エレキギターベースの激しい曲調だけど、ところどころに不自然な休符が連打されてたりして、曲中に無音のタイミングがちょこちょこ合って、テンポを頻繁に外される感じのやつ(適当)
「これは聖戦だ。お前たちの命、ポケモンどもの命──そのすべて、“ヨミガミさま”に捧げよ!」
自分たちを“ヴォイド団”と名乗った男は、そんな叫びとともに木製のモンスターボールを構える。
それに呼応して、他の5人も同様にボールを構え、今にも中のポケモンを繰り出そうとしていた。
一見すれば、彼らに囲まれたこの状況はまさしく絶体絶命だ。
だが、先ほどまでと異なる点を挙げるとするならば、シェラのクロバットが“ぼうふう”を振り撒いた事で、彼我の距離が離れている。
それはつまり、こちらにも
「ソラちゃんリクくん、後ろは任せていいかな?」
「っ──は、はい。けど、相手は6人もいます。わたしとリクだけじゃ、相手にできるのは2人くらいしか……」
「そこはだいじょーぶっ☆」
話しながらに取り出された、もう1つのスーパーボール。
地面に叩きつけるようにして放たれたその中から、もう1匹のポケモンが現出する。
「──
「ホホッ、ホー!」
「クロローウ!」
現れたのは、プルガーシティでも会ったヨルノズク。
シェラに侍らうように翼を広げる彼の下へ、既に場に出ていたクロバットも合流し、2匹のひこうタイプが肩を並べる。
片やふくろうポケモン、片やこうもりポケモン。
ともに肉食性の大型ポケモンであり、夜が故に映える計4つの眼光は、ヴォイド団の面々を捉えて離さない。
「クッ……1人と2匹で我らを相手取るだと? 舐められたものだな……!」
「結果はバトルで教えてあげる♪ ……シェラちゃんたちは夜目が効くから、ロトムくんはソラちゃんたちの方に集中させていーよ☆」
「分かりました! リク、行こう!」
「応!」
彼女がこう言っている以上、そちらを案じる事に意識を割くのは愚策というもの。
ソラとリクは互いに視線を交わし、頷き合って、ともに目の前の敵へとモンスターボールを構えた。
今、少年少女たちを取り囲むヴォイド団は6人。
その内の4人をシェラが受け持つ為、ソラたちが相対するのは2人となる。
「ふぅん……私たちの相手はお子様ってワケ。選ばれし戦士たる私たちが、随分と侮られたものね」
「そうカッカするな。所詮は路傍の石にも劣る雑魚……言わば
眼前に立つのは、女と男が1人ずつ。
彼らが身に着けている
それでも、その目に宿る残虐さは本物に違いない。
下卑た笑みを隠す事もせず、手の内でモンスターボールを弄んでいた。
「気を付けろ、ソラ。こいつらからずっと、ヤな匂いがプンプンしてんだ。アネキが襲われた時の事と、きっと何か関係がある」
「うん。わたしも感じてる。この匂い、甘ったるくて嫌になりそう……」
1度、クロバットの“ぼうふう”で状況がリセットされた事で、
深く吸い続ければ、脳が蕩けてしまうのではないか。
そんな柔らかな危機感すら湧いてくるほどの、甘ったるい匂い。
最早、突出した嗅覚を持つリクでなくとも、その匂いを感じ取る事ができてしまう。
それほどに濃い匂いを、目の前の彼らは香水の如く身に纏っている。
そしてそれは、ヴォイド団なる集団の帯びる、未だ不明な脅威をより際立たせていた。
「黄泉の穴へ散るがいい!」
「すべては深淵の神が為に!」
「行きなさい、ハヤシタ!」
「パタパム、奴らを痛めつけろ!」
「びぃタロ、お願い!」
「おいらたちも行くぞ、ウェボム!」
「ででっで!」
「わいむーっ!」
「エぃビぃっ!」
「むしゅっきゅー!」
ソラとリクはそれぞれ、自分たちのエースたる
そうして彼らが着地すると同時、対面のヴォイド団が投げたボールからは、ソラの知らない2種のポケモンが飛び出してきた。
「(『ハヤシタ』に『パタパム』……どっちも知らないポケモンね。マハル固有の種かしら)来て、ロトム!」
「ケッテロー!」
主の呼びかけに応じて、ロトム図鑑が目の前まで飛来する。
