたところへ、2本目のくちばしが土手っ腹に突き刺さる。
三撃。あえて大きく身を倒す事で、追撃が背中を擦るも、相手の狙いをズラしにかかる。
そして、四撃目。くちばしの射程から逃れるとともに、地面に触れさせた尻尾を軸に回転し──
「ぢ──ゆぅっ!」
「ド、ディーッ!?」
勢いをつけて場を離れ、更なる連撃を防ぐ事に成功。
おまけに、その際の回避に“しっぽをふる”を活用した事で、マハルドードーの体勢を崩す事にも繋がった。
ただし、その一方で……。
「ぢゅっ……ち、ぴちゅ……」
離脱する事には成功したちゆりんだが、彼女の肉体は既に、肩で息をするほどに消耗し切っていた。
それも当然の話である。先んじてホーホーから2段階強化された“エコーボイス”を浴び、“なきごえ”も2発喰らっている。
そこへ今しがたの連撃を受けたのだから、その
(ちゆりんはもう限界……次に何か受ければ、多分すぐに倒れちゃう。一撃一撃の威力が低い“みだれづき”でも、繰り出すポケモンの“こうげき”が高いと、こうも脅威になるのね……)
びぃタロの場合は、類似わざである“れんぞくパンチ”の威力を、“ビルドアップ”によって補填していた。
だが、相手にそのような兆候は無い。十中八九、素の“こうげき”から繰り出した威力に違いないだろう。
そして、もうひとつ。
(ドードーの動きが明らかに速すぎる……。いくら地上最速クラスのひこうタイプと言ったって、あそこまで速いのはおかしい!)
ジムリーダー手ずから鍛えたポケモンだから、では説明できない反射神経。
明確に、こちらの動きの上から繰り出されたわざの出だしの速さ。
現象には必ず理由が存在する。それがジムバトルであるならば尚更だ。
(ドードーに指示する時、シェラさんは“
「そんなにチンタラ考えてていいのかーい? ここからドンドン
「ディダディダッ、ドーダァッ!!」
“しっぽをふる”によって崩れた体幹をすぐに整えて、マハルドードーが再びコートを駆ける。
地面を掴んで走るそのスタイルは、ひこうタイプでありながら空を飛べない彼女たちが身につけた、高速機動の真髄。
こと地上戦においては、他のひこうタイプの追随を許さない速度で、息も絶え絶えなちゆりんへと追撃を仕掛けてくる。
そのくちばしが、やはり青い光を帯びてゆく瞬間を、ソラは見逃さなかった。
そして、恐るべき速度を実現したトリックの正体も。
「やっぱり、速度の正体は
「ふふっ♪ ソラちゃんには簡単だったかな? それじゃあ答え合わせにっ──“サイコソニック”☆」
「ディディ──ッ!!」
聞き慣れない名前。見慣れない挙動。
だが、少女ははたと理解した。
マハルドードーの帯びる淡い青光──あれは、
くちばしに宿した青色のサイコパワーが、ほんの一瞬だけ肉体を“かそく”させ、尋常以上の速度を発揮する
その瞬間的なトップスピードは、“でんこうせっか”や“アクセルロック”などとほぼ同等のものだ。
「っ、ほっぺで受けて!」
「ぢっ、ぃい──ゆぅっ!!」
回避は間に合わない。ならば、取るべき手はひとつ。
青く光るくちばしが己に迫るその間際、ちゆりんは最後の力を振り絞って帯電させた己の頬を、相手の攻撃が当たるだろう位置に
「ディッ──!」
「ちゅ、ぅう……っ」
接触の瞬間、サイコパワーとでんきエネルギーとが反発し、小さな力場の破裂を生む。
火花の弾ける音とともに
体力の消耗と、その身の軽さ故に、ノックバックの衝撃で大きく宙を舞うちゆりん。
対するマハルドードーは、その自慢の脚力で踏ん張り抜き、仰け反った体を逆に追撃の勢いへ転用できた。
「“つつく”を重ねて、“みだれづき”♪」
「ディダダダダッ──ダッ、ダダァーッ!!」
2つの首、2つの頭部、2本のくちばし。
首の筋肉を余す事無く活かした怒涛のラッシュが、空中で無防備なままの矮躯を襲う。
そのままでは打点に劣る“みだれづき”に、タイプ一致のわざである“つつく”を重ねる事で威力を増強。
ひこうタイプの“つつく”は、でんきタイプである
その
「ぴっ──ちゅぅう~~~!?」
「ちゆりんっ!」
ソラの呼び声も虚しく、黄色い体は地面の上を跳ね、やがて倒れ伏す。
