ポケットモンスター ビヨンド・ダイブ   作:小村・衣須

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Lv.69「ふしぎな巻物(スクロール)

 ……ソラが感極まって号泣してより、暫し経ち。

 

 

「そろそろ、落ち着いた?」

「……は、い。すみません、ご迷惑を……」

「いいっていいって☆ それくらい嬉しかったんでしょ? ならばよーし! 嬉しいと思ったコトは、ちゃーんと噛み締められると素敵だよね♪」

 

 

 シェラの腕の中で泣きじゃくるだけ泣きじゃくった後、ようやく落ち着きを取り戻した少女が、未だ鼻声ながらも顔を上げる。

 その目元は涙に濡れてなお真っ赤で、見かねたシェラがハンカチで拭ってやっていた。

 

 そこへ、リクたちも観戦席を離れてやってきて、ソラの背中をバシッと叩く。

 

「お疲れさん、そんでおめっとさん。まずは1つ目のバッジをゲットだな」

「うん、ありがとう。“マハルの地”もジムは8つだっていうから……残りは、あと7つ。遠いなぁ……」

「ひいさまであれば、きっと達成できニャスよ。ともあれ、今はご自身の成長と勝利を喜ばれるがよろしいかニャと」

「……ビ!」

 

 人と人とが集まり、おしくらまんじゅうの様相を呈してきたところへ、ニュッと顔を出してくるびぃタロ。

 クロオエビに進化した事で、それまでソラに抱きかかえられるほど小さかったのが、今や頭を突き出して自己主張できるほどに背丈が大きくなっている。

 

 

「……あなたもありがとう、びぃタロ。あなたのおかげで、わたしはシェラさんに勝つ事ができたわ」

「ビッ! ビーぃイッ!」

「違う? ……うん、そうだよね。はるりんと、ちゆりんも。この子たちが頑張ってくれて、そのおかげであなたに繋げる事ができたんだもんね。誰が欠けたでもなくて、皆で一緒に戦ったから勝てたんだ」

「ビぃ!」

 

 

 それでいい、と満足げに頷くびぃタロ。

 ソラの側もまた、ホルダーから取り外した2つのモンスターボールを両手に抱え、中で休んでいる2匹のポケモンたちに謝辞を呟いた。

 

 

「……ボロボロになるまで、わたしたちの為にありがとね。あとで、目一杯お祝いしようね」

 

 

 自分の指示が適切であれば、きちんと彼女たちを育て、そのポテンシャルを引き出す事ができていれば、みすみす“ひんし”にはしなかったかもしれない。

 それが無為な()()()()でしかないと分かっていても、少女は倒れた己の友たちに申し訳無さと……同時に、彼女たちの奮戦あってこそ勝てたのだと、確かな感謝を込める。

 

 ひとしきりボールを抱きしめ終えたところへ、審判を務めていた神官の男性が近付いてくる。

 

 

「よろしければ、傷ついたポケモンたちを、一旦こちらで預からせて頂きます。神殿(ジム)にも治療の心得を持つ者がおりますので、そちらが傷の手当てを担当します」

「へっ、いいんですか?」

「巡礼の旅を支援するのも我々の役目ですからね。それに、旅立ち始めたばかりという事は……大神官さま(ジムリーダー)、彼女たちに()()()()をお見せするのですよね?」

 

 

 例のもの、が何を意味するのか分からず、首を傾げる少年少女。

 この場で唯一その意味を知るシェラは、神官の言葉に鷹揚に頷いてみせた。

 

「うんっ、そうだよ☆ それに、他にも色々お話ししたいコトがたっくさんあるからねー♪ あと、ドードーちゃんたちの手当てもお願いできるかな?」

「勿論。……さ、巡礼者ソラ。この後、大神官さま(ジムリーダー)よりあなた方にお伝えするべき事が御座います。その間に、ポケモンたちの回復はこちらで済ませておきます」

「あ、はい。じゃあお願いします……びぃタロもいいよね?」

「ビぃ」

 

 了承を受けてびぃタロをボールに戻し、はるりんとちゆりんの入ったモンスターボール2つと併せて受け渡す。

 その後、シェラからもスーパーボール2つ(それぞれマハルドードーとホーホーのものだ)を受け取った神官は、代わりに棒状の()()をひとつ彼女に渡した後、神殿(ジム)の奥に引っ込んでいった。

 

 

「……それは?」

「これ? これは参加賞みたいなものだよ♪ ジムテストもしっかり頑張って、決闘の儀(ジムバトル)にも勝ったソラちゃんに、シェラちゃんからのプレゼント☆」

 

 

 手渡されたそれは、1本の巻物(スクロール)だった。

 それほど大きくもなく、ソラが片手でもしっかり持てる程度の太さをしており、促されるままに紐解き開いてみれば、何やら難しそうな文字や記号が並んでいた。

 

「……なんだこれ? おいらたちの使ってる文字……じゃないよな。“星見人”の言葉だったりするのか?」

「いやぁ……ニャーもこのような文字は皆目ご存知ありニャせん。何らかの古代文字で……ひいさま?」

「……」

 

 その巻物を開き切り、記された内容の全貌を目の当たりにした時、ソラは目を瞬かせた。

 文字の意味はさっぱり分からない。図形や記号も何を意図してのものかまったく理解できないし、父の資料にもこんな文字体系は記録されていなかった。

 