その画面を起動し、2匹のポケモンをスキャン。彼らのデータを解析し始めた。
女が繰り出したハヤシタの見た目は、一言で言うならドッコラーに近い。
幼児ほどの大きさの人型フォルムに、手足は短く、顔つきはどことなく弱気で頼りない。
右手には木製の小さな太鼓が抱え込まれており、左手に持つ木の枝を
一方、男の繰り出したパタパムは、容易には説明し難い容姿をしていた。
アーボのようなへびポケモンめいた胴体に、むしポケモンを思わせる頭部、そしてこうもり系ポケモンに見られる飛膜型の翼が1対。
翼は胴体の小ささに反して大ぶりで、滞空するには充分な性能を秘めているようだ。
「(ハヤシタはかくとう・ノーマルタイプ、パタパムはむし・ひこうタイプ……概ね見た目通りって感じね)リク、わたしはハヤシタの方を狙うわ!」
「オーライ、それならこっちはパタパムだ! ウェボム、“ひのこ”!」
「むきゅーっ!」
リクの指示に応じて、ウェボムがぴょこんと宙を跳ねる。
カチカチと牙同士をぶつけ合わせて火花を生み、それを火球にまで育て上げ、一気に射出。
如何に未進化と言えど、その小さな身体に秘めたパワー侮れない。
当たれば大打撃は必至の炎に対して、相手のハヤシタが1歩前へ躍り出た。
「甘いわよ、“すなかけ”!」
「でんでって!」
パタパムが足元の地面を蹴り、土砂を巻き上げる。
前方にばら撒かれた砂粒の弾幕は、“ひのこ”を丸ごと飲み込んだ上で、更にその先のウェボムへと降り掛かった。
「む、しゅ……っ!?」
砂そのものは、さして
しかし、それを頭から被った事で、ウェボムの視界が砂まみれになってしまう。
「ウェボムっ!?」
「っ、こっちが前に出る! 行って、びぃタ……ッ!?」
「わみぃば……!!」
ソラの声を詰まらせたのは、前方を飛行するパタパムだ。
その淀んだ目がギラリと輝き、少女だけでなく、彼女のポケモンたるびぃタロや、リクたちをも竦ませる。
「“いかく”……っ!」
今の一瞬で何が起きたのか、相手の能力が何なのか。
図鑑に表示されている情報から、ソラはそれを即座に理解する。
相手のパタパム、そのとくせいは“いかく”。
場に出るだけで、敵対する相手の“こうげき”を下げる、シンプルながら強力なとくせいである。
しかもこの効果は、場の相手全員に適用される。
こういった
「は、やはり分かるか。だが遅い! パタパム!」
「わばぁーん!」
パタパムが翼を広げ、少女たちの側へと接近する。
同時に、その背後を追うハヤシタは、自身が手に持つ太鼓を叩き、軽い音を奏で出した。
「パタパムを“てだすけ”なさい!」
「ででって、ででって、ででってんでで~♪」
軽やかなメロディーが、パタパムの翼に力を漲らせる。
体の底より湧き上がるエネルギーを制御などする
「薙ぎ払え! “エアカッター”だッ!」
「ぱたっ──わぁ、ばァーんッ!!」
翼のはためきは大気を乱す。
乱れた大気は気流に変わる。
そして気流は、空気の刃となってびぃタロたちに殺到する!
「(“てだすけ”を受けたわざの威力は、通常時の1.5倍──!)びぃタロ、よけて!」
「エビぃ!」
「撃ち落とせ、ウェボム! “ミサイルばり”だ!」
「きゅ、きゅきゅーっ!」
びぃタロが尻尾を跳ねさせ、真横へ飛んだのと対照的に、ウェボムはその小さな口を開き、幾本もの針を吐き出した。
自分たちを纏めて切り刻まんとする刃の群れに対して、“ミサイルばり”での迎撃を試みようとしているのだ。
けれどもそれは、視界を汚す砂塵に
当然、そんな状況で滅多矢鱈と針を撃ち出したところで、まともに当たる筈も無く。
得られた成果は、無数に迫る風刃の内の1つを掻き消せた程度。
「や、べ……っ!?」
「……! びぃタロ、反対側に“アクアジェット”!」
旅立ちの時からずっと一緒にいた相棒は、少女の意図をすぐに読み取った。
回避の為に飛び込んだ先の地面を踏み抜き、その反動で元いた方向へと引き返す刹那、その体が水に包まれる。
「ビぃっ!」
「むきゅっ……!」
迅速な行動を可能とする“アクアジェット”を移動に用いる事で、びぃタロは立ち竦んでいたウェボムを抱きかかえ、そのまま離脱。
今まさに風の刃たちが到来するだろう地点を横切り、先ほどとは真逆の方向へと転がり込んだ。
そうして青の流星が飛び去った後、何も無い場所を“エアカッター”の暴力が打ち据える。
鋭利にして不可視の斬撃は、アイスをスプーンで掬うかの如く次々と地面をくり抜いて、いっそ面白いくらいに土を耕してみせた。
「きゃああっ!?」
「うおっ……!? な、なんて威力だ……!」
ポケモンたちの背後では、ソラとリクもまた、各々の回避行動を取っていた。
半ば地面へ飛び込むようにして
それでもなお、背後で巻き起こる風圧や土砂のシャワーに、悲鳴染みた声を上げてしまう2人。
だが、竦んでいる暇は無い。即座に態勢を立て直し、状況の把握に努めなければならない。
なにせこれは、例えば
先のオヤブンテレネットのような、明確な害意を持つ相手と渡り合う、
実際、パタパムの放った“エアカッター”は、びぃタロやウェボムだけでなく、その後ろにいた少年少女までもを巻き込み得る威力と攻撃範囲を帯びていた。
あのままボーっと突っ立っていれば、たちまちに不可視の殺刃に切り刻まれていただろう事は明らかである。
(“船出仕合”の特訓で、リクや爺ちゃんから
カロンタウンに滞在していた折、2番エリアで受けた特訓の事を思い出す。
もしも、あの時の教えの通りに動けなかったら。
そんなIFの末路を示唆するかのように、彼女たちが元々立っていた場所は、穴開きチーズめいた惨状へと成り果てていた。
たまらず、ソラの顔から血の気が引いていく。
だが一方で、彼女の脳は冷ややかに、目の前で起きた事実を分析する事ができていた。
(“てだすけ”は味方の繰り出すわざの威力を上げる……けど、“てだすけ”による補正を加味したとしても、この威力は異常!)
チラ、と背後にも目線を向ける。
シェラたちの側は既に戦場を変えたらしく、彼女の後ろにあるのは木々だけである。
……ソラの知る限り、“エアカッター”というのはその名の通り、空気の刃を生み出して攻撃するわざだ。
確かに、まともに命中すればひとたまりもない、危険なわざである事は確かだろう。
だがそれでも、こんなにも地面をくり抜き、掘り返してしまえるほど強力という訳でも無い。
少なくとも、地面を抉ってなお余りある流れ弾が、更に後方の木すら切り刻み、その幹をまん丸とくり抜く筈は無いのだ。
(あのパタパムってポケモンが、それほど強力なの? その可能性も確かにあるけれど……でも見たところ、恐らくは未進化の──)
「ボケっとしてるようなら、まだまだ遊ばせてもらおうかしら? ハヤシタ、小娘を“けたぐり”なさい!」
「ででっとぉー!」
土砂の天幕を向こう側から蹴破って、相手のハヤシタが一気にこちら側へと
その標的となるのは──トレーナーである、ソラ本人。
「な、トレーナーに攻撃──!? ソラ!」
「大丈夫……っ。びぃタロ、“グロウパンチ”!」
「ビぃーぁアっ!!」
ウェボムを地面に降ろし、再び地面を蹴る。
“すばやさ”に高い適性を持つびぃタロであれば、己の主へ攻撃が届くよりも早く、相手の横っ面を張り倒す事が可能だ。
……だが、
「今よ、“フェイント”!」
「でとってん!」
「ビ──!?」
ソラに向かって飛びかかりつつあったハヤシタが、突如、空中で姿勢を変えたのだ。
腰を捻り、本来はトレーナーへの
完全に虚を突かれた形となったびぃタロは、自身が繰り出さんとしていた拳の軌道を、その回し蹴りによってズラされる。
そうしてガラ空きになった懐を、もう一方の足が捉えんとした。
「でっでーっ!」
「ビぃ……っ!」
人型にしては小さく短い、されど確かな脚力が、みぞおちに深々と突き刺さる。
“けたぐり”は、相手の体重が大きければ大きいほどに威力の増大する、かくとうタイプのわざ。
であれば、威力はそこまで高くない。
……ならば、今目の前で起きている光景は、どのように説明するべきなのだろう?
「でっ、だァッ!!」
まだまだ経験も浅いとはいえ、1度の進化を経験したびぃタロが、だ。
自分よりも体躯の小さなポケモンの繰り出す、大して威力も高くない“けたぐり”の一撃で吹き飛ぶなど、果たして誰が想像できたというのか。
タイプ一致による威力の向上はあるだろう。
びぃタロの“こうげき”が、“いかく”によって下がっている故の力負けもあるだろう。
或いは、潜在的な
だが、ただ
「ビ──ぎゅっ……!?」
「びぃタロっ! そんな、なんてパワーなの……!?」
「くそっ……ウェボム、ソラたちを援護するぞ!」
「むきゅっ、きゃーっ!!」
蹴飛ばされ、地面を転がるびぃタロと、その傍へ駆け寄るソラ。
1人と1匹を庇うようにリクが割って入り、更にその前へとウェボムが躍り出る。
本来ならば、ハヤシタの追撃を牽制する為に、その牙は火花を生み落としただろう。
しかし、こちらが立ち位置を変えるほんの一瞬で、相手側もまた、前衛をパタパムへと入れ替わらせていた。
「もう1度、“ひのこ”だ!」
「させるかよ! パタパム、“むしのていこう”!」
「いぁーぱむっ!!」
火球が撃ち出されるのと、パタパムが淡い緑色の弾幕を放ったのは、ほぼ同タイミングだった。
ほのおタイプのわざである“ひのこ”と、むしタイプのわざである“むしのていこう”とでは、タイプ相性の観点から前者が有利。
そんな少女の常識は、スコールの如く降り注ぐ光弾によって、“ひのこ”諸共に掻き消された。
「そんなっ──きゃ、くぅう……っ!?」
「ぐう……っ!? なんだこれ、ベタッとしやがる……!」
炎の砲弾を貫き突き抜けた弾幕が、ポケモンたちだけでなく、そのトレーナーたる2人をも襲う。
光の弾でありながら、ベタベタとした粘着性を持つ不可思議な攻撃は、着弾地点に衝撃を与えるとともに、ネバッと張り付いて離れない。
直撃によって骨が折れる……とまではいかないものの、それでもポケモンたちをすり抜けて到来した流れ弾は、少年少女に痛みと苦悶をもたらした。
「エ、ぃイ……!」
「きゅぅう、うう……っ!」
対するポケモンたちは、受けた
かくとうタイプを持つびぃタロも、ほのおタイプのウェボムも、むしタイプのわざは“こうかいまひとつ”で受ける事ができるのだ。
それ故に彼らは、粘り気を持つ光弾の群れを前に、立って耐え抜く事ができていた。
ただ、問題は──
「不味い……ウェボムの“とくこう”が、今ので下がった!」
タイプ相性や実ダメージに拘らず、“むしのていこう”は受けたポケモンの“とくこう”を1段階下げる追加効果を持つ。
体に張り付いたむしタイプのエネルギーは、体表からそのポケモンの気力を奪い、尋常の能力行使を阻害するのだ。
ぶつりわざ主体のびぃタロはともかく、とくしゅわざ主体のウェボムは、一気に戦況が辛くなる。
加えて彼女は、先の“すなかけ”で“めいちゅうりつ”が下がってすらいた。
「油断してた訳じゃないけど……こいつら、強いわ!」
たったの数合で、自分たちが苦境に立たされている。
それは相手の力量を証明すると同時に、ソラの知るどの強さとも違う、異質なものである事も示していた。
“船出仕合”で戦った少年、“ギムレの洞穴”で戦ったオヤブンテレネット、そしてジムリーダーであるシェラ。
彼らがそれぞれ、競技の範疇、縄張りを守る為、街や自然を守る為に鍛え、強いのとは訳が違う。
「間違いない……あいつら、戦い慣れてやがる! それも、人やポケモンを傷つける為の戦いに……!」
夜は、まだまだ始まったばかり。
ヴォイド団なる者たちの脅威が明かされるにつれて、夜闇の深淵は徐々に深まりつつあった。
マハル図鑑 No.066
【ハヤシタ】
ぶんるい:たいこもちポケモン
タイプ:かくとう・ノーマル
とくせい:びびり/きもったま(びんじょう)
ビヨンド版
自分よりも 強い ポケモンに 付き従う。自分は 戦わず 代わりに 親分に 戦わせる。
ダイブ版
親分の 気分を よくする 為に 太鼓で 音楽を 奏でるが 音痴なので よく 怒られる。
マハル図鑑 No.080
【パタパム】
ぶんるい:よくりゅうポケモン
タイプ:むし・ひこう
とくせい:ぶきよう/いかく(めんえき)
ビヨンド版
手足を 持たない 為 普段は 長い 尻尾を 木の枝に 巻き付かせて 森に 隠れている。
ダイブ版
森の 狩人と 言われているが 実際は 他の ポケモンから 獲物を 奪う 卑怯な 泥棒。