耳も尻尾も力なく横たえられて、グルグルと渦巻く目が、己の“ひんし”を静かに告げていた。
「ピチュー、戦闘不能! 巡礼者ソラ、残り1匹!」
「……ありがとう、ちゆりん。よく踏ん張ってくれたわ」
ちゆりんを戻したボールを、額にそっと当てながらに囁く。
そうしてホルダーに収め、顔を上げた先では、マハルドードーが手持ち無沙汰と言わんばかりに後ろ脚で地面を蹴っていた。
「“マハルのすがた”のドードー……わたしの知ってる地上のドードーよりもパワフルで、随分と暴れん坊みたいですね」
「ん~、実はそうでもないんだよねぇ。この子がトクベツ“やんちゃ”なだけで、普通のドードーちゃんたちは大人しくて怖がりな子が多いんだ~♪」
「……えっ?」
思わず唖然として指を差すソラに、シェラは頬を掻きつつ複雑そうに笑う。
「まぁ~……この子は本当に例外みたいな子だから、あんまり基準にはしないでね? ホントは“おくびょう”な子たちばかりで、天敵から逃げる為にサイコパワーを身に着けたって言われてるの。と言っても、本職の
「ディダーッ!」
ダン!ダン!とその場で“じだんだ”を繰り返す……というか“とびはねる”マハルドードー。
どうやら「未熟」という言葉がお気に召さなかったらしく、全身を使って抗議の意を示している様子。
「なはは、ごめんごめん♪ ……さって、これでお互いに残り1匹。最後の子を出しなよ、ソラちゃん☆」
「……」
ボールホルダーから、最後のモンスターボールを取り外し、手の内に握り込む。
思えば、“マハルの地”に来てからもう10日ほどになる。
その10日間で、このボールも随分と手に馴染んだように思う。
恐らくは、これからも何回、何十回、何百回と、今と同じように手に取るだろう一球。
その感触を確かめながら、ふと思う。
(……同じだ。“船出仕合”の時と)
はるりんとちゆりんの活躍で、相手のポケモンの内1匹を倒し、しかし彼女たち2匹もやられてしまい。
残るは相手の最後の1匹と──こちらも、最後に残った相棒が1匹。
だが、条件は互角ではない。
(……不遜に振る舞っているように見えるけど、実際はあっちも“まひ”を受けてる。ちゆりんの頑張りは無駄じゃなかった)
“サイコソニック”に対する迎撃として繰り出した“ほっぺすりすり”か、或いは“みだれづき”を受けた際に押し付けた“せんでんき”か。
いずれにせよ、ちゆりんは自らが倒れゆく中であってもなお、相手に“まひ”という枷を嵌め込む事に成功していた。
当然、シェラもその事には気付いているだろう。
その上でなお、マハルドードーはあれだけ活発に動いている。或いは、同じく“まひ”を受けていたホーホーよりも激しく、アグレッシブに。
(“まひ”の上から動けるって訳……上等じゃない)
今一度、ボールを握り締める。
ボールの中の相棒は、繰り出される前のマハルドードーと同様、今にも飛び出したくて仕方がないようだった。
揺れに揺れ、震えに震えるモンスターボールを制御する事無く、ソラは投球の構えを取る。
でも、今度こそは。
「今度こそ──勝つよ、びぃタロ!」
「──びいっ!!」
猫背気味の水色フォルム、脚の代わりに尻尾で接地。
1対2本の触角はピコピコ震えて唸り、グローブめいた形状の前脚は、シャドーボクシングのキレも“ばつぐん”だ。
あまえびポケモンのデシエビ、ニックネームはびぃタロ。
ソラの相棒にして最後の1匹が、バトルコートに堂々
マハル図鑑 No.053
【ドードー(マハルのすがた)】
ぶんるい:ふたごどりポケモン
タイプ:ひこう
とくせい:にげあし/ふみん(ききかいひ)
ビヨンド版
厳しい マハルの 大地で 生き延びる 為 サイコパワーを 身につけようと している。
ダイブ版
進化の 過程で 首が 短くなった。天敵の 目を 盗んで 素早く 逃げる 為の 能力だ。
《サイコソニック》
ぶんるい:ぶつり
タイプ:エスパー
いりょく:40
めいちゅう:100
サイコパワーで すばやく いどう しながら あいてに つっこむ。かならず せんせい こうげき できる。
この後【15:00】より1回目の追加投稿を行います。