 なのに。

 

 

 

「……これ、“()()()()()()”だ」

 

 

 

 それらの文字や記号が、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を、少女は本能的に理解した。

 

 その事に驚き、どれだけ読み込もうとしても、結果は変わらない。

 巻物に記された文字の意味はまったく分からないのに、巻物の中の文字や記号すべてを以てして、“つばめがえし”というわざを表している事はわかる。

 

 ひこうタイプ。ぶつりわざ。威力は中くらいで、相手の“かいひりつ”を無視して必ず命中する。

 どのように繰り出すべきなのか。どうすれば会得できるのか。どのようなポケモンに適性があるのか。そのすべてを理解できる。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような──

 

 

 

「まさか……これって、“()()()()()”ですか?」

「ソラちゃん鋭いねぇ、そのとーりっ♪ それは、プルガージムが巡礼者の為に用意した“わざ巻芯(マシン)”! 適性のあるポケモンちゃんに読ませてあげれば、“つばめがえし”のわざを覚えるハズだよ☆」

 

 

 

《ソラは わざマシン「つばめがえし」を てにいれた!》

 

 

 ジムをクリアしたトレーナーは、その功績を称えられてわざマシンを送られる。

 地上のジム巡りでは定番の習わしだが、どうやら地下においてもそのシステムは健在らしい。

 

 装置(マシン)ではなく巻芯(マシン)という違いはあるものの、そのアイテムが持つ性質そのものはそう変わりないようだ。

 

 

「これが、“マハルの地”のわざマシン……。地上のと違って、巻物(スクロール)の形をしてるんだ」

「そーだよ♪ というかシェラちゃんとしては、むしろ地上のわざマシンが機械でできてるって聞いた時の方がビックリしたカナー? あっ、1度使うと無くなっちゃうから、使いどころはよーく考えてね☆」

「あ、マハルのわざマシンはそのタイプなんですね。使い終わった巻物の処分は考えとかないと……」

「使い終わったわざマシンは、勝手に燃えてなくなっちゃうから心配しなくていーよ☆ “やけど”にだけ気を付けてね♪」

「燃えるんだ……」

 

 

 一体全体、どのような仕組みなのだろう。

 そう首を傾げた矢先、ふと思い出すものがあった。

 

 

 

(そういえば……あの“じゃくてんほけん”も、巻物みたいな形をしてて、使い終わったら燃えてなくなってたっけ……)

 

 

 

 カロンタウンでの“船出仕合”の際、対戦相手の少年が、フカシオに持たせていた“じゃくてんほけん”。

 あれも、今この手の内にあるわざマシンと似た形状、似た性質をしていたように思う。

 

 

「……あの。この世界(マハル)のわざマシンって、どうやって作られてるんですか?」

「んーとねー、頭の上の“獣の大地(ローランド)”にね、アメンテシティって街があるんだ。そこに、わざマシンの執筆を生業にしてる職人さんたちがいーっぱい暮らしてるの☆ あとはその街を離れて、他の場所でわざマシンの作り方を教えてる人もいるらしいよ♪」

「それは……例えば、わざマシン以外の道具にも応用できるものなんですか?」

「らしいね♪ シェラちゃんは使ったコト無いけど、“じゃくてんほけん”とか“からぶりほけん”って名前の道具があるって聞いたコトはあるかな☆」

 

 

 成る程、と首肯する。

 であれば、少年の使っていた“じゃくてんほけん”も、そのように制作されたものを入手した可能性が高いだろう。

 

(そんな貴重な道具を、旅立ち始めたタイミングで……しかも練習試合の場で躊躇いなく使えるなんて。あの人も、そのわざマシン職人の人と知り合いだったりするのかな)

 

 尤も、そこまで考えたところで本当のところは分からない。

 すぐに意識を切り替え、受け取ったわざマシンをニャースに預かっていてもらう。

 

 

「……さって! じゃ、そろそろいいかな? これからソラちゃんたちに、案内したげたいところがありまーっす☆」

「それは……さっき、神官の人が言っていた『伝えたい事』にも関係のある事ですか?」

「まーね☆ ああ、リクくんとニャースさんも一緒においでよ♪」

「えっ、いいのか? おいらは巡礼者じゃないんだけど……」

「いいのいいの☆ これからもソラちゃんと一緒に旅するなら、知っておいて損は無いからねー♪」

 

 

 とん、とん、とん、と跳ねるようにして一同から距離を取るシェラ。

 その滑らかで素早い動きに、つい見失ってしまいそうになるが、気付いた時には既に、彼女はバトルコートの出口に立っていた。

 

「まま、遠慮せずに来なよ☆ 特に、リクくんはウツシタウンの出身でしょ? なら、こういうのは中々見る機会が無いから貴重だぞー♪」

「え、っと……わたしたち、何を見せられるんですか?」

「ついてくれば分かるよ♪ ……と言いたいトコだけど、込み入った話をするかもだしね、ここで言っといちゃおうか☆」

 

 ニカリと笑い、ソラに目を向ける。

 それまでと変わらない笑顔である筈なのに、その瞳はどこか、こちらを見透かすような深みを帯びているようで。

 

 

 

「──この世界、“マハルの地”の神話を、ソラちゃんたちに教えてあげる♪ こーゆーの、地上だと“布教”って言うんだよね?」

 

 

 